ハマーンの乗っている白いリック・ドムがビットを操縦しているのは分かる。
だが、まさかビットで自分を攻撃したりはしないだろう。
……何より、ハマーンが使っているビットと比べて、明らかに小型だったように思えた。
そう考えると、やはり先程のビットは……
「ハマーン、敵にもビットを使うニュータイプがいるな?」
『……そうだ。エンツォ大佐の部隊にもニュータイプはいる。感謝しなければならんのかもしれんな』
ハマーンも、自分を狙っていたビットの存在については理解していたのだろう。
映像モニタの向こうで俺に向かってそう言ってくる。
最初、俺に向けていた警戒の視線は完全になくなったという訳ではないが、それでも最初よりも幾分か警戒は減っている。
最初は10の警戒だったとすると、7……いや、6くらいにはなったか?
「そのエンツォ大佐ってのが、この騒動の原因か。……色々と詳しい話を聞きたいところだが、今のところそのような状況じゃない。まずはこの騒動を終わらせるぞ」
『簡単に言ってくれる。私が言うのもなんだが、真ジオン公国軍を名乗ったエンツォ大佐には、アクシズにいた戦力の半分以上が合流している。今の状態でそう簡単に戦いを終わらせられると思うのか?』
不満そうなハマーンだったが、その言葉はなるほど、そう言いたくなる気持ちも分かる。
どうやらエンツォ大佐……いや、エンツォでいいか。そのエンツォとやらがこの戦いの元凶なのは間違いないらしい。
その上で、アクシズにいた戦力の半分以上がエンツォについた。……しかも、真ジオン公国軍ときたか。
そういう風に名乗るという事は、まさかギレン派か?
あるいはキシリア派という可能性もあるが。
ミネバを有しているアクシズだと考えると、ドズル派、ガルマ派でない事は事実だろう。
また、ルナ・ジオンの下部組織であるアクシズに反旗を翻したという事は、ダイクン派ではないのも事実。
元々アクシズには多種多様な派閥の者達が集まっていたのだから、そういう流れになっても分からないではないが。
「安心しろ。戦力はすぐに逆転する。……俺がルナ・ジオンの所属だというのは話しただろう? なら、俺がMSだけで月からアクシズまで来た筈はないのも分かる筈だ」
そう言った時、ふと転移してきた時にアクシズ方面からやって来た艦隊とすれ違った……というか、あっちがこっちに接触しないようにしていたのを思い出す。
もしかして、あの艦隊はアクシズで起こったエンツォの反乱から避難するべく逃げ出したのか?
可能性としては十分にある。
アクシズは、色々な派閥が集まっていることもあってジオン軍残党にとっては理想郷……というのは少し大袈裟かもしれないが、実際にそういう風に思っていた者が多いのは間違いないだろう。
そんな中で、真ジオン公国軍なんて名乗って反乱を起こす……しかも戦力の半分以上がそちらに味方をしたと知れば、もうアクシズは終わりだと判断して逃げ出してもおかしくはない。
ただ、そうなるとそれはそれで疑問もあるのだが。
もしそういう理由で逃げ出したのだとしたら、俺達と遭遇するのは天の助けと思ってもいいだろう。
アクシズに所属しているのなら、ルナ・ジオンという存在について十分に理解出来ていてもおかしくはないのだから。
だというのに、こっちに接触せず……それどころか、こっちの通信にも一切応答せず、離れていったのだ。
それこそあの行動を見る限りだと、こっちとは一切接触したくないと……そのように思っているようにすら見えた。
そもそも逃げるのに、あそこまで軍艦を揃えるというのは、少し疑問でもある。
俺達が転移した時、近くを通った艦隊は、ザンジバル級3隻、チベ級2隻、ムサイ級5隻という結構な数だった。
グワジン級はないものの、純粋な戦力として考えればかなりのものだ。
アクシズから奪っていった……いやまぁ、その件については今はどうでもいい。
全てが終わってから、ハマーンから事情を聞けばいいだけだ。
なら、今の俺がやるべきなのはアクシズで起こっているこの騒動を止める事。
『つまり、援軍が?』
そう聞いてくるハマーンの言葉に、微かな喜びがある。
無理もないか。
戦力の半分以上がエンツォに味方をし、俺達が遭遇した艦隊を見れば分かるように、そちらでも戦力が減らされていた。
そんな中で残って戦力を率いて戦っていたハマーンにしてみれば、ここで援軍が来るというのは非常にありがたいことに思えたのだろう。
「ああ、俺の機体が一番機動力があったから先に来たが、俺から遅れて他のMSも……それを搭載したナスカ級が、そして少し遅れてアクシズがノイエ・ジールを月に届ける為に派遣された艦隊がやって来る」
アクシズ艦隊の他後ろにはパプア級のような補給艦もいるのだが……まぁ、そっちは戦力として考えない方がいいだろう。
一応そっちにもガルバルディβやメギロート、バッタといった戦力が搭載されているので、全く戦力がないという訳でもないのだが。
ただ、それでもやはりパプア級という補給艦の脆弱性を考えると、戦場に投入するのは避けたい。
ましてや、戦力が足りないのならまだしも、俺を含めたナスカ級が、そしてアクシズ艦隊がいるのだから。
……というか、今更の話ではあるんだが、俺達と一緒に来たアクシズの艦隊で、エンツォの真ジオン公国軍に味方をするような奴はいないよな?
もしいたら、その時はその時で対処する必要があるが。
いや、アクシズ艦隊の方で対処するか?
『そうか。……感謝する』
そう言い、軽く頭を下げるハマーン。
組織のトップがそう簡単に頭を下げるのはどうかと思うんだが、ハマーンはまだマハラジャの後を継いだばかりだ。
そうなると、まだ組織のトップとしての立ち振る舞いが身についていないといったところか。
まぁ、セイラも最初は……最初は……いや、俺が知ってる限りだと、セイラは最初から女王に相応しい行動をしていたな。
セイラから聞いた話によると、父親のジオン・ズム・ダイクンが死んでサイド3を脱出したのはまだ小さい……幼い頃だったらしい。
脱出した後はランバ・ラルの父親であるジンバ・ラルと暮らしていたが、シャア……キャスバルは厳しい教育を受けたらしいが、セイラは自由に遊んでいたとか。
そのジンバ・ラルが死んだ後はデアボロ・マスという人物の子供として育ったが、その時も別に厳しい教育とかはしていなかったらしい。
成長して医者を目指していたらしく、それでサイド6にいて俺と出会ったらしいが。
そう考えると、セイラが何故女王らしい立ち振る舞いが出来ているのか疑問だ。
あるいは生まれ持っての才能というか、人の上に経つ才能を持っていたのかもしれないな。
「気にするな。アクシズはルナ・ジオンにとっても大きな意味を持つ存在だ。そう考えれば、今この時にアクシズに到着したのは幸いだろう」
いや、本当にこれは幸いだったのは間違いない。
もし今日俺達がアクシズに来ていなければ、エンツォの反乱によってハマーン達は負けていた可能性が高い。
そうなっていれば、アクシズがどうなっていたか。
エンツォがどの派閥の者なのか……あるいはそれとはもっと別の相手なのか。
その辺りは俺には分からなかったが、それでもエンツォがアクシズを支配した場合、ルナ・ジオンとは訣別していただろう。
もしくは表向きは従って補給物資とかを入手しつつ、裏で何かを企んでいるのか。
そんな諸々を考えると、やはりエンツォが行動を起こした直後……まだ勝負は決まっておらず、その上で反逆をしたというのが隠しようがない今この時に俺達がアクシズにやって来たのは、天佑なのかもしれない。
……天佑というのは神の助けな訳で、神殺しをした俺に天佑があるかどうかは微妙なところだが。
あるいはUC世界においては神殺しをしていないので、天佑が俺に良い影響をもたらした可能性もあるのか。
『では……とにかく、向こうのニュータイプ用MSであるトゥッシェ・シュヴァルツは私のシュネー・ヴァイスよりも性能が上なので、気を付けろ』
トゥッシェ・シュヴァルツにシュネー・ヴァイス……また小難しい名前を。
いやまぁ、ゼロ・ジ・アールやノイエ・ジールといった機体名を考えれば、そういう名前を付けるのがアクシズらしいのかもしれないな。
ちなみに、リック・ドムだろという突っ込みは、この場合はしない方がいいのだろう。
実際にリック・ドムの改修機なのは間違いないが、それでも別物のような性能であれば、名前が違うというのは珍しくないし。
グフとグフ・カスタムとか、イフリートとイフリート改とか、そんな感じか?
ともあれ、ニュータイプ用のMSとしてリックドムを改修したのが、ハマーンの乗っているシュネー・ヴァイスと、ハマーンが危険だと言ったトゥッシェ・シュヴァルツなのだろう。
となると、さっき俺が撃破したビットも、そのトゥッシェ・シュヴァルツによるものと考えた方がいいな。
「つまり、そのトゥッシェ・シュヴァルツというのが、エンツォの切り札な訳だ。……なら、俺がそれを引き受けよう」
『何? いや、だが……相手はニュータイプ用MSなのだぞ? なら……』
どん、と。
ハマーンの言葉の途中で再びこちらに向かってくる……それもこちらに見つからないよう、周囲のデブリに紛れて近付いてきていたビットをビームマシンガンで破壊する。
「ニュータイプ用MS? その程度の事で、俺をどうにか出来るとでも?」
『お前は……いや、まさか……名前……しかし、外見が……』
一連の動きを見て、ハマーンが戸惑った様子を見せる。
ニュータイプだけあって高い洞察力を持っているらしく、俺との少しのやり取りと今の実力を見て、俺の正体に気が付きつつあるのだろう。
「詳しい話は後だ、敵の切り札であるトゥッシェ・シュヴァルツは俺が引き受けるから、ハマーンは味方の指揮と援護を頼む。さっきも言ったが、少し待てば援軍が来るから、それまでの辛抱だ」
『私を誰だと思っている! 私は、ハマーン・カーン! アクシズを率いる者だ! 援軍が来るまで待つ必要などない! お前が……アクセルがトゥッシェ・シュヴァルツを押さえるのなら、後は私がどうともでしよう!』
俺の言葉の何に反応したのか……それとも、自分が侮られていると感じたのか。
とにかくハマーンは闘志に燃えていた。
……いや、それだけじゃないな。一瞬だったが、間違いなくニュータイプ特有の威圧感のようなものがあった。
それはクスコに迫る強さなのは間違いなく……あれ? もしかしてハマーンって、ニュータイプとしては傑出した存在なのか?
クスコはニュータイプとして、このUC世界では間違いなく上位に入る。
勿論セイラには及ばないし、恐らくアムロにも負けているだろう。
だが……クスコが今のような強力なニュータイプ能力を持つようになったのは、俺に接触してレベルが上がり、その上で俺に抱かれてレベルが上がった。
そういう意味では、2段階レベルアップして、それで今のような強力なニュータイプ能力を持つようになったのだが……そんなクスコを、今の時点で上回る?
いや、先程までは別にそこまで強力なニュータイプ能力を感じなかった。
だが、俺の言葉によって何らかの刺激を受け、その結果としてニュータイプ能力が強化された……もしくは、今までは発揮出来なかった力を発揮出来るようになったといったところか?
理由はともあれ、この状況でハマーンが強くなったのは、一緒に戦う俺にとって嬉しい事だ。
なので、そのやる気を刺激するように言葉を返す。
「そうか。なら、アクシズのニュータイプの能力、楽しみにさせて貰おう」
その言葉に、何かを感じたのだろう。
映像モニタに表示されたハマーンは笑みを浮かべて言う。
『トゥッシェ・シュヴァルツは、私のシュネー・ヴァイスと同じく一目で普通のリック・ドムではないと分かるだろう。もっとも、色は私のシュネー・ヴァイスと違い、黒なので見つけにくいかもしれんがな』
「そうか、情報助かる」
実際、情報に関してはかなり助かるのは間違いのない事実。
アクシズの色々な場所で戦いは起こっているものの、アクシズのMS同士での戦いである以上、どちらが敵なのか分からないのだから。
ピンチになってる方を助けた時、そちらがエンツォの仲間だったりしたら洒落にならない。
もっとも、戦力の半分以上がエンツォに協力しているという話なので、数の少ない方に味方をすれば……と思わないでもない。
ただ、それだってハマーンに味方をしている方が頑張って自分達に有利な状況を作った結果としてそういう状況になっているという可能性もある訳で。
これで俺が前からアクシズにいたのなら、もう少し相手がどっちの味方なのかというのも分かったと思うんだが。
それが分からない以上、今は明確に敵だと分かるトゥッシェ・シュヴァルツとやらを探すしかなかった。