「へぇ……随分と早く出来たんだな」
ホワイトスターの家での夕食後のゆっくりとした時間。
俺はルリとラピスの2人とゲームをして遊んでいた。
格闘ゲーム……いわゆる、格ゲーって奴だな。
……ただし、操るキャラは何故か漢字1文字という、特殊なゲームだ。
ルリは男、ラピスは鉄、そして俺は肉、NPCは涙という漢字を使い、バトルロイヤル形式で戦っている。
ちなみに元々はルリがナデシコに乗っていた時にどこかから購入してきたゲームがベースになっているのだが、その権利をネルガル経由で購入し、ルリとラピスが続編として作ったのがこのゲームだった。
登場する漢字の数は、優に100を越える。
漢字の形によって攻撃する場所が変わったり、あるいは漢字の種類によって属性があったりと、何気に奥の深いゲームだ。
会話をしながらも俺の操作する肉はラピスの鉄による攻撃を回避しつつ、ルリの男に攻撃を誘導し、その隙を突いて涙との間合いを詰めていた。
「でしょう? 明日には最初の子達を向こうに送るから、アクセルにも一緒に来て欲しいのよ。問題ない?」
「ああ、その辺は問題ない」
涙が飛ばしてきた水滴の攻撃を回避し、カウンターの一撃を放ちつつ、レモンに答える。
レモンが言ってるのは、オルフェンズ世界での問題の1つ……阿頼耶識の手術に失敗し、肉体的に問題が起きた者達……いわゆる産廃と呼ばれていた者達の中でも比較的問題の度合いが軽かった者達の治療とリハビリが終わって、オルフェンズ世界に戻る事になった件についてだ。
オルガからの要望は、普通なら引き受ける事はないだろう。
実際、阿頼耶識の手術による失敗というのは、それだけ大きなダメージを被検者に与えるのだから。
だが……それはあくまでも普通ならだ。
ここにはレモンという、天才と呼ばれる者達が揃っている技術班の中でも更に天才と呼ばれるような……それこそ、天才の中の天才と呼ぶに相応しい人物がいる。
Wナンバーズや量産型Wの技術があれば、産廃となった者達の治療も難しくはなかった。
また、阿頼耶識の一件もあって、現在技術班ではナノマシンの研究も認められている。
ナデシコ世界のナノマシン技術は非常にレベルが高く……それこそIFSと阿頼耶識という、詳細は違っても効果そのものは似ている技術において、阿頼耶識のように危険はなく、気軽に注射をするだけでその能力を手に入れられる。
そういう意味では、ナデシコ世界の技術を流用すればWナンバーズや量産型Wの技術にプラスし、さらに治療に万全を尽くせる訳だ。
もっとも、ナノマシン技術というのは奥が深い。
シャドウミラーの技術班であっても、まだ技術的な蓄積は多くない。
とはいえ、技術班は天才の集まりだ。
天才の相乗効果によって……しかも魔法球を使う事によって、ナノマシン技術は急速に進歩してるだろうが。
……心配なのは、やっぱりナノマシン技術の暴走だよな。
レモンにはその辺を最優先にするように言ってはいるが、だからこそ万が一の事態が起きた時に対処する方法はきちんと考えておいて貰う必要があった。
「あ」
「ルリ」
「はい」
レモンと話しながらの操作だったので、少し……本当に少しだけミスった。
普通の相手なら見逃してもおかしくはないような、そんなミス。
だが、ラピスが真っ先にそれに反応し、ルリと共に俺の肉に向かって集中攻撃をしてくる。
するとNPCもそれに釣られたのか、俺の方に攻撃を開始し……あっという間に1対3の戦いとなり、しかも俺は操作をミスったのが影響し、結果としてそのまま一方的に倒されて負けるのだった。
「やった」
「やりました」
ラピスとルリがそれぞれ嬉しそうにし……だが、当然ながらまだ勝負はついていないので、勝負に戻っていく。
それを見ると、俺はコントローラーを置いて、立ち上がる。
……すると、すぐに美砂が俺の座っていた場所までやってきて、次からゲームに参加する気満々だった。
「で、えーっと、何の話だったが……ああ。オルフェンズ世界の件だったな。クーデリアも行くんだよな?」
「はい。鉄華団の事ですから」
「アクセル、私とマーベルも行く予定になっています」
クーデリアに続いて、シーラがそう言ってくる。
そのシーラの言葉に、隣で紅茶を飲んでいたマーベルも頷く。
「そうね。久しぶりにオルフェンズ世界に顔を出してみてもいいわね」
そう言うマーベル。
ちなみにシーラは政治班で、マーベルは実働班にそれぞれ所属していた。
もっとも、シーラの場合はいざ戦闘になったらオーラバトルシップの艦長として働く事にもなるが。
何しろ、戦艦とかそういうのはそれなりにあるのだが、それを乗りこなせる奴がいない。
X世界の一件で美砂と円も艦長として働く事になったが、それでもまだ足りない。
であれば、艦長を経験しているシーラという人材を逃す筈もない。
もっとも、実際にはシーラがグラン・ガランに乗っていた時はカワッセが艦長をしており、シーラは女王という立場だったのだが。
ただ、それでも艦長としての能力があるのは、オルフェンズ世界での一件で分かりきっている。
「そうか。なら、明日は久しぶりにオルフェンズ世界に俺達で顔を出すか」
「ねぇ、アクセル。話を聞いてたんだけど……UC世界の方はもういいの?」
こちらはマーベルの向かいで紅茶を飲んでいた凛の疑問。
「星の屑は防いだしな。後始末的な意味で大変なのは間違いないが、その辺は連邦軍がやるだろうし」
キシリア派の派遣された艦隊も、既に火星に戻ったというのは聞いている。
予定通り……かどうかは分からないが、とにかくデラーズ・フリートの戦力をそれなりに収容して。
収容したデラーズ・フリートの残存戦力がキシリア派の当初の予定よりも少なかったのか、多かったのか、それとも予定通りだったのかは俺にも分からない。
分からないが、それでも取りあえず地球からいなくなったのは間違いない。
……もっとも、火星に戻れば戻ったで、また何らかの陰謀を企むのだろうが。
「じゃあ、ルナ・ジオンでやる事はないのかしら?」
「いや、ない訳じゃない。デラーズ・フリートが拠点として使っていた茨の園を確保し、ルナ・ジオンの拠点とする必要がある。その時は俺も一緒に行こうと思ってるし」
「……アクセルも? 何でまた?」
不思議そうに聞いてくる凛。
他にも何人かが同じように不思議そうな視線を俺に向けている。
「まず大前提として、現在の俺の空間倉庫にコロニーが1基収納されている。ソーラ・システムによってそれなりに被害は受けたが、修理すればまだ十分に使えるコロニーがな」
シーマがゲールから聞いた話によると、茨の園というのはコロニーとかの壊れた部品とかを使って作った拠点らしい。
であれば、それに追加する形になるのか、あるいは交換する形になるのかは分からないが、とにかく俺が空間倉庫に収納されているコロニーを使う必要がある。
他にも、現在月の周辺に置いてあるコロニーも茨の園まで持っていく必要があるのだが、こちらは新品のコロニーだけに、茨の園においてはかなり貴重な存在となるだろう。
だが、当然ながらコロニーを運んでいるのを連邦軍が見れば、それを奪おうとしたり、あるいは追跡してどこに行くのかを確認したりといったように動く可能性が十分にあった。
そうならないようにする為には、コロニーを運んでいる光景を見せなければいい。
つまり、空間倉庫に収納して運べばいいのだ。
そういう意味でも、茨の園を占拠する為には俺が行くとかなり便利なのは間違いなかった。
……それに、可能性は低いと思うが茨の園にデラーズ・フリートの残党がいる可能性もある。
その時は、スライムを使うか……いっそ、狛治を召喚してもいいかもしれないな。
ただ、コロニーの運搬にも慣れておきたいという話があるので、もしかしたら最初に入手したコロニーは空間倉庫を使わず、普通に運ぶ可能性もあるのだが。
「そう。まだ忙しいのね。そうなると、次の世界に行くのはもう少し先になりそう?」
「茨の園の一件が終わって、他に急ぎの用事がないようならか? でも、凛が新しい世界に興味を持つのは珍しいな」
「……あのね、アクセルはもう忘れているかもしれないけど、私は第2魔法の使い手なのよ? なら、異世界に興味を持ってもおかしくはないでしょう?」
第2魔法というのは、並行世界に関してだったか。
……今更の話だが、異世界と並行世界って違うのか? それとも同じという認識でいいのか?
その辺が少し気になったが、それを聞くと凛の詳しい説明がされそうなので黙っておく。
「分かった。UC世界の件が一段落したら、新しい世界に行ってみるよ。……具体的にそれがどういう世界なのかは、それこそ行ってみないと分からないけど」
もしかしたら、凛が苦手な科学技術が発展している世界という可能性もそれなりにあるが。
「そう、ありがとう。……けど、その、言っておくけどアクセルに無理をしろって言ってる訳じゃないからね」
「いい、あやか。こういうのが典型的なツンデレよ? あやかも見習いなさい」
「ちょ……千鶴さん!? 私は別にツンデレなんてやった事ないですわよ!? そういうのは、コーネリアやシェリル、スレイ、エリナの属性じゃなくって? ……こうして考えると、うちにはツンデレ枠が多いですわね」
「あやか、そこに私の名前を入れるのはどうなんだ? 私は別にツンデレなんてつもりはないぞ」
あやかと千鶴のやり取りに、真っ先に反応したのはスレイ。
だが……そんなスレイの言葉を聞いていた者達は、それこそ俺も含めて呆れの視線を向ける。
スレイとツンデレというのがこれ以上ない程に似合っているのは、それを聞いている多くの者が知ってるからだろう。
同時にスレイは妹キャラというのも影響していたりするが。
普通の妹キャラとスレイでは、とてもではないが同じには思えないよな。
スレイの場合、どちらかと言うと妹キャラというよりはお姉様と呼ばれるような感じに見えるし。
「アクセル、その目はなんだ。わ……私を一体どういう目で見ている!?」
スレイがこちらを見ながらそう叫ぶも、ルリが話を聞きながらゲームをする手を止めずに、ポツリと呟く。
「馬鹿ばっか」
そう言いながらも、ルリの顔には笑みが浮かんでいたが。
何だかんだと、ルリにとってもこのやり取りは悪くないものなのだろう。
……スレイは顔を真っ赤にしながらもルリに向かって何やら言っていたが。
「あら、私が何かを言うよりも前に話が終わってしまったわね」
何故か少しだけ残念そうな様子でそう言うのは、シェリル。
また、何故自分がツンデレ枠に入ったのか分からないといった様子で戸惑っているコーネリアと、自分がツンデレ枠だというのは分かっているのか、微妙な表情のエリナ。
他にも何人か思い当たる様子を見せている者がいたが、そちらについてはスルーしておこう。
「あー……とにかく、明日はオルフェンズ世界に行くって事だな。UC世界の方では、今は取りあえずそこまで大きな騒動にはならないだろうから、今は気にしない方向で」
そう話を纏めると、それを聞いている者達も特に異論はないのか、反対する者はいない。
あるいは、UC世界の恋人達……シーマ、モニク、クスコ、クリスの4人がここにいれば、また少し違った様子で何かを言ってきたかもしれないが……今日はいないしな。
それこそあの4人は星の屑の後始末とか、俺が確保してきたコロニーの一件とか、そういうのの対処で忙しいみたいだし。
特にモニクは連邦との交渉とかそういうので、こっちに来るような余裕もない筈だ。
……あ、でも魔法球を使って休憩するという意味でなら、やって来るかも?
政庁からゲートまで移動して転移し、ホワイトスターの転移区画から魔法球のある区画まで移動するのに……少し余裕を見て30分。
つまり、行き帰りで1時間。
後は魔法球の中で1時間……つまり48時間休むことが出来れば、全く問題ないくらいに、休む事は出来るだろう。
……もっとも、2時間の休憩時間を作るのは、それはそれで難しそうだが。
昼休みとかも、頑張って1時間くらいだろうし。
そうなると、その日の仕事が終わってから魔法球で休むとか?
それはそれでありだろうとは思うけど。
「あ、そう言えばシェリル、今度UC世界でコンサートをやって欲しいんだけど、大丈夫?」
話が一段落したと思ったところで、エリナがシェリルにそう声を掛ける。
どうやらシェリルにとってエリナのその言葉は予想外だったらしく、ストロベリーブロンドの髪を掻き上げつつ、不思議そうに口を開く。
「コンサートをやるのなら私としては大歓迎だけど、UC世界で? 今の話を聞く限りだと、そういう余裕はないんじゃないの?」
「いえ、問題ないわ。政府とかなら忙しいとは思うけど、普通の人達はそこまでではないもの。けど、アクセル達が阻止したとはいえ、星の屑があったでしょう? なら、不安を抱いている人も多いと思って」
「それで、私のコンサートを?」
「不安に思っている人も、シェリルの歌を聴けば元気になるでしょう?」
「ふふっ、分かってるじゃない。いいわよ、シェリル・ノームの力を見せてあげるわ!」
エリナの提案に、シェリルはやる気満々でそう宣言するのだった。