「ここがリューキュウの事務所か。思ったよりも普通だな」
バスが停まったのは、それなりに栄えている街の中だった。
リューキュウの事務所と聞かされていたので、どういう事務所なのかと思っていたのだが……普通のビルだった。
リューキュウ……ドラゴンに変身する個性を持つ人物の事務所だから、もっとこう……何か普通とは違うようなのを期待していたのだが、残念ながらそんな俺の希望は外れてしまったらしい。
「ええ、そうよ。アクセルの期待に添えなかったようだけど……ただ、屋上からなら私がすぐに飛び立てるようになってるから、そういう意味では普通じゃないのかもしれないけど」
ヘリポートならぬ、ドラゴンポートだな。
そう突っ込みたくなったが、そう言うとリューキュウに何か言われそうだったので、止めておく。
実際、俺の感想もそう間違ってはいないとは思うんだが……まぁ、その辺については、そういうものだと納得しておいた方がいいのだろう。
「さて、まずは中に入ってちょうだい。こっちの方で連絡をするけど、どうしても対応には少し時間が掛かるでしょうし」
リューキュウに促され、俺はバスを下りて建物の中に入るのだった。
うん、まぁ……事務所としか言いようがないような場所だな。
案内されたのは、リューキュウのヒーロー事務所。
その中は特に何かこれといった違いはなく、本当にただの事務所と呼ぶべき場所がそこにはあった。
外から見た時もそう思ったが、こうして見ると本当に特に何がある訳でもないような場所だった。
いやまぁ、事務所である以上はそれも当然なのだろうが。
「アクセルはちょっとそっちのソファで待っていてちょうだい。……マウントレディ、一緒に来て」
「私もですか? 分かりました」
呼ばれたマウントレディが、リューキュウと共に移動する。
恐らく公安に連絡を入れるのに、リューキュウ以外にも実際に経験した者として、必要だったのだろう。
「ネジレちゃんは、アクセルの相手をお願い」
「はーい。……ほら、こっちだよ。こっちこっち。アクセルについて、色々と聞かせて欲しいんだけど、いいよね?」
そう言い、ネジレちゃんは俺を引っ張ってソファ……来客用のソファのある方に連れていく。
「色々と言われてもな。話せる事と話せない事があるぞ」
好奇心旺盛といった感じのネジレちゃんだったが、今まさにリューキュウやマウントレディが俺について公安に知らせているのだから、その辺りについては知らせない方がいいだろう。
もっとも、何となく……本当に何となくだが、いずれ俺の件についてはネジレちゃんに話す事があるような気がする。
理由としては、リューキュウの存在だ。
俺がこの世界にやってきて最初に遭遇したヒーロー。
いや、そういう意味ではリューキュウと模擬戦をしていたマウントレディもいるのだが。
ただ、マウントレディがリューキュウを先輩と呼んでいるように、リューキュウとマウントレディではリューキュウの方が立場が上だ。
公安との間で俺がどういう立場になるのかは分からないが、何となくだがリューキュウが俺の身元引受人とかになってくれそうな気がする。
もっとも、いざとなればニーズヘッグでホワイトスターに戻るなり、もしくはゲートを設置してそれでホワイトスターに戻るなりすればいいんだろうが。
けど……ゲートの設置か。
それが何気に問題なんだよな。
具体的には、どこにゲートを設置するか。
オルフェンズ世界においては、ペルソナ世界で殺した伊耶那美大神による呪いで、ゲートを設置出来なかった。
いや、正確にはゲートは設置出来たものの、激痛だったり、呪いによる効果だったりでゲートが正常に作動しなかったといった方が正しいか。
ただ、既に伊耶那美大神の呪いも解呪されており、その辺の心配はいらない。
そういう意味では特に問題はなかったりするのだが、この世界の場合はどこにゲートを設置するかだろう。
ヒーローというのが存在し、バスで移動中に街中を見た限り、文明の発展度合いという意味ではペルソナ世界やネギま世界とそう変わらない。
もっとも、バスから見た限りでもリューキュウやマウントレディが口にしていた異形系とかがそれなりにいたので、そういう意味では特殊な世界なのは間違いなかったが。
そんな訳で、ゲートを設置するにもしっかりと場所を選ぶ必要がある。
具体的にどこになるのかというのは、生憎とまだ決まってはいない。
ただ、普通の文明がある以上、まさか街中にゲートを設置するといった事は難しいだろう。
となると、やっぱり山、森、林……そんなどこかだろう。
ただし、こうして文明が発達している以上、山、森、林といった場所も誰かの所有物であり……簡単に設置する事は出来ないんだよな。
いっそ、何とか金を稼いで山、森、林を購入するか?
そうも思ったが、当然ながらそういうのを購入するとなると、身分証とかが必要になる。
そして俺はこの世界で身分証の類を持っていない。
あるいはどこかの市役所とかそういう場所に忍び込んで、ハッキングツールを使ってでっちあげるといった手段もあるが……リューキュウやマウントレディと遭遇してしまった事とを考えると、迂闊にそういう事をする訳にもいかないんだよな。
俺が異世界から来た件については既にリューキュウやマウントレディに話している以上、そんな俺がこの世界で身分証を持っていると明らかにおかしいだろう。
もしくは、何度か想定したように俺がこの世界に来た時に遭遇したのがリューキュウやマウントレディはなく、ヴィランだったらそういう事をしていた可能性も十分にあったが。
その辺は運が良かった……悪かった? どっちだろうな。
まぁ、ヴィランを率いて組織を作るといった事もそれはそれで面白そうかもしれないとは思ったが、今更の話だしな。
「ねぇねぇ、どうしたの? 何か考え事?」
「ん? ああ、悪い。俺はヒーローとかにあまり詳しくないけど、リューキュウとマウントレディってどのくらい有名なのかと思ってな」
「え……リューキュウ知らないの? あんなに有名なのに? 不思議不思議」
あれ? ネジレちゃんの様子からすると、リューキュウは知っていて当然といったレベルのヒーローだったりするのか?
「えっと……そうだな。世の中には別にヒーローに詳しい奴ばかりって訳じゃないしな。それこそ、オールマイトなら知ってるけど他は知らないって奴もいると思うぞ」
実際にはオールマイトについても知らなかったのだが、リューキュウとマウントレディの会話の中で出て来たので、その名前を出す。
それに……リューキュウ曰く、俺はオールマイト級らしいので、実際に1度はオールマイトと戦ってみたいという気持ちはある。
日本のNo.1ヒーローである以上、世界的に見ても上位の実力を持つヒーローなのは間違いないだろうし。
だからこそ、一度その実力を試してみたいと思うのは当然の事だった。
「じゃあ、エンデヴァーは知らないの?」
「……エンデヴァー? 誰だ?」
そちらについては初耳だった。
だが、ネジレちゃんは俺が本当にエンデヴァーについて知らないと理解すると、目を大きく見開く。
「本当に知らないの? No.2のヒーローだよ!?」
「あー……なるほど」
どうやらオールマイトに次ぐヒーローらしい。
少し詳しい話を聞いてみると、どうやらずっとNo.2の地位にいるらしい。
万年No.2か。
これはオールマイトに次ぐ地位をずっと維持し続けていることを褒めるべきか、それとも万年No.2でオールマイトに勝てない事を不満に思うべきか。
難しいところだ。
リューキュウやマウントレディの話からすると、オールマイトはもう数十年もの間No.1の座にいるらしいし。
それこそ、一種の象徴と呼ばれるくらいまでに。
その辺の状況を考えると、エンデヴァーにとってどうしても乗り越えられない壁なのだろう。
「それで、アクセルだったわよね? 一体何であそこにいたの?」
「個性事故だな」
リューキュウやマウントレディはそんな風に言っていた筈だ。
……実際、これだけ個性というのが普通に存在している世界である以上、偶発的な事故とかによって見ず知らずの場所に転移してしまうとか、そういうのがあってもおかしくはない。
であれば、俺の個性事故についてもそういう風に認識するのが一般的だろう。
それが実際にどうなのかというのは、取りあえず置いておくとして。
「ふーん。どういう個性事故だったの?」
ネジレちゃん、突っ込んでくるな。
今の言葉のどこにそこまでネジレちゃんの好奇心を刺激する点があったのやら。
とはいえ、どう反応すればいいのか。
リューキュウの様子からすると、異世界からやって来た件については言わない方がいいんだろうし。
そうなると、もっと別の理由……いっそ、個性の混沌精霊が暴発したとか、そういう風に言うべきか?
そうも思ったが、ここで適当な事を言えば、後で面倒になりそうだしな。
だとすれば、もっと別の……そう、何となくだが他の理由を説明した方がいいような気がする。
そう思っていると、不意にリューキュウがこちらにやって来るのが見えた。
よし、これで何とかネジレちゃんの追及を誤魔化せたりするか?
「アクセル、出掛けるわよ」
「分かった」
どこに出掛けるのかは、この場合考えるまでもないだろう。
電話をして、それによって公安とどうするべきか相談したんだろうし。
「そんな訳で、詳しい話はまた今度な」
「えー……」
俺の言葉に頬を膨らませるネジレちゃん。
外見は間違いなく美人系なんだが、こうして話してみた感じでは性格は純粋……というより、幼い? そんな感じがする。
好奇心旺盛で、それを満たす為に次々と話をしてくるのも関係しているのかもしれないが。
「悪いわね、ねじれ。アクセルの件は色々と話せない事もあるのよ」
あれ? ネジレちゃんじゃなくて、ねじれって呼んだか?
ヒーローとして活動している時はヒーロー名で呼ぶって話だったと思うんだが。
あるいはリューキュウにとって、今はヒーローとしての活動ではないと判断したのか。
その辺りは俺にもちょっと分からないが……まぁ、そこまで気にする必要はないか。
ともあれ、俺はリューキュウと共に事務所を出ると、車に乗る。
ただし、先程乗ってきたバスとは違い、スポーツカータイプ、とでも呼べばいいのか?
「ちょっと、リューキュウ先輩。これ後ろがちょっと狭いんですけど!?」
後部座席に乗ったマウントレディが、不満そうに叫ぶ。
だが、リューキュウはそんなマウントレディに対し、特に気にした様子もなく口を開く。
「しょうがないでしょ。今回、アクセルはお客様なんだから。そんなアクセルを後ろに乗せる訳にはいかないし」
「これ……私が行く必要があったんですか?」
「一応、マウントレディもその場にいたんだし、当然でしょ。公安の方からもマウントレディを連れてくるように言われたし」
リューキュウの言葉に、不満そうな様子を見せつつも黙るマウントレディ。
不満そうにしながらも車から降りるとか、もしくは自分は行かないといったような事を言わないのは、それだけ公安の影響力が強いという事なのだろう。
実際、リューキュウやマウントレディのようにヒーローとして活動する上で、公安という存在は決して逆らえないような相手なのだろう。
ヒーローの元締め的な存在のようだったし、それを思えば理解出来なくもない。
だからといって、俺が公安と上手くやっていけるかどうかは……実際、これからの一件次第だが。
……もし駄目なら、その時は最悪ヴィラン側にいけばいいだろうし。
「それで話の流れからして予想は出来るけど、これから公安に行くんだよな?」
「ええ、そうよ。ただ、公安の方でもアクセルの言葉をどこまで信じていいのか迷っている様子だったけど」
「それはそうでしょう。個性事故ならともかく、異世界から来たなんて風に言うんだから」
リューキュウの言葉に、すこしだけまだ不満そうにしながらもマウントレディが言う。
「だろうな。俺も今までの経験からすると、完全に信じて貰えるとは思っていないよ。……いや、寧ろ個性というのがあるから、他の世界の時と比べても受け入れて貰いやすくなっているとは思う」
個性のおかげで、何でもあり……というのは少し言いすぎかもしれないが、とにかくそんな認識になっていてもおかしくはない。
「というか、これだけの個性があるのなら、それこそ異世界と行き来出来る個性とか、そういうのがあってもおかしくないんじゃないか?」
「……どうかしら。私はそういう個性は聞いた事がないけど。ただ、いるかもしれないと言われると、否定は出来ないけど」
リューキュウの言葉に、マウントレディも同意するように頷いていた。
異世界に行く個性か。
……マブラヴ世界、それも俺が関与していないマブラヴ世界に行ってBETAに遭遇したりしたら、あるいはマクロス世界でバジュラに遭遇したりしたらと考えると、危険かもしれないなと思うのだった。