ゲルググ4機……正確にはゲルググ2機とゲルググJ2機の四肢と頭部を破壊する事に成功すると、ちょうどそのタイミングで通信が入ってくる。
『アクセル、ナスカ級の援軍が到着したわ。現在ガルバルディβが出撃して戦いに介入してるけど、そっちはどう?』
モニクからの通信。
当然ながらこの戦場にはミノフスキー粒子が戦闘濃度で散布されている。
それでもこうして通信が届くという事は、それなりに近くにいるのだろう。
「ハマーンと合流して、エンツォ派……反乱を起こした連中のMSを無力化している。モニクが俺にこうして通信を送ってきてるって事はもう指示を出してるのかもしれないが、エンツォ派のMSパイロットは出来るだけ殺さないようにしてくれ。……ただし、それはあくまでも出来る範囲でだ。もしガルバルディβのパイロットが危ないようなら、敵を撃破しても構わない。こっちに被害がないように、生き残るのを優先してくれ」
アクシズの事を思えば、出来るだけエンツォ派のMSパイロットも殺さず、生け捕りにしたいとは思う。
だが同時に、エンツォ派のMSパイロットとルナ・ジオン軍のMSパイロットなら、俺は一切の躊躇なくルナ・ジオン軍のMSパイロットを選ぶ。
ここでエンツォ派のMSパイロットを殺せば、将来的にアクシズの戦力が落ちるのは理解しているが……それでも、どちらを選ぶのかは考えるまでもない。
『分かってるわよ。アクシズも重要だけど、ルナ・ジオン軍はそれ以上に重要だもの』
モニクも俺の意見に反対はしない。
いや、そもそもモニクはルナ・ジオンの役人が本職だ。
それもただの役人ではなく、下手な政治家よりも力を持つ役人。
だからこそ、今この場で重要視するのは何なのか……それについては十分に理解しているのだろう。
「そうか。なら、ナスカ級の指揮についてはモニクに任せる」
『私に? まぁ、アクセルがそう言うのなら構わないけど……そうなると、アクシズ艦隊、ナスカ級の後からやって来る艦隊だけど、そっちの指揮はどうするの?』
アクシズ艦隊という名称は、ちょっと分かりにくいか。
とはいえ、今までそれで通してきたのを思えば……いっそ艦隊を率いるユーリー・ハスラーの名前からとって、ユーリー艦隊とでもした方がいいのかもしれないな。
「取りあえず分かりやすいように、ユーリー艦隊とでも呼ぶ事にするか。……それで、ユーリー艦隊の方はどうすればいいんだ?」
モニクとの通信が繋がった瞬間、ハマーンのシュネー・ヴァイスとも通信を繋げていた。
ハマーンは特に何を言うでもなく、黙って俺とモニクの通信を聞いていたのだが、俺の言葉に反応する。
『ユーリー艦隊については、戦闘力を失って宇宙を漂っているMSを回収するように指示を出して欲しい』
「いいのか?」
ハマーンの指示が予想していたものと違ったこともあり、そう尋ねる。
ただでさえハマーン派の戦力はエンツォ派に比べて少ないのだから、ユーリー艦隊にも戦力としてハマーン派に味方をして貰えば、その戦力差は縮まる。
だからこそ、ハマーンもそう指示を出すのかと思っていたんだが。
『構わん。アクセル達が来てくれたお陰で、数はともかく質では既に逆転している』
ハマーンのその言葉は間違いではない。
ナスカ級の戦力は俺やモニクがいるし、ガルバルディβのパイロット達も十分に精鋭と呼ぶに相応しいだけの実力を持っているのだから。
『であれば、エンツォ派の者達であっても救える者は救いたい』
「……分かった。モニク、聞こえていたな?」
『ええ。少し……良い意味で予想外だったわね』
モニクのその言葉に、映像モニタに表示されているハマーンの顔が微妙な表情を浮かべる。
まさかこのような事を言われるとは思っていなかったのだろう。
「まぁ、味方が有能なのは喜ぶべき事だろ」
今まで色々な世界で色々な戦いをしてきたが、そういう戦いの中で最も厄介な敵は、無能な味方だった。
敵と内応してるような味方も厄介なのは間違いないが、それと同じくらい……いや、それ以上に無能な味方というのは厄介なんだよな。
分かりやすい例を出すと、オルフェンズ世界のイオクだろう。
イオクが味方にいた場合、それは頼れる味方として当てに出来るか?
俺はとてもではないが当てには出来ないと思う。
寧ろイオクを仲間にするのなら、ラスタルのような有能な存在を敵とした方がいい。
実際、イオクを部下にしていたラスタル……というか、旧セブンスターズの現状維持派は、イオクによっていらない被害を受ける事になったし。
無能な働き者は、敵にいてこそ有益な存在となる。
アクシズで現在起きている反乱も、無能な味方の存在……いや、違うか。
エンツォは反乱を起こしたが、決して無能だった訳ではない。
もし無能なら、それこそアクシズの戦力の半分以上がエンツォ派に所属するとはならなかっただろうし。
それに……もしかしたらの話だが、俺達が転移してきた時に遭遇した、アクシズから逃げ出した艦隊もエンツォの手引きがあったのかもしれないな。
エンツォの味方にはならないような者達が、ハマーンに味方をさせるよりも前にアクシズから離れるようにさせたとか、そんな感じで。
実際、俺達が来たからエンツォの反乱は失敗の方向に進んでいるが、もし俺達が明日や明後日、あるいはもう少し後でアクシズに行く事にしていたら、エンツォの反乱は成功していただろう。
もっとも、それも俺達が来た時点で成功した反乱もあっさりと鎮圧されていただろうが。
あれ? そう考えると、結局エンツォの反乱に最終的な成功の芽はないのか。
ともあれ、味方が有能な方がいいって事で。
「さて、じゃあ話も決まったし、他のエンツォ派も片付けていくか。……ん? そう言えばモニク、トゥッシェ・シュヴァルツは結局どうしたんだ?」
こうしてモニクが俺に通信を送ってきている以上、モニクが無事なのは確定している。
……そもそも、トゥッシェ・シュヴァルツは完全に錯乱状態だったんだから、そう考えればモニクに何らかの危害を加えたりといった事はまずないだろうし。
『ああ、それなら限界が来て気絶したみたいよ。……アクセル、何をしたの?』
呆れた様子でそう言うモニク。
よく見ると、ハマーンも一体俺が何をしたのか理解出来ないといった様子で俺に視線を向けていた。
『アクセル、一応聞かせて欲しいのだが……私は大丈夫なのだな?』
ハマーンがそう聞いてくる。
数秒前の理解出来ないといった様子から、自分は本当に大丈夫なのかと、不安と心配が混ざったような表情になっていた。
「あー……多分? そもそもトゥッシェ・シュヴァルツのパイロットが錯乱したのは、俺に敵意や殺意を持ったままでサイコミュを通して俺と接触したのが原因だし」
実際にはそれ以外にも相性とかがあったりするんだが、その辺については今は考えない方向で。
ともあれ、サイコミュ的な接触をしないと問題ないのは事実なのだから。
そんな俺の言葉に反応したのか、シュネー・ヴァイスの周囲を飛んでいたビットが俺から距離を取る。
いや、別にこっちにはそういうつもりはないし、それに俺に敵意を向けている訳でもないのなら、その辺の心配はしなくてもいいんだが。
そう思ったが、詳細を聞いた訳ではないにしろ、ハマーンにとっては危険だと判断したらしい。
『ふふっ』
シュネー・ヴァイスの周囲に浮かんでいたビットが不自然な動きで俺から離れるのを見たのだろう。モニクが思わずといった様子で笑いを浮かべる。
そんなモニクに自分でも分かるジト目を向け……だが、今はそのような事をやっている場合ではないと思い直す。
モニクに関するお仕置きは、今夜……は無理かもしれないが、近いうちに夜に行うとしよう。
「さて、話を戻すぞ。この戦いの件だ。……出来るだけ早く終わらせた方がいいだろうし」
『それは否定出来んな。これからのアクシズの事を思えば、頭が痛くなる』
頭痛が痛いといった様子を見せるハマーン。
ハマーンにしてみれば、今の状況から最大限に上手くいっても、アクシズの戦力は大きく減少するという事を理解しているのだろう。
特にアクシズの近くには火星が……キシリアが潜んでいる火星がある。
1年戦争時代のキシリアについて知っていれば、それこそ警戒する必要があるのは間違いないだろう。
そもそもアクシズには多種多様な派閥の者達がいた筈だし、当然ながらキシリア派の者もいた筈だろう。
……そのキシリア派はどうしてるんだ?
「ハマーン、今回の反乱でキシリア派はどうしている?」
ふと気になってそう尋ねる。
陰謀が得意なキシリアだけに、今回のエンツォの反乱において、実はその裏にキシリアがいると言われても俺は驚かない。
寧ろキシリアらしいと納得すらするだろう。
……だからといって、それで手を抜くといったことはまずないだろうが。
何をするにせよ、反乱の鎮圧についてはキシリア派だろうがなんだろうが、本気でやるつもりだが。
エンツォ派のMSパイロットの中でキシリア派だとはっきりしている者達がいたら、その時は殺してもいいが……今の状況ではそういうのは分からないしな。
『キシリア派は今回の反乱には関わっていない。……いや、あるいは個人で反乱に参加している者はいるかもしれんが、派閥としては関わっていない筈だ。現在避難している』
ハマーンは反乱にキシリア派は関わっていないと断言しているものの、正直なところそれもどこまで本気か分からないというのが正直なところだろう。
実際、今回の一件においてエンツォの裏にキシリア派がいたとしても、俺は驚かない。
いや、驚かないどころか、寧ろ納得すらするだろう。
裏でエンツォを操りつつ、自分は関係ありませんといった顔で……いや、待て。エンツォの反乱によってアクシズの戦力を減らすというのは分かる。
だが、キシリアがその程度で納得するか?
俺が知ってるキシリアなら……陰謀を得意とするキシリアなら、今回の反乱でアクシズに戦力を減らすというだけではなく、もっと何かを企んでいてもおかしくはないと思う。
問題なのは、一体何を企んでいるのかが分からない事だが。
そう思った俺の脳裏を、アクシズの近くに転移してきた時に近くを通った艦隊……アクシズから逃げ出した艦隊について思い出す。
もしかして、あれか?
いや、だが……アクシズにキシリア派がいてこそ、アクシズ内部の情報を入手出来ていた筈だ。
アクシズというこの辺りにおいて大きな戦力を有する存在についての情報は、キシリアにとっても大きな意味を持つ筈だ。
そんな疑問を抱くも、もし俺の予想が正しかった場合、キシリア派全員があの艦隊にいた訳ではないのかもしれないと思い直す。
勿論、常々自分をキシリア派だと公言していた者、あるいは周囲からそのように見える者がいた場合、そのような者達はあの艦隊に入っていてもおかしくはない。
だがそれはつまり、表向きはキシリア派だと思われていないキシリア派……いわゆる、忍者の草とかそんな感じの存在がアクシズに残っている可能性はあるだろう。
勿論これはあくまでも俺の予想……いや、妄想でしかない。
しかし、キシリアの存在を考えると今はどうしようもないのも事実。
それに今ここでそれを言っても、もうどうしようもない。
既にあの艦隊とすれ違ってから結構な時間が経っている。
もし今からあの艦隊を追っても、追いつくのは不可能だろう。
であれば、今ここであの艦隊の件、そして俺の妄想をハマーンに言うよりも今はこの反乱の鎮圧を急いだ方がいい。
向こうが一体何をどう思っているのかは分からないが、こちらの行動を考えると迂闊な真似はしない方がいいのは間違いないのだから。
「そうか。なら、その辺についてはこの反乱を鎮圧してから話すとしよう。……そんな訳で、まずはこの反乱の鎮圧を急ぐ必要があるんだが……この反乱を起こしたエンツォはどこにいるのか分かるか?」
『恐らくは旗艦となるザンジバル級に乗っていると思われるが、今のところ表に出てくる様子はない』
「だとすれば、まずはエンツォを見つけるところから始める必要があるのか。……どこか心当たりは?」
『あるにはあるが、私が心当たりがあると思う場所は、当然ながら向こうも知っているだろう。だとすれば、そこにいるとは思えん』
「……言われてみればそうか」
ハマーンもエンツォも、1年戦争が終わってからこのアクシズにいたのだ。
数年もの間この場所にいたのだから、このアクシズにどのような場所があるのかはお互いに相応に理解しているだろう。
「とはいえ、それでもエンツォを見つけないといけない以上、行動するしかない。……ニュータイプの勘に期待したいところだが、どうだ?」
俺の言葉に、映像モニタに表示されたハマーンは微妙な表情を浮かべるのだった。