俺達に近付いて来たのは、先程プレゼント・マイクが言っていたリカバリーガールだった。
「なるほどね。ここでも0Pが倒されたって話だったから、さっき見た緑の髪の子のように、手の骨が折れてるんじゃないかと思ったけど……倒したのはあんただね?」
リカバリーガールが俺を見ながらそう聞いてくる。
誰に聞いた訳でもないのに、俺が倒したというのを知っているのは……いや、それともここに来る前に他の教師達から話を聞いて来たのかもしれないな。
プレゼント・マイクが言うには、リカバリーガールは治療系の個性の持ち主らしいし。
だからこそ、0Pを倒したという俺が怪我をしてないのかどうか確認しに来たと言われても、俺は納得するしか出来ない。
というか……
「緑の髪の子? それってもしかして、もじゃもじゃの髪の奴か?」
「うん? ああ、そうだけど……知り合いかい?」
俺の言葉にリカバリーガールが頷く。
完全にそうだと決まった訳ではないが、恐らく……いや、多分リカバリーガールが治療したというのはデクと言われていた奴だろう。
「確認するけど、その緑の髪の子……受験生が0Pを倒したんだよな?」
「ああ、そうだよ。その代わり手が酷い事になってたけどね」
「なるほど」
どうやら冗談でも何でもなく、あのデクが0Pを倒したらしい。
……にしても、そうなると一体どうなるんだ?
俺が倒した0Pはそこまで強くはない。
いや、寧ろ図体だけといった感じだ。
実際、瓦礫に閉じ込められた葉隠のいる方に向かってきたが、その速度は決して速い訳じゃなかったしな。
また、一撃で倒してしまったし。
ただそれは、あくまでも俺という存在だからだ。
個性を持っているとはいえ、ただの受験生がどうにか出来る筈がない。
ましてや、0Pを倒したけど腕の怪我が酷いとなると……
もしかして、この世界の主人公はあのデクか?
勿論そう断言出来る訳ではなく、あくまでも候補の1人でしかない。
だが……それでも0Pを倒したという事で、主人公候補の中でもかなり上位に来たのは間違いない。
それに、腕を壊しながらも0Pを破壊するというのも、主人公っぽくないか?
「何だよ、アクセル。お前以外に0Pを倒した奴を知ってるのか?」
俺とリカバリーガールの話を聞いて、瀬呂がそう尋ねてくる。
拳藤も興味深そうに俺に視線を向けているし、葉隠は表情は見えないが、胸の前で手を組み、仕草で興味津々といった様子を見せていた。
「知ってるって訳じゃないけどな。今日雄英に来た時に見た2人組が、デクとかっちゃんって呼ばれている2人だったんだよ」
「デクって……それは悪口じゃないの?」
葉隠がそう言ってくるが……
「どうなんだろうな? 俺も最初はそう思わないでもなかったが、言われた方が普通に受け入れていたし。それに、かっちゃんとやらに無理矢理従わされているようにも見えなかったしな」
実際、デクの方がかっちゃんを慕っていたように見えた。
そう考えると、やっぱり苛めって訳じゃなさそうなんだよな。
「そうなの? じゃあ、いいや」
葉隠があっさりと納得した様子でそう言う。
拳藤が何かを言おうとしたようだったが、そんな葉隠の様子に何も言えなくなったらしく、結局口を開く事はなかった。
まぁ、実際ここでどうこう言っても、俺達にデクとかっちゃんの関係が分かる訳じゃないしな。
もしかしたら外からは不自然に見えるような関係であっても、本人達には納得出来るような関係なのかもしれないし。
「ほらほら、いつまでも話をしてないで、これをやるから、そろそろ試験会場から出るんだよ」
そう言い、リカバリーガールは俺達それぞれにお菓子を幾つか渡してくる。
「じゃあ、ここには怪我人はいないみたいだし、他の怪我人を治さないといけないから失礼するよ」
そう言い、リカバリーガールはこの場を立ち去る。
そんなリカバリーガールを見送ると、俺達は自然と顔を合わせた。
「取りあえず受験は終了って事で……こうして集まったのもなんだし、打ち上げでもいかないか?」
そう言う俺の言葉に、否と言う者は誰もいなかった。
「アクセル、サンキュ」
男子更衣室……正確には更衣室じゃないんだが、今回の実技試験用に仮の男子更衣室となった場所で着替えていると、何故か不意に瀬呂が感謝の言葉を口にする。
ちなみに当然ながら他にも着替えてる者達は結構な数がいるので、瀬呂の声が聞こえたのだろう近くにいる何人かは不思議そうにこちらを見ていたりもする。
「何だよ、急に」
別に俺は瀬呂に感謝されるような事はない。
敢えて挙げるのなら、0Pを倒した事だが……瀬呂の個性があれば、最悪逃げる事は可能だった筈だ。
……まぁ、その場合は俺はともかく拳藤を連れていく事は出来るだろうが、瓦礫の中にいた葉隠は見捨てる事になってしまったかもしれないが。
だが、瀬呂の様子を見る限り、どうやらその件で感謝の言葉を口にした訳ではないらしい。
「打ち上げだよ、打ち上げ。葉隠は透明だから顔は見えないけど、元気で親しみやすいし、拳藤は見るからに美人だし。いやぁ……あそこで助けに行ってよかったよ」
そう言う瀬呂だったが、別に最初から女目当てで来た訳ではないだろう。
もっとも、瓦礫の中にいた葉隠はともかく、拳藤は遠くからでも見えるような凜々しい系……というか、姐御系の美人だ。
まだ中3なのに、可愛いではなく美人というのはちょっと珍しいとは思う。
そんな拳藤だけに、瀬呂が遠くから見て美人だと判断し、困ってるようだったから助けに来た……という可能性は十分にある。
瀬呂もまた中3で、女に興味を持つ年頃だろうし。
「瀬呂の女好きには感謝しないとな」
「へっへー。意外性の男、瀬呂と呼んでくれ」
……今の話の中で意外性って何かあったか?
そう疑問に思ったが、本人がそういう風に言うのなら別に構わないか。
「意外性の男、瀬呂。こうして話していると、拳藤や葉隠を待たせる事になるぞ。その辺で意外性を発揮しなくてもいいだろ、意外性の男、瀬呂」
「……やめてくれ。普通に瀬呂でいいから」
自分でも意外性の男という言葉を何度も口にされると、照れ臭くなったらしい。
慌てた様子でそう言ってくる。
「なら、最初から言わないといいものを。……ともあれ、今も言ったが拳藤達を待たせるのも悪いし、早く着替えた方がいいぞ」
女の着替えには時間が掛かるとよく言われるが、今回の場合はちょっと違うだろう。
まぁ、余裕があるのなら、それはそれでいいが。
そう思ったところで、ふと気が付く。
どうせなら学科試験の時に仲良くなった三奈も呼んでみるか。
「瀬呂、どうせならもう1人女を呼んでもいいか? いや、来るかどうかは分からないから、確実とは言えないけど」
「ああ、別に構わない。というか、寧ろ大歓迎だ。それで、どういう奴なんだ?」
「そうだな。学科試験の時に知り合ったんだが……俺の印象だと、スポーツ系美人といったところか」
「頼む」
即座にそう言ってくる瀬呂に、俺はスマホを使って三奈にLINでメッセージを送る。
するとすぐに返ってきて……
「OKだそうだ」
LINには絶対に行くと書かれてあった。
三奈、こういうの好きそうだもんな。
ましてや……こう言ってはなんだが、今日知り合った者達は受験生ではあるものの、必ずしも全員が合格するとは限らない。
一期一会……とはちょっと違うか?
ただまぁ、ニュアンス的にはそんな感じで間違っていないと思う。
「よっしゃぁっ!」
俺の言葉に嬉しそうに叫ぶ瀬呂。
……当然ながら周囲にいる他の受験生達も何があったのかといった様子で見ているのだが、瀬呂はそれに全く気が付いていない。
瀬呂、もしかして三奈にもの凄い期待していないか?
俺の説明がそれだけ瀬呂のツボに入ったといったところなのだろう。
まぁ、スポーツ系美少女というのは多くが嫌うような存在じゃないしな。
「ほら、アクセル。早く行くぞ」
「……俺はもう着替え終わって、瀬呂を待ってる状態なんだが?」
その言葉通り、俺は既に私服に着替えている。
「何で私服?」
そう、他の生徒達は学生服やブレザーを着ているのに、俺だけが私服だった。
これで目立つなという方が無理だろう。
とはいえ、実技試験が始まる前の説明で行った講堂では、俺以外にも何人か私服の受験生はいたが。
それでもかなり珍しいのは間違いない。
「色々とあるんだよ」
そう言う俺に、瀬呂はこれ以上聞かない方がいいと判断したのか、自分の着替えに集中するのだった。
着替えた瀬呂と一緒に、拳藤と葉隠と約束をしていた場所に向かったのだが……
「あれ?」
その光景を見て、そんな声が出る。
約束の場所にはきちんと拳藤と葉隠がいた。
そして三奈も既に来ていて、3人で談笑をしていたのだ。
俺はまだ紹介もしていないのに。
というか、もしかして拳藤か葉隠のどっちかが三奈と前から知り合いだったのか?
「ほら、アクセル。行こうぜ」
瀬呂に促され、俺は3人に向かって手を振る。
「悪い、ちょっと遅れたか?」
「私達も今来たところだよ。で、芦戸と話をしていた訳。……アクセルの知り合いなんだって?」
拳藤の言葉に頷く。
「ああ、今日の学科試験の時に隣同士だったから、自然と話すようになったんだよ。……で、丁度いいから打ち上げに誘ってみたんだが……俺から紹介するまでもなかったな」
「まぁ、そうだな。ただ、出来れば誘う前に確認した方がいいぞ。私や葉隠は気にしないけど、中にはそういうのを気にする奴もいるしな」
「悪い。けど、三奈とはメッセージアプリのLINの交換をしてたけど、拳藤や葉隠とはしてなかっただろ?」
「……名字じゃなくて名前で呼んで、その上もう連絡先を交換してるのか。もしかしてアクセルって手が早いタイプか?」
拳藤の言葉に、否定出来ない自分がいたりする。
何しろ、恋人が20人程もいるのだ。
これで手が早い……女好きじゃないと言っても、到底通じないだろう。
もっとも、手が早いのと女好きが一緒ではないと思えば……いや、無理か。
「別にそういう訳じゃない……と言いたいところだけど、自分の言動を考えると反論は難しいな」
「ふーん、ふーん、ふーん」
そんな俺の言葉に、葉隠が何か意味ありげな様子でそう言ってくる。
三奈の方も何だか微妙に照れた様子をしているし。
「ただ、一応言い訳をしておくと、俺が三奈を名前で呼んでるのは、あくまでも三奈がそういう風に呼んで欲しいって言ったからだからな」
「あっ、ちょっ、アクセル、私を売るつもり!?」
まさかここでこういう風に言われるとは思っていなかったのか、三奈が不満そうに叫ぶ。
とはいえ、実際名前呼びについては三奈から名前で呼んで欲しいと言ってきたのは間違いないしな。
「ぶーぶー!」
不満そうにブーイングする三奈だったが、俺の言葉が事実なだけに反論は出来ないらしい。
「ほらほら、芦戸もその辺りにしなよ。いつまでもこうして雄英にいると、先生達に追い出されるよ。……もっとも、私達以外にも雄英に残ってる人は多そうだけど」
周囲の様子を見ながら、拳藤が言う。
実際、その言葉は間違っていない。
雄英の生徒ならともかく、部外者が雄英に来る機会というのはまずないのだから。
体育祭や文化祭とかでは一般人も入れるらしいが、屋台が出たりとかで、普通の……本来の意味での雄英を見て回るといったことは、まず出来ない。
いやまぁ、ヒーロー科最高峰の雄英だけに、学校見学とかそういうのが出来てもおかしくはないと思うんだが。
ただ、それだって希望者を募れば大量に集まるのは間違いないので、迂闊に出来ないだろう。
つまり、この機会を逃したくないと思う者は多い。
また、そういうタイプは雄英を記念受験で受けに来た者達が特にその傾向が大きかった。
マウントレディから聞いた話によると、雄英の見学が目当てで記念受験をする者もいるらしい。
……というか、あの言い方だとマウントレディももしかしたらそのタイプだったのかもしれないな。
もっとも、雄英の卒業生でもないのに、人気が非常に高い辺りマウントレディのヒーローとしての資質を感じないでもない。
マウントレディの人気の多くが美貌によるものであったり、分かりやすく巨大になれる個性というのが、人気の理由だとは思うが。
「そうだな。ここにいるのは、記念受験をしにきた面々じゃないだろ? なら、雄英を見るのはいつでも出来るだろうし」
だよな? とそれぞれに視線を向けると、それぞれに頷く。
葉隠が頷いているのかどうかは分からないが、制服の動き方を見る限りだと、こちらも頷いているのは間違いないのだから。
「言うね、アクセル。……けど、それは私も同じ気持ちだよ」
「私も記念受験のつもりはないよ」
「私も同じかな。……けど、学科試験の方がちょっと自信ないけど。一応、実技試験では活躍出来たから、何とか挽回出来たとは思うけど」
「俺も当然ながら記念受験の為に来たつもりはないぜ」
拳藤、葉隠、三奈、瀬呂。
それぞれがそう告げ、俺達は打ち上げをする為に雄英の校舎から出るのだった。