トゥッシェ・シュヴァルツをモニクに任せ、俺は戦場となっている宙域を移動する。
そうして移動を始め、数分もしないうちにMS同士の戦いが行っているのを見つけたのだが……
「しまったな」
さっき遭遇したハマーンから、敵味方の識別コードを貰っておくべきだった。
ただ、それでもザクやドム、ゲルググといったMSが戦っている中で、片方は3機なのに対し、もう片方は8機。
3倍近い戦力差である事を考えると、恐らくは数の多い方がエンツォの勢力……真ジオン公国軍とやらなのだろう。
そう思いはするのだが、残念ながらそう思うだけで決定的な判断は出来ていない。
もし俺が勝手に判断し、数の多い方を倒した結果、実はそっちがアクシズ軍だったりしたら洒落にならない。
どうする?
そんな風に思っている間に、数の少ない方のドム……リック・ドムの右足が数の多い方のゲルググのビームライフルに貫かれ、破壊される。
リック・ドムはドム系だけあって装甲が厚く、実弾兵器には強いんだが……ビーム兵器には装甲が幾ら頑丈でも無力なんだよな。
このままだと数の少ない方が一方的に撃破される。
数の少ない方がエンツォの勢力ならいいんだが、その可能性は低い。
仕方がない、か。
俺は2つの集団の中間を遮るようにビームマシンガンをライフルモードで撃つ。
予想外からの攻撃だったからだろう。
2つの集団はどちらも動きが止まり……そこにオープンチャンネルで通信を入れる。
「俺はルナ・ジオン軍に所属する者だ。反乱を起こしたエンツォを倒し、ハマーン派に味方をする為に参戦する!」
オープンチャンネルで堂々と宣言する。
実はルナ・ジオン軍から援軍が来るといった事を言おうかとも思ったんだが、そうなるとエンツォ派の者達が勝ち目がないと判断して自分達はハマーン派とか言ってしれっと乗り換えそうなので止めた。
ガーベラ・テトラ改は、アクシズにいる者達にとっては未知のMSだろう。
それがハマーン派の味方だと宣言すればどうなるか。
「やっぱりそっちか!」
数の多い方のMS隊が、ザクマシンガンやジャイアントバズ、ビームライフルを一斉に俺に向けて撃ってくる。
予想はしていたが、これで数の多い方がエンツォ派だと確信出来た。
攻撃をされる……いや、銃口や砲口が動いた瞬間には既にガーベラ・テトラ改のショルダー・バインダーを使って移動していたので、相手が撃ってきた全ての攻撃はあらぬ方向に飛んでいく。
それを見ながら、テール・バインダーのスラスターも加え、一気に間合いを詰めつつ、ビームマシンガンを撃つ。
ライフルモードにすれば一撃の威力が高くなるものの、威力が高すぎて撃破してしまっては意味がない。
今回俺がやるべきなのは、敵の撃破ではなくパイロットが生きたまま戦闘不能にする事なのだから。
その為、ビームマシンガンで十分だった。
手足に頭部と、次々に命中していくエンツォ派のMS達。
俺が近付いてビームサーベルの間合いに入った時、既に4機のMSが四肢と頭部を失って戦闘不能状態になっていた。
そのまま左手で手首の内側から飛び出したビームサーベルを握り……斬、と。
円を描くような動作で、手足と頭部を切断する。
そんなガーベラ・テトラ改の動きに動揺したのか、エンツォ派のMS隊は一瞬動きを止める。
だが、それも一瞬。
ガーベラ・テトラ改から距離を取りながら戦えばビームサーベルの一撃を警戒しなくてもいいと判断したのか、それぞれの射撃武器を使いつつガーベラ・テトラ改から離れていく。
……いや、離れようとしたというのが正しいだろう。
ショルダー・バインダーを使い、離れようとしていたゲルググとの間合いを一気に詰める。
ゲルググは焦った様子でビームライフルから手を離しつつビームナギナタ……いや、一本だけなのでビームサーベルか? とにかくそれを使ってガーベラ・テトラ改に斬りかかろうとするものの、次の瞬間にはビームサーベルを握っている左手の110mm機関砲でゲルググのビームサーベルを握っている腕を破壊し、右手のビームマシンガンで頭部を破壊する。
テール・バインダーの110mm機関砲を使い、残りの手足も破壊し、これで2機目の無力化に成功。
そこまでやると、エンツォ派のMS隊はこの場から撤退し始めた。
……いや、それは撤退といった表現は相応しくないな。
身も蓋もなく逃げ出したといった表現の方が相応しいだろう。
俺がここに来た時は、自分達の方が数が上だったので有利に戦えていたものの、そこに数の差をものともしない俺がやって来ると、このままでは勝ち目がないと判断して逃げ出したのだろう。
実際、その判断は間違っていない。
……いや、間違っていないどころか、この状況では正しいと言ってもいいだろう。
だからこそ、このまま逃がす訳にはいかなかった。
エンツォ派の者達は、別に全員が反逆罪で処刑といった訳ではない。
それこそ末端の兵士は恐らく監視がついたり、あるいは閑職に回されたり、もしくは最前線での戦いに投入されたりするだろうが、それでもアクシズ軍として行動するのは許される筈だった。
この場から逃げ出したMSのうち、一番機動力の高いリック・ドムに向かいビームマシンガンで手足と頭部を次々に撃ち抜きながら、スラスターを全開にしてザクⅡF2との間合いを詰める。
その間にも他のMSをリック・ドムに続いてビームマシンガンで手足や頭部を撃ち抜いていく。
手足や頭部を破壊されても、バックパックや身体の各種に存在するスラスターを使って移動する事は出来るので、その状態でも移動しようと思えば移動出来る筈だ。
だが、手足や頭部を壊した事によって機体内部に異常が起きている可能性もあるし、空気漏れの可能性も否定は出来ない。
勿論そんな状態のエンツォ派のMS隊をそのままにしておけば最終的にパイロットが死ぬ可能性は充分にある訳で……
「胴体だけになったMSは集めておけ」
『あ……ああ、分かった……』
全てのMSを無力化してから、ハマーン派のMSにそう指示を出す。
本来なら、ルナ・ジオン軍……しかも本当にそこに所属しているのかどうかといった事を示す証拠もない俺の命令に、ハマーン派のMS隊が従う必要はない。
だが、それでも今この時においては素直に俺の命令を聞いた。
それは目の前で見せたMSの操縦技術の圧倒的な差というのもあるのだろう。
もし俺が、実はエンツォ派なら、わざわざ味方を倒してまで自分達に協力するようなことはないと、そのように思ってもおかしくはないし……実際、その考えは決して間違っているものでもない。
もし俺が本当にエンツォ派なら、とっととハマーン派のMS隊を撃破してしまえばいいだけなのだから。
それを行わないという事は、つまり俺がエンツォ派ではないという事を意味している。
「それと、敵味方識別コードを寄越せ。今回はお前達の数が少なかったし、俺がルナ・ジオン所属だと言った途端に向こうが攻撃をしてきたから向こうがエンツォ派だと分かったが、毎回そういうことをするのは面倒だしな。それに、ハマーン派が間違って攻撃してきても、俺にはそれが分からないから、そいつをエンツォ派だと認識して攻撃する可能性もある」
モニクからの要望……というか提案によって、今回は可能な限り人を殺さない方針になっている。
つまり、もしハマーン派のMS隊が間違って俺を攻撃して反撃されても、その場合はMSの四肢と頭部を失うだけだ。
……まぁ、それでもアクシズにしてみればパイロットの命は助かる。
ただし、パイロットの命は助かるものの、MSは大破……いや、四肢と頭部を失っているのだから、既に撃破扱いか?
勿論、それでも部品取り用に使えたりはするだろうし、場合によっては宇宙空間に漂っている四肢や頭部を回収して繋げる事も出来るかもしれないが……それでもMS戦力が大きく減るのは間違いのない事実。
ただでさえ戦力に乏しいアクシズで、エンツォ派が離脱し、逃亡した艦隊もいるのだ。
これ以上戦力を……それも無駄に消耗するのは避けたいだろう。
もっとも、アクシズでも上層部……いや、そこまでいかなくても上のMS部隊の隊長とかだったら、その辺りについてもしっかりと考えるだろうが、末端の兵士ともなれば裏切り者は全て殺せといったような事を考えかねない。
実際、エンツォが起こしたこの反乱によって、双方にそれなりに死者が出てるのは間違いないだろうし。
『わ、分かった。すぐに送る』
その言葉と共に敵味方識別コードが送られてくる。
これで余計な手間は掛からなくなるし、エンツォ派の戦力を晴らす時にも奇襲とか出来るから、効率も上がるな。
「助かる。じゃあ、俺は行くからエンツォ派のMSの胴体を回収してアクシズに運べ。アクシズに運んだら、当然ながら武装解除して牢屋にでも入れておくように」
そう指示を出すと、相手の返事を聞かずにガーベラ・テトラ改を移動させる。
敵味方の判別が出来るようになったので、そういう意味ではこれからの戦いはかなりやりやすくなった。
後はエンツォ派の戦力を減らして……ナスカ級が具体的にいつくらいに登場するのか、それが疑問だな。
ナスカ級が来て、追加でアクシズから月に派遣された艦隊が到着すると、戦局は完全に逆転するだろう。
最悪、その時まで生きていればこの反乱についても最終的に生き延びる事は出来るだろう。
……まぁ、それを降伏と思うかどうかは人によって違ってくるだろうが。
「いたな」
アクシズの周辺で行われている戦い。
そうなると、当然ながらその周辺を移動していればハマーン派とエンツォ派の戦いに遭遇するのも珍しくはない。
2対2の戦い。
ただし、片方はザクⅡF2が2機なのに対し、もう片方はザク改とゲルググがだった。
MSの性能差は、当然ながら戦力の決定的な差となる事が多い。
勿論、これには色々と例外もあるが。
例えばザクに乗っているシャアと……キースが乗っているゲルググが戦った場合、勝利するのは恐らくザクに乗ったシャアだろう。
だが、それはあくまでそこまで操縦技術の差があったらの話だ。
ザクに乗ったシャアとゲルググに乗ったアムロ……特に後者は1年戦争終盤のアムロだった場合、そのままMSの性能差を覆す事が出来ず、アムロが勝利するだろう。
「そんな訳で、ザク改とゲルググではこのガーベラ・テトラ改に勝てないのも事実なんだよな!」
スラスター以外に、ショルダー・バインダーとテール・バインダーを全開にしながら、ザク改とゲルググとの間合いを詰める。
ザクⅡF2を相手に、連携を上手く取って攻撃をしていたエンツォ派のMS隊。
ザク改とゲルググは、機種こそ違えども性能という点ではそれなりに近い。
もっとも、ザク改は高性能ではあるが推進剤の消費量が多くなっている影響もあり、戦闘可能時間は短いが。
それでもゲルググとこうしてしっかりと戦闘をしているのを見る限り、あのザク改に乗っているパイロットの操縦技術は高いのだろう。
恐らく1年戦争を戦い抜いたベテランといったところか?
そのベテランであっても、エンツォ派に所属している時点でどうかと思わないでもなかったが。
「っと、こっちに気が付いたか」
ザク改が急速に近付くガーベラ・テトラ改の存在に気が付いたのだろう。
ザクマシンガン……普通のドラム型のザクマシンガンではなく、MMP-80の銃口を向けてくるが……
「遅い」
相手はベテランではあるが、結局それだけでしかないのも事実。
次の瞬間、俺が撃ったビームマシンガンによって、ザクマシンガンを持っていた腕が破壊される。
それに一瞬動揺したザク改だったが、その隙を庇うようにゲルググがビームライフルを撃ってくる。
テール・バインダーのスラスターを使って回避しつつ、牽制として頭部バルカンを撃つ。
……まさかジオン系MSのガーベラ・テトラ改から頭部バルカンが撃たれるとは思っていなかったらしく、ゲルググは動揺する。
頭部バルカンは連邦系MSの特徴でもあるから動揺してもおかしくはないが、ジオン系MSの中にもFs型のザクのように頭部バルカンを装備している個体もいるんだが。
まぁ、Fs型はかなりマイナーな機体なので、それを知らない者の方が多くても不思議はない。
ともあれ、今の状況で俺がやるべきなのはエンツォ派のMSを可能な限り戦闘不能にしていく事だ。それもパイロットを殺さずに。
それは結構面倒な事だったが、アクシズのこれからを思えば、ここで苦労をする分だけ後で楽になるということでもある。
……何だか後で楽をする為に残業を続けているサラリーマンのような感じになるな。
もっとも、俺がサラリーマンとして……会社員として働いた事はないので、あくまでも知識として知ってる限りのものでしかないのだが。
とにかく今は頑張るのみ。
そう考え、間合いを詰めたガーベラ・テトラ改は、ゲルググに向かって……パイロットを殺さないように注意しながら、ビームサーベルを振るうのだった。