茨の園での一件があってから、2ヶ月程。
デラーズ・フリートの一件についても大分後始末が終わってきており、ようやくUC世界にも落ち着きが取り戻されていた。
……まぁ、デラーズ・フリートの星の屑を止めたという事で強硬派がより大きな……それこそ俺が当初予想していたよりも影響力を持つようになっていたが。
「ティターンズか」
「……その件については、こちらでも調べているところです」
俺の呟きが聞こえたのか、セイラが紅茶を飲む手を止めながらそう言ってくる。
俺とセイラが話題にしているのは、少し前に結成された部隊の事だ。
ティターンズ……ギリシア神話に出てくるティターン神族が元ネタらしいが、ジャミトフやバスクにしては洒落た命名だな。
そう、このティターンズのトップはジャミトフで、実戦指揮のトップはバスクという形らしい。
部隊としての設立理由は、ジオン軍残党の対処の為。
デラーズ・フリートの星の屑が設立理由である以上、それは当然だろう。
それに実際、デラーズ・フリートによって連邦軍が受けた被害はかなりものなのだから。
設立理由としては立派なものがあるだろう。
実際、星の屑で連邦が受けた被害はかなりのものだったのだから。
だが……それを設立したのがバスクやジャミトフといった強硬派なのが、素直にそれを喜べない理由だ。
ティターンズという独自の部隊……いや、連邦軍とは違う軍隊とでも呼ぶべき存在だけに、何をやらかしても不思議ではない。
それこそティターンズとして、ルナ・ジオンに攻撃してくるといった可能性も決して否定は出来ないのだから。
ティターンズはジオン軍残党に対する部隊であるが故に、ジオンの名を持つルナ・ジオンにも対処するとか、そんな無理矢理な理由で。
……ただ、ルナ・ジオンの中にジオン軍残党がいないかと言われるとそうでもないんだよな。
1年戦争が終わった時、ギレン派、キシリア派はデラーズやキシリアの下に集まったし、ドズル派、ガルマ派はサイド共和国に集まった。
数はかなり少ないが、デギン派もデギンが可愛がっていたという事でサイド共和国に集まったんじゃなかったか。
なお、ダイクン派は元々ザビ家に弾圧されていた事もあって、ルナ・ジオンが建国した時にそのほぼ全てが月に来ている。
派閥としてはそんな感じだったのだが、中にはどこの派閥にも所属していない中立派とか、あるいはどこかの派閥に所属していてもそこまで強い忠誠心は持っていないので、楽な方に……暮らしやすい方に行く者もいた。
そういう者達が、月に……あるいはハワイにいたりする。
また、これはちょっと違うが、地球でオデッサが連邦軍に奪還されてから、多くのジオン軍が宇宙に逃れたり他のジオン軍と合流したりしていたが、そんな中でどうしようもなくなってルナ・ジオンに合流してきた相手とかもいる。
そういう、ジオン軍残党の対処の為という理由があれば、ティターンズがルナ・ジオンにちょっかいを出してくる可能性もある……のか?
もっとも、ルナ・ジオンの戦力を考えれば、そういうのは自殺行為だと理解してもおかしくはないんだが……強硬派だしな。
それこそ戦力差とか政治については全く気にした様子もなく攻撃を仕掛けて来てもおかしくはない。
「ティターンズがどういう風に行動するのかは、しっかりと注意しておいた方がいいだろうな」
「ええ。……ああ、そうだ。それに関してだけど、アクセルはアクシズに興味はないかしら?」
セイラの言葉は、俺にとって完全に予想外な内容だった。
何でこの話の流れでアクシズが出てくる?
いやまぁ……
「ノイエ・ジールの件もあるし、興味がないと言えば嘘になるが」
そう、アクシズはデラーズ・フリートの起こした星の屑の最後……コロニーを地球に落とそうとした時にそれを阻止するべく俺が乗ったMA、ノイエ・ジールを開発したのだ。
組織的には、アクシズはルナ・ジオンの下部組織という扱いになっているので、そういう意味でもアクシズには興味があったが。
「そう。なら、数日後にモニクがアクシズに行くのだけれども、それに同行してみない?」
「……モニクが? アクシズに? わざわざ?」
セイラの言葉は俺にとっても予想外だった。
アクシズに興味があると言ったのは間違いないし、そういう意味では今回のセイラの提案は俺にとって決して悪くない。
だが、何故モニクがアクシズに?
モニクはルナ・ジオンの政治家という訳ではないが、役人だ。
それもただの役人ではなく、かなり上位の役人。
それこそ、その辺の政治家と比べると間違いなくモニクの方が実力、影響力共に上だろうという、そんなレベルの役人。
俺との関係であったり、女王のセイラから信頼されているからとか、実戦経験者……どころかエース級のMSパイロットでもあるので、雰囲気が違う。
そんな諸々の理由もあるが、それ以上にモニクが今のような地位にいるのは、純粋にモニクの役人としての能力が高いからだ。
つまり、ルナ・ジオンという国を運営する上で、モニクの力は相応の影響力を持っている。
そんなモニクが、ルナ・ジオンから離れるのはどうか。
……いやまぁ、X世界の一件で結構な長期間モニクをルナ・ジオンから引き離した俺が言うべき事じゃないとは思うけど。
ただ、あの時はルナ・ジオン……いや、UC世界において特に大きな問題とかはなかった。
勿論、ジオン軍残党の活動もあったが、それでもそこまで大々的に動いてはいなかったし、そもそもジオン軍残党はルナ・ジオンには手を出さなかったし。
強硬派もいたが、そこまで活発に動いてはいなかった。
だが、今は違う。
デラーズ・フリートの星の屑が終わったばかりで、デラーズ・フリートの残党……ジオン軍の残党の残党がまだ動いていたりする。
大半はキシリア派に合流した筈だが、デラーズに近い者達の中にはデラーズと犬猿の仲、不倶戴天の敵であるキシリア派に合流せず、独自に動いている者もいるだろう。
また、そのキシリア派もデラーズ・フリートの生き残りを受け入れた事で、何らかの動きを見せる可能性は否定出来なかった。
そして……何より強硬派、いや、ティターンズだ。
連邦軍の中でも強硬派の集団……しかも聞いた話によれば、星の屑の時に俺が一緒に行動していたアルビオンの面々も結構な人数が取り込まれているとか。
シナプスは軍を辞め、バニングはウラキやキース、モーラと共にどこかの基地でテストパイロットとして働く事になったらしいが、それ以外の面々はその殆どがティターンズに所属したとか。
アルビオンにいたのなら、強硬派の厄介さ……面倒臭さというのは十分に分かってると思うんだが。
それを承知の上でも、ティターンズに入る何かがあったのだろう。
待遇か、あるいは上からの圧力か。
その辺は俺にも分からなかったが、とにかくそんな感じなのは間違いない。
正直なところ、厄介なことをしてくれるというのが俺の正直な気持ちだったりする。
何しろアルビオンと行動を共にしていた以上、アルビオンの面々が精鋭揃いだというのは分かっている。
そもそもアルビオンのクルーはガンダム開発計画という極秘計画の為にコーウェンが集めた面々だ。
それを思えば、そんな精鋭の多くがティターンズに所属したというのは、俺にとって決して好ましい話ではなかった。
「ええ。今この時によ。……実は、少し前にアクシズから連絡があったの」
そう言うセイラの表情は、ニュータイプ能力がない俺であっても、何か良くない知らせがあったのだろうという事が理解出来た。
「具体的には? ああ、勿論俺が聞いてもいいならの話だけど」
「別にアクセルに隠すような事ではなくてよ。……今までアクシズを率いていた、マハラジャ・カーンが亡くなったらしいわ」
「……それはまた……」
マハラジャ・カーンというのは、典型的なダイクン派だった。
それでいて有能という事もあり、火星の近くにあるアクシズを任されるようになった訳だ。
もっとも、マハラジャの娘の1人はドズルの愛妾だったらしいから、ドズルとの繋がりはそれなりにある……ああ、殺されたりせず、アクシズを任されたのはその辺が理由なのかもしれないな。
ただ、アクシズはマハラジャの考えからか、それともアクシズを運営していくのに多くの人が必要だった為か、ギレン派、キシリア派、ドズル派、ガルマ派、デギン派、中立派といったように、派閥関係なく多くの者達を受け入れていた。
正直なところ、キシリア派は火星がすぐ側にあってそこがキシリア派の拠点なんだから、わざわざアクシズにいなくても火星に合流すればいいのでは? そう思わないでもなかったが……キシリア派にしても、アクシズの情報は必要だったり、ある程度交流とかはあったのだろう。
普通に考えれば、アクシズのように様々な派閥が一緒になっている中で、上手くやっていくのは非常に難しい。
だが、それでも何とか上手くアクシズを運営出来ていたのは、それだけマハラジャが有能だったという証だろう。
そのマハラジャが死んだ。
そうなると、まず真っ先に問題になるのは、誰がそのマハラジャの後を継ぐかだろう。
「マハラジャの後継者は誰だ? ……ここで迂闊にキシリア派の者とかが後継者になったら、アクシズはルナ・ジオンから離れるぞ」
ゼロ・ジ・アールやノイエ・ジールを見れば分かるように、アクシズの技術力は非常に高い。
それだけに、ここでキシリア派がアクシズのトップとなり、それによってアクシズがキシリア派に合流するというのは、絶対に避けたかった。
……ただし、そうなるよりも前にアクシズには多数の派閥の者がいるのだから、もしキシリア派の後継者がいて火星に合流すると言った場合、それに反対する者達によって大規模な内乱になってもおかしくはなかったが。
そうなるとそうなったで、また面倒な事になるのは間違いなかったが。
「安心して。こちらに入ってきた情報によると、アクシズの後継者はハマーン・カーン……マハラジャ・カーンの娘よ」
「……娘? というか、ハマーン・カーンって……どこかで見たか聞いたかした名前なような」
「フラナガン機関でしょうね」
その言葉に、そう言えばそうだったと思い出す。
「フラナガン機関ってことは、そのハマーンというのはニュータイプな訳だ」
「ええ。私の方に入ってきている情報によると、かなり強力なニュータイプのようよ」
「……もしかして、そのハマーンというのがアクシズを率いることになったのは、ルナ・ジオンの一件があるからか?」
ルナ・ジオンの女王であるセイラは、強力な……それこそ、今現在確認されている中ではUC世界最高のニュータイプだ。
そのニュータイプ能力によって、ルナ・ジオンは建国間もないのにしっかりとやっていけているし、連邦とも互角にやり合えている。
であれば、ルナ・ジオンの下部組織であるアクシズがそれに習うという形になるのはおかしな話ではないのかもしれない。
勿論、そう簡単に出来るような事ではないが。
ルナ・ジオンは実際にセイラをトップに据えて上手く回っているが、国を上手く運営するには、トップだけではなく多くの政治家の力も必要となる。
実際、セイラはルナ・ジオンを建国する際に、ワルキューレと呼ばれていたジオン軍の政治家達……いや、政治家以外にもいたが、その中心は間違いなく政治家達だった。
そんなワルキューレと呼ばれる者達をルナ・ジオンに引き入れ、国の運営をしている。
もっとも、中には私利私欲でワルキューレに参加しており、ルナ・ジオンでも何らかの犯罪をして首になり、農場に送られた者とかもいるらしいが。
この例を見れば分かるように、国というのはトップ1人が有能であってもどうにもならない。
その下にいる者達が有能でなければ、国の運営というのはそう簡単に出来ないのだ。
……これ以上ない程に分かりやすいのが、シャドウミラーだろう。
国のトップである俺は、実際には国を率いる者としての仕事は殆どしていない。
ホワイトスターに戻った時、どうしようもない……本当に俺でなければ駄目な仕事は片付けたりするが、一般的な意味で国を動かす仕事……9割9部9厘の仕事については、エザリア率いる政治班に任せている。
そんな訳で、ハマーンというマハラジャの娘が有能なニュータイプであったとしても、その下にいる者達が無能であれば……あるいは有能であっても私利私欲の為に動くような者であれば、アクシズという組織は乗っ取られるか、空中分解するか、血で血を洗う内乱に発展するか、もしくはそれ以外の何かが起きるか。
「だから、アクセルにはアクシズに行って欲しいのよ。……それに、アクセルならニュータイプとの接し方も分かるでしょうし、何よりアクセルの心の中を読む事が出来ないというのは、ニュータイプにとっては大きな安らぎなのよ」
そう言うセイラの言葉に、俺は分かったと頷くのだった。