転生とらぶる2   作:青竹(移住)

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4309話

「嘘……本当にこの点数?」

 

 雄英用の模擬試験本は、普通に本屋で売っていた。

 当然か。

 300倍という倍率の高校、しかも日本でもトップクラスの高校の模擬試験用の本だ。

 出版社にしても、出せば間違いなく売れるだろうという本を出さない理由はない。

 ……もっとも、同じような事を考えるのは他にも多数いるのは当然で、雄英用の模擬試験本は結構な数があったが。

 ちなみに士傑用の本も同じくらい売っていた。

 こういうのを見ると、西の士傑、東の雄英というのは納得出来るよな。

 

「どうだ、これで安心出来たか? ……まぁ、歴史とかはまだちょっと勉強が必要だろうけど」

 

 英語は100点、他の教科は90点台。

 ただ、唯一社会だけは60点だった。

 社会のテストの中の歴史が大きく足を引っ張った感じだ。

 ある程度の歴史までは俺の知ってる歴史の知識でどうにかなったんだが、やっぱり近代史というか、個性が出て来てからの歴史は間違いが多かった。

 ただ、社会の中で歴史の……それも個性が出てからの配点が妙に大きくないか?

 そうも思ったが、ヒーロー科の試験なら当然個性についての歴史もしっかりと勉強する必要があるのだから、そういう意味ではこの配点は間違っていないのだろう。

 ともあれ、歴史が込みの社会以外はどの点数も十分に合格ラインに達してるのは間違いないだろう。

 

「そうね。ただ……こうして見ると、ケアレスミスが結構あるわよ」

「あら、勿体ない」

 

 龍子の言葉に、ひょっこりと顔を出した優が俺をからかうようにそう言う。

 

「ケアレスミスは仕方がない……とまではいかないけど、どうにかして直していくしかないだろうな」

 

 90点台でケアレスミスがあったという事は、それがなければ100点に、あるいはそこまでいかなくても、もう少し点数が上がっていた可能性はあるのだろう。

 

「後は、やっぱり歴史ね。受験科目の中でも社会が……いえ、歴史が大きく足を引っ張ってるわ」

「それについては分かっている。2月の受験までに、そっちはどうにかするつもりだから安心しろ」

「いっそ、公安にその辺をどうにかして貰うとか出来ないの?」

「……優、お前本気で言ってるのか?」

 

 公安に何とかして貰うという優の言葉に、俺は呆れながらそう言う。

 あるいは公安ならその辺を何とかしてくれるかもしれない。

 だが、そうなれば俺は雄英の教師から疑惑の視線を向けられるだろう。

 公安にしてみれば、俺と公安の繋がりというのは極力隠したい筈だ。

 勿論俺の事については公安との関係を全て隠すといった事は出来ないだろうし、俺が一般の受験をするのも公安の後押しがあっての事である以上、それなりに繋がりがあるというのは雄英側でも知られているだろう。

 しかし、繋がりはあると認識していても、その繋がりの深さについてはそこまで理解出来ない筈だ。

 雄英から見れば、俺は個性事故によって龍子に保護されており、そんな俺のフォローで雄英を受けさせたという形だ。

 形なんだが……今更だけど無理があるよな。

 いやまぁ、俺の外見年齢から中学生くらいの年齢と認識して、高校受験をさせるというのは分かる。

 だが、雄英にしてみれば、それなら別に他の高校でもいいだろう……いや、300倍という雄英の倍率を考えれば、雄英を受験させる意味とは? と思うのは当然だった。

 公安にしてみれば、オールマイトが教師をするということで、来年の雄英の新入生には期待しており、だからこそ俺という存在をより大きな壁として雄英に入って欲しいのだろうが……そのカバーストーリー的に、無理があるのは間違いなかった。

 そんな中で、公安を通して俺を無条件で学科試験は合格にしろ。もしくはその後の実技試験も受けなくてもいいなんて事を言ったら、雄英の教師陣達にとって俺は一体どんな存在なんだ? と思われてもおかしくはない。

 ……もっとも、他の生徒達に対する壁として存在するという公安の目的を考えれば、そうなる為の実力を見せつけた時点で教師陣から一体どんな存在だと思われてもおかしくはなかったが。

 ん? あれ? だとすれば学科免除とかでも最終的には違わなかったりするのか?

 とはいえ、それが後で他の生徒達に知られたりすると面倒な事になりそうなので、やっぱり止めておいた方が無難なのは間違いないが。

 

「や、やーねぇ。冗談に決まってるでしょ。それより、模擬試験が終わったのなら、屋上に行きましょ」

 

 これはデートのお誘い……って訳では、当然ない。

 以前優に言った、生身での模擬戦のお誘いだ。

 巨大化という強個性を持つ優だが、大きくなってしまうと狭い場所では周囲の建物を破壊してしまう。

 その為、生身……つまり巨大化していない時の戦い方を教えるというのを、気にしているのだろう。

 

「龍子、構わないか?」

「構わないわよ。こうして実際にテストの点数を見せられれば、勉強しろとは言えないし。そもそもアクセルの場合、私が何を言わなくてもしっかりと勉強はしてるみたいだし」

 

 勉強というか、個性というこの世界特有の技術……現象? いや、能力といった表現の方が正しいか? とにかく、それについて調べてるだけなんだけどな。

 ただ、今回は偶然にもそれが俺にとっては有利に働いた訳で。

 

「勉強についてはともかく、気分転換はやれる時にやっておいた方がいいか。それに、これから冬になるから、外で訓練をするというのもそう簡単には出来なくなるし」

 

 既に10月も下旬だ。

 季節的にはまだ秋だが……気温という意味では、晩夏に近い。

 朝や夜は涼しくなってきたものの、今のような日中ではまだ30度越えの真夏日にはならないものの、25度を超える夏日は普通にある。

 もっとも、関東だけに冬になっても雪はあまり降らないし、東北とかと比べると最高気温がマイナスになるような日も多くはないので、暮らしやすいとは思うが。

 ……ただ、暮らしやすいからこそ、ちょっと雪が降っただけで電車が止まったりもする。

 そういう意味では、冬であっても普通に外で訓練をしても構わないのだろうが……何しろビルの屋上だけに、地上よりも風が強くなるのは痛い。

 

「分かったから、ほら、行きましょう」

 

 優が俺を引っ張って屋上に向かう。

 龍子も手を振ってそれを見送っていたので、俺も抵抗することなく屋上に向かうのだった。

 

 

 

 

 

「きゃあっ!」

 

 悲鳴を上げつつ、優は床に叩き付けられる。

 コンクリートの床だけに、当然ながら叩き付けられる瞬間にその身体を持ち上げ、与えられる衝撃は最低限になるようにはしているのだが、それでもある程度の衝撃はあったらしく、優は身体を……叩き付けられた場所を撫でながら立ち上がる。

 

「もう、少しくらい手加減してよね!」

「十分に手加減をしてるぞ。そもそも柔道? 柔術? とにかくこの手の格闘技がいいと言ってきたのは優だろう? ……まぁ、分からないではないけど」

 

 柔道にしろ柔術にしろ、正直なところ俺はそこまで詳しい訳ではない。

 士官学校にいた時に習った格闘技には柔道……いや、正確には柔道ではなく柔道と似たような系統の格闘技があったし、エヴァとの訓練では柔道ではなく柔術っぽいのを使われていて、自然とそれを習得している。

 吸血鬼のエヴァだが、ネギま世界で日本に来た時に有名な武術家に習ったとか何とかで、その手の技術はかなり得意だ。

 また、麻帆良にいた時は魔力の大半を封じられていた事もあり、柔術を使う機会も多く、磨かれていった。

 そんな柔術を俺もそれなりに模擬戦で食らっている。

 というか、シャドウミラーの対人戦闘においてはエヴァが教官的な存在なので、多くの者がエヴァの使う柔術を自然と身に付けており、半ばシャドウミラーの公式武術――というのは少し大袈裟かもしれないが――になっていたりする。

 それをこうして優や、以前訓練したねじれ、後は今日は訓練をしていないが龍子に使っている……つまり教えているというのは、ちょっと不思議な気分だな。

 

「ちょっと、何よその慈愛に満ちたような表情は」

「ん? 別にそんな表情を浮かべているつもりはなかったんだが」

「全くもう……ほら、続きをやるわよ」

 

 不満そうな様子ではあったが、優は立ち上がってそう言う。

 こういうところだよな、何気に優がヒーローとしてしっかりしてると思うのは。

 俺のイメージだと、優はそこまで必死になって訓練をするようには思えなかった。

 だが、今の様子を見れば分かるように、それなりに頑張って訓練をしているのは間違いない。

 そんな訳で、俺は暫く優の訓練に付き合うのだった。

 

 

 

 

 

「聞いて聞いて、アクセル。私、授業でミリオに勝ったんだよ! 嬉しい!」

 

 優との訓練から10日程が経ち、11月に入った頃、インターンでやって来たねじれが、事務所で勉強をしていた俺に向かってそう言ってくる。

 

「ミリオ?」

「そう、ミリオ。凄いよね。個性なしとはいえ、今までなかなか勝てなかったのに……嬉しい!」

 

 どうやらねじれの話を聞く限りだと、そのミリオという人物はかなり強いらしい。

 いや、けど……ねじれも次期ビッグ3と呼ばれるくらいには腕利きなんだよな?

 なのに、そんなねじれが今まで勝てなかったって事は、もしかしたら……いや、間違いなくそのミリオってのも次期ビッグ3と呼ばれる人物なのだろう。

 ビッグ3というくらいだから、3人いるのは間違いない。

 そうなると、もう1人同じような奴がいるのかもしれないな。

 それがどういう奴なのかは分からないが。

 

「そうか、おめでとう。……ああ、そうだ。なら、ちょっとした祝いにラーメンでも食べに行くか? 以前龍子に教えて貰った……いや、龍子がねじれに教えて貰った店」

「え? 本当? 行きたい行きたい、リューキュウ、いい?」

「あのお店は少し離れてるけど、そうね。パトロールついでに行ってきてもいいわよ。アクセルもたまには遠出をした方がいいでしょうし」

 

 龍子の許可が下りたので、俺はねじれと共にラーメン屋に行く事になる。

 ちなみに最近の俺は勉強や調べ物を中心に行っているものの、外に出ていない訳ではない。

 生身での戦いの訓練場として使われている屋上も一応外になるだろうし。

 それ以外にも本屋に行ったり、ファミレスとか食事をする店に行ったり、あるいは適当に散歩がてら事務所の近くを歩き回ったりもしている。

 そういう意味では、ずっと事務所の中にいる……いわゆる、引き籠もっている訳ではない。

 ただ同時に、俺の出歩く範囲が決まっているのは間違いなく、そういう意味で龍子が言うように遠出はあまりしていないのも事実だったりする。

 龍子が俺にたまには遠出をするように言うのは、そう考えるとおかしくはないのか。

 というか、龍子は優と共に俺の後見人という名の監視役でもあった筈なんだが……それだけ信用されていると思っておこう。

 

「じゃあ、行こう。アクセルと一緒に出掛けるのは楽しみ」

 

 龍子の言葉に本当に嬉しそうにねじれが言う。

 一応、俺も男なんだが……まぁ、男と2人で食事に行くとはいえ、雰囲気のあるレストランとかじゃなくて、ラーメン屋だしな。

 この世界のラーメン屋は……いや、どの世界のラーメン屋でもそうなんだが、昔ながらのラーメン屋とかとは違い、それこそ女でも1人で入りやすいようなラーメン屋がそれなりに多い。

 別に男女差別とかそういうのではなく、昔ながらのラーメン屋というのは例えば床が油汚れとかで滑りやすいので、ヒールの類でそういう店に入るとかなり危険だったりする。

 他にもそうだな。そういう店だけに馴染みの客が多くなり、身内のノリで話しているので、そういう場所に見ず知らずの女が入ってくると面倒な事になるのは間違いない。

 そういう店とは違い、券売機とかある……スタイリッシュな店? いや、この表現はちょっと違うな。

 ともあれ女でも普通に1人で入れるようなラーメン屋であっても、そういう店で一緒に食事をするのをデートとは到底言えないだろう。

 ……というか、それ以前にねじれの精神年齢は幼稚園児並であり、そんなねじれに恋愛とか分かるのかどうか。

 もっとも、ねじれは顔立ちが整っており、美人なのは間違いない。

 それでいて次期ビッグ3確定の優等生なのだから、そんなねじれに淡い想いを抱いている者は雄英にもいるだろう。

 それこそ、同学年だけではなく1年や3年にも。

 ただ、本人にその辺についての自覚がないので……ある意味で悪女なのかもしれないな。

 

「ほら行ってきなさい。それとねじれ、一応パトロールの一環だというのは忘れないでよ。……アクセル、何かあったらお願いね」

「分かった」

 

 そう答えるも、普通ならこういう場合は俺じゃなくてねじれに頼むんじゃないか?

 ねじれの性格を考えると、龍子もそれは難しいと思ったのかもしれないが。

 

「ぶー」

 

 そんな俺と龍子のやり取りを、ねじれは頬を膨らませながら、不満そうな様子で見る。

 ……その膨らんでいる頬を突きたいけど、それをやったら恐らく……いや、間違いなく怒りそうなので、止めておくのだった。

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