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4280話
俺の視線の先では、ドラゴンがじっとこちらを見ている。
そして俺もまた、白炎を手にドラゴン……リューキュウと呼ばれた女を見ている。
奇妙な沈黙が周囲を満たす。
ただ、俺もリューキュウも、どちらも動くことはない。
双方共に、ここで先に動くと相手を刺激してしまうかもしれないと、そう思っているのだろう。
それでもこのままお互いに沈黙を続けていては埒が明かないので、いっそリューキュウを制圧してから話を聞くか?
そう思ったところで、不意に先程吹き飛んだ巨大な女……マウントレディとやらが口を開く。
「えっと……あれ? リューキュウ先輩、この人誰ですか? というか、何でここに一般人が……え? ヴィラン?」
「……違う、と思うわ。そうよね?」
ある意味、マウントレディの言葉が俺とリューキュウの間にあった緊張を吹き飛ばす。
それでもリューキュウが俺から視線を外さず、決して油断をしていないのは、俺がそのヴィランとやらの可能性がまだあると思っているからだろう。
「そうだな。俺にはそのヴィランという自覚はない。色々と聞かせてくれると助かるんだが」
ざっと……あくまでも、本当にざっと考えた限りだと、この2人はヴィランという相手と敵対しているらしい。
ドラゴンがいるという時点で何らかの原作の世界だろうとは思っていたものの、問題なのはこの世界が具体的にどのような世界なのか全く理解出来ないという事だ。
今のところ分かっているのは、巨大な女とドラゴンという存在がいる世界……つまり、ガンダムのような人型機動兵器のあるような世界じゃないといったところか。
どちらかというと、ペルソナ世界的な……いや、ドラゴンがいると考えると、ネギま世界的な感じなのか?
ともあれ、見た感じドラゴンの方もすぐに襲い掛かってくるような様子はないので、白炎を消す。
すると、それによって俺が戦闘態勢を解除したと判断したのだろう。
リューキュウの身体から僅かに力が抜けたのが見て分かった。
「それは構わないけど、こちらとしても色々と聞かせてくれると助かるわ。見たところ学生……よね? 雄英の生徒……にしてはちょっと若いかしら?」
学生、雄英……そして10代半ばの俺の外見がちょっと若い。
リューキュウのこの言葉から分かるのは、雄英というのが恐らくは高校なのだろうという事。
そして、その雄英という高校の生徒ならこのような場所にいてもおかしくはない……いや、完全にそのように納得してる訳ではなく、この場所に来るような存在として思い浮かぶのが、雄英の生徒といったところか?
リューキュウにしてみれば、それでも普通ならこのような場所には来ないと、そのように言ってるように思えたが。
何だか、今までの世界と色々と違いすぎて困るな。
敢えてこの状況と似てるような展開を挙げるとなると……ペルソナ世界か?
あの世界では転移して即座に影時間に巻き込まれて、そこで襲われていたゆかりと遭遇し、成り行きでシャドウを倒したりしたし。
もしくは、Fate世界?
もっとも、Fate世界の時は当初記憶喪失だったし……そう考えれば、今の方がまだマシなのか。
「どうなのかしら?」
リューキュウに返事を促される。
これは一体どういう風に返事をしたらいいのか。
いっそ異世界から来たと知らせる?
ちょっと予想外にも予想外の展開である以上、俺にもこの状況で一体どうしたらいいのかすぐに思いつかない。
「リューキュウ先輩、もしかして個性事故か何かでここに来たって可能性はないですか?」
Mt.レディの言葉に、リューキュウは眉を顰める。
ドラゴンなのにその表情がしっかりと分かるというのは、それはそれで珍しいな。
そして同時に、再び理解が出来ない単語が出て来た。
個性。
いや、勿論その言葉の意味は分かる。
個性的とか、そういう風に使われることが多い。
より正確には、他の人と違う特徴的な部分とか。
だが、この話の流れで一体何個性という単語が出てくるのか、俺には全く分からなかった。
ましてや……
「個性事故?」
マウントレディの言葉に疑問を抱きつつ、そう呟く。
だが、それが失策だったのだろう。
俺の呟きが聞こえたのだろうリューキュウが、訝しげに俺を見てドラゴンの口を開く。
「個性事故を知らないとでも? 小学校の時には習う筈よ?」
高校があるので予想はしていたが、どうやら小学校もこの世界には当然のようにあるらしい。
ましてや、ドラゴンのリューキュウはともかく、Mt.レディは巨人とはいえ、人間の女だ。
髪の色とかは黒でもないので、それを思えば日本人ではないのかもしれないが……ただ、リューキュウもMt.レディも、揃って口にしている言葉は日本語だった。
「忘れたんじゃないですか? そもそも、個性事故って基本的に転移系個性とかの人が多くなるらしいですし、その転移系個性がかなりレアな個性ですし」
……ああ、なるほど。
この話からすると、個性というのはどうやら特殊能力とか超能力とか、そういうのについて言ってるらしい。
それに……転移系個性というMt.レディの言葉は、実際にはそう間違ってはいない。
影のゲートという魔法を使える俺にしてみれば、転移系個性というのはそんなに間違ってはいないのだろう。
勿論、これは今までの話を聞いた上で、俺の予想が当たっていたらの話だが。
「そうなの?」
Mt.レディの言葉に、リューキュウがそう聞いてくる。
とはいえ……さて、本当にどうしたものかな。
あまりにも予想外に予想外が重なった結果だけに、俺にとっては完全に理解出来ない状況になっている。
いっそ殺す……というのは色々な意味で問題だから論外として、倒してからこの世界の常識について聞き出す?
いや、見た感じ今のところはリューキュウもMt.レディもこちらを訝しんではいるものの、別に敵対しているといった訳ではない。
そう考えれば、わざわざ敵対行為をするのはどうかと思う。
なら……リューキュウと召喚の契約を結ぶ?
いや、まさかな。
グリフィンドラゴンのグリの件があるとはいえ、それでも俺と召喚の契約を結ぶというのはかなり分の悪い賭けだ。
どこぞの誰かさんのように、分の悪い賭けは嫌いではないといったような者ではない限り、そう簡単に受け入れたりはしないだろう。
……そもそもの話、召喚の契約を結んだからどうだって話だし。
召喚の契約は、別に俺に絶対服従を誓わせるとか、そういう契約ではない。
俺の血を使って強化される代わりに、俺が必要な時に召喚して戦って貰うといった契約だ。
そういう意味では、ここで召喚の契約を結んだところで何の意味もないのは事実。
となると……鵬法璽? いや、けど今の状況で鵬法璽を使うのは、それはそれで不味い。
「どうしたの? 急に黙って……どういう理由でここに来たのかは分からないけど、それでも話をしてくれなくちゃ分からないわよ? それとも……本当にヴィランなのかしら?」
だから、そのヴィランってのは何だ?
あるいは、BETAやシャドウのように、この世界における敵だったりするのか?
いや、でも今の俺の外見は10代半ばの男の姿だ。
それこそ、BETAとかとは大きく違う。
一緒にされるのはさすがに困る。
あるいはヴィランというのがこの世界の敵対者だとして、外見は人型なのかもしれないな。
「……黙っていては分からないのだけど? 一応言っておくけど、今はここに私とマウントレディの2人しかいないけど、外には私のヒーロー事務所のサイドキックが何人かいたりするから、逃げられるとは思わない事ね」
また理解出来ない単語が出て来た。
いや、でもそこまでおかしいって訳でもないのか?
今のリューキュウの言葉で出て来た新たな単語は『ヒーロー』『ヒーロー事務所』『サイドキック』の3つ。
このうちのヒーローというのは……何だ? 英雄とかそんな感じでの意味のヒーローか? けど、ヒーロー事務所となると、もしかしてアイドル事務所とかそういうのと同じ感じで、つまりヒーローというのはアイドル?
というか、リューキュウが自分のヒーロー事務所と口にしたのを考えると、リューキュウにも……そう、例えば人権とかそういうのがあるのか? ドラゴンなのに?
サイドキックというのは、何人かいると表現されていた事を考えると、事務所の人員という認識で間違ってないと思うが。
「いつまで黙っているのかしら? これ以上非協力的な態度を取るのなら、こちらとしても相応の対応を取るしかないんだけど、それでもいいのかしら? 一応言っておくけど、私はそれなりに実力に自信があるし、Mt.レディもヒーローデビューしたばかりとはいえ、実力派なのは間違いないわよ。……ここならMt.レディも実力を発揮出来るでしょうし」
「ちょっ、リューキュウ先輩!?」
リューキュウの言葉にマウントレディが不満そうに叫ぶ。
この時、俺の頭の中には幾つかの選択肢があった。
まず1つ。リューキュウとマウントレディを倒して、この場から逃げる。
2つ。倒したりはせず、そのままこの場から逃げる。
3つ。倒した上でこの世界の情報を聞く。
……個人的にはこの世界の情報を集めるという意味でも3つめの選択肢がいいのではないかと思ったのだが、話を聞いた感じではこの2人……1人と1匹? とにかくリューキュウとマウントレディはどうやらヒーローという立場である以上、敵対するのは避けた方がいい。
これで実はヒーローというのが犯罪者の代名詞だったりしたら話は別だったんだが……まさか、そういうのはないだろうし。
そんな訳で、最終的に俺が選んだ選択肢は4つめ……
「俺はアクセル・アルマー」
名乗ったので、リューキュウの中にあった警戒心が若干……本当に若干だが、減った。
とはいえ、ここで俺が何を言うのかで、すぐに警戒心が復活する程度ではあるのだろうが。
「この世界とは別の、異世界、並行世界、そんな場所からこの世界にやってきた」
『……』
しん、と。
俺の言葉に、リューキュウとマウントレディは黙り込む。
それでもやがて、リューキュウが口を開く。
「冗談もその辺にしておいてくれる? 私達は貴方の遊びに付き合ってる暇はないの」
「厨二病って奴ですよね。私が中学生の時にもそういう人がいたわね。右手の封印が解けるとか何とか」
リューキュウに続いてマウントレディがそう言うと、俺も自分がどんな風に見られているのかに気が付く。
とはいえ、もうここまで話した以上、実は冗談でしたとか、そういう風に言う事も出来ない。
もしそのような事を口にした場合、それこそ俺はそれなら誰なのか、どこから来たのかといったように言われる可能性は十分にあるのだから。
「お前達が何を言いたいのかは分かったが、だからといって俺が口にした内容が嘘という訳でもない」
そう言いつつも、どう説明すればいいのか迷う。
これが普通の……魔法とかそういうのがない世界なら、それこそ俺の魔法を見せるなり、炎獣を見せるなりすれば、俺の言葉が嘘ではない……かどうかはともかく、普通ではないというのを示す事が出来る。
だが、個性という名の特殊能力がこの世界には普通に存在している以上、俺が魔法とかを見せてもそれが個性だと言われれば、反論するのは難しい。
いや、これ……マジでどうすれば?
最終手段、本当の意味での最終手段として、ニーズヘッグを見せる。あるいは……いっそ、ホワイトスターに連れていくといった手段もない訳ではないが、ゲートを迂闊に設置するのは色々な意味で問題があるのも事実。
「あのねぇ……異世界とか並行世界とか、それをどう信じろと言うの?」
「そうだな。恐らく信じて貰えないだろうとは思うけど……例えば異世界の中には魔法という存在が普通にあったりする。こんな風にな」
パチンと指を鳴らすと俺の右腕が白炎となり、そこから犬や猫、鳥といった炎獣が生み出される。
一応、相手を警戒させないように、獅子だったり虎だったり熊だったり、あるいはドラゴンだったりワイバーンだったりといったような見るからに戦闘用といった炎獣を出さないように注意はしている。
……もっとも、この炎獣はあくまでも外見はこういう風にしているだけであって、戦えば普通に強いのだが。
ただ、この場合で重要なのはやはり外見なのだ。
炎獣の能力はリューキュウやマウントレディにとって分からない以上、攻撃的な能力ではないという風に見せ掛けるというのが大きい。
そして……そんな俺の考えは見事に当たる。
「きゃああああああっ、可愛いじゃない!」
シュルシュルシュル……という擬音が相応しい様子で巨人から普通の人間サイズに変わったマウントレディが炎獣の犬や猫を見て叫ぶ。
それを見た俺に出来るのは、『え?』と理解出来ないといった声を上げることだけだ。
えっと……あれ? あ、いや。ちょっと待て、つまり、マウントレディの持つ個性が巨大化とかそういう感じの能力だったりするのか?
そんな風に思っていると……
「やれやれね」
聞こえてきたその声に視線を向けると……そこには、ドラゴンの姿はなく1人の女の姿があった。