「アクセル・アルマー。所属はシャドウミラーだ」
「シャドウミラーというのは、一体どういう組織です?」
「組織というか、国だな。世界と世界の狭間に存在する空間にある国で、それによって色々な世界と繋がりを持っている」
俺の言葉に目良は隈の入った目を寄せる。
俺の言葉が信じられないのか、それとも信じられるからこそ、このような態度を取っているのか。
その辺は俺にも分からなかったが、リューキュウとマウントレディは俺に信じられないといった様子で視線を向けていた。
詳細については教えなかったしな。
「……国、ですか。それも色々な世界と繋がりを持つ。それはつまり、この世界以外にも幾つもの世界と繋がりがあるという事でしょうか?」
たっぷりと数十秒程の沈黙した後で、目良がそう聞いてくる。
目良にしてみれば、俺の言葉がどこまで信じられるかどうかは分からないのだろう。
ともあれ、シャドウミラーについて教えるのはいいが、俺がそれを率いる立場だというのは言わない方がいいだろう。
今の俺の外見からまず信じて貰えないだろうし。
それにもし万が一にも信じられたりしたら、それはそれで面倒な事になる。
当然ながら、俺が国を率いる人物という事になれば、この世界の常識から考えて相応の扱いになるだろう。
とてもではないが……そう、例えばUC世界でガンダム開発計画のテストパイロットをやったり、オルフェンズ世界でPMCを率いるといったようなことは出来なかった筈だ。
自由に動けるというのは、それだけ大きな価値がある。
……いやまぁ、この世界では既にこうして公安に接触しているので、自由に動くというのは難しいかもしれないが。
公安という組織の性質上、明らかに異常な俺をそのまま放っておくとは思えない。
何らかの方法……それこそそういうのに向いた個性を使い、俺を監視するくらいはしてもおかしくはなかった。
とはいえ、俺は別に何かを企むとかそういうのは今のところないので構わないが。
邪魔になったらなったで、それこそ影のゲートの転移とか、効果があるのかどうかは分からないが気配遮断を使ったりして対処出来るだろうし。
「そうなるな」
「……ちなみに、アクセル君の言葉からすると、複数の世界と繋がりがあるように思えますが、具体的にどのくらいの世界があるのでしょう?」
「そうだな……」
ギアス世界、SEED世界、ネギま世界、マクロス世界、マブラヴ世界、ナデシコ世界、W世界、ペルソナ世界、UC世界、鬼滅世界、X世界、オルフェンズ世界か。
他にもスパロボ世界や門世界、Fate世界といった世界があるが、そちらは色々な理由から現在行けないしな。
「ざっと10以上といったところだな」
「……それだけのこの世界とも違う世界に、ですか」
俺の言葉に目良が驚きの表情を浮かべる。
いや、驚いているのは目良だけではなくリューキュウやマウントレディも同様か。
そして恐らくは壁の向こう側にいる者達も驚いているだろう。
「そうなるな」
あっさりとそう言う俺の言葉に、目良は改めて警戒した様子で口を開く。
「それだけの世界と関係のあるアクセル君の世界は、この世界に一体何をしに来たのですか?」
そう言う目良の表情には、先程の驚きは消えて警戒だけがある。
……ああ、なるほど。一体何を警戒しているのかと思えば、そっちの件か。
「言っておくが、別に最初からこの世界に来たいと思って来た訳じゃない。未知の世界と接触する際には、ゲート……転移機能を持つ装置だが、それでランダムに他の世界に転移する。今回はそのランダムの転移先がこの世界だった訳だ」
実際にはランダムはランダムでも、何らかの原作のある世界というのが正しいのだが。
もし本当にランダムなら、原作のない世界とかそういう世界に転移してもおかしくはないのだから。
もっともそのような世界に転移しても、原作のない世界という事は普通の……それこそシャドウミラーが欲しがるような技術やら何やらは期待出来ないが。
「……ランダム、ですか」
その言葉に、目良は少しだけ安堵した様子を見せる。
直接この世界を狙って転移したというよりは、ランダム……つまり偶然この世界にやって来たと言われた方が説得力はあるだろうしな。
もっとも、その視線にはまだ疑惑の色があったが。
俺がこの世界に転移したのは、ランダム。
そう俺は主張しているが、実際にそれを示す証拠の類がないのは事実なのだ。
だからこそ、目良にしてみれば俺の言葉を完全に信じるといった事は出来ない。
……それを言うのなら、俺が本当に異世界から来たのかどうかの確認もしていないのだが。
何だったか。足の小指に関節があるかないかで、個性の有無を判別出来るとか。
そういう方法で確認出来るらしいが、このビル……公安の支部に入ってから、そういうのを確認された事はない。
となると、壁の向こうにいる者の中にどうにかして俺を調べるような個性を持つ者がいたりするのか?
「ああ、ランダムだ。そういう意味では……そうだな、こういう表現はどうかと思うが、この世界に俺が来る事は運命によって決められていたと言ってもいいのかもしれない」
これは少し大袈裟な表現のように思わないでもなかったが、実際にこの世界に狙いを定めていた訳ではない以上、ホワイトスターから転移してこの世界に来たのは、運命という表現は決して間違ってはいないだろう。
もっとも、それを聞いた本人がどう思うのかはまた別の話だったが。
「運命、ですか。……正直なところ素直には信じられませんね」
「だろうな。別に俺も無理に信じろとまでは言わないよ。あくまでも俺がそういう風に感じているってだけの話だし」
「……そうですか」
俺の言葉に納得したのか、してないのか。
その辺は俺にもちょっと分からないが、目良の表情は殆ど変わらない。
公安に所属するだけの事はあるな。
「それで……今更ですが、その、アクセル君が異世界から来たという証拠とかがあったら見せて貰えませんでしょうか? リューキュウやマウントレディからそうだと話は聞いているのですが、実際に私はその証拠を見た訳ではないですし」
「……なるほど」
この順番でこう話を持ってくるのか。
いや、それは決して悪い訳ではない。
悪い訳ではないのだが、それでもこちらの意図を逸らすような事をするのを狙っての話の順番だろう。
もし俺がヴィランであったら、それこそ自分の力を、異世界の存在である事を証明しなくてもよかったと安堵しているところで、いきなりこうして異世界の存在である事を証明しろと言われれば、動揺してもおかしくはない。
……あくまでも、俺がヴィランであったらの話だが。
というか、今更だが……この世界では個性が普通の存在であるという認識なのだから、他の世界でもそうだと認識してもおかしくはないと思うんだが。
まぁ、その辺については今ここで俺が何かを言う必要はないか。
「そうだな。別に構わないぞ。ただ、リューキュウ達にも見せたが、俺が異世界の存在だと示しても、それが個性かどうかではないと、どうやって証明する? ちなみに俺が見せるのは魔法だ。この世界の個性とは違って、異世界の中には魔法が存在する世界もある。俺はその世界で習得した魔法を見せられる」
「……魔法、ですか。それは一見すると個性との差異を探すのは難しいかもしれませんね。ただ、その辺はこちらで判断しますので見せて貰えますか?」
目良がどうやって俺の使うのが個性かどうかを判断するのかは分からない。
分からないが、それでも見せろと言うのなら見せればいいだろう。
何しろ俺にしてみれば、魔法の行使は難しいものではないのだから。
右手を前に出し、パチンと指を鳴らす。
次の瞬間、俺の右手は白炎と化し……その白炎から、炎獣が数匹生み出される。
子犬、子猫、小鳥、兎。
本来ならもっと凶悪そうな……それこそ獅子や虎、狼、あるいはグリフォンやドラゴン、ペガサスといった炎獣を生みだしても構わなかったのだが、目良はともかく壁の向こう側にいる者達が激しく反応する可能性もあった。
公安と敵対してしまう可能性もあるので、出来ればそういう流れは遠慮したかった。
いや、そうなったらそうなったで構わないとは思うのだが。
しかし、この世界で暫くの間行動する以上、表の世界で強い影響力を持つ公安と敵対はあまりしたくない。
もっとも、公安側から仕掛けてくるのなら話は別だが。
その時はその時で、こっちも相応の対応をすればいいだけだろうし。
ただ、目良の様子を見る限りだと、そういう風に動くとは思えないんだよな。
俺の持つ公安のイメージというのは、秘密主義で自分達が絶対的に正しいので、自分達は何をやっても許される……そんなイメージだったが、目良達は違う。
あくまでも俺が思っているのはイメージであって、実際にそうではない事の証でもあるのだろう。
「これは……これが、炎獣ですか?」
部屋の中を走り回り、あるいは飛び回る炎獣達。
そんな炎獣を見て、目良の口から驚きの声が漏れる。
個性でなら、こういうのを生み出せる者がいてもおかしくはないと思うんだが。
まぁ、俺の白炎は応用性が高いしな。
今のように炎獣を生み出したり、後は純粋に攻撃用の炎として自由自在に扱ったりも出来る。
「そうだ。炎獣という名称は知っていたんだな」
そう言い、リューキュウとマウントレディの方を見る。
その2人は、数時間ぶりに見る炎獣に頬を緩ませていたが。
俺に付いて報告をしたのだから、俺が使う能力……リューキュウとマウントレディに見せたのは、炎獣と瞬動か。そのような能力を持つと報告していてもおかしくはない。
別にそれを責めようとも思えない。
そもそも、その辺りについては最初から予想していた上で炎獣や瞬動を見せたのだから。
目良もその辺りについては俺に理解されているのを前提としていたのか、特に驚いた様子もなく頷く。
「ええ、まぁ。報告を受けた時に聞いていましたが……それでも、白い炎で作った動物とは。この動物はどのような存在なのでしょう?」
「どのようなと言われても……そうだな、分かりやすく言えば、魔女や魔法使いの使い魔に近い存在か?」
あくまでも近い存在であって、実際にはその通りの存在ではない。
例えば、使い魔とかが見た景色を俺が見るといった事は出来ないし。
ただし、ある程度の自我はあるので自分の判断によって最善と思う行動をしたりもする。
また、純粋な攻撃力という点でも数を揃えるとMSを相手にしても勝てるだけのものがあった。
ましてや、そんな炎獣を俺はその気になれば数百、数千、数万……あるいはそれ以上生み出す事も出来る。
そういう意味では、この炎獣という能力……この世界においては個性と呼ばれている特殊能力は、実は圧倒的な能力を持つ。
もっとも、こうして子犬や子猫、小鳥といった炎獣を見ている限りでは、そういうのは想像出来ないだろうが。
「……なるほど。後は、瞬間移動もあると聞きましたが」
「ちょっと違うな。俺がリューキュウ達に見せたのは、瞬間移動とかそういうのじゃない。瞬動という……そうだな、目にも留まらぬ速さで移動する技術だ」
実際には影のゲートとかもあるので、そういう意味では瞬間移動とかもあったりするんだが。
とはいえ、それは今のところ話すつもりはない。
もし話したりしたら、間違いなく面倒な事になるだろうし。
何しろ、俺は目良……いや、公安にしてみれば理解出来ない存在だ。
異世界から来たと言い、個性ではない特殊能力を使う。
そんな俺が転移能力を持っていると知れば、警戒心はもの凄く上がるだろう。
……もっとも、それはつまり転移能力を持っているというのを後で目良が、公安が知った時、俺がその件について黙っていたという事で疑われる可能性があるという事でもあるのだが。
とはいえ、それはつまりもっとお互いの信頼度が高まったら事情を話してもいいとか、そういう風に認識していたとか思えば……うん、ちょっと無理があるような気はするが。
ただ、それでも今の状況を思えばそのように思ってもおかしくはないと思う。
「瞬動、ですか。……技術という事は、誰でも習得出来るという事でしょうか?」
実際、魔力や気が使えれば瞬動は……そして虚空瞬動とかも使えるようになる。
とはいえ、この世界には個性というのが存在している。
その個性が魔力や気にどのような影響を与えるのか、今のところはまだはっきりとしていない。
もしかしたら何も影響はないかもしれないし、あるいは大きく影響する可能性もある。
個人によって違う可能性もあるだろう。
「基本的にはそうだが、そこに個性がどう影響してくるか分からない以上、俺としては迂闊なことは言えないけどな」
「……なるほど。この件については要検討ですね」
目良が何かを考えるように、そう言うのだった。