ハマーンとナタリーの2人と密会――という表現はどうかと思うが――した翌日、俺とモニクはナタリーに案内されてアクシズの中にある格納庫にやって来ていた。
そこにあったのは、緑色のMS。
ただ、何だか作りがちょっと普通のMSとは違うような……
「モニク、あのMSどう思う?」
「MSではあるんでしょうけど……それに右肩にビーム砲を装備している事からも、それは間違いないと思うわ。けど……何だか違和感があるわね」
「正解です」
俺とモニクの会話のそう割り込んで来たのは、ナタリーだった。
俺達をここに案内したナタリーだったが、どこか嬉しそうな様子を見せているのが気になる。
「正解? 違和感があるというのがか?」
「はい。あのMSはガザB。作業用MSから発展させたMSです。ちなみにその作業用のMSはオッゴから発展したMSなんですよ」
「は?」
ナタリーの口から出たのは、俺にとっても完全に予想外のものだった。
まさか、オッゴから進化したMSがあって、そこから更に進化してガザBとやらになっているとは……
「とはいえ、このガザBも結局のところテスト機でしかないですしね。本格的に戦闘を可能とするにはこの後……ガザCという機体での事になると思います」
「……てっきりMS関連の技術はまだそこまで進んでいないとばかり思ってたんだが、予想していたよりは発展してたようだな」
昨夜聞いた、グレミー派によって奪われたMSのデータ。
恐らくその中にも、このガザBが……そして完全に戦闘用に開発されたガザCとやらのデータもあったのだろう。
「このガザBとガザCは、戦力的にはどんな感じなんだ?」
「……見せておいてこう言うのはどうかと思いますが、戦力的には大した事はありません。勿論、攻撃力という点では動力炉と直結してるビーム兵器を持っているので、かなり高いですけど。ただ、接近されると……」
「ああ、そういうタイプのMSか」
言いにくそうにしているナタリーの言葉に、ガザBやガザCについて、どういう感じのMSなのかをすぐに理解出来てしまう。
つまり、最初から近接攻撃を行うのを考えておらず、遠距離からの攻撃に特化したMSなのだろう。
ある意味で、MSの基本に則ったコンセプトであるのは間違いない。
MSにおける戦闘における戦闘というのは、基本的に射撃武器での戦いがメインとなる。
勿論、中には近接攻撃が行われる事もあるが、その割合は射撃による戦闘で決着がつくまでの間と比べると圧倒的に低い。
だからこそ、こうして射撃戦闘に特化した戦闘用のMSというのは、そう悪くはない。
ましてや、ナタリーの言葉を信じれば射撃武器は動力炉と直結されており、その威力は非常に高いらしいし。
「ええ。……ガザCは一応ビームサーベルを装備はしてますが、それでもやはり近接戦闘は向いていません。それに……エンツォ大佐の件もあって、戦力が大きく減ってしまいましたので、ガザCが余計に重要なMSになりそうです」
こうして考えると、エンツォは本当に余計な事をしたよな。
それでもエンツォの部下はその多くが生け捕りにされている。
そういう意味では戦力が極端に低下した訳ではないが……それでもアクシズの上層部としては、反乱に協力した兵士達を完全に信用出来る筈もない。
「火星が動かない事を祈るのみだな。……月を通して、無人機の派遣を考えてみた方がいいかもしれないな」
「そうね。ただ……エンツォの件を見れば分かるように、アクシズにいる人達全員が完全に信じられるという訳でもないし」
量産型Wであれば、エンツォのような者達が何かを企んでも対処するのは容易だろう。
だが、コバッタは……一応戦闘力は持っているものの、決してそこまで強力という訳ではない。
それこそ軍人が数人いればコバッタを鹵獲出来てもおかしくはない。
かといって、コバッタに現状よりも重装備とするのは……それはそれで色々と疑問なのも事実。
コバッタは何だかんだと今の状況が一番効率がいいのだから。
「無人機、ですか。月でも使われていると聞きますが」
ナタリーが少し興味深そうに聞いてくる。
ナタリーにとっても、無人機……それも戦闘用ではなく、雑用とかそういうのの為に存在する無人機というのは、それだけ興味深い存在なのだろう。
「そうだな。本来なら人がやる多くの雑用をコバッタがやってるから、そういう面で節約には適している。ちなみに月だけじゃなくて、地球のハワイでも普通に使われているぞ」
「……雑用をやってくれる存在というのは本当に羨ましいと思います」
しみじみと、本当にしみじみと、心の底からそう言うナタリー。
どうやらアクシズにとって雑用に回す人員というのは、それだけ少ない方がいいのだろう。
また、量産型W程ではないにしろ、ある程度の攻撃力も持っているのでアクシズの治安を守るという意味でも、大きな意味を持つかもしれない。
エンツォの反乱の件があり、どちらにせよこのアクシズにおいても現在の治安は決して良いとは言えないのだから。
「まぁ、その辺についてはモニクと話してくれ。それで話が決まれば、俺としては何も異論はない」
コバッタはルナ・ジオンの所有物ではなく、あくまでもシャドウミラーの所有物だ。
だが……所有物であるのは間違いないが、貴重品という訳ではない。
俺の認識では……そうだな、ティッシュを使うのと同じような感覚で使えるのがコバッタだ。
勿論これはあくまでも比喩であり、実際に製造するのにそれなりのコストが使われているのだが。
ただ、資源とかそういうのに困っていないシャドウミラーにしてみれば、やはりそのくらいの認識で間違いないのは事実なのだが。
だからこそ、ルナ・ジオンの判断でコバッタをアクシズに派遣しても構わないとは思う。
……これが量産型Wとなると、また話が違ってくるのだが。
コスト的な意味でもそうだし、単純に能力的な意味でも量産型Wはコバッタとは違う。
独自の判断を行い、ガンドといった魔術を使い、MSの操縦技術もエース級。
頭部を隠すヘルメットの件でもかなり目立ってしまうのは間違いない。
そのように、色々な意味でもアクシズに大きな衝撃を与えるのは間違いないだろう。
コバッタの場合は外見が人型から大きく離れているのだが、量産型Wの場合は下手に人の外見に近いので、その事を気にする者も多いだろう。
とはいえ、それはあくまでも最初のうちだけの話なのだが。
接する機会が多くなれば、いずれ量産型Wの存在にも普通に慣れるのだから。
それはクレイドルを始めとした月面都市であったり、ペズンや……今はまだ改修中だが茨の園でもそうであったり、そして地球にあるハワイでもそうであったりする。
勿論、中にはどうしても量産型Wのような存在に慣れないと言い、ルナ・ジオンの領土から出ていくような者もいるのは事実だが。
「モニクさん、相談に乗ってくれます?」
「そうね。アクシズの事を思えば……あら?」
ナタリーと話していたモニクは、ふととある方向を見てそんな声を上げる。
何だ? と思ってそちらに視線を向けると、そこには従者らしい女……というよりも、ハマーンよりも数歳年下なのだろう女を引き連れて、こちらにやって来るハマーンの姿があった。
「ハマーン? イリアまで……一体どうしたのかしら?」
ナタリーがハマーンとそのお付きの少女……イリアを見て、そう不思議そうに言う。
そのハマーンは、俺達の前までやってくると俺に視線を向け、申し訳なさそうに言う。
「アクセル、すまないが……ちょっと来てくれないだろうか」
「俺か?」
この場合、てっきり用件があるのはナタリーか……あるいはルナ・ジオンとの交渉という意味でモニクかと思っていたんだが。
まさか、ここで俺に声が掛けられるというのは予想外だった。
いやまぁ、だからといって断るかと言えばそういう訳でもないんだが。
「分かった。俺は別に構わない。モニク、ナタリー、その辺は問題ないよな?」
「え? ええ、まぁ……私の方は問題ありませんけど……ハマーン、アクセル中尉に一体どんな用件があるの?」
「イリアが少し興味を持ってな」
その言葉に、ナタリーの視線が……いや、ナタリーだけではなく俺やモニクの視線もイリアに向けられる。
「初めまして、イリア・パゾムといいます。実はハマーン様からアクセル中尉の事を聞いて、是非とも会ってみたいと思ってお願いしたんです」
「……ハマーン?」
「すまないな。だが、この子は鋭い。その鋭いイリアがアクセルに会いたいと言うのだから、私としてはそれに否とは言えんよ」
いや、それはそれでどうなんだ?
そう思ったものの、今のこの状況で俺がどうこう言っても仕方がない。
それに……俺に興味があるというのは、別に異性に対する好意的なものでないのは、俺を見てくるイリアの目を見れば明らかだった。
とはいえ、だからといって別に俺に敵意を抱いている訳ではないのも事実。
興味があるというのは、嘘でも何でもない事実なのだろう。
問題なのは、その興味というのが具体的に何なのか分からないといったところだろうが。
ともあれ、俺に対する敵意がないのは間違いない以上、俺に用事があるというのは別に構わなかった。
「俺は別に構わないけど?」
「アクセル中尉……あまりハマーンを甘やかさないで欲しいのですが」
俺がイリアとハマーンの提案を受け入れると、ナタリーがそう言ってくる。
別に甘やかしているつもりはないんだが、ナタリーにしてみればそのように思えてしまうらしい。
「別にそういうつもりはないんだけどな。ただ、今どうしても忙しくて手を離せないって訳でもないだろう?」
ガザ系のMSの見学という点ではそれなりに大きな意味を持つのかもしれないが、それでも俺にとってはイリアやハマーンとの話の方が重要なように思える。
……それを言うと、一体どういうつもりなのかと不満を抱かれる可能性もあったが。
ともあれ、最終的にはナタリーは俺がイリアとハマーンと話をするのを認めたのだった。
「さて、それで俺に話って何だ?」
格納庫から少し離れた場所にある部屋。
その部屋に、俺とハマーン、イリアの3人がいた。
勿論、ハマーンが……これからアクシズを率いるハマーンがいる以上、防犯カメラのある部屋だ。
これについては仕方がない……もしくは当然だろうという事で、俺も受け入れていた。
寧ろ防犯カメラのない部屋で色々と話をしていたら、後々その時に何かがあったとか、そういう風に妙な勘ぐりをする奴が出て来ないとも限らないので、そういう意味でも俺としては防犯カメラのある部屋の方が助かる。
「実はイリアに触って欲しい」
「……言葉を選べよ?」
いやまぁ、ハマーンが何を言いたいのかは分かる。
分かるんだが、今の言葉を何も知らない者が聞いたら、一体どのように反応するのか……ハマーンは分かっているのか?
「何?」
どうやらハマーンは自分の言葉が一体どのような内容を意味していたのか、全く分かっていなかったらしい。
俺に一体何を言われたのかといった様子で、不思議そうにこちらを見てくる。
「まぁ、いい。話は分かった。それで、そういう提案をしてくるという事は、イリアはニュータイプでいいのか?」
ニュータイプが俺に触れると、ニュータイプ能力が強化される。
……ただ、これも絶対という訳ではない。
実際、アムロは俺に触れた事によってトラウマを抱いてしまったし。
その為、これはある意味で運試しに近い。
あ、でもそうか。
もしこれで俺に対するトラウマを抱くようになっても、俺はもう数日もすればアクシズから消える。
勿論、これ以後にアクシズに来ないという訳でもないが、取りあえず喫緊の課題という意味でトラウマになっても俺がすぐに帰るので、そこまで厳しいものではないのか。
アムロの時は、俺にトラウマを抱いた上で俺と一緒にホワイトベースに乗って移動してたので、今回の件とは大きく違うんだろうが。
ただ、そうしてトラウマを抱いた俺と一緒に行動していたので、完全にではないにしろ、俺に対するトラウマは消えたのだろうが。
そういう意味では、もしトラウマを抱いても解決出来ない訳ではない。
……もっとも、だからといって好んでトラウマを抱きたいとは思えないだろうが。
「はい、私にはニュータイプ能力があります。けど、今のままではハマーン様のお役に立つのは難しい。……なので、ニュータイプ能力が強化されるのなら、試してみたいと思っています」
そう言うイリア。
ハマーンから聞いた話によると、まだ12歳だという話だったが……その年齢で既にここまで覚悟が決まってるのは素直に凄いと思う。
それだけハマーンのカリスマ性があるのか。
ハマーンに視線を向けると、心配そうにイリアを見ながらも無言で頷く。
この様子を見ると、恐らくハマーンもイリアを止めようとはしたのだろう。
だが、それでも押し切られたといったところか。
「分かった。なら……」
イリアの覚悟を見て見ぬ振りも出来ず、俺は握手を求めるように手を出す。
するとイリアは少し緊張した様子で……しかし、一瞬の躊躇もなく俺の手を握るのだった。