クリスマスイブの夜……当然と言えば当然だったが、龍子、優、ねじれは忙しく動き回っており、予定通りの時間にパーティは出来なかった。
「あーあ、もう25日になっちゃったか」
疲れた様子で優が言う。
その視線を追うと、時計の針は既に12時どころか、1時近い。
「でも、さすがに今日はこれ以上何もないでしょ。……そう油断してるところでヴィランが暴れたりするから、何とも言えないんだけど」
龍子の言葉は事実だ。
取りあえず夜になって忙しかった時間も終わったが、夜になればなった……それも日付が変わったら変わったで、何らかの騒動が起きたり、ヴィランが動いたりしてもおかしくはない。
「でもでも、アクセルのお陰で冷えたお料理を食べなくてもよくなったのは良かったね」
嬉しそうに言うねじれの視線は、テーブルの上に向けられている。
その言葉通り、テーブルの上にある各種料理……これもまた、龍子が予約をしておいた料理なのだが、どれもまだ出来たてだ。
今日は俺の空間倉庫、大活躍だな。
「本当にアクセルの空間倉庫って便利ね」
優が羨ましそうに言う。
これ、もし空間倉庫が俺のスキルとしてあるのではなく、例えば何らかの道具に付与された能力とかそういうのだったら、それが欲しいとか言ってもおかしくはない。
その場合でも、当然ながら渡すようなつもりはなかったが。
「だろう? 何しろ料理とかを入れておいても、この料理のように出来たてのままってのがいい」
「……他の人達も誘った方がよかったかしら?」
目の前の料理を見て、龍子が少し申し訳なさそうに言う。
とはいえ、他のサイドキックや事務員達は、家族や友人、あるいは恋人とパーティをやるという事で、寧ろ早く帰りたがってすらいた。
そうである以上、もし龍子が残ってパーティに参加しないかと誘っても、断っていただろう。
……もしくは、パーティに参加したくないのに参加させるといった、パワハラになりかねない。
その辺りを考えると、俺の事情を知っている面々だけで残ってこうしてパーティをやるのは悪くないだろう。
俺も気兼ねなくパーティを楽しめるしな。
「自分達で予定があるって言ってたし、それはそれで仕方がないだろ。それに、俺は最初からプレゼントを3つしか買ってなかったし」
もし新たに誰かがパーティに参加するとなると、プレゼント交換の時に微妙な感じになってしまうだろう。
「そうね。じゃあ、皆……日付を跨いでしまったけど、パーティを始めましょうか」
日付を跨いだとはいえ、24日のクリスマスイブから25日のクリスマスになったと思えば、パーティの理由的にはそんなに無理のあるものではない……と思う。
とにかくそんな訳で、俺達はコップにお茶やジュースを注いでいく。
ちなみに、このパーティにはアルコールの類はない。
龍子や優は、今はこうしてパーティをしているが、ヒーローコスチュームを着ているのを見れば分かるように、クリスマスということで、一応……本当に一応だが、今はまだヒーローとしての活動中でもある。
さっき話題になったように、クリスマスイブだけに夜中になってもヴィランが暴れたり、何らかの騒動があったりという可能性は十分にあるのだから。
そういう時、酒に酔っていては洒落にならない。
ましてや、龍子はドラゴン、優は巨大化と、2人ともかなり大きくなる個性なのだから。
そうである以上、酔っていてバランスを崩しただけで周囲の建物を破壊しかねないし、もしくは手加減を間違ってヴィランといえども殺す……そこまでいかずとも、不必要に重傷を負わせることになる可能性は十分にあった。
だからこそ、クリスマスパーティであっても酒は厳禁なのだ。
ねじれは……まぁ、学生だしな。
個性のある世界で、その個性がこの世に現れた時から俺の知っている一般的な歴史とは完全に違う歴史になってしまったが、そのような歴史であっても、日本では酒は20歳からとなっている。
そんな訳で高校生のねじれは酒は禁止な訳だ。
……これで龍子や優が酒を飲んでいれば、好奇心旺盛なねじれの事だ。
自分も酒を飲みたいと言うかもしれないが、2人共酒を飲んではいないので問題ない。
そして俺もまた、10代半ば……この世界で作って貰った戸籍的には現在中3という事なので、酒は飲ませて貰える筈がない。
俺の場合、酒を飲むと色々ととんでもない事になったりするので、自分から酒を飲もうとは思わないから、その辺についても問題はなかったりするのだが。
そんな訳で……
『乾杯!』
「メリークリス……え?」
コップを掲げ、俺と龍子、ねじれは乾杯と言ったのに、何故か優だけがメリークリスマスと言おうとして、失敗していた。
それでも紙コップを軽くぶつけあってからその中身を飲んだところで……
「ちょっと、これはクリスマスパーティなんだから、やっぱり乾杯の音頭はメリークリスマスでしょ!?」
中身のジュースを飲み終わった優が、不満全開といった様子で言う。
とはいえ、それは分からないでもないんだが。
実際クリスマスパーティでの乾杯の言葉として、メリークリスマスというのは普通なのだから。
ただ、俺達が口にした乾杯というのも間違っていないだけで。
「ほらほら、不満を言うよりも今は料理を食べるわよ。……ああ、そうそうケーキもあるから、程々にね」
龍子の言葉に、優もまだ不満そうではあったが料理に手を伸ばす。
「そう言えば何かで見たけど、クリスマスでフライドチキンを食べるのって日本人だけらしいな。……何で見たのかはちょっと覚えてないから、デマの可能性もあるけど」
テーブルの上にあるフライドチキンに手を伸ばし、そう言う。
ちなみにこのフライドチキンは、有名チェーン店で買ってきたものではなく、唐揚げ専門店で買ってきたものだ。
……正直なところ、唐揚げとフライドチキンがどう違うのかと言われれば、使っている香辛料くらいじゃないのか? とは思わないでもなかったが。
ともあれ、その唐揚げ店は有名店で、実際に今日も俺が行ったケーキ屋と同じくらい客がいたらしい。
このフライドチキン、揚げ立てというのもあって美味いしな。
冷えても……まぁ、今よりは味は落ちるだろうが、それでも美味いのは間違いないだろうしな。
「じゃあ、フライドチキンの代わりに何を食べるの? 七面鳥?」
「だろうな。ねじれが言うように七面鳥が一般的なんだと思う。出来れば七面鳥を用意したかったけど、この辺では売ってる店がなかったしな」
一応、小物屋に行った後で色々と周囲の店を見て回ったりしたのだが、そういうのは結局なかったんだよな。
他のもっと大きな街とかに行けば、クリスマスという事もあって普通に売ってる可能性はあったが、そこまでする必要はないだろうと思った。
七面鳥の丸焼き……ローストといった方が聞こえはいいか? それを持ってくれば、恐らく驚かせることも出来たんだろうが。
「来年……はどうなるか分からないけど、もし来年もこの面子でクリスマスパーティをやるのなら、七面鳥を用意してもいいかもしれないわね」
龍子の言葉に俺も含めて皆が黙り込む。
実際、来年もこの面子でクリスマスパーティが出来るかと言われると、正直微妙なところだろう。
そもそも俺が雄英に入れば、来年の今頃は公安が用意した部屋から雄英に通う事になっているのだから。
勿論、だからといって俺と龍子、優、ねじれとの関係が切れる訳ではない、
いや、寧ろねじれの場合は同じ雄英生という事で、接触する機会は多くなるだろうが。
龍子や優とは……正直、どうなるか分からなかった
「あー、もう。折角のクリスマスなんだし、リューキュウ先輩も暗い事を言わないの。……そうだ、ちょっと早いけどプレゼントをしましょう」
優のその言葉に、全員がプレゼントを取り出す。
……全員が3つのプレゼントを持ってきているので、どうやら音楽に合わせてプレゼントを回して、音楽が止まった時に自分の手元にあるのを受け取るといったようにする訳ではなく、それぞれがそれぞれにプレゼントを渡すといった形らしい。
「じゃあ……まぁ、別に何か特別なやり方をする必要もないわよね。それぞれが1人ずつプレゼントを渡していくといった形でいいわよね?」
龍子のその言葉に反対する者はおらず……
「で、何で俺からなんだ? いやまぁ、別に構わないけど」
「何となくよ。後は、アクセルがこの場で唯一の男だからというのもあるでしょうね」
龍子のその言葉に異論もなかったので、それぞれにプレゼントを渡していく。
「わぁ、可愛い。ありがとう、アクセル」
ねじれは猫の人形を見て嬉しそうに笑い、抱きしめる。
どうやら喜んで貰えたらしい。
「……ねぇ、アクセル。ねじれには猫のぬいぐるみなのに、何故私とリューキュウ先輩はクッションなのかしら?」
ねじれが人形だったのに、自分はクッションだったのが面白くなかったらしい優の言葉。
龍子はと視線を向けると、優程ではないが、完全に納得してるようには思えなかった。
「龍子が使ってるクッションは大分古くなってるように思えたし、優もこの事務所に来るようになったけど、自分のクッションはなかっただろう? だから2人はクッションの方がいいと思って」
そう言うと、優はそれ以上なにも言わなくなる。
この様子だと、優にもぬいぐるみの方がよかったのか?
ただ、俺のイメージ的には優はぬいぐるみを貰っても喜ばないように思えるんだよな。
「まぁ、その辺にして。……じゃあ、次は私のプレゼントを渡すわね」
優を落ち着かせるように龍子が言うと、それぞれにプレゼントを渡してくる。
俺のプレゼントは……箱? リボンで装飾されている箱。
リボンを解いて箱を開くと、そこにあったのは……
「スマホ?」
「ええ、それも最新型よ」
龍子が俺の言葉に笑みを浮かべてそう言う。
「……いいのか?」
そう聞いたのは、スマホの値段を知ってるからこそだ。
いや、俺が貰ったスマホの正確な値段までは分からないものの、街中をちょっと歩けば、そしてネットで情報を集めれば、そのくらいは分かる。
基本的にスマホというのは10万を超えるのも珍しくはない。
ましてや最新型だとすると、場合によっては20万オーバーでもおかしくはないのだ。
それこそ、こうしてあっさりとプレゼントするような値段ではない。
「いいのよ。プレゼントってのもあるし……それにアクセルにも必要でしょう? 公安からも言われていたし、少し出して貰ってるから、そこまで高い買い物って訳じゃないから、安心しなさい」
龍子の言葉が事実かどうかは分からない。
分からないが……こうしてスマホが用意されたのを考えると、俺にスマホを持たせるのは決定事項なのだろう。
公安からもという事で、ありがたみが大分減ったが。
……このスマホ、実は何か妙なアプリが入っていたり、何らかの仕掛けがあったりしないよな?
取りあえずこのスマホについては後で調べておくとしよう。
幸い、俺には技術班謹製のハッキングツールがあるので、何らかの個性とかが関係しない限りはこのスマホを徹底的に調べられるだろう。
そんな事を考えている間にもプレゼントは続き、優からはスマホケースが、ねじれからはスマホに使うガラスの保護フィルムを貰う。
このプレゼントの内容を見ると、どうやら最初から俺にスマホが渡されるのは知っていた感じか。
少し思うところがあるのは間違いないが、実際にこの件によってスマホを使えるようになったのは大きい。
……ゲートを設置出来れば、通信機も自分の物が使えるんだが。
あ、でもそうだな。ゲートを使った通信機って映像スクリーンを空中に投影出来たりはするものの、あくまでも通信機の能力に特化してるんだよな。
スマホのようにネットに繋いだりとか、動画を見たりとか、そういう機能はない。
いっそ、技術班に頼んでそういう端末を作らせるか?
そうも思ったが、何だか悪ノリしそうな気がするんだよな。
「取りあえず、アクセル。注意するのは……ガラスフィルムを貼る時は、埃とかがない場所でやりなさい。でないと後で後悔する事になるわよ」
優がそう忠告してくるものの、埃とかがない場所と言われても困る。
「どこだ?」
「そうね。風呂やシャワー室がいいわ。それとガラスフィルムを張る前に浴室の中はシャワーを使って軽く水を撒いておいた方がいいわ」
「……お湯じゃ駄目なのか?」
「お湯だと湯気があって、ガラスフィルムを貼る時に影響するのよ。だから寒いだろうけど水の方がいいわ。それと、風呂の中に入る時は埃がついている服は脱ぐのを忘れないようにするのよ」
ガラスフィルムを貼るのにそこまでするのか。
そう思ったが、優は別に俺をからかおうとかそういう風に思っている訳ではないのは明らかだったので、その言葉に素直に頷くのだった。