「うーん、まさかあそこまでジャンプ出来るとは思わなかった。凄いね」
模擬戦が終わり、ねじれはそう言ってくる。
言葉通り、素直に俺を凄いと思っているらしい。
勿論模擬戦で負けたという事で、そこに悔しさもあるのだろうが……ねじれにしてみれば、それを認めた上で素直にこっちを褒めていた。
この辺、純真な性格をしてるが故だろう。
そう思って優を見れば……
「……何よ?」
俺の視線に何を感じたのか。
もしくは俺が何を言いたいのかを理解したのか、不満そうな様子でそう言ってくる。
ここで俺が優を見た理由を口にすれば、間違いなく面倒な事になるだろう。
なので、その件については口にせず、誤魔化すように別の内容を口にする。
「いや、ねじれのエネルギー波も厄介だったが、優の巨大化もかなり厄介だったと思ってな」
「ふーん。まぁ、私の個性が強個性なのは間違いないけどね。見た目も派手だから、人気があるし」
俺の言葉を完全に信じた訳ではないにしろ、優はそう自分の個性を自慢する。
実際、巨大化という事で一般的なMSよりも大きくなれる優の個性は、間違いなく優れている。
若手のホープとして人気が出てるのは納得出来ないでもない。
本人もそれを理解しているからこそ、こうしてやる気満々といった様子なのだろう。
……それが良い方に向いているので、俺に不満はないが。
実際、巨大化という優れた個性の持ち主である事を考えると、その能力に有頂天になってヒーローではなくヴィランになっていたという可能性も十分にある。
だが、優は現在マウントレディして、無事にヒーローになっている。
そう考えると、素直に凄いと思わないでもない。
いや、別にヴィランに、犯罪者にならないのは普通の事で、本来なら特に凄いとかそういう訳でもないのだろうが。
ただ、そこに個性という名の特殊能力が入ってくると、また話が別だったりする。
「さて、じゃあ……最後は私ね。アクセル、3戦続けてだけど、体力的に問題はない?」
「ああ、問題ない」
そう言うと、優は勿論、ねじれまでもが不服そうな表情を浮かべる。
ねじれにとっても、俺がこうしてまだ体力的に余裕なのは面白くないのだろう。
もっとも……優やねじれは知らないだろうが、今の俺が体力的に限界を迎えるなんて事は、そうそうない。
そもそも混沌精霊である以上、体力的な限界があるのかどうかがそもそも微妙なところだ。
魔力で身体が構成されている以上、魔力が少なくなれば限界近くになるが……うん。PPを使ってSPを、つまり魔力を上げまくったので、現在の俺は莫大な魔力を持っている。
また、スキルとしてSPブーストという複合スキルがあり、その中にはSP回復も入ってるので……うん。余程の事でもなければ魔力が切れるといった事はないだろう。
実際、今まで魔力が切れるというのは……うーん、いや、どうだろうな。
もしかしたらあったかもしれないが、もしあっても数回くらいだろう。
「じゃあ、審判はマウントレディにお願いするわね。はい、これ」
龍子が渡した拡声器を受け取る優。
別にこの拡声器が審判の証という訳ではないのだが……声を届けようとして考えれば、拡声器があった方が便利なのは間違いないしな。
そんな訳で、優も拡声器を素直に受け取る。
「じゃあ、私が終了と合図したら、すぐに模擬戦を終わってね」
優の言葉に俺と龍子はそれぞれ頷く。
そして今までと同じように200m程の距離を取ろうとしたところで……
「ねぇ、アクセル。マウントレディが模擬戦を始める前に個性を使って巨大化していたけど、そうなると私も模擬戦が始まる前に個性を使ってもいいのかしら?」
「構わないぞ」
龍子の言葉にそう返す。
なるほど、俺の速度を知っていれば、模擬戦が始まってから龍子が変身するよりも前に俺に接近されて、何も出来ないままでやられてしまう可能性が高い。
それを思えば、最初から変身した状態で模擬戦を行いたいという龍子の言葉は理解出来た。
……ただ、優の時にも思ったんだが、個性を使う前に襲われた時の事も考えて……いや、さすがにその辺について考えていないという事はないか。
多分だが、ある程度鍛えてはいるのだろう。
ただ、それがあくまでもこの世界の基準であるというだけで、俺には……というか、魔力や気を使うシャドウミラーの面々には効かないというだけで。
ともあれ、どうせなら生身での戦闘訓練もした方がいいのは間違いない。
今日の模擬戦が終わったら、その辺を話してみるか。
実際、優は個性を使えばMSよりも大きくなり、それによって狭い場所でヴィランを取り押さえようとすると周囲に被害が出る。
なら、周囲に被害が出ないようにするにはどうすればいいか。
簡単な事だ。個性を使わず、生身で敵を捕らえればいい。
ヒーローというのは自分の個性を使ってこそなのかもしれないが、それでも絶対に個性を使わないといけないという訳でもないだろう。
……これはつまり、突き詰めると10人に2人、つまり5人に1人は存在する無個性の者であっても、鍛えればヒーローになれるということを意味している。
まぁ、いざいという時の奥の手という意味で個性があるかないかというのは、大きな違いがあるのだが。
「そう、じゃあお言葉に甘えて……」
その言葉と共に、龍子の身体は急激に大きくなっていく。
優の場合はそのまま大きくなったといった感じだったものの、龍子の場合はドラゴンに姿を変える。
その光景は、俺から見てもさすがだと思う。
ヒーロービルボードチャートにおいて、龍子が人気の面で高い評価を受けている理由が、すぐに分かる。
ドラゴンというのは、それだけ人を惹き付けるものを持っているのだから。
「凄いな」
「あら、アクセルに喜んで貰えて何よりね」
ドラゴンに変身した龍子の口から、そんな声が返される。
「いや、凄いというのは喜んでいるようなことにはならないと思うんだが。……まぁ、いい。じゃあ、始めるか」
200m程離れて向き合っているので、当然ながらこのような会話も普通に話している訳ではなく、大声で……つまり、怒鳴るようにしてやり取りをしてるのだが。
もっとも、怒鳴ってるのは俺だけだ。
龍子の場合はドラゴンになって大きいので、自然と声も大きくなる。
「そうね。……マウントレディ、合図をお願い」
『じゃあ……始め!』
龍子の言葉に、優が拡声器でそう宣言する。
すると龍子は合図がされた直後に動く。
その出鼻を潰してもよかったのだが、ドラゴンの身体を人が操るとどう動くのか。
これが少し気になり、相手の出方を待つ。
すると龍子が変身したドラゴンは一気にこちらとの距離を詰めてくる。
ドラゴンの大きさ的には、一般的なMSよりも大きい優と比べるとそれなりに小さい。
だが、ドラゴンという時点で人よりも身体機能は上な訳で。
だからこそ、俺がこの世界にやってきた時、ここで龍子は優と模擬戦をやれていたのだろう。
そんな訳で、巨大化した優よりも大分速度は上でこちらとの間合いを詰めると、まず最初に……え?
「っと!」
てっきり前足の一撃でも放つのかと思ったら、いきなり反転したのに驚き、一瞬意表を突かれた。
だが、その反転した動きで俺に向かって尻尾の一撃を放ってきたのを目にし、その軌道を読んでしゃがむ……ついでに、少しだけ尻尾に当たるように手を出す。
するとザリザリザリと、鱗を纏った尻尾が俺の手の皮を軽く削っていった。
……なるほど。どうやら他の個性は分からないが、龍子の変身したドラゴンは普通に俺にダメージを与えることが出来るらしい。
やっぱり個性は俺にダメージを与えられるのか。
もしくは、何らかの条件を持っている特定の個性だけが俺にダメージを与えられるのか。
ともあれ、龍子の変身したドラゴンはその特定に当て嵌まるのは間違いない。
魔力を使い、削られた手の皮を癒やす。
そのまま距離を詰める。
ドラゴンという……人と比べると明らかな巨体。
それはつまり、懐に入られると対処するのが難しいということを意味していた。
これで俺の動きが遅いのなら、龍子も俺の姿を見失うといった事はないかもしれないが、自慢ではないが俺にはかなりの自信がある。
だからこそ、俺を一旦見失うと龍子はその場でどうにかするのは無理だった。
龍子もそれは理解しているのだろう。
即座に地を蹴り、空に逃げようとするが……
「っと、逃がすと思うか?」
「なぁっ!?」
まさか、足……正確には足の爪を持たれて動けなくなるとは思わなかったのか、ドラゴンの口から龍子の焦った声が出る。
「残念でした、と!」
「きゃあっ!」
そのまま、ドラゴンを地面に叩き付ける。
ただし、これは模擬戦で相手は龍子だ。
致命傷にならないことは勿論、重傷にもならないように手加減しての一撃。
とはいえ、龍子にしてみればドラゴンになった自分の身体が、まさかこうして勢いよく地面に叩き付けられるといった経験はなかったのだろう。
だからこそ、プロヒーローとは思えないような悲鳴を上げたのかもしれない。
とはいえ、俺がちょっと調べた限りだと、No.1ヒーローのオールマイトの個性はとんでもない身体強化といった感じだ。
実際、オールマイトならネギま世界に行ってもトップクラスの実力を持つような気がする。
……ただ、あくまでもトップクラスで、トップではないけど。
ただ、俺が知っているオールマイトの能力については、あくまでもTVであったり動画配信サイトで流れていたようなものなので、実際にどれくらいの実力があるのかは、分からない。
もしかしたら、ネギま世界でもバグと言われるラカン並の実力を持っている可能性は十分にあった。
そんな風に考えていると、龍子は地面に叩き付けられた状態から、ドラゴンの身体能力を使って跳ねるように起き上がりつつ、牽制として身体の捻りを使った尻尾の一撃を放つ。
その一撃を後ろに跳んで回避すると、次の瞬間には翼を羽ばたかせ、空に舞い上がる。
なるほど。ねじれと同じく、俺の攻撃が届かない場所に避難したか。
また、龍子の性格を考えれば、ねじれがミスったのと同じように攻撃が命中しないからといって俺に近付いて来たりはしない……しない……あれ?
空に舞い上がった龍子は、次の瞬間翼を羽ばたかせ、一直線に俺に向かって降下してくる。
あれ? 何で? ドラゴンならわざわざこんな危険な攻撃をしなくても、ブレスを使うなりなんなりすればいいのに。
そんな疑問を抱きつつ、取りあえず向こうから来てくれるのならこっちとしてもやりやすいのは間違いない。
地面を踏み締め、こちらに向かって距離を詰めてくるドラゴンを迎え撃つ。
十分に高度を起こしたところで、引き上げるように急降下をしつつ、そのついでに後ろ足の一撃を放ってくるが……
「残念」
次の瞬間、その足は俺の手に掴まれ……再びドラゴンに変身した龍子は身動きがとれなくなり……
「2度目だ、耐えろよ」
その言葉と共に、ドラゴンの身体を地面に叩き付ける。
先程よりも少しだけ威力を増した一撃は、二度目ということもあってかそれ以上動けなくなる。
『そこまで!』
そしてこれ以上龍子が動けなくなったと判断した優が拡声器で模擬戦の終了を宣言するのだった。
「マウントレディとの模擬戦を見た時もそうだったけど、アクセルって一体どうなってるのかしらね」
ドラゴンの身体から人間に戻った龍子が、そう言ってくる。
ちなみに今更……本当に今更の話だが、龍子がドラゴンに変身してる時はその服装は龍子の時の奴と同じだ。
まぁ、優も巨大化の個性を使った時、服装もそのまま大きくなっているのを考えると、そこまでおかしな事ではない……のか?
もっとも、優の場合は人間がそのまま巨大化するという個性だ。
つまり、身体の大きさは大きく変わるが、形状そのものは変わらない。
だが、龍子の場合は人間がドラゴンに変身する訳で、全体的なフォルムも大きく変わる。
なのに、服装はそのままってのは……こういう点を見ても、この世界の技術力って実はかなり高いんじゃないかと思う。
「残念だったな。……というか、何で空を飛んだ時にそのまま突っ込んできたんだ? ブレスとかそういうのを使えばよかったのに」
これは、あの模擬戦の時に素直に感じた疑問。
だが、そんな俺の言葉に龍子は困った様子で口を開く。
「アクセルが言いたい事は分かるわ。実際、ドラゴンと言えばブレスだし。ただ……残念ながら、私はドラゴンに変身は出来るけど、ブレスは使えないのよ。学生だった頃から必死になって何とかしようとしたんだけど……個性伸ばしでも無理だったわ」
龍子はそう言い、残念そうに首を横に振る。
個性伸ばしというのは、話の流れから推測すると、どうやら個性を鍛える事だな。
というか、個性って鍛えられるのか。
それをやっても無理という事は、元々ドラゴンには変身出来てもブレスは吐けない個性なのか、それとも殻を割らないと使えないのか。
そんな風に思いつつ、俺は龍子と話を続けるのだった。