個性の有無は、足の小指の関節で分かるらしい。
もう少し詳細について聞いてみたところ、リューキュウもそこまで詳しい訳ではないと言いつつ、説明を続ける。
「昔、個性が発現する人の研究がされたんだけど、その結果が足の小指に関節があるかないか。さっきも言ったけど、関節がなければ個性を使える。そして関節があれば個性が使えない。つまり、個性のある人の方が人としては新しい型である……だったかしら?」
説明を終えた後、確認を求めるようにリューキュウの視線がマウントレディに向けられるものの、そのマウントレディは少し困った様子で口を開く。
「そんな事を聞かれても、私にはよく分かりませんよ。ヒーロー科の授業でそういうのを聞いた覚えはありますが」
「……ヒーロー科?」
「ええ、そうよ。ああ、何かヒーロー科を知らないとか聞くと、本当に厨二病とかじゃなくて異世界から来たんじゃないかって気がするわね」
「だからそう言ってるだろうに。……それで、ヒーロー科ってのは?」
「ふふん、お姉さんが教えてあげましょう」
小指の関節の話はどこにいった?
そう思わないでもなかったが、実際にヒーロー科という名称が気になるのも事実。
リューキュウも今は俺がそちらに興味を抱いているのに気が付いているのか、マウントレディの言葉を止める様子はない。
「はいはい、じゃあ教えてくれお姉さん」
「……意外とこういうのも悪くないわね。ん、コホン。まぁ、少し勿体ぶったけど、簡単に言えばヒーローになる為の高校の学科よ」
「こうこうのがっか」
予想外の言葉に、思わずそう返す。
いや、それにしても……高校の学科?
それはつまり、普通科とか、建築科とか、電気情報科とか、水産科とか、農業科とか、商業科とか、そんな感じでの学科だろう。
何と言うか……つくづく、ヒーローというのがこの世界においては一般的な存在なのだろうと、理解出来る。
……で、ヒーローってのは、何をする存在なんだ?
リューキュウやマウントレディの様子を見ると、治安維持だったり、敵と戦ったりするのか?
あ、最初にリューキュウやマウントレディが、ヴィランがどうとか言ってたけど、それか?
「そうよ。それで基本的には2年か3年にヒーローの仮免許の試験を受けて、ヒーローとして訓練していくって感じね。ああ、ちなみに基本的にと言ったのは、雄英とか士傑とかは1年で仮免試験を受けたりする事もあるからね」
「その話を聞く限りだと、つまり雄英と士傑というのがエリート校的な存在なのか」
「そうよ。東の雄英、西の士傑って感じで有名よ」
「お前達もそのどっちかを出てるのか?」
それは、特に何か意味があって聞いた訳ではない。
ただ、そこまで有名な高校なら、この2人もそのどちらかを卒業したのではないかと、そう思っての事だ。
この世界に来て初めて会った2人。
今までの経験からすると、この2人は間違いなくこの世界の原作キャラだろう。
だからこそ、そういうエリート校を出たのではないかと思ったのだが……
そっと、マウントレディは視線を逸らす。
それは明らかに自分は雄英や士傑を卒業した訳ではないと、態度で示していた。
リューキュウはと視線を向ける。
するとリューキュウは苦笑を浮かべつつ首を横に振る。
「残念だけど、私もマウントレディも雄英も士傑も出ていないわ。もっとも雄英にしろ士傑にしろ、競争率300倍の超難関校だもの。そう簡単に入学出来るような高校じゃないけどね」
「300倍……マジか」
何だそのもの凄い倍率は。
とてもじゃないが高校の倍率じゃないぞ。
けど……ただ、そうだな。
そういうエリート校があるって事は、この世界の原作の舞台はその雄英か士傑のどちらかかもしれないな。
何となく……本当に何となくだが、その場合は雄英の方がそれっぽいけど。
とはいえ、それは何らかの理由があってのものではない。
ただ単純に名前の響き的にそれっぽいという感じがするだけだ。
後は……そうだな、東の雄英、西の士傑と言われているくらいなのだから、関東と関西の違いで、そうなると関東の方が原作の舞台としてはそれらしい。
ただ……うーん、300倍のエリート校が舞台って事は、この世界の原作主人公はエリートとかの可能性が高いのか。
そうなると、あまり俺と相性は良くないかもしれないな。
勿論、これはあくまでも予想によるもので、実は雄英は勿論、士傑も原作の舞台ではない可能性もあるのだが。
「それにしても……ヒーローの仮免試験か」
元々の話題はそれだった。
しかし、ヒーローの仮免……それはつまり、この世界においてヒーローという存在が前提になっているということを意味していた。
というか、その時点で俺のヒーローの認識と微妙に違うよな。
やっぱりこの世界のヒーローというのは、自警団的な存在か何かなのか?
「そういう事ね。それで……そうそう、話を戻すけど。足の小指の関節を調べれば、個性を持っているかどうか調べられるって訳ね」
かなり話が戻ったな。
とはいえ、実際俺にとってはその話もまた重要なのは間違いない。
ないのだが……
「つまり、レントゲンとかそういうのを使うんだよな?」
「ええ、その通りよ。いえ、他にも色々と方法はあるでしょうけど、一番手っ取り早いのがレントゲンなのは間違いないわ。けど、それがどうしたの?」
「簡単に言えば、俺の身体がレントゲンとかに写るかどうかは微妙なところだ」
「……何でよ?」
マウントレディが不思議そうにそう聞いてくる。
リューキュウもそれは同様だ。
さて、どうするか。
普段ならその世界に来たばかりで俺の正体とかについて話したりはしないのだが、この世界は色々な意味で特殊な世界だ。
それに……少し話した限りでは、リューキュウもマウントレディも善良なように思える。
いやまぁ、ヒーローなんてのをやってるんだから、それも当然なのかもしれないが。
ましてや、恐らくはこの世界の原作に出てくる人物。
見た感じというか、感覚的には原作主人公といった訳ではないが。
とはいえこの感覚は必ずしも当たるって訳でもないしな。
実際オルフェンズ世界においてオルガと三日月のどっちが主人公なのか最初は分からなかったし。
ただ、それでも……ヒーローがどうとかいう世界となると、やはり主人公は男のような気がするんだよな。
そう思いつつ、俺は口を開く。
「簡単だ。俺は魔法を使えると言っただろう? そして俺の世界は色々な世界と行き来出来るようになっている。その魔法もネギま世界という、魔法のある世界で習得したんだが、その時に色々とあって人間ではなくなった訳だ」
「へぇ……そうなんだ」
「そういう事もあるのね」
「……あれ?」
予想外にあっさりとした返答に驚く。
普通なら人間ではないと言えば、場合によっては嫌悪感を剥き出しにしてもおかしくはない。
だが、俺がそうして驚いていると、リューキュウが口を開く。
「個性の中にはマウントレディのように巨大化だったり、私のようにドラゴンになったりというのもあるのよ。他にもいわゆる異形系と呼ばれるような個性の持ち主もいるわね」
「つまり、俺がその異形系だと?」
「……うーん、どうなのかしら。異形系というのは一目見ただけで分かるくらいに違うのが普通なんだけど、アクセルの場合はこうして見た感じでは普通の人にしか見えないし。こういうのも異形系と呼ぶのかしら。マウントレディはどう思う?」
「私から見ると、普通にしか見えないけど。……ただ、異形系は都会ならともかく、田舎だと差別が厳しいって話を聞いた事があるから、そういう意味では変形型で良かったと思うけど」
「マウントレディ」
マウントレディの言葉に、リューキュウが厳しい様子でそう言う。
どうやら、今のマウントレディの言葉には一種のタブーに等しい何かがあったらしい。
それは恐らく異形系の個性を持つ者は田舎だと差別が激しいと言われている件だろう。
まぁ、ヒーローとかそういうのはともかく、人というのは外見が違う相手というのは差別したがる生き物だ。
そういう意味では、特に田舎のような場所では異形系を差別するといった事が起きても仕方がないのだろう。
「すいません。とにかく、病院とかでは異形系の人とかもしっかりと調べて貰えたりするから、アクセルでも問題ないと思うけど」
「……どうだろうな」
確かに異形系の個性でも、病院では普通に調べて貰えてたりはするのだろう。
それこそレントゲンとかそういうのも使えるのかもしれない。
だが……俺の混沌精霊というのは、個性でも何でもない。
それこそ俺の身体そのものが魔力で出来ている感じだ。
そんな中でレントゲンをして問題はないのか。
いや、問題らしい問題は特にないだろう。
ただ、レントゲンで俺の身体の中を見る事が出来ないという意味では、問題あるかもしれないが。
……ああ、でもそうなればそうなったで、俺が異世界から来たというのを信じやすくなったりするのか?
「もしレントゲンで俺の身体の中を調べる事が出来なかったら、それは俺が異世界から来た存在だという証明になるか?」
「うーん……難しいと思うわ」
「私もリューキュウ先輩と同じく、それはそれで難しいと思うわ」
そんな2人の言葉に、ならどうするべきかとも考える。
「何だか面倒になってきたな」
「あのねぇ……まだアクセルがヴィランじゃないって決まった訳じゃないのよ? こうして話していて、私から見たら特に問題ないとは思うけど……ただ、それでも断言をするのは難しいし」
ヴィランってのは、敵……つまり、犯罪者とかそういう連中の事らしい。
それは俺にも分かったが、それが俺だと言われると微妙なところだ。
いやまぁ、俺もそうだが、シャドウミラーも正義の味方なのかと言われれば、決してそんな事はなかったりするのだが。
シャドウミラーも今は国だ。
国である以上、当然だが決して良いことだけでどうにかなる訳でもない。
……そもそもの話、他の世界、異世界に関与して原作とは大きく話の流れを変えるなんて事をしてる時点で、正義とは言えないだろうし。
ただし、それによって原作よりも幸せな未来になったり、原作だと死ぬ予定だった者を助けたりといった結果にはなっている……と思う。
ペルソナ世界で原作知識を失った今となっては、そういうのが本当に出来ているかどうかは微妙なところだったりするが。
それに、俺が……俺達が介入した事によって、原作では死ななかった者が死んだという流れになってもおかしくはないのだから。
とはいえ、だからといってヴィラン……この場合は敵というより、犯罪組織とかそういうニュアンスか? そういうのかと言われれば、違うのだが。
「そもそも俺がヴィランだったとしたら、リューキュウもマウントレディも、今この場で無事ではいられないんだがな」
「……あら、随分と強気ね」
俺の言葉にリューキュウが俺に向ける視線を鋭くする。
どうやら、今の俺の言葉はリューキュウを刺激するのに十分だったらしい。
マウントレディが訓練をつけて貰っていたといった感じである以上、恐らくリューキュウはそれなりに自分の強さに自信はあるのだろう。
とはいえ、それはあくまでもこの世界での事だけだ。
「そうだな。俺はそれだけ自分の力に自信がある。さっきも言ったと思うが、俺は異世界から来たし、魔法を見れば分かるようにその世界では魔法使いとか……そしてモンスターとかも普通に存在する、命懸けの世界だ」
実際には魔法界にでも行かなければ、そこまで危険な目に遭ったりはしないのだが。
もっとも、裏の世界の騒動に巻き込まれたり、図書館島の地下深くに行ってワイバーンに遭遇したりしなければの話だが。
何しろ魔法界というのは、それこそ隣に死がある……というのは少し言いすぎかもしれないが、実際にそんな感じの一面があるのは間違いない。
そんな俺にしてみれば、リューキュウやマウントレディは、この世界においては強者に入るのかもしれないが、言ってみればそれだけだ。
それにこの世界の強者ではあっても、それはあくまでも強者であってトップという訳ではない。
……もっとも、だからこそ少し興味があるのも事実なのだが。
例えば混沌精霊の特徴の1つとして、物理攻撃は意味を成さない。
それこそ核兵器を使われても、それが魔力や気が関係していない物理法則によるものだとすれば、俺には一切の効果はないのだ。
だが……それが、この世界の個性ならどうか。
個性という名の特殊能力。
また、マウントレディのように巨大化するだけのものもあれば、リューキュウのようにドラゴンに変身したり、話を聞く限りでは本当に色々な個性があるらしい。
それが、果たして俺に効果があるのかどうか。
まぁ、今はそれよりも……
「試してみるか? もしリューキュウとマウントレディが本気になっても、俺に勝つ事は不可能だ」
そう言い、じわりと俺は殺気……とまではいかないが、魔力や闘気といったものを解放するのだった。