「えっと……ここ、どこだ?」
ふと気が付けば、俺は身一つでどこかにいた。
何がどうなったのかは分からないが……えっと、ここはダンジョンか?
ダンジョン……そう言われてすぐに思いつくのは、ペルソナ世界やネギま世界といったところだが。
ただ、このダンジョンの様子を見ると何となく違うように思える。
「ともあれ、いつまでもここにいるのは何だし、移動するか」
何がどうなったのかは分からないものの、それでもとにかく今のこの状況を打破するにはこのままここで黙っている訳にはいかない。
いやまぁ、ここで待っていればいつか誰かが助けに来てくれるかもしれないが。
それでもまずここは動いて見るべきだろう。
そう判断し、ダンジョンの中を進む。
「暗いよー、怖いよー、狭いよー」
ダンジョンの中を進んでいると、不意にそんな声が聞こえてくる。
何だ? まさか、俺を誘き寄せる為に何らかの仕掛けが、あるいはモンスターが声を出しているのか?
そんな疑問を抱きつつも、声のする方に進んでいく。
これが罠だとしても、状況が動くのなら少しくらいはこっちで行動してみてもいいだろうし。
そう思っていたのだが……声のした方に進んだ結果、俺が見つけたのは……
「何だこれ、宝箱から足が生えてる?」
そう、俺が見たのは宝箱から足が生えているという光景だった。
勿論それは、宝箱の底に足が生えているといった訳ではない。
宝箱が……そう、いわゆるミミックとかそういうモンスターだったら、口となっている場所。
そこから足が生えていたのだ。
「暗いよー、怖いよー、狭いよー」
再び聞こえてくるその声は、宝箱から……というか、もう分かりやすく言えば宝箱に嵌まっている? 人物の声だった。
これが俺を罠に嵌めようとしている……とはちょっと思えないな。
何と言うか、こう……うん。
「おーい、大丈夫か?」
「助けて」
俺の言葉に驚くでも何でもなく、救助を求める声。
いやまぁ、今の状況を考えれば、そういう風に言っても当然ではあるのだろうが。
宝箱に嵌まってる奴は、本当にどうしようもないくらいに身動きが取れなくなっているのだから。
「えっと、ちょっと待ってろ。すぐに助けるから」
見るからにトラブルの種といった感じはしないでもなかったが、この状況を説明出来る相手は欲しい。
……こんな宝箱の罠に引っかかっている奴が、この状況を説明出来るかどうかは微妙なところだが。
ただ、それでも今はこの人物……宝箱で籠もっているからちょっと聞こえにくいけど、恐らくは女しか手掛かりはないのだから。
なので、宝箱の罠を解除して……解除して……解除して……
「あれ?」
宝箱の罠を解除しようかと思ったのだが、見た感じどこにも罠らしきものはない。
普通の、本当に普通の宝箱のように思えてしまう。
……となると、この女は一体何で宝箱に嵌まってるんだ?
「助けてー」
一瞬俺をからかってでもいるのかと思ったのだが、見た感じではどうやら違うらしい。
助けを求める声は本気のように思える。
罠はないんだが。
……ん? 見た感じかなり小柄だし、宝箱の蓋に挟まれて、丁度動けないような状態になってるのか?
まぁ、いいか。
罠も何もないのなら、特に気にする事はないだろうと判断し、パカリと宝箱を開ける。
そして脇腹を掴み、女を宝箱から出す。
そうして改めて見ると……
「エルフ?」
そう耳の特徴からして、エルフなのは間違いなかった。
となると、もしかしてホワイトスターにいたエルフが俺と一緒にこの世界に来たとか?
「……貴方、誰?」
「アクセル・アルマーだ。お前は?」
「フリーレン」
「そうか、フリーレン。不躾だが……1つ聞かせてくれ。ホワイトスターから来たのか?」「?」
俺の言葉の意味が分からないといった様子で小首を傾げる。
幼いものの、顔立ちが整っているだけに、そういう行為も様になるな。
「どこの街?」
そしてこの言葉。
この様子からすると、どうやらホワイトスターを知らない……つまり、ホワイトスターのエルフではないのは明らかだ。
もっとも、ホワイトスターのエルフは俺を神として崇めている。
仰々しいのは嫌いなのでそういうのを態度に出す事はないが。
「遠く……本当に遠くだよ。知らないのなら無理はない」
「……私が知らない街? というか……アクセルだったかしら。凄い魔力ね」
「分かるのか? いや、エルフなんだし当然か」
エルフと言えば魔法だろう。
俺の魔力を察知するのは、理解出来ないでもない。
「それに……魔族? いえ、違う。そもそも魔族なら私を助けるような事はしないでしょうし」
呟くフリーレン。
なるほど、どうやらこの世界には魔族がいて、エルフがいて、魔法があって……完全にファンタジー世界だな。
「魔族じゃないな。まぁ、そう言われてもおかしくはないのかもしれないけど」
混沌精霊の俺がこの世界でどのように認識されるのかは、正直なところ分からない。
ただ、フリーレンが迷いつつも魔族とは違うと言ってるのだから、取りあえず魔族ではないのは間違いないだろう。
「じゃあ、何?」
「精霊だな」
混沌精霊と言おうかと思ったが、混沌精霊と名乗ると見るからに怪しい存在と認識されそうなので、止めておく。
それこそ混沌精霊なら魔族だと言われても反論するのが難しいし。
もっとも、この世界の魔族がどのような存在なのか分からない以上、もしかしたらこの世界の魔族が俺と近いという可能性は十分にあったが。
「精霊? ……精霊が身体を持ってるの? 服も着てるし」
そう言い、指先で俺の身体を突くフリーレン。
この世界の精霊は服を着ていない……というか、身体を持っていないんだろう。
もっとも、俺が混沌精霊になった時も、大量の……数え切れない程の精霊を吸収した結果だ。
そういう意味では、この世界でも同じ事をすれば混沌精霊が生まれる可能性があるのかも?
「普通の精霊じゃないしな」
取りあえず、そう言って誤魔化しておく。
「ふーん」
俺の言葉を信じたという訳ではないだろうが、それでも取りあえず敵対的な行動をしないのは助かる。
「意外だな。さっきの聞き方からすると、いきなり攻撃してきてもおかしくないと思ったんだが」
「……何となく分かるんだよ、何となくね」
何となくと言われると、俺としても反論のしようがない。
それこそ何らかの理由があって俺が魔族じゃないと判断したとか言うのなら、こっちとしても対処の方法はあるんだが。
「そうか。それでちょっと聞きたいんだが、ここはどこなんだ?」
「え? 何で分からないの? アクセルがここにいるんだから、分かっていてきたんじゃないの?」
「……生憎と分からないんだよ。いつの間にかここにいたし」
「ふーん……まぁ、いいけど。ここは中央諸国の聖都シュトラールから10日くらい離れた場所だよ」
聖都シュトラールか。
やっぱり俺には分からない場所だな。
とはいえ、フリーレンから聞いた諸々を考えると、やっぱり俺はどこかの異世界……それも俺が行った事がないような異世界にやって来てしまったらしい。
そんな俺の表情を見たのか、フリーレンは不思議そうに首を傾げる。
「どうしたの? 場所が分かったんでしょう?」
「名前は分かったが、残念ながら俺の知ってる場所じゃないな」
「……本当にどこから来たの? シュトラールを知らないなんて、そんなことないでしょう?」
「色々とあったんだよ、色々と」
「ふーん。……じゃあ、これからアクセルはどうするの?」
「どうするか……か」
さて、一体どうしたものだろうな。
俺にとってこの世界は完全に知らない場所だ。
そうなると自力で帰るのは難しい。
ゲートやニーズヘッグを使えば……ああ、いや。ちょっとゲートやニーズヘッグの改良をするからって事で、昨日技術班に預けたんだったな。
となると、久しぶりにマーカーでも使って、ホワイトスターから迎えに来るのを待つしかないか。
「適当にすごすつもりだ。いずれ仲間が迎えに来てくれるだろうし」
「じゃあ。私と一緒に行かない?」
「は? ……一体何がどうなってそうなった?」
フリーレンの言葉に疑問を抱く。
だが、フリーレンは俺に向かって笑みを浮かべて口を開く。
「私が今のように悪辣な罠に引っかかった時、助けてくれる人がいると助かるんだけど」
「悪辣な罠って……」
それは別に罠でも何でもないってのは、多分突っ込んだら駄目なんだよな。
それに……この世界について全く知識のない俺にとって、フリーレンは現在唯一頼れる相手であるのも事実。
そもそもこのダンジョンの中でここに来たのも、誰かいないかと思っていたら声が聞こえたからだし。
「盗賊がアジトとして使っていただけあって、厄介な場所なのよ」
「……盗賊のアジト? ダンジョンじゃなくてか?」
俺の言葉に、きょとんとするフリーレン。
うん、どうやらここがダンジョンだというのは俺の勘違いだったらしいな。
「盗賊のアジトだよ?」
「そうらしいな。……なら、なんでフリーレンはここにいたんだ?」
「ここの盗賊がちょっと変わった魔法書を手に入れたって話だしね」
「……で、その盗賊は?」
「もう捕まえて警備兵に引き渡したよ」
どうやらそれでこうして自分を襲ってきた盗賊のアジトを家捜ししていたらしい。
さすがと言うか、何と言うか……うん、取りあえずその辺については気にしない方がよさそうだというのが、俺にも理解出来た。
ともあれ、これが俺とフリーレンの出会いだった。
「ちょっと、アクセル。ほら、見て。ヒンメルの銅像よ。……似てないけど」
「何で分かるんだ?」
「だって、私はヒンメルと一緒に旅をしたんだもん。本人を知ってるんだから、似てるかどうかはすぐに分かるわ」
「は? ヒンメルって勇者だろ? なら……」
「えっへん」
フリーレンが勇者の仲間だったというのを知って驚き……
「ほら、アクセル。あれ。あれを取って」
「無茶を言うな、無茶を。……俺の魔法を使ってもいいのならどうにかなるけど」
「ここはそういうの禁止でしょ」
祭りの屋台で何故かあった魔法書を何とか入手し……その後、頭が痒くなる魔法だと知って俺は呆れるも、何故かフリーレンは喜び。
「貴方が今のフリーレンの子守役ですか。大変ですね」
「ちょっと、ハイター。一体何を言ってるの。私がアクセルの面倒を見ているのよ」
「……この前、宝箱から助けてやったのは俺だけどな」
「フリーレン、まだ宝箱に……」
ハイターが呆れとも憐憫ともとれる視線を向けると、それを向けられたフリーレンは何よといった様子で受けて立つ。
うん、これは……傍から見ると険悪な様子にも見えるが、実際には昔馴染み同士でじゃれてるだけだな。
ハイターもまた、勇者一行の僧侶だったらしいし。
「アイゼンに会いに来たのに……一体、どこに行ったのかしら」
「アイゼンって、確かドワーフだったよな。……俺が知ってる物語とかだと、エルフとドワーフは仲が悪いというのは一般的なんだが」
「そういうのはそれぞれよ」
その言葉からすると、アイゼンというドワーフがフリーレンと仲が良いらしい。
俺からすると、それが不思議に思えるんだが……まぁ、本人達が納得してるのなら、それはそれでいいのだろう。
この世界は俺にとっては未知の世界なのだから、エルフとドワーフが友好的でも、そういう事もあるという風になるのだろう。
「いい、アクセルは折角大きな魔力を持ってるんだから、きちんと魔法の勉強をして……」
「そう言われても、俺はもう魔法を使えるしな」
「異世界の魔法……」
旅の途中で俺が異世界から来たというのを話したのだが、それでフリーレンが興味を持ったのが異世界の魔法だ。
正確にはネギま世界の魔法だが。
「いい加減、私にも異世界の魔法を教えてよ」
「そう言われてもな。教科書がないと、俺にはどうしようも……」
以前、何かの拍子に俺が持っていた魔法の教科書と初心者用の杖をエルフ……この場合はフリーレンじゃなくて、ホワイトスターにいるエルフに渡したんだよな。
エルフ達にしてみれば、俺を神として崇めており、それによって魔法を使っている。
ネギま世界の魔法の教科書や初心者用の杖とかは……まぁ、欲しいと言われたんだし、しょうがなかったのだが。
それもあって、教科書と杖を渡した後、補充してなかったんだよな。
「影なる戦士? そういうのがいるのか?」
「噂だけど、多分本当」
そんな会話の数日後に何故か俺が影なる戦士とやらに狙われ、その後で何だかんだと帝国と争うことになる。
フェルンやシュタルクといった味方の活躍もあり……しかも戦いの最中にホワイトスターと繋がり、メギロートやバッタ、量産型Wがこちらの味方をした事もあって、最終的に帝国は俺達に降伏するのだった。