テロリストやマフィアといった組織から盗んだ金塊。
これまでそれなりに使ってきた覚えがあるのだが、まだかなりの量がある。
テロリストやマフィアといった裏の組織が、どれだけ違法に金を稼いでいるかを示す証拠だな。
「金塊を裏の組織から……テロ組織はともかく、マフィアというのは久しぶりに聞きましたね」
手にした金塊をスーツケースに戻しながら目良が言うが……
「え? どういう事だ?」
目良の口から出たのは、俺にとってもかなり予想外の言葉だった。
今の言い方だと、マフィアは殆どこの世界に残っていないと、そのように思えてしまう。
「言葉通りですよ。この世界において、マフィア……他にもギャングや、日本ではヤクザですか。そのような組織は……完全に壊滅した訳ではありませんが、ヒーローの活躍のお陰で殆ど生き残っていません」
「それはまた……」
目良の口から出たのは、俺にとってもかなり予想外の言葉。
というか、これもヒーローというこの世界特有の事情なんだろうな。
「なので、アクセル君からそのような言葉を聞いて驚いたのですよ。……とはいえ、これだけの金塊となると、マーケットを荒らす事になりそうなので、これを全て資金に変えるというのは難しいかと」
「だろうな」
目良の言葉にそう返す。
ヤクザとかがほぼ絶滅状態なのはちょっと予想外ではあったが、こちらについては何となく予想出来た言葉だった。
金の取引というのは、そこに一気に大量の金が……金塊が流れ込むような事があれば、市場が大きく荒れる。
それはこの世界でも変わらないのだろう。
個性やヒーロー、ヴィランといった存在によって色々と俺の常識が通用しない事があるこの世界だが、その辺は変わらないのだろう。
とはいえ、個性という特殊能力が存在する世界だ。
そう考えると、金を生み出す個性とか、そういうのがあってもおかしくはないと思うんだが。
そんな風に思いつつ、次に別のケースを取り出す。
「なら、これとかはどうだ?」
そう言い、ケースを開けると、そこにあったのはダイヤモンド。
大小様々なダイヤモンドで、他にも希少性の高い……いわゆる、カラーダイヤモンドと呼ばれるダイヤも多数ある。
青、黄色、オレンジ、茶、黒……そして最も希少性が高いと言われる赤いダイヤ。……レッドダイヤの類もあった。
「これは……ダイヤモンドですか? これ程たくさん……これもまた、テロリストのような裏の組織から?」
「そうなるな。俺にしてみれば、そういう連中はいい金蔓だ」
実際、俺が口にした言葉は決して間違ってはいない。
そういう連中はまさか魔法などというのが存在するとは思っていないし、あるいは俺を見つける事が出来ても魔力や気がなければ俺にダメージを与えられない。
もっとも、それはつまりネギま世界に行った後の話であって、それ以前であれば俺に対しても銃弾とかで普通にダメージを与えられたのだが。……あくまでも命中すればの話だが。
ともあれ、そんな訳で裏の組織というのはありがたい金蔓なのは間違いない。
また、裏の組織であるが故に、警察とかに泣きつく事も出来ないというのがありがたかった。
いやまぁ、中には裏の組織であるにも関わらず警察に通報して、その結果として捕まったとかいう展開もあったりしたのだが。
他に心配するのは、俺が襲撃した組織の上位組織が落とし前として狙ってくるとかあったが……うん。まぁ、上位組織だろうとなんだろうと、俺をどうにか出来る訳もない。
そんな訳で、俺にしてみればその手の組織はまさしくカモでしかなかった訳だ。
「えっと……お話は分かりましたが、その……これらが本物かどうか、まずは私には分かりません。その手の審美眼はありませんので。また、これが本物であっても、貴重品すぎてこちらで売るのは……不可能とは言いませんが、かなりの時間が掛かります」
「ああ、言われてみればそうね。私が見たところ、このダイヤはどれも本物で、いわゆる人工ダイヤとかのイミテーションとかじゃないけど、それだけに買う方も限られるでしょうね」
ダイヤを見たリューキュウがそう言う。
……目良は審美眼がないと言ったのに、リューキュウはどうやら一目で本物だと判断したらしい。
これは単純にリューキュウがその手の事に詳しいのか、それとも個性でドラゴンになれるからか。
ドラゴンというのは、財宝を蓄えているといったイメージだし。
そういう意味では、リューキュウの個性で判別出来てもおかしくはない……と思う。
実際にそれが当たってるのかどうかは、俺にも分からないが。
「リューキュウ先輩、分かるんですか!?」
こちらは本物かどうか全く見分けがつかないといった様子のマウントレディ。
こういうところで、差がついたりしてるんだろうなと、そう思う。
「まあね。マウントレディも多少はこの手の知識を覚えておいた方がいいわよ? ヒーローとして活動する上で必要になる事もあるでしょうし」
「……そうですね」
そんな先輩後輩のやり取りを聞きつつ、俺は目良との話を続ける。
「つまり、これらのダイヤは希少すぎて駄目って事なんだな?」
「はい。カラーダイヤ以外のダイヤも、かなり大きいダイヤですから。そちらも売るとなると相応に手間が掛かるかと」
「だとすると……なるほど、こういうのの方がいい訳か」
そう言い、俺は新たに空間倉庫からケースを取り出す。
ただし、金塊やダイヤが入っていたケースと比べると、数段格が下がるケースだ。
そしてケースを開くと、そこにも宝石が入っている。
ただし、先程のダイヤと比べるとかなり小さな宝石だ。
種類もダイヤモンド以外に、エメラルドやサファイアといった一般的な宝石の数々。
そういう……ダイヤよりも劣る宝石だからこそ、今のように手っ取り早く金に換えたい時には便利だと判断したのだ。
そんな俺の予想を裏付けるように、目良は新たに出した宝石を見て頷く。
「はい、こちらで問題ありません。このような宝石なら、恐らく私達の方で金に換える事も出来るでしょう。もっとも、全てを一気にという訳ではなく、ある程度時間を掛けて少しずつといった流れになるでしょうが。それで構わないでしょうか?」
「ああ、こっちはそれで問題ない。俺にとっては、寧ろそっちの方が助かる」
いや、助かるというのは微妙に違うか?
もっとも、少しずつ金に換える……つまり、ある程度は定期的に金が入ってくるという事なのだから、俺にとって決して悪い事でないのは間違いなかった。
「では、そのように」
こうして話が纏まり、最後に出した宝石の入ったケース以外は空間倉庫に収納する。
取りあえずこれで、リューキュウのヒモにならずにすんだのは間違いない。
もっとも、ヒモならヒモで面白いとも思わないではなかったが。
「じゃあ……これで今日の話し合いは大体終わりか?」
「そうですね。ただ、これからも何度かアクセル君をここに呼ぶか、もしくは私がリューキュウの事務所に出向いて話をするようなことになるかもしれませんが、それはご了承下さい」
「なら、出来れば公安が私の事務所に来てくれる方がいいわね。私の事務所からここまでそれなりに距離があるし、毎回私が送ってくるのは大変だもの」
「リューキュウ、別に俺は何も分からない子供じゃないぞ? 電車なり、バスなり、あるいはタクシーなりを使えば、1人でも十分にここまで来られる。それに、俺をわざわざ呼び出すんだから、タクシーの代金くらいは公安で払ってくれるんだろう?」
後半を目良に聞くと、困った様子ではあったが俺の言葉に頷く。
「そうですね。そのくらいなら……もしくはもっと手っ取り早くこちらから迎えの車を出すというのもありかと思いますよ」
「……なるほど、それもありか」
電車やバス、タクシーの類を使うよりも、公安から車を出して貰えばそれが一番手っ取り早いのは間違いない。
そうなれば、俺としてもわざわざ電車を使う為に駅や、バスを使う為に停留所に行く必要もないし、タクシーの運転手にどこまで行って欲しいと伝える手間もない。
特に最後のタクシーについては、俺はまだこの世界に来たばかりで、詳しい住所とかそういうのは分からないし。
勿論、ここが日本である以上、東京とかの大雑把な地域については変わらないのだろうが。
ただ、詳細な地域名とかそういうのは俺が知っている日本と違う可能性もある。
そういう意味では、タクシーの運転手に住所を知らせるよりも、公安から向かいにきた者が俺を運んだ方がいいのは間違いなかった。
「では、そのようにしますか? アクセル君がそれでいいのなら、こちらとしてはそういう風にしますが」
「ああ、それでも構わない」
面倒が少ない方がいいのは、俺にとっても当然のことではあった。
そうして最後の話も終わり、俺が今日やるべき事は終わる。
「じゃあ、帰りましょうか。……もう秋だし、暗くなるのも早くなってきたわね」
リューキュウが窓の外を見ながらそう言う。
明かりがついていたので分からなかったが、窓――逃亡防止用なのか開かないようになっている窓の外は、既に夕方も終わりに近付いているところだった。
そう言えば、今日っていつなんだ?
俺がホワイトスターのシステムXNで転移をしたのは、1月だった。
だが、当然ながらこの世界において時間も同じとはならない。
リューキュウが秋だしと言っていたことからも、9月……いや、9月はまだ夏か? そうなると、10月くらいか?
そう思って部屋の中を見回すと、そこには日めくりカレンダーがあって、俺の予想を裏付けていた。
「アクセル、どうしたの?」
俺がカレンダーを見ているのに気が付いたリューキュウがそう尋ねてくる。
どうやら俺がカレンダーを見ているという光景は、リューキュウにとって不思議な光景だったらしい。
……別に、ただカレンダーを見ているだけなんだから、そんなに不思議な光景には思えないんだが。
別に隠す事でもないので、俺はあっさりと口を開く。
「10月だった事に驚いただけだよ」
「……何でそれで驚くの?」
マウントレディが俺の言葉に不思議そうに聞いてくる。
マウントレディにしてみれば……いや、リューキュウや目良にとっても、俺が何に驚いているのかは分からないのだろう。
こればかりは、実際に転移した者でなければ分からないだろうから、仕方がないのだろうが。
「俺が転移をしたのは、1月半ばくらいだったからな。当然ながら転移をすると、その世界と俺の世界の暦が一緒という訳じゃないんだ」
「それは……つまり、もしゲートとかいう装置を使ってホワイトスターと行き来出来るようになったとしても、季節が違うという事ですか?」
目良のそんな言葉に、俺は頷く。
「そうなる可能性もある。ただ、ゲートを使って両方の世界を固定しない限り、時間の流れに差があったりする。例えばこの世界で10日が経ったけど、ホワイトスターでは1日だったり、あるいは30日だったりといった具合にな」
「それ……大丈夫なの?」
心配そうに聞いてくるリューキュウに対し、俺は問題ないと頷く。
「時間の流れの違い……俺は分かりやすく時差と言ってるが、時差があるのは間違いないが、それはあくまでもゲートを設置するまでだ。ゲートを設置してお互いの世界を固定してしまえば、もう時差は存在しない」
「世界が固定される事によって、何か問題はありますか?」
そう目良が聞いてきたのは、公安としての責務からだろう。
あるいは壁の向こう側にいる者にそう聞くように言われたのかもしれないが。
「いや、特にないな。……まぁ、ゲートを使えばお互いの世界を自由に行き来出来るというのは、人によっては問題と思うかもしれないな」
この個性という名の特殊能力のある世界の常識が、他の世界では非常識であったりもするだろう。
そうなれば、当然だがそのことを不満に思う者も出てきかねない。
そういう意味では、ゲートの設置による問題がないとは言えないだろう。
……もっとも、今までシャドウミラーが接触してきた他の世界の多くも、同じように認識していたりする。
そういう意味では、この世界においてもそれを受け入れられるかどうかだ。
「異世界の論理が入ってくる……なるほど、そうなるとやはりゲートの設置については慎重になる必要がありますね」
公安としての判断はそうなるのだろう。
「でも、そうなるとアクセルが自分の国に戻った時、友人達との間で時間が……」
リューキュウがそんな風に言うが、基本的にシャドウミラーにいる者達は時の指輪やその受信機を持っているので不老だしな。
勿論、数年単位……いや、十数年、数十年、場合によっては数百年単位で時差が生じたりしたら、洒落にならないとは思うから、出来るだけ早くゲートを設置した方がいいとは思うが。
「アクセル君には申し訳ないですが、もう少し我慢をして貰うしかありませんね」
そう言う目良の言葉に、俺はだろうなと納得するのだった。