公安との話も大体が終わった。
いやまぁ、先程目良が言ったように、本来ならまだ色々と聞きたい事はあるのだろうが、今はまず公安の方で今日俺から聞いた情報の整理とかそういうのをしたり、俺とどのような関係を築くのかを考えたいのだろう。
もっとも、目良の様子を見る限りでは俺との関係は友好的にしたいと思ってはいるようだったが。
決して俺を捕らえて情報を吐かせたり、あるいは何らかの実験に利用したりといった事をするようには思えなかった。
とはいえ、それはあくまでも目良との話の中で俺が感じた事だ。
壁の向こう側にいる者達、あるいはこの建物にいない公安のお偉いさんとかは、そういう風に考えて独自に動くといった可能性も否定は出来なかったが。
何しろ、俺の存在はこの世界において色々な意味で爆弾なのだから。
特に公安側を揺さぶったのは、やはり誰でも習得出来るという魔法だろう。
……実際にはこの世界における特殊能力である個性がどのように影響するのか分からないので、何とも言えないのだが。
その辺をしっかりと確認するのなら、それこそさっきも俺が目良に言ったように出来るだけ早くゲートを設置出来る土地を用意して欲しい。
公安にゲートの件を話したのはちょっと失敗だったか?
そう思わないでもないのは、ゲートは基本的に1つの世界に1基しか設置出来ず、しかも一度設置したゲートを動かすとなると、それはそれでかなり面倒だからだ。
今まで何度か設置したゲートの移動をした事があるが、実はレモンから下手をしたらかなり危険なことになると言われていたりもするので、出来るだけ避けたい。
つまり、影のゲートを使ってどこか……それこそ日本の山奥、あるいは国外の無人島とかそういう場所にゲートを設置しておいて、公安から土地が提供されたら改めてそちらにゲートを設置するというのは、可能な限り避けたい。
「え? ちょっと待ってよ。私も?」
ゲートの取り扱いについて考えていると、不意にマウントレディの声……それも大きな声が聞こえてくる。
何だ? と思って視線を向けると、マウントレディが納得出来ないといった様子で目良に絡んでいた。
「マウントレディの気持ちも分からないではないですが、アクセル君の重要性を考えるとリューキュウだけではいざという時に手が回らないかもしれません」
「なら、他のヒーローにでも……」
「アクセル君の件は重要な機密です。おいそれと関係ない相手には話せませんよ。そういう意味では、関係者のマウントレディはうってつけかと」
「う、それはまぁ……そうだけど……」
あれ、何だかマウントレディが照れている?
今の目良の言葉のどこに照れる要素があったんだ?
そんな風に疑問を抱いたが、マウントレディが不機嫌になった訳ではないので、それはそれで悪くない。
もしここでマウントレディが本格的に不機嫌になったら、その機嫌を直すのがまた大変だっただろうし。
「マウントレディ、お願い出来ない?」
「う……リューキュウ先輩にそう言われると……私の訓練に付き合ってくれる人は少ないですから、それに付き合ってくれるリューキュウ先輩には恩を感じてますし」
不承不承といった様子のマウントレディ。
マウントレディの個性は巨大化だ。
そんな巨大になったマウントレディとの模擬戦が出来る相手というのは、どうしても限られているだろう。
もっとも、個人的には巨大になれる相手が少ない以上、模擬戦をするのなら小さい相手の方がいいと思うんだが。
いや、ふむ……そうだな。
「マウントレディ、ちょっといいか?」
「何?」
まさかこの状況で俺に声を掛けられるとは思っていなかったのか、マウントレディは不思議そうな視線を俺に向けてくる。
「今言っていた訓練だが、リューキュウのような巨大な相手との模擬戦は……意味がないとは言わないが、それでもやっぱりヒーローとして活動する上では、小さな相手と模擬戦をする方が正解なんじゃないか?」
「それは……けど、仕方がないじゃない。私の個性が巨大化なんだから、普通の人を相手に訓練したりしたら、相手に怪我をさせてしまうかもしれないんだから」
そう言われると、なるほどと納得する。
勿論、個性は人によって違う。
中には巨大化したマウントレディの一撃に耐えられるような者もいるだろう。
だが、マウントレディにしてみれば、総合的に考えてそういう相手との模擬戦は厳しいといった感じか。
なら……そうだな。
「もし俺の一件に協力してくれるのなら、俺が模擬戦の相手を務めてもいい。マウントレディも知っての通り、俺は強いしな」
「それは……」
俺は強いと言い切るが、マウントレディはそれを否定しない。
実際にそれが間違っていないと、そう理解出来るからだろう。
「マウントレディにとっても、悪くない話だとは思うが?」
そんな俺の言葉に揺れているマウントレディに対し、目良は追撃を仕掛けるように口を開く。
「勿論、私達に協力して貰えるのなら、協力金という名目になりますが相応の謝礼を支払います」
「キタコレ! アクセルが困ってるんだから、ヒーローである私が手を貸さない訳がないでしょ」
一瞬にして態度を変えたな。
というか、キタコレ?
もしかして、マウントレディってヒーロー業が上手くいってないのか?
そう考えると、思い当たるところがない訳でもない。
具体的には、俺がこの世界に転移してきた場所……リューキュウとマウントレディが模擬戦をやっていた場所なのだが、あそこから出た時、そこにいたのはネジレちゃんを始めとした、リューキュウの事務所の面々だった。
あの時はまだこの世界の事情を殆ど理解出来ていなかったし、バスで来ていたのでリューキュウが用意した為に、マウントレディの事務所からは人が来ていないと思った。
だが……もしかしたら、単純にマウントレディの事務所には人員も殆どいないとか、そういう可能性は十分にある。
「……何よ?」
俺の視線に気が付いたのか、あっさりと掌を返したマウントレディがジト目を向けてくる。
それに何と答えればいいのか迷ったが、結局首を横に振る。
「いや、何でもない」
「言っておくけどね、私が巨大化出来るのは道路が2車線ある場所が最低限なんだからね。それ以外の場所で巨大化したら、周囲の施設に被害がいくのよ。それに、巨大化してから戦う場合だって、周囲に注意して戦う必要があるし。ヴィランはそういうのは関係なく戦ってるのによ? なのに、取り押さえる際に周囲の建物を壊したら、私の責任という事になって弁償しないといけないし……それで、事務所に大きな利益がある訳がないでしょ!?」
話しているうちに段々と興奮してきたのか、マウントレディの言葉が強く、荒くなっていく。
いや、けど……なるほど。
マウントレディの個性を考えれば、そういう風になってもおかしくはないのか。
ヒーロー稼業の難しいところ……そう思い、ふとリューキュウの方を見る。
「あー……その……」
リューキュウは俺が視線を向けた理由について理解したのだろう。
困った様子でそっと視線を逸らす。
マウントレディは巨大化の個性を持つが、リューキュウはドラゴンに変身する個性を持つ。
そしてドラゴンとなったリューキュウもまた、普通の人とは比べものにならない程に大きいのだ。
だが、そんなリューキュウはヒーローとして活動する時、周囲の建物に被害を与えてはいない。
それはつまり、リューキュウの方がマウントレディよりも大きくなった時の動きを理解しているという事なのだろう。
もっとも、巨大化という事で巨人となるマウントレディと、ドラゴンとなって空を飛んだり出来るリューキュウでは色々と前提条件も違うが。
また、マウントレディがリューキュウを先輩と呼んでいるように、リューキュウの方がヒーロー活動歴が長い。
つまり、それだけ経験を積んでいるということを意味していた。
「ちょっと、アクセル。私の話を聞いてるの!?」
リューキュウに視線を向けていたのに気が付いたのか、マウントレディは不満を露わにそう言ってくる。
「ああ、聞いてるよ。とにかく、マウントレディも俺に協力してくれるって事でいいんだな?」
「それと、アクセルがああいう風に言った以上、一度は模擬戦をやって貰うわよ」
「模擬戦? マウントレディがやりたいのなら、俺としては構わないけど」
マウントレディにしてみれば、俺があそこまで言った以上、模擬戦をやりたいと思うのは当然の話なのだろう。
もっとも、俺の実力は最初に会った時に見せている。
それを見た上で模擬戦をやろうと言う辺り、やる気はあるんだろうな。
向上心……という表現が当て嵌まるのかどうかは、俺にも分からないが。
それでもこうして負けず嫌いというのは、悪い話ではないと思う。
「話は決まりね! 後は、協力金というのが幾らかによるけど……」
「勉強させて貰います」
マウントレディが視線を向けると、目良はそう言う。
目良にしてみれば、ここでマウントレディの言葉を受け入れれば、自分達の要望通りになると思っているのだろう。
……金さえ払っておけば思い通りになってくれるのだから、ある意味で目良というか、公安にとっては扱いやすいよな。
金……ああ、そうそう、この件があったな。
「目良、ちょっといいか?」
「はい、なんでしょう?」
「俺が暮らす上での生活費とか、ある程度自由に使える金ってどうなる? まさか、それもリューキュウに出して貰う訳にはいかないだろうし」
それだと、完全にヒモだしな。
いやまぁ、リューキュウのような美人のヒモになるのは悪くないとは個人的に思う。
ただ、普通に生活するだけならヒモでもいいだろうが、俺がこの世界でやるべき事は多い。
それをやる……具体的には資料とかそういうのを集めるにも、当然ながら金は必要となる。
その辺の店で売ってるような本なら、数千円……高くても1万には届かないだろう金額だろうが、本格的な資料となれば、それこそ数万、数十万……場合によっては数百万の値段がついてもおかしくはないのだから。
まさか、そんな金額をリューキュウに出して欲しいとは言えないしな。
いやまぁ、俺が本物のヒモなら、あるいはどうにかなるかもしれないが……生憎と、俺の本職はヒモではなく……ヒモではなく……あれ? 俺の本職って一体何なんだ?
シャドウミラーの代表であるのは間違いないが、それは一種の象徴的なものだ。
実際の仕事は基本的に政治班に任せていて、俺が国を率いる者としての働きなんて、特にやっていない。
となると、軍人?
いや、そもそも俺は単独で行動しているから、軍人というのはちょっと違う。
そうなると、未知の世界に行く的な意味で、未知の世界を探求する存在、つまり冒険者とか?
……まぁ、ネギま世界とか、もう行けなくなったが門世界とかなら、冒険者とかそういうのでもありかもしれないが。
「アクセルを事務所に住まわせるのはいいけど、生活費までは確かに……いえ、やろうと思えばどうにか出来るとは思うけど、ヒーローとして外聞の問題を考えると避けた方がいいでしょうね」
「俺もそう思う。それに、俺が欲しがる物の中にはかなりの貴重品とかそういうのがある可能性もあるし。その金額までリューキュウに出して貰っていたら、ヒモでしかないだろう?」
「ぶっ!」
ヒモという俺の言葉に何故か噴き出すリューキュウ。
そして慌てた様子で……それこそ目を白黒させたような感じで俺の方を見てくる。
うーん、この様子を見る限りだとリューキュウってそっち方面には疎いのか?
美人で仕事の出来る女でありながら、恋愛方面は得意ではない。
何となく……本当に何となくだが、UC世界のモニクを思い浮かべてしまう。
取りあえず噴き出したリューキュウについては、見ない事にして話を続ける。
「そんな訳で、自分で使う金くらいは自分で用意したい。……けど、今はまだ戸籍とか身分証とかの問題で、貴金属店とか古物商とか、そういう場所に金塊とかそういうのは持ち込めないしな」
「……金塊、ですか。よろしければ見せて貰っても?」
目良の言葉に、俺は特に不服そうな様子もないまま頷き、空間倉庫からアタッシュケースを1個取り出す。
そして開けると、そこには金塊がぎっしりと入っていた。
「うわ……」
真っ先に声を上げたのは、マウントレディ。
話を聞く限りだと、マウントレディは金銭的に困ってるようなので、金塊を見て驚くのは当然だろう。
そんなマウントレディとは裏腹に、目良は金塊をじっくりと見ている。
何故用意してあったのかは分からないが、白い手袋を取り出し、こちらに視線を向けてくる。
目良が何を言いたいのかは理解出来ているので頷くと、目良は慎重な様子で金塊に手を伸ばす。
「これは……私はそこまで詳しい訳ではありませんが、以前見た金塊と同じような感じに見えます」
どこで金塊を見たんだ?
そう思ったが、恐らく公安としての仕事で何かそういう機会があったのだろうと納得しておく。
「アクセル君、これは一体どうしたのです?」
「どこの世界だったか忘れたけど、テロリストかマフィアか……とにかくそういう連中のアジトを襲った時に入手した物だな」
そう告げる俺の言葉に、目良は呆れの視線を向けてくるのだった。