ハマーン派とエンツォ派の戦いに介入しては、エンツォ派のMSの四肢と頭部を破壊、あるいは切断し……そうしていたところで、見覚えのある白いリックドムを見つける。
シュネー・ヴァイス……ハマーンが操縦するリック・ドムのニュータイプ用改修機だ。
最初に会った時に引き連れていたビットを使い、エンツォ派のMSを戦闘不能にしているところを見つけ、そちらに近付く。
すると向こうもニュータイプ能力……もしくはサイコミュを使ってか、それとも単純にレーダーを使ってか、近付いてくるガーベラ・テトラ改の姿に気が付き、シュネー・ヴァイスがこちらを向く。
『お前は、シャド……いや、ルナ・ジオンの……一体何故ここに? トゥッシェ・シュヴァルツはどうしたのだ?』
映像モニタに表示されたハマーンの言葉に、少しだけ眉を動かす。
今の俺は、20代ではなく10代半ば……それこそ、ルナ・ジオン軍のアクセル・アルマー中尉として知られている姿だ。
だが、ハマーンはそんな今の俺を見てシャド……と口にした。
シャドウミラーと言おうとしたのだろう事は間違いない。
どこで俺をアクセル・アルマーだと……シャドウミラーを率いるアクセル・アルマーだと判断したのか、生憎と俺には分からなかった。
ただ、今の言葉からすると最初に会った時にはもう半ば予想していたらしい。
それでもルナ・ジオンと言い換えたという事は、今はシャドウミラー云々については気にしないようにしたといったところか。
もっとも、その気持ちも分からないではない。
アクシズはルナ・ジオンの下部組織であり、ルナ・ジオンはシャドウミラーの下部組織なのだから。
そういう意味では、アクシズはシャドウミラーの配下的な存在でもある。
もっとも、それはあくまでもダイクン派のマハラジャがアクシズを率いていた時の話だ。
そのマハラジャの後を継いだハマーンが、父親と同じ方針でアクシズを運営するかどうかは不明だ。
もしかしたら独自路線を進む可能性も否定出来ない。
ただ、エンツォの反乱を思えば、多分違うんじゃないかとは思っているが。
……ルナ・ジオンに従わないが、エンツォが主導権を握るのもハマーンとしては耐えられないから、このような内乱になっているといった流れもあるか?
そんな風に思いつつ、ハマーンに言葉を返す。
「トゥッシェ・シュヴァルツについてだが、ビットに触れたところ向こうが錯乱した。……ちなみにトゥッシェ・シュヴァルツだが、バルーンの中に隠れて、俺がハマーンと接触したところからそう離れていない場所にいたぞ」
『……錯乱?』
映像モニタの向こう側で、ハマーンは完全に意表を突かれた表情を浮かべる。
一体何がどうなってそうなったのか、全く分かっていないのだろう。
ただ事実である以上、俺としてはその言葉に頷くことしか出来ない。
「そうだ。多分、ビットを操っていたサイコミュを通して、俺の意識と繋がってしまったんだろうな」
これで相性が良ければ、あそこまで向こうが錯乱するようなことはなかっただろうが……俺に殺意を抱いていた以上、相性は決して良くはなかった。
ましてや、俺の持つ念動力はニュータイプの上位互換だ。
そんな諸々を考えれば、トゥッシェ・シュヴァルツのパイロットが錯乱してもおかしくはなかった。
『それで、トゥッシェ・シュヴァルツは一体?』
「撃破してもよかったんだが、援軍としてナスカ級から一足先に来た奴から、ニュータイプは出来れば殺さない方がいいと言われたから、そいつに任せてきた。錯乱している相手だし、モニク……その援軍に来た奴はパイロットとしての技量も一級品だし、任せておいて問題ないだろう」
『……なるほど』
俺の言葉に完全に納得した様子ではなかったが、それでも感謝の言葉を口にするハマーン。
無理もないか。
俺がハマーンと接触した時、ハマーンはトゥッシェ・シュヴァルツに……正確にはそのパイロットが操るビットに押されていた。
あの時点で押されていたから、最終的に負けたとは限らない。
それこそ最終的には何らかの手段で逆転したという可能性も十分にあったのだから。
だが、それでもあの時点でピンチだったのは間違いない。
そこを俺に助けられ……それだけでもハマーンにとっては決して好ましい事態ではなかったというのに、俺がトゥッシェ・シュヴァルツと戦ったら相手が勝手に錯乱して戦闘らしい戦闘にならなかったと、それどころか俺以外の援軍が捕らえた方がいいと言ってきたので、そっちに任せてきたと言われたのだから、ハマーンにしてみればプライドが傷つけられたのは間違いないだろう。
それでも不満をこちらにぶつけてこない辺り、アクシズを率いる者として悪くない。
「だからトゥッシェ・シュヴァルツはモニクに任せて、俺は戦闘に介入してはエンツォ派のMSの四肢と頭部を破壊し、胴体だけにして回っていた。それでハマーンを見つけた訳だ」
『四肢と頭部を……? いや、感謝はする。感謝はするが……そのような事を何度も続けて出来るのか?』
「出来るのかどうかと言われれば、出来るとしか言えないな」
普通ならそう簡単に出来る事ではないだろう。
だが、高性能なMSと……何より俺の操縦技術があれば、そのくらいの事が出来るのは間違いなかった。
『……信じよう。アクセル・アルマーならそのくらいは出来るだろうとな』
これ、やっぱり俺をルナ・ジオン軍のアクセル・アルマー中尉じゃなくて、シャドウミラーを率いるアクセル・アルマーと認識してるよな?
ルナ・ジオン軍のアクセルは、そこまで有名な訳じゃないし。
ガンダム開発計画の一件で知る人ぞ知るといった感じだったが、まさかその噂がアクシズまで届いているとは……いや、でもどうだろうな。
ガンダム開発計画は連邦軍にとって重要な計画だったのは間違いない。
そうである以上、アクシズにも知られていてもおかしくはなかった。
もっとも、連邦軍にしてみれば秘密の計画であると認識してるだろうが。
とはいえ、アナハイムにガンダム開発計画を委託した以上、そこからルナ・ジオンに……そしてルナ・ジオンを通してシャドウミラーやアクシズに情報が伝わるのはおかしな話ではなかった。
「そう言って貰えるのは嬉しいよ。ともあれ、今はエンツォ派のMSを撃破……じゃなくて、四肢と頭部を破壊して動けないようにしていこう。ハマーンもそれで構わないな?」
『構わん。……お手並み拝見といこうか』
ん? あれ? 今の様子だと、俺と一緒に行動するつもりなのか?
ビットを使えるシュネー・ヴァイスと、ガーベラ・テトラ改を使う俺。
普通に考えれば、別々に行動した方が効率的だと思うんだが。
ハマーンと一緒に行動する事に、メリットがないとは言わない。
具体的には、それこそ敵と味方がよりはっきりと分かりやすくなるし、純粋に戦力が上がるので、敵を撃破――殺しはしないが――する速度も増しているのは間違いなかった。
もっとも敵を撃破するというのであれば、それこそ俺とハマーンが別行動をした方が効率はいいだろうと思えたが。
「じゃあ、俺と一緒に行動するという事でいいんだな?」
『そう思ってくれていい。アクセル・アルマーの実力を間近で見られるこの機会を最大限活用しよう』
そうして俺はハマーンと共に行動を開始する。
にしても、白いシュネー・ヴァイスと赤いガーベラ・テトラ改が一緒に行動しているのって、どうしても目立つよな。
実際……俺がハマーンと行動を開始してから数分も経たないうちに、ゲルググ4機が姿を現したのだから。
それも2機はゲルググの中でも最上位種であるゲルググJ。
1年戦争時代のジオン軍MSの中でも最高峰の性能を持つMSだ。
「ハマーン!」
『分かっている!』
俺の言葉にハマーンが即座に反応し、シュネー・ヴァイスが操るビットが動く。
また、そんなビットのフォローをするかのように、ザクマシンガンを撃っていた。
シュネー・ヴァイス最大の特徴は、やはり背中に背負った巨大なバックパック……サイコミュだろう。
エルメスで使っていたビットを使う為のバックパック。
ちなみにビットはエルメスの場合は機体内部に収納していたのを射出していたが、ビットはMSの半分程の大きさという事もあり、当然ながらシュネー・ヴァイスはビットを内蔵は出来ない。
その為、ビットはビットで別に用意をされているらしいが……一度ビットを射出してしまえば、ビットは動力炉を有している事もあり、推進剤がなくなるまではずっと操縦を続けられるらしい。
トゥッシェ・シュヴァルツの方がシュネー・ヴァイスよりも高性能なのは間違いないのだが……そちらはエンツォ派に奪われたらしい。
ともあれ、ビットが左右から挟撃するようにゲルググJに向かう。
それを見ながら、俺は前衛に出て来た通常のゲルググとの距離を詰める。
ゲルググJは狙撃型のゲルググと呼ばれる事もあるだけに、後衛に回ったのだろう。
……その判断は、決して正しいとは言えないのだが。
ゲルググJが狙撃型と呼ばれるのは間違いない。
間違いないが、実際には別に狙撃型という訳ではなく、ゲルググの性能向上型とでも呼ぶべき機体だ。
ギャンに対する高機動型ギャン……いや、ギャン・クリーガーか?
そんな訳で、決して後衛を任されるような機体でもない。
だが、この部隊のゲルググJは後衛に回った。
単純に、ゲルググJの機体性能を認識出来ていないのか、それともパイロットが射撃……もしくは狙撃が得意なのか。
その辺は分からないが、ゲルググJの持つビームマシンガンがビットに向けて連射される。
しかし、ハマーンの操縦するビットはそんなビームマシンガンの攻撃を容易に回避していた。
これでゲルググJのパイロットがもっと射撃能力が高いのなら、ビットに攻撃を命中させる事も出来ただろうが、ハマーンのニュータイプ能力によって動くビットは、ビームマシンガンの攻撃をことごとく回避していた。
「っと」
ビットとゲルググJの戦いに視線を向けていると、前衛としてこっちに近付いて来たゲルググがビームサーベルを振るってくる。
ゲルググにはビームサーベル2本を接続して使うビームナギナタという武器もあるのだが、ビームナギナタは使いこなすのに高い技量を発揮する。
……その割に、そこまで効果的な武器とも思えないんだよな。
もし俺がゲルググに乗っていても、ビームナギナタとしては使わず、このゲルググと同じくビームサーベルとして使うだろう。
もっとも、このゲルググのパイロットが俺と同じ理由でビームサーベルを使っているのか、それとも単純にビームナギナタを使う技量がないのかは俺にも分からなかったが。
そんなビームサーベルの攻撃を回避しつつ、左手をもう1機のゲルググに……最初のゲルググの攻撃を回避した隙を突こうとしていたゲルググに向け、110mm機関砲を撃つ。
コックピットに命中すれば、そのコックピットをも貫けるだけの威力を持つ110mm機関砲だったが、向こうにとってはラッキーだった事に俺は相手を殺すつもりはなく、狙ったのはゲルググの下半身。
それなりの近距離から放たれた110mm機関砲の弾丸は、容易にゲルググの下半身を破壊し……
「ほら」
最初にビームサーベルを振るってきたゲルググが、回避されたのを見て、もしくは仲間が撃たれたのを見てか、とにかく切り返すような一撃をこちらに向けて放ってくるが、その一撃を回避し、蹴りを放つ。
いや、それは蹴りと呼べる程に強力な一撃ではない。
寧ろ、ガーベラ・テトラ改の足でゲルググの身体を押したといったところか。
押されたゲルググが離れたところで、ビームマシンガンのトリガーを引き、AMBACとスラスターを使って体勢を立て直そうとするゲルググの四肢をビーム弾で破壊する。
最後に残った頭部は、特に理由がある訳ではないが右の腰のテール・バインダーの110mm機関砲で破壊した。
そうしながら、右手に持つビームマシンガンで下半身が破壊されたゲルググの両腕と頭部を破壊する。
2機のゲルググの四肢と頭部を破壊して胴体だけにした後で、ゲルググJの方はどうなったのかと視線を向けると……既に1機は胴体だけになっており、もう1機は左腕と頭部は破壊されていたが、右腕と下半身は無事だった。
……いや、たった今ビットのビームによって下半身が破壊され、右腕だけになった。
「危ないな」
頭部を失ったからといって、コックピットの映像モニタに何も映らなくなる訳ではない。
だが、それでもやはりカメラの性能は下がるので、映像モニタで周囲の把握はしにくくなるのは間違いない。
間違いないが、だからといってこっちにビームマシンガンを撃ってこなくてもいいだろうに。
いやまぁ、向こうにしてみれば俺も敵なのだから攻撃するのは当然なのかもしれないが。
そう思っていると、ビットがゲルググJの右腕を破壊するのだった。