俺の言葉に、マウントレディは理解出来ないといった様子で視線を向けてくる。
「アクセルの言いたい事は分かったけど、なら何でアクセルは公安の考えが分かっていても、素直にそれを受け入れようとしてるのよ?」
「見た感じ、今は公安の思惑に乗っても問題ないと判断したからだな」
実際、この時点で……詳細な情報を信じる信じないかは別として、こうして俺をまだ自由にしているという時点で、公安は温い。……いや、人道的といった表現の方が正しいかもしれないが。
とにかくこちらに歩み寄ろうという姿勢が見て取れる以上、俺としては素直にその言葉を信じてもいいだろうと、そう思ったのだ。
最悪の展開としては、それこそ公安が俺と敵対し、リューキュウやマウントレディを人質に、俺を言いなりにしようとするとか、そんな感じだったが。
もっとも、リューキュウはドラゴンに、マウントレディは巨大化するといった個性の持ち主である以上、そういう事をするのはかなり難しかったが。
それこそ最悪の場合、公安の支部の1つであるこのビルが破壊されるような事になってもおかしくはないのだから。
「……こちらの意図を汲んで貰えて何よりです。どうやら、アクセル君も私達と上手くやっていけそうで何よりですね」
「土地の件でそこまで理解して貰えて嬉しいよ。……ああ、それと公安が国の組織なら、俺の戸籍を作ってくれると嬉しいな」
空間倉庫の中にある、技術班謹製のハッキングツール。
それと影のゲートを使えば、俺の戸籍を偽造するのはそう難しい話ではない。
だが、既に公安に俺の存在が知られている状況で俺の戸籍を作ったりしたら、丸分かりだろう。
これが公安と接触する前……いや、それこそリューキュウやマウントレディの模擬戦をやっている場所に姿を現すのではなく、誰にも見られていない場所に転移をしていたのなら、そういう事も出来たかもしれないが。
それに……個性という特殊能力は千差万別。
中にはネット関係やコンピュータ関係の能力を持ってる奴がいる可能性は十分にあった。
その手の個性と技術班謹製のハッキングツールのどちらが勝利するのか……少し興味深いとは思うが、だからといって公安と話を通した以上はそれを試す訳にもいかないし。
「なるほど、分かりました。そちらなら土地の件についてよりも対処が簡単なのでやらせて貰います。ただ、その……」
「うん? どうした?」
何やら言いたげな様子の目良にそう尋ねると、目良は少し申し訳なさそうな顔をしながらもゲートを……正確には展開前の、コンテナ状のゲートを見る。
「これ、そろそろどうにかして欲しいのですが。興味深い代物ではありますが、いつまでもこのままにしておくのは色々と不味いですし」
目良の言葉に、そう言えば……と、そちらに視線を向ける。
この部屋の大部分を占拠しているゲートのコンテナは、今もそこにある。
ぶっちゃけ、ここにコンテナがある以上、部屋から出るのも難しいだろう。
そんな訳で、俺はコンテナに触れて空間倉庫に収納する。
「……その空間倉庫ですか。それだけでもの凄い個性ですね。ああ、いや。個性じゃないんでしたか」
一瞬にしてコンテナが消え、空間倉庫に収納された光景を見て目良がそう言ってくる。
「そうだな。俺にとってはもうあって当然といった能力ではあるが」
そう言いつつも、目良の言葉には納得するしかない。
目良は空間倉庫についての詳細な能力は知らないが、それでも目の前でちょっと見ただけで空間倉庫の有用性には気が付いたのだ。
もっとも、目良が理解出来ていない空間倉庫の能力もあるが。
例えば、空間倉庫の中に入れて置けば時間の流れが停まる。
つまり食料とかそういうのを大量に入れておいても、腐る事はない。
そして容量が無限。
いやまぁ、こっちについては正直なところ本当に無限かどうかは分からない。
ただ、ホワイトスターとかUC世界のコロニーとか、ルナ・ジオンの本拠地なったクレイドルとか、そういうのを普通に入れておけるのだ。
それを知ったら、目良は……ヒーロー公安委員会はどう思うんだろうな。
ふとその辺りが気になったものの、その件については今はまだ話す必要はないだろうと、黙っておく。
「もしゲートを設置し、アクセル君の国と自由に行き来出来るようになれば、私達もそのような個性以外の特殊な能力を使えるようになるのですか?」
そう言い、俺に視線を向けてくる目良。
なるほど、どうやらこれが目良にとっては本題……正確には本題の1つだったらしい。
勿論最初から本題だった訳ではなく、俺から話を聞いている中で本題になったというのが正確かもしれないが。
「正直なところ……分からない。これがもし他の世界の普通の人間なら、魔法は誰であっても特殊な事情でもない限り、習得出来る。だが、この世界には個性がある以上、魔法を習得出来るかどうかは分からない」
高畑のように呪文の詠唱が出来ない体質といったように、魔法を使えなかったりはする。
だが、個性は……どうなんだろうな。
正直なところ、俺の予想では個性を持っていても普通に魔法を習得する事は出来ると思う。
思うのだが、それはあくまでも俺の予想であって、実際に試してはいない。
もしかしたら俺の予想が外れて、個性持ちはその個性によって魔法を習得出来ないといった可能性はあるかもしれなかった。
「分からない、ですか」
「そうだな、分からない。実際に試してみれば分かるかもしれないが、俺は感覚で魔法を使っているし、それを教えるのもそんなに上手い訳じゃない」
ましてや、魔法を習得する時に便利な魔法球も当然ながらこの世界には存在しないしな。
だからこそ、俺としてはもしこの世界で個性を使える者に魔法を習得させるなら、独学か……あるいは、それこそゲートを設置してホワイトスターと行き来出来るようにして、ネギま世界の魔法使いに教師となって貰う必要がある。
その時も、魔法球を使ったりとかはまず出来ないだろうが。
何しろ、魔法球はシャドウミラーにとってもトップシークレットだ。
もしくはトップシークレットの秘密だ、か?
頭が頭痛的な意味で。
「そう、ですか。それは残念ですが……仕方がないですね」
「そうだな。早くヒーローに魔法を習得させたいのなら、少しでも早くゲートを設置出来る場所を用意する事だな」
「……考えておきましょう」
目良が内心でどのように思っているのかは、俺には分からない。
分からないが、それでもこうして言ってきたという事は、恐らくはそれなりに検討してはいるのだろう。
実際にそれがどうなるのかは、俺にも分からないが。
あるいは、壁の向こう側にいるだろう者達が何かを考えている可能性も否定は出来ない。
「さて、じゃあゲートについての話も終わったし、これで今回の用件は終わりか?」
「……まぁ、そうですね。出来ればもっと色々と聞きたい事もありますが、今日聞いた話だけでも、色々とこちらで纏める必要がありますから。……また睡眠時間が減る……」
最後はボソリと呟いた目良だったが、当然ながらその言葉はしっかりと俺の耳に入っている。
目良にしてみれば、俺に関する一件がなければもっとゆっくりと眠れていたらしい。
いや、でも考えてみればそうでもないのか?
元々俺の件が報告されたのは今日だ。
なのに今の時点で既に目良は寝不足だった。
それはつまり、俺の件がなくても目良は寝不足だったということを意味している。
それでも俺の件が影響して今日は仕事がより忙しくなったのは間違いなかったが。
その件については悪く思わないでもなかったが、だからといって俺にとっては必要な事だったしな。
「悪いな。じゃあ、俺はこの辺で……」
「いえ、待って下さい。さすがに今のような状況でアクセル君を自由にさせる訳にはいきません」
「へぇ……なら、監視でもするのか?」
挑発的に言う。
例えば目良が監視をする為に俺と一緒に行動するとなると、これから色々と面倒な事になってもおかしくはない。
俺としては、それは出来る限り避けたかった。
それこそ俺がどう行動をしようとも、俺の後をつけてきたりしかねないし。
だが、そんな俺の挑発的な言葉に対し、目良はリューキュウに視線を向ける。
「リューキュウ、お願い出来ますか?」
「ええ、分かってるわ。アクセルの面倒は暫く私が見るから」
俺にとっては目良の行動は突然のものだったが、どうやらリューキュウにとっては違ったらしい。
そのように言われると予想していたのか、それとも前もって話を通していたのか。
ネジレちゃんから話を聞いた限りだと、リューキュウはそのクールビューティな外見に反して面倒見がいいらしいしな。
そういう意味では、目良の言葉にこのように反応するのもおかしくはない……のかもしれないな。
けど……リューキュウか。
これで相手が目良なら、俺も色々と言いたい事があるんだが、この世界に来てから色々と世話になったリューキュウが相手となると、俺としても不満を言いにくい。
……これで実はマウントレディが俺の面倒を見るとかなら、何となく色々と言えたりもしたような気がするが。
「……何よ?」
「いや、何でもない」
女の勘か、あるいはヒーローの勘か。
とにかく不意にマウントレディが俺を見てそう言ってきたので、何でもないと首を横にふっておく。
ここで迂闊にマウントレディが見張り……というか、後見人? とかなら、適当に出来るといったようなことを言えば、マウントレディも不満を口にしそうだし。
まぁ、そうなったらそうなったで面白そうな気がしないでもなかったが。
「つまり、俺は暫くリューキュウの世話になると?」
「ええ、幸い事務所はそれなりに広いから、部屋に困る事もないでしょ」
リューキュウがあっさりとそう言ってくる。
なるほど、リューキュウの事務所はそれなりの広さがあった。
同時に、リューキュウの事務所に所属する者はそこまで多くはない。
これは単純にリューキュウが少数精鋭で事務所を運営すると考えているのか、それとも単純に人手不足なだけなのか。
まぁ、ドラゴンに変身するという……明らかに強力な個性の持ち主だと考えれば、人数はそんなにいらないという考えなのかもしれないな。
もっとも、ドラゴンという巨大なモンスターに変身するとしても、それではどうしようも出来ない事はあったりするだろうが。
ただ、ネジレちゃんがいるので、そういうところのフォローはネジレちゃんがする……のか?
ともあれ、そんな訳でリューキュウの事務所は人が少ない割に事務所は広く、寝泊まりする場所も十分にある訳だ。
ヒーロー事務所として泊まり掛けで仕事をする必要もある事を考えてか、風呂はないがシャワーの類もある。
そういう意味では、俺が寝泊まりするには十分な空間的な余裕がある訳だ。
「嫌かしら?」
「そうでもない。リューキュウの事務所はそれなりに快適そうだったしな。……とはいえ、寧ろ嫌なのかというのは俺がリューキュウに聞く事じゃないか?」
俺が住むのはリューキュウの事務所で、当然ながらリューキュウは事務所に住んでいる訳ではなく、別にきちんと部屋を持っている筈だ。
そういう意味では、俺が事務所に住むのはリューキュウと一緒に暮らすという訳ではないが……ただ、それでもリューキュウも日中は事務所にいる事が多い。
つまり、何だかんだと俺と一緒にいる訳だ。
リューキュウの事務所には男もいるが、それはあくまでもリューキュウが雇っている人物……つまり、信頼出来るとリューキュウが判断した相手だ。
それに対して、俺は今日初めて会った人物。
しかも、この世界の人間ではなく異世界からと自称する存在だ。
そのような俺を相手に、リューキュウは完全に信頼出来るかと言われれば……正直微妙だろう。
それでも家ではなくあくまでも事務所なので、男女間的な意味での問題は起きにくいだろうが。
「別にいいわよ。アクセルとはまだ会ったばかりで……正直なところ、心の底から信じてるとまでは言えないけど、だからって見捨てる訳にもいかないでしょ」
これがリューキュウがネジレちゃんとかに信じられていたり、他の事務員達にも好かれている理由なんだろうな。
クールビューティなように見えて、面倒見がいい。
目良もその辺を理解していたから、リューキュウに話を持っていったんだろうし。
「……まぁ、リューキュウがそう言うのなら、分かった。とはいえ、普通ならこういう時は公安がどうにかするんだと思うけどな」
「先程も言いましたが、アクセル君がそれでいいのなら私は構いませんよ? ただ、うちとしてもアクセル君のような存在と接するのは初めてな訳で……だからこそ、こちらに悪意を持たれたり、あるいは何らかの問題が起きないようにしたいと考えている訳で」
そう言われると、俺としても先程のやり取りの件があり、リューキュウの世話になるという提案を断る事は出来なかった。