俺は脳裏に浮かぶリストの中から、ゲートを選択する。
すると次の瞬間、部屋の中にゲートが……正確には展開する前の、コンテナ状のゲートが姿を現す。
「……セーフ、ギリギリ、セーフ」
その光景を見た俺の口から、そんな声が漏れる。
実際、本当にギリギリセーフだったのだ。
この部屋の大きさ……より正確には机や椅子を除いた空間的な余裕から、恐らく大丈夫だとは思っていた。
思ってはいたのだが、それでもまさかこうしてギリギリ……本当にギリギリセーフだったのは、ちょっと俺の予想が外れてしまった形だ。
……これもう少しコンテナが大きかったら、壁を破壊していたんじゃないか?
そして壁の向こうには、恐らくは目良の上司だったり、その上司の護衛だったり、そういう者達がいるのは気配で察知出来ていた。
つまり、ゲートのコンテナによって壁が破壊されていれば……最悪の場合、それが敵対行動と認識されてもおかしくはなかったのだ。
そういう意味では、今回の一件は本当にギリギリセーフだった。
「これが……ゲート……」
呆然とした様子でリューキュウの呟く声が聞こえてくる。
無理もないか。
コンテナは、見るからに重い。
一般人では到底持てないだけの重量があるのは、見れば何となく理解出来る。
この世界には個性があるので、一般人であっても実はこのコンテナを何らかの手段で持ち上げられてもおかしくはなかったが。
もしこのコンテナを持ち上げるのなら、それこそリューキュウがドラゴンに変身するか、もしくはこちらは声も出せない程に目を大きく見開いて驚いているマウントレディの個性の巨大化を使う必要があるだろう。
目良がどういう個性を持っているのかは分からないので、そっちについては何とも言えないが。
もっとも一般的に考えれば、このコンテナを運ぶといった事はそう簡単ではないのは間違いない。
「ああ、そうだ。……ゲームとかやるか?」
「え? いえ、私はあまり」
「私もですね」
「あ、私は小さい頃にRPGとかやってたわよ」
リューキュウと目良はゲームはやっていないと言ったものの、マウントレディは小さい頃にゲームをやっていたらしい。
それも、お誂え向きにRPGを。
この世界は個性という名の特殊能力が存在する。
その為、ゲームとかそういうのは俺が知っている世界よりも発展していないのかもしれないな。
そうなると、漫画、アニメ、小説といった類……特に、いわゆるファンタジーものや、もしくは現代を舞台に特殊能力を使って戦うような奴はあまり人気がないかもしれないな。
何しろ、個性という名の特殊能力があるのだから、それこそ自分達で出来るような内容になってしまうし。
勿論、自分達でも出来るような事だからこそ、自分の理想を反映させるという意味で人気が出る可能性もない訳ではないが。
スポーツを題材にした物語とか、今までの世界でも普通に人気があったし。
……あ、そう言えばこの世界におけるスポーツってどうなってるんだ?
個性を使わないでスポーツをするのか、それとも個性を使ってスポーツするのか。
ただ、個性は千差万別であると考えれば、平等性は保てないだろう。
普通の個性なら使わなければそれでいいが、異形型は常時個性が発動している訳だし。
その辺については、後で……この世界の一般常識を勉強する時にでも聞けばいいか。
「そうか。なら、マウントレディは分かるかもしれないな。RPGとかだと自分の道具を幾つも大量に持ち運べるだろう? そういうアイテムボックス的な能力だと思って貰えばいい」
「……個性として考えたら、かなり凄いわよ? いえ、炎獣とか瞬動とか、そういうのでも十分に個性として凄いとは思うけど」
しみじみと言うマウントレディ。
目良はそんな俺とマウントレディの会話を聞いて、納得した様子で頷く。
「そうですね、これ程の物を収納出来るのですから」
「ちなみに、こういうのも入ってるぞ」
そう言い、俺は幾つかの雑誌であったり、スーパーで買った弁当や惣菜といった物を取り出す。
その中でもちょっと豪華な弁当は、ペルソナ世界の稲羽市にあるジュネスの惣菜コーナーとかで買った奴だな。
「……凄いわね、これ。こういうのが……って、ちょっと、これ賞味期限大丈夫なの!?」
弁当を見ていたリューキュウが、そこに表示されている賞味期限を見て、驚きと共にそう言う。
ああ、普通ならそういうのが気になってもおかしくはないか。
「安心しろ。空間倉庫の中は時間が停まっている。つまり……そうだな、こんな感じだ」
そう言い、俺は空間倉庫の中から稲羽市……いや、八十稲羽か。りせの祖母がやっている豆腐屋のある商店街で購入した牛串を取り出す。
その牛串は熱々で、焼きたてだと一目で理解出来る。
「……これ、ステーキ串? 焼きたて?」
「そんな感じだな。こうして購入したのをすぐに空間倉庫に収納しておけば、空間倉庫から取り出した時はいつでも熱々だ」
「なるほど、凄いわね」
それは素直に感心した言葉。
俺に渡された牛串を、リューキュウは食べる。
食べる……が……
「熱々だけど、その……いまいちね」
「まぁ、仕方がない」
八十稲羽の、別に牛肉が特産でも何でもない商店街が売っている牛串だしな。
決して不味い訳ではないが、だからといって美味い訳でもない。
そんな……そう、点数にして50点から60点くらいの牛串だった。
「……出来ればもう少し美味しいのが食べたいんだけど」
「こっちの弁当とか惣菜とか食べるか? 異世界の弁当や惣菜と考えれば、実は価値が高かったりするかもしれないけど」
そう言うと、リューキュウもマウントレディも目良も、揃って微妙な表情を浮かべる。
その気持ちは分からないでもない。
異世界の存在だと思えば、確かに貴重なのは間違いない。
間違いないが、異世界の存在を示すのが弁当や惣菜というのは微妙だと思ってしまうのだろう。
それくらいなら、寧ろ最初に出した雑誌の方がまだマシのように思えるらしい。
実際、食べれば終わりの弁当や惣菜と違い、雑誌であろうとも本は本だ。
そこに書かれている内容は異世界の知識であり、興味を持つのはおかしな話ではなかった
もっとも、その雑誌は美味い店の特集なので、それを異世界の知識だと認識するのはちょっとどうかと思わないでもなかったが。
「それで、アクセル君。このコンテナが先程言っていたゲートとかいう……?」
雑誌を気にしていた目良だったが、自分の仕事を思い出したのか、それとも壁の向こう側にいる者から注意されたのか、話題を元に戻してくる。
「ああ、そうだ。今はこうしてコンテナ状だが、展開すればゲートとして使えるようになる。……この世界に妙な呪いとかそういうのがなければだけどな」
「……呪い?」
俺の言葉に訝しげな様子でそう聞いてくる目良だったが、オルフェンズ世界での出来事であったり、ダンバイン世界のような出来事を考えると、何らかの理由でゲートが正常に作動しないといった可能性は充分にあった。
特にこの世界には個性という特殊能力が存在している。
それが影響し、ゲートが正常に起動しないという可能性は……決して否定出来ない。
もっとも、生半可な力でそれは不可能だとは思うが。
それこそペルソナ世界で俺を追放し、オルフェンズ世界から出る事を禁止した伊耶那美大神と同等の力でなければ。
それもただ伊耶那美大神と同等の力という訳ではなく、伊耶那美大神が命を使って俺を追放したように、神が命懸けで俺をどうにかするような……それだけの力でなければ無理だ。
この世界においては個性という特殊能力があるのは間違いないだろう。
だが、同時に神に匹敵するような個性を持つ者が……いやまぁ、いないとは限らないけどな。
この世界も恐らく……いや、間違いなく原作のある世界である以上、そういうボス的な存在がいてもおかしくはなかった。
「ああ、呪いだ。非科学的だと笑うか?」
「いえ、そのような個性を持つ者もいますから」
どうやらそういう事らしい。
個性と一口で言っても、本当に色々と……そう簡単には把握出来ない程の個性の持ち主がいたりする訳だ。
この世界の住人の数は知らないので、その辺りはある意味で当然……いや、個性というのが存在するのなら、役所に個性を報告したりとか、そういう事はしないのか?
この辺の知識についても、後でこの世界の事を勉強した時に知った方がいいだろうな。
「そうか。まぁ、その呪いの個性によってゲートが発動出来なくなるという可能性も……決して否定は出来なかったりする訳だ」
個性というのが具体的にどこまでの能力なのか分からない以上、その辺は実際に試してみないと何とも言えない。
まぁ、世界そのものに影響を与えるなんて個性は、あったとしてもかなり希少だろうけど。
「……分かりました。ただ、確認ですが、そのゲートを使えばアクセル君の国に、世界と世界の狭間にあるという場所に行けるんですよね?」
「そうだな」
「そうなると、迂闊な場所に設置は出来ないという事になります。ヴィランがご迷惑を掛ける可能性がありますので」
なるほど、目良の言いたい事は理解出来た。
実際、この世界においては個性を悪用するヴィランはかなり多いらしいし。
オールマイトがNo.1ヒーローになってから、犯罪の発生率もかなり減ったらしいが。
ここに来るまでに知った話によると、いわゆる先進国の中でも日本の犯罪発生率は極端に低いらしい。
その理由が、どうやらオールマイトの存在らしい。
とはいえ、オールマイトがNo.1ヒーローになってから既に結構長いらしい。
年齢を考えると、いつまでも今のような状況が続くという事はない筈だ。
もっとも、その辺について考えるのは俺じゃなくてこの世界の者達だ。
順当に行けば、No.2がそのまま繰り上がってNo.1になると思う。
ネジレちゃんから聞いた話によると、エンデヴァーだったか?
「そうなると、土地を貰うのは不味いのか?」
「いえ、安全を確認出来る場所なら問題はないと思います。ただ、どこにするのかというのはすぐに決められません。アクセル君も迂闊な場所にゲートを設置したいとは思わないでしょう?」
「まぁ、それは否定しない」
特にこの世界になると、目良が言っていたがヴィランという存在がいる。
個性という名の特殊能力……それも決まった能力ではなく、人によってそれぞれ違う個性を持つ者達がいるのだ。
何か俺には理解出来ないような個性を使い、ゲートを経由してホワイトスターにヴィランが行ったらと考えると……考えると……うん、色々な者達に追われて捕まって、最終的には実験材料とかになりそうな気がするのは俺だけか?
ともあれ、ヴィランがホワイトスターに行くというのは俺としても遠慮したい。
俺が確保した実験材料としてのヴィランならともかくとして。
……ん? こうして考えると、実はヴィランがホワイトスターに行くというのはやっぱりそんなに悪くないのかもしれないな。
もっとも、それを目良に言うとヒーロー公安委員会に怪しまれるので、言う訳にはいかないが。
というか、今更……本当に今更だが、心を読む個性を持つ奴とかいないよな?
いや、そういうのがいたら、今までの俺の考えを読んでとっくに動きがあってもおかしくはないか。
「分かって貰えたようで何よりです。その為……アクセル君には悪いですが、土地を用意するにももう少し時間が欲しいと思います」
「……具体的には?」
「土地を欲しいという話を聞いたばかりなので、何とも言えませんが……最短でも数ヶ月、最長の場合は1年程は必要かと」
「ちょっと、それは長すぎない? 公安なんだから、土地くらいはすぐに用意出来るでしょ!?」
目良の言葉に不満そうにそう言ったのは、予想外の事にマウントレディだった。
マウントレディの性格を考えれば、それこそ自分には関係ないから放っておくといったように言ってもおかしくはないと思ったのだが。
とはいえ……
「いや、構わない」
「アクセル?」
まさか俺からそんな言葉が出るとは思わなかったのか、マウントレディは意外そうな視線を俺に向けてくる。
「公安にしてみれば、リューキュウやマウントレディから話を聞いていても……そして俺から話を聞いても、素直に信じることは出来ないんだろう。だからこそ今は時間を稼ぎたい訳だ。……違うか?」
そう言い、目良の方を見るが……目良は俺の言葉に何の反応も示さない。
反論もしなければ、頷いたりもしない。
それはつまり、同意はしないが無言で俺の言葉が正しいと認めている事に間違いはなかった
もっとも、この様子を見ると目良本人はその件について別に俺に知られてもいいと、そう思っている様子だったが。
そうなったらそうなったで構わないと、そのように思っているのだろう。
こっちとしても、相手がこっちを警戒するというのは悪い話ばかりではない。
その為、俺は目良に向かって笑みを浮かべるのだった。