雄英の受験が終わり、俺と瀬呂、拳藤、葉隠、三奈の5人は、雄英から幾つか駅で移動した場所にあるファミレスにいた。
「うわ、やっぱりここまで来ると空いてるね。芦戸の言う通りだったよ」
拳藤が言うように、このファミレスはかなり空いていた。
客がいない訳じゃないし、俺達と同じように受験生同士……同じ中学なのか、もしくは俺達みたいに受験の中で仲良くなったのかは分からなかったが、同じく打ち上げをやってる受験生達もいた。
それでも座る席に困るといったようなことはない。
まぁ、考えてみれば数千人、あるいは万に届く数の受験生がいた訳で。
そういう者達全員が打ち上げをする訳ではないにしろ、それでも打ち上げをする者達の数を考えると、雄英に近いファミレスとか喫茶店とか、あるいはファーストフード店とか、そういう場所はすぐに埋まった筈だ。
そういう意味で、芦戸がちょっと遠くまで足を伸ばそうと提案してきたのに乗ったのはラッキーだった。
「しかも、しかもしかもしかも! ここって実はパフェが美味しいファミレスとして有名だったりするんだよ。前に雑誌で見て、1度来てみたかったんだ」
自慢げに言う三奈。
なるほど、最初からこの店が目当てだったのか。
まぁ、俺としては別にこの店で困るような事はないし、構わないけど。
店員に席に案内され、それぞれ注文をする。
拳藤と葉隠は三奈の言葉に期待したのか、パフェを頼んでいる。
「瀬呂、どうする?」
「どうするって言われてもな。……まぁ、パフェが美味いって店に来たんだから、それを注文しないって手はないと思うぞ」
そんな訳で、俺と瀬呂もそれぞれパフェを注文する。
俺は無難に……というか、単純に好きなのもあって、ストロベリーパフェ。
瀬呂はバナナパフェ。
パフェだけで足りなければ、後で注文……ああ、そうだ。
「この打ち上げは、俺の奢りでいいぞ」
「え? ちょっ、アクセル……悪いよ」
「嬉しいけど、悪いと思うよね」
「そうそう」
拳藤の言葉に葉隠と三奈がそれぞれ同意するように言う。
瀬呂の方は……男同士というのもあってか、ラッキーといったように思っている様子だ。
「気にするな。けど……そうだな。今日は俺が奢るから、雄英の受験で俺が主席になったら、皆で何か奢ってくれれば、それでいいよ」
そんな俺の言葉に、女3人は少し困った様子をしながらも受け入れる。
いやまぁ、葉隠は顔が見えないので、そういう雰囲気を発していたというだけなのだが。
「ふーん。アクセルはそこまで主席を取る自信があるんだ」
拳藤が面白そうに俺を見てくる。
三奈は俺の言葉にその可能性はあるかもしれないといった様子で見ていた。
実技試験は別だったが、学科試験の時に俺と三奈は一緒のクラスだったので、三奈にしてみればもしかしたら……という思いがあるのだろう。
瀬呂の方は、マジかこいつといったような表情で俺を見ていた。
0Pを破壊したのを見れば、俺の実力の一端は分かったと思うし、そうなれば俺が主席になるというのは決して夢物語ではないと分かってくれると思うんだが。
そんなこんなで話をしていると、やがてそれぞれのパフェがやってくる。
「じゃあ、アクセル。主席予定として乾杯の音頭を頼むよ」
拳藤に促され、俺はドリンクバーから持ってきたウーロン茶の入っているコップを掲げて口を開く。
「じゃあ、受験が終わった事と……こうして新しい出会いに、乾杯!」
『乾杯』
俺以外の面々も乾杯と口にし、それぞれコップを口に運ぶ。
そして乾杯が終わると、早速パフェを食べるが……
『美味い』
俺だけではなく、他の面々も同じ言葉を口にする。
パフェでこれだけ美味いってのは……凄いな。
「三奈、ナイス。よくこの店を選んでくれた」
「へへん、そうでしょ」
自慢げな様子でパフェのアイスを口に運ぶ三奈。
「とはいえ、ここってファミレスだよな。名前は……ちょっと知らないけど、チェーン店じゃないのか? なのに、何でこの店だけがここまでパフェが美味いんだ?」
「え? アクセル君、知らないの? このお店って一応チェーン店って事になってはいるけど、少数精鋭というか、数が少ないんだよ。厨房で働く人達の技量が一定以上にならないと、チェーン店の許可が貰えないって有名なんだけど」
「……そうなのか?」
葉隠の言葉を聞いて瀬呂に視線を向けるが、パフェを食べていた瀬呂は口の中のものを飲み込むと、慌てて首を横に振る。
「いや、俺は知らねえよ。初めて来たし。……まぁ、女子はそっち系のセンサーが鋭いから、常識だったりするのかもしれないけど」
「……だ、そうだが?」
「あー……うん。まぁ、その意見には賛成かな。私もそういうのを好むって自覚があるから、どうしてもそっち方面の情報は集めるし」
拳藤のその言葉に、葉隠と三奈も頷く。
もっとも葉隠は雰囲気的にそうだろうなと思っているだけだが。
にしても……拳藤もスィーツ好きか。
姐御系の拳藤だが、その辺は普通に女らしい。
……実際にそれを言えば面倒なことになるだろうから、口にすることはなかったが。
「まぁ、俺としては美味いパフェを食べられてラッキーだったけど。……ああ、後はついでにシュークリームも頼むか。凄いな、これ。シュークリームの生地は焼きたてを出してくれるらしいぞ。熱でクリームが溶けないのか?」
そう疑問に思うが、あるいは注文して作ってすぐに出して、それをすぐに食べるのなら問題ない……とか?
そんな疑問を抱きつつ、シュークリームを注文する。
するとそんな俺の行動に他の面々もそれぞれ気になる品を注文し始めた。
「それにしても、実技試験……凄かったよな。俺達はアクセルがいたから何とかなったけど、芦戸の方はどうだったんだ?」
「え? それって、あの0Pよね。……そういう風に言うって事は、もしかしてアクセルはあの0Pに勝ったの?」
「勝ったなんてもんじゃないよ。アクセルの一撃で0Pはあの巨体が粉砕されたんだから」
三奈の言葉にそう言ったのは、実際に0Pを破壊した俺ではなく拳藤だった。
「拳藤、あの時はもの凄いぼけっとした顔をしてたしな」
そう俺が言うと、拳藤が不満そうな視線で俺を見てくる。
「そう言うけどね。普通に考えて、あんな巨大な0Pを……それも殴ってどうにか出来ると思う? きっと、あの光景を見たら、私じゃなくても同じように思うよ」
「うー、悔しいな。私、その時は瓦礫の中にいて見られなかったんだよな」
「うわ、うわ、凄い……あー、何で私だけ別の会場だったんだろ」
悔しそうな三奈。
とはいえ……
「リカバリーガールから聞いた話だと、俺以外にもあの0Pを倒した奴がいたらしいぞ? 腕とか、骨折でぐしゃぐしゃだったらしいが」
リカバリーガールから聞いた話が事実なら、恐らく朝に会った……というか、見たデクなんだと思う。
だからこそ、俺はもしかしたらデクがこの世界の主人公ではないかと、疑い始めているのだから。
「うっそ……アクセル以外にもそんな人がいるの?」
「いるらしいな。その様子だと三奈とは違う会場だったみたいだが」
「そうね。私も1Pから3Pのロボは簡単に対処出来たけど、0Pのような巨大なのになると、無理だったわ」
自信満々といった様子で言う三奈。
「何だ? 芦戸の個性はロボ向きだったのか?」
「そうだよ。私の個性は酸。だから、人はともかくロボを相手にするにはかなり楽だったよ」
酸、か。
……芦戸で酸。アシッド? 偶然か?
いや、それを思えば瀬呂もテープ……セロテープだ。
拳藤は手が巨大化するって意味では同じだろう。
葉隠は……透って名前で透明?
うーん、こじつけだとしか思えないけど、個性を現しているという意味ではそう間違っていないのか?
ねじれ……波動ねじれは、そのまま波動が個性だし。
マウントレディの岳山優は……山のように大きくなる?
リューキュウの竜間龍子は、ドラゴン。
まぁ、龍子の場合は変身するドラゴンは西洋風のドラゴン……いわゆる竜だ。
龍という名前もある以上、もしかしたら個性を鍛えると東洋風の龍にもなれるのかもしれないな。
「アクセル? どうしたの?」
「いや、何でもない」
三奈が不思議そうに俺に聞いてくるので、俺はそれに何でもないと首を横に振る。
名前が個性を表しているというのは、それなりに大きな情報だ。
もっとも、それはあくまでもそういう風に思えたというだけで、確証はない。
ないが……どれもそれらしい感じがするのは間違いない。
この世界の住人は、その法則性に気が付いていないのか、あるいはそれが常識だと思い、特に気にしていないのか。
「三奈の酸という個性がロボを相手に有効だったのは、試験を受ける上でラッキーだったな」
「でしょう? もし人だったら……手加減はするけど、ちょっと酷い事になっていたのは間違いないのよね」
想像すると、かなりグロイな。
ある意味で個性が強力すぎてヴィランを倒すのが難しくなるタイプだ。
「そう言えば、アクセルの個性って何なの? 0Pを破壊したって事は、増強系?」
三奈がそう聞いてくると、他の者達も興味深そうに俺を見てくる。
さて、どう言うか。
そう思ったが、どうせ俺が雄英に合格して、他の面々も雄英に合格していればいずれ分かるだろうし、別に隠す必要はないか。
というか、寧ろここで下手に隠した方が後々面倒な事になりそうだし。
「俺の個性は混沌精霊だ」
「え? 混沌……何? それ、どういう個性なの?」
三奈が、そして他の面々も理解出来ないといったような視線を向けてくる。
「まぁ、複合系の個性だよ。色々と出来る」
「複合系の個性か。羨ましいな。俺はテープしか使えないし」
「瀬呂、それが普通でアクセルの方が変なんだから、気にしない方がいいよ」
拳藤が瀬呂にそう言う。
俺が色々と特殊なのは自覚している。
自覚しているが、こうして堂々と変だと言われると、ちょっと気になるのも事実だ。
とはいえ、まさか俺の能力は個性でも何でもない異世界由来のものだと言える筈もない。
……言ってもそうだが、それが個性なんだろと言われてしまえば、それまでなのだから。
ゲートを設置してホワイトスターに連れていけば……それでも人によってはそういう個性なんだろうとか、そんな感じで言われそうな気がするな。
もっとも、俺が異世界から来た存在だというのは、そう簡単に話せる事ではないが。
「まぁ、あの力を見ればそう思うよな。俺もああいう増強系の個性が欲しい」
「いやいや、テープは戦闘力という点では劣るかもしれないけど、それ以外だと凄い便利じゃない。実際、そのお陰で私は助かったんだし」
葉隠が必死に言う。
……実際、もし瀬呂のテープがなければ、瓦礫を固定するのは難しかっただろう。
そうなれば、葉隠も最悪瓦礫に潰されてしまった可能性がある。
ましてや、当時の葉隠は全裸になっていた事もあって、瓦礫の下にいるのを見つけられたのがラッキーだったくらいなのだから。
「そうだよ。話を聞いた限りだと、瀬呂がいないと危なかったって話じゃん。……それに瀬呂がそう言うなら、私の酸はどうなのさ?」
「瀬呂もそうだが、その辺は使い方次第だと思うけどな」
瀬呂と三奈は、そんな俺の言葉に視線を向けてくる。
どういう事かと、そう聞きたいのだろう。
「瀬呂のテープだって……純粋な攻撃力という点では劣るかもしれないけど、相手の動きを封じるって意味では悪くないだろう? もしくは、攻撃力を補うならテープの先端に何かを結んで投げるとかいう手もあるし。それに、攻撃力不足なら雄英に合格すればサポートアイテムでどうにかなるんじゃないか?」
この世界の技術力は、何気にかなり高い。
個性を強化するといった方向の技術は特に発展してるので、瀬呂のテープについてもサポートアイテムでどうとでもなる筈だ。
……もっとも、そのサポートアイテムを使うにもヒーロー科に入学する必要があるのだが。
「三奈の場合も、別に酸は強酸一択って訳じゃないんだろ? なら、手加減をして酸の濃度を落としてどうにかするとか」
「だよね。私もそれは分かってるから色々とやってるんだけど……それでもそう簡単にはいかないのよね」
はぁ、と憂鬱そうな様子の三奈。
三奈にとって酸というのは個性としてあって当然のものな訳で、だからこそ色々と難しいものがあるのだろう。
「あ、ほら。追加の注文が来たから、落ち込んでないで楽しくやろう。打ち上げなんだから」
そう言う葉隠の言葉に、三奈も元気を取り戻す。
……単純に、追加で来た品を楽しみにしているというのもあるのだろうが。
そうして新しく来たスィーツを食べ始めると、三奈の元気は見る間に回復していき……
「そうだ、皆はLINやってる? アクセルとは交換したけど、どうせなら3人とも交換しておきたいんだけど……いい?」
そう聞く三奈に、拳藤と葉隠は勿論、この打ち上げをもの凄く楽しみにしていた瀬呂も反対する筈がなかった。