「……さて、アクセル君の話については分かりました」
俺が炎獣を消したところで、目良がそう言う。
真面目そうな表情を俺に向けているが、炎獣が消えた時、残念そうにしていたのを俺はしっかりと見ている。
本人はそれを隠そうとしていたようだったが。
「分かって貰えたようで何よりだ」
完全に俺の言葉を信じたとは限らないが。
今の言葉は、取りあえず俺の言いたい事は分かったとか、そういう意味での言葉だろう。
とはいえ、公安としての立場から考えれば、そういう態度になってもおかしくはないのだろうが。
「それで、アクセル君は私達に何を望みますか?」
「直球で来たな」
「ここで迂遠に話をしても、意味はないだろうと判断しましたので」
「……正しい判断だ」
自分でそう判断したらだがな。
目良の耳に小さなイヤホンがあるのを、俺は見ている。
恐らくは壁の向こうにいる者達と、それを使ってやり取りをしている……指示を聞いているのだろう。
「異世界から来たアクセル君にそのように言って貰えると、嬉しいですね」
そう言う目良だったが、その顔にあるのは相変わらず眠そうな様子だけだ。
「それで、どうでしょう? アクセル君はこの世界に……私達に何を求めるのですか?」
「そうだな。それを話す前にまずは俺の国……シャドウミラーについて説明しておくか。シャドウミラーが、何故色々な世界と接触してるのか、分かるか?」
「それは……何らかの利益があるからでは?」
「まぁ、そうだな。実際、世界の狭間にあるホワイトスターを通して他の世界同士でも異世界間貿易を行って、莫大な利益を得ているし」
ピクリ、と目良が俺の言葉に反応する。
公安も国の組織である以上、この国に利益をもたらすともなれば、反応するのは当然だろう。
ましてや、俺の言葉をどこまで信じているのかは分からないものの、個性ではない炎獣をしっかりと見せた上での発言だ。
これは予想ではあるが、目良の……そして壁の向こう側にいる者達にとって、俺が異世界の存在であるというのは、まだ確信した訳ではないにしろ、半分程は信じているように思える。
であれば、半分程であっても俺の言葉が真実であった場合の事を考え、ここは少しでも国に利益をもたらす可能性を考えてもおかしくはない。
国に利益をもたらしたとなれば、それはつまり公安が利益をもたらしたという事になり、日本の中でも大きな影響力を持つ事になる。
勿論、自分達が直接異世界間貿易に関与して、公安の利益になるというのも考えてはいるだろう。
基本的に異世界間貿易において窓口は1つだ。
そういう意味では、今のままの流れでいくと恐らく公安がその窓口になるのだろう。
「この世界についてだけしか知らないのなら実感はないかもしれないが、世界というのは本当に様々だ。具体的に言えば、この世界には個性というのがあるが、そういう特殊能力が一般的な世界はない」
ネギま世界の魔法にしろ、ペルソナ世界のペルソナにしろ、基本的には裏の世界の存在で表向きは存在しない事になっている。
「つまり、この世界で一般的に存在している物であっても、異世界では存在しなかったり、非常に希少な存在だったりする。当然ながら、その逆の可能性もある。そう考えれば、異世界間貿易がどれだけの存在なのかは分かりやすいだろう?」
「……そうですね」
「ただ、一応注意しておくと異世界間貿易で武器の類は取引出来ない。それをすると、ペナルティがある。……まぁ、相手もペナルティがあるのは知ってるので、まず受ける事はないだろうが」
その例外が、シャドウミラーだったりする。
以前はシャドウミラーも兵器の取引は禁止されていたのだが、レオンが交渉した事によって今はそれも可能になっている。
元々、シャドウミラーと他の世界ではシャドウミラーの方が圧倒的に立場は上だ。
当然だろう。シャドウミラーが……より正確には、シャドウミラーの本拠地であるホワイトスターがなければ、異世界間貿易そのものが成り立たないのだから。
また、国として重要な要素の戦力という意味でも、シャドウミラーは圧倒的だ。
そんな状況にも関わらず、レオンが交渉でシャドウミラーは武器取引も可能という例外を取り付けるのに、かなり苦労したらしかった。
それだけ、異世界間貿易における武器というのは簡単に取り扱えるものではないのだ。
「そう、ですか。……その件については興味深いので、後でもう少し詳しく聞かせて貰えると助かります」
「そうだな。……で、シャドウミラーについてだったか。異世界間貿易の件についてはともかく、シャドウミラーには国是がある。それが、未知の技術の収集だ」
「……未知の技術、ですか?」
「そうだな。分かりやすく言えば、さっき見せた魔法とかもそんな感じだよ」
他にも人型機動兵器の技術とかそういうのもあるんだが、この世界においてロボットの類はそこまで発展していないだろうから、その点については黙っておく。
人型機動兵器のある世界と、生身での戦いのある世界では収集する技術の多くが違うだろうし。
「待って下さい。それはつまり……個性を持った人達を収集すると?」
少し……いや、かなり鋭くなった視線を俺に向けてくる目良。
リューキュウやマウントレディもまた、そんな目良の言葉に驚きの視線をこちらに向けていた。
なるほど。今の俺の言葉からすると、そんな風に受け取られても仕方がないか。
「違うから安心しろ。……いやまぁ、報酬を支払って検査をさせて貰うとか、そういうのはあるかもしれないが、人権を無視して人を集めるとか、そういう事はしない」
とはいえ、個性を解析出来て量産型Wに搭載出来れば、それは大きな意味を持つ。
現在の量産型Wは、金ぴか……ギルガメッシュの切断した腕の細胞を培養して使っているので、ネギま世界の魔法は普通に使えるし、魔術もガンド程度なら使える。
そういう意味では生身の戦闘能力も相応に高いのだが、そこにこの世界で入手した個性を使えるような事があったら、それは大きな意味を持つだろう。
……もっとも、凛の持つ魔術回路を解析しても使える魔術は結局のところガンドだけで、凛の最大の特徴とも言える宝石魔術は使えなかったりするのだが。
そう考えると、個性についてもちょっと調べたところで、量産型Wに搭載出来るのはその調べた個性のかなり劣化した内容になってもおかしくはない。
あ、でも……そうだな。人権とかそういうのを考えなくてもいい、ヴィラン辺りを確保したら、しっかりと研究が出来たりするんじゃないのか?
そう考えると、この世界におけるヴィランはいい資源という事になる。
もっとも、それを口にすれば目良も頷いたりはしないから、口にするつもりはないが。
「そう……ですか。一応、その言葉は信じさせて貰います」
一応と口に出しているように、完全に俺の言葉を信じた訳ではないのだろう。
とはいえ、だからといって目良はここで俺の言葉を信じる事は出来ないとは言えないのだろうが。
「信じて貰えたようで何よりだよ。ただ……そうだな。ここまで個性が一般的な世界である以上、個性についての研究もあるんだろう? 足の小指の関節の有無で個性を使えるかどうか分かるって聞いたし」
「ええ、そうですね。それは個性の研究についてはかなり広く知られた事実です」
「だろう? そういう研究についてのレポートとか研究資料、論文とか、そういうのは欲しいと思っている」
個性があるのが普通の世界である以上、その研究については俺が予想した以上のものがあるのは間違いない。
もっとも、そうして簡単に入手出来るレポートや研究資料、論文となれば、そこまで質には期待出来ないかもしれないが。
ただ、レモン率いる技術班にしてみれば、それでもかなりありがたい筈だ。
……けど、技術班の中には人の力については興味を持っていない者もいる。
それこそ人型機動兵器とかには強い興味を示すものの、個性のような能力には興味が薄いような者も。
もし個性についてのレポートや研究資料、論文といった物があっても、そこまで興味を惹くとは思わなかった。
「そうですか。そのくらいであれば、こちらでもある程度用意出来ると思います。……アクセル君が希望するのは、他にありますか?」
「ある。これについては、ぶっちゃけ個性についての資料とかそういうのよりも大事なんだが、土地が欲しい」
「……土地、ですか?」
俺が土地が欲しいと言うのは、目良にとっても予想外だったらしい。
隈の浮かんだ目を大きく見開き、こちらに視線を向けてくる。
いや、それは目良だけではなくリューキュウやマウントレディも同様だ。
そして、恐らくは壁の向こう側にいる者達もそれは同様なのだろう。
「ああ、土地だ」
「……その、一体何故土地を欲しがるのです? 例えば、何らかの資源を欲しての事でしょうか?」
ああ、なるほど。
普通ならそういう風に認識してもおかしくはないか。
日本においても……それこそ石炭や胴、銀、金といった鉱山が、あるいは油田の類もあるという話は聞く。
であれば、土地を欲しいという俺の要望を聞いた目良が、資源を欲してのものだと考えてもおかしくはない……のか?
そしてそれは、目良にとって……いや、ヒーロー公安委員会にとって、シャドウミラーと有利に交渉をする為の条件になると、一縷の希望を持ってもおかしくはないのだろう。
とはいえ……
「いや、そういう意味での土地じゃない」
俺は目良の、そして壁の向こう側にいる者達が抱いた希望を否定するように首を横に振る。
「資源を求めてのものではないと?」
「そうなるな。単純に土地が……ある程度の広さを持つ土地が欲しい」
「それは一体何故と聞いても?」
「ゲートを設置する為だ」
「ゲート……ですか?」
「ああ。ホワイトスターという、世界の狭間にある国から俺はこの世界にやって来た。だが、それはあくまでも今この世界に俺がいるというだけでしかない。この世界とホワイトスターを自由に行き来するには、転移装置が必要になる。それがゲートだ」
「……なるほど」
俺の説明に納得出来るものがあったのだろう。
目良は頷く。
壁の向こう側にいる者達がどのように思っているのかは分からないが。
ちなみにリューキュウは目良と同じく納得の表情を浮かべていて、マウントレディは納得したのかしてないのか、特に表情を変えたりはしていない。
……マウントレディのこの態度は、一体何がどうなってこういう感じになったんだ?
そう思ったが、取りあえず気にしないようにしておく。
色々と思うところがない訳でもなかったが、今はその件に突っ込まない方がいいだろうと判断してのことだ。
「話は分かりましたが、さすがに土地となるとすぐにはいどうぞとは行きません。それに……その、ゲートですか。それがどれくらいの大きさかも分からないと、どうしようもありませんし」
「見せようと思えば、今すぐにでも見せられるぞ? この部屋は……うん、まぁ、ゲートを展開させない状態なら特に問題はないだろうし」
「え? その……もう、ゲートを持っていると?」
俺の言葉が予想外だったらしい。
目良は眠そうな様子のままではあったが、それでもその表情に驚きの色を強くする。
「勿論持っている。……ああ、そう言えばこれもまた個性ではなく別の世界の技術……いや、特殊能力になるのか。俺は空間倉庫といった能力も持っている」
この空間倉庫は、炎獣や影槍術なんかと違って説明しにくいんだよな。
いわゆる転生特典と呼ばれるものである以上、魔法とかと説明するにはちょっと無理があるし。
いや、この場だけでなら、魔法と説明しても目良やリューキュウ、マウントレディ達はその辺の情報について何も詳しくないので誤魔化せるかもしれない。
だが、後々……ゲートを設置し、ホワイトスターに行ってネギま世界の魔法使いと接触するような事があったら、空間倉庫なんて魔法は存在しないと知られる可能性もあった。
そうなると、嘘を吐いて騙していた事になり、この世界との関係に悪影響を与えかねない。
いやまぁ、ネギ辺りなら魔法の開発が得意だし、もしかしたら空間倉庫的な魔法を作れるかもしれないが。
とはいえ、ネギはシャドウミラーと友好的な関係にはあるが、別にシャドウミラーに所属しているといった訳でもないしな。
「空間倉庫……ですか。先程見せて貰った炎獣とは、また違った個性……いえ、能力のようですね」
そう言いながら、目良はリューキュウとマウントレディに視線を向ける。
だが、そんな目良の視線に2人は揃って首を横に振る。
「言っておくけど、この2人は別に知っていて黙っていた訳じゃない。空間倉庫については、単純に俺が言い忘れていただけだ」
「……もしかして、まだ言い忘れているような事があるんでしょうか?」
「さて、どうだろうな。忘れてるだけだから、それを思い出すのは難しいと思うぞ」
そう言う俺に、目良は無表情な様子で視線を向けてくるのだった。