転生とらぶる2   作:青竹(移住)

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4326話

 受験の打ち上げをやってから数日後……俺は龍子と共に不動産屋めぐりをしていた。

 

「……何だかもう、どのマンションでもいいような気がしてきたな」

 

 ハンバーガー屋……ファーストフードのハンバーガーではなく、1個1000円前後するハンバーガーを出すような専門店で昼食を食べながら、俺は弱音を吐く。

 

「あら、音を上げるのが早いわね。もう少ししっかり頑張ると思ったんだけど」

 

 フライドポテト……これもまたファーストフード店とは違う、ジャガイモをくし切りにして揚げた奴を食べながら、龍子が面白そうに笑う。

 

「というか、何で龍子はそんなに元気なんだ? 俺がもし龍子の立場だったら、間違いなく途中で飽きていると思うんだが」

 

 今日決めようとしているのは、あくまでも俺が住むマンションだ。

 龍子にしてみれば、自分が住むマンションではない。

 マンションを見て回っても、龍子には退屈なだけだと思うんだが。

 

「あら、色々なマンションを見て回るのはそれなりに面白いと思うわよ? 実際、良さそうな部屋もあったし」

「……なら、それを勧めてくれてもよかったんじゃないか? まぁ、龍子にマンションを見せるんだから、不動産屋の方も迂闊な物件を見せる事は出来ないんだろうが」

 

 龍子はリューキュウとしてヒーロー活動をしており、ヒーローの中でもトップクラスの人気と実力を持つ。

 実際、次のヒーロービルボードチャートではトップ10に入ってもおかしくはないと言われているくらいなのだから。

 そんな龍子に……いや、リューキュウに下手な場所を紹介すれば、後々面倒な事になりかねない。

 一応龍子も今日はヒーロー活動ではないので、ヒーローコスチュームではなく私服なのだが、この前の打ち上げで行ったレストランでもそうだったが、別に変装をしている訳でもないので、見る者が見ればリューキュウだとすぐに分かってしまうのだ。

 これで電車とかで移動していれば、俺と一緒にいるのを多くの者達に見られ、写真がネットにアップされたりして問題になったかもしれないが、龍子が普段の移動で使うのは車だ。

 その為、その辺の問題も特にないのは幸運だったのだろう。

 

「私がいいと思うのと、アクセルがいいと思うのは違うでしょ? 自分の住む場所なんだから、自分が生活する上で使いやすいと思った場所じゃないと、後悔するわよ?」

「……そうなると、2件目だったか? あのマンションがいいかもしれないな。部屋の間取りとかじゃなくて、マンションと契約している清掃会社が、家の中も掃除してくれるって話だったし」

 

 掃除はやろうと思えば出来るが、別にどうしても自分でやりたい訳ではない。

 業者がやってくれるのなら、それが一番いい。

 そういう業者を呼ぶという事は、何か盗まれたりする危険もつきものではある。

 だが、ぶっちゃけ俺は大事な物は空間倉庫に収納しておくので、何かが盗まれても困らない。

 いや、実際には部屋の中にある何かが盗まれるんだから、困るのは間違いないのだが。

 俺にとっては本当に大事な物は空間倉庫にいれているので、そこまで困らないというのが正直なところか。

 それにマンションと契約をしている清掃会社だ。

 盗みとかそういうのをやるような奴は採用しないだろうという思いがある。

 従業員が盗みを行ったりすれば、当然ながら会社にも責任はあり……大口の契約が切られてしまう可能性があるのだから。

 とはいえ、清掃会社と契約を結んでいるマンションがいいとは言ったが絶対ではない。

 何しろスライムを使えば掃除は出来るんだし。

 ついでに、盗撮カメラや盗聴器の類がないかどうかも調べられるし。

 ……あれ? そう考えると清掃会社との契約は別にいらないのか?

 

「優が知ったら羨ましそうね」

「……あー、優だしな」

 

 龍子の言葉にそう相づちを打つ。

 優は外見こそ美人だし、個性も強個性と言われるようなものなのだが、私生活は壊滅……とまではいかないものの、家事は得意ではない。

 それでも掃除とかはやろうと思えば出来るんだろうが、そのやる気がない。

 龍子の事務所で優が使っているソファは、半ば優の縄張りや領域とでも呼ぶような感じになっている程だ。

 今は龍子も特に何も言っていないが、このまま同じ事が続けばいずれは龍子の雷が落ちそうな気がする。

 ちなみに以前は普通の時でもリューキュウやマウントレディと呼んでいた2人だったが、それなりに慣れたのか今は龍子や優と名前で呼び合っていた。

 もっとも、優が龍子を呼ぶときは龍子ではなく先輩と呼んでいる事が多いが。

 勿論、ヒーローとして活動する時は、リューキュウとマウントレディとヒーローネームで呼び合っているが。

 

「でしょう? ……まぁ、本人にその気があるかどうかは微妙だけど。……アクセルが引っ越しを手伝うと言えば、案外その気になるんじゃない?」

「どうだろうな」

「……まぁ、優の件は置いておくとして。アクセルがマンションに求めるのはどういうのなの?」

「そうだな。……風呂が広いと嬉しい。台所はそこまで広くなくてもいいけど」

 

 希望を言えば、湯船の大きさが1畳? お湯に浮かんで手足が伸ばせるくらいだから……2畳くらいあればいいか?

 台所に関しては、ぶっちゃけ俺はそこまで料理を作る方では拘りはないしな。

 それこそ混沌精霊の俺にとって、食事というのは生きる上で必須のものではなく、あくまでも楽しみでしかない。

 つまり、本当にその気になれば、食事をしなくても普通に生きていけるのだ。

 もっとも、楽しみである以上、どうしようもない場合を除いて、そういう事をするつもりはないが。

 ただ、趣味で食事をする俺だが、料理上手という訳ではない。

 全く何も出来ない訳ではなく、1人暮らしする程度には料理も出来るが……その程度だ。

 なので、俺が食事をする場合は自分で料理を作るのではなく、外食だったり、もしくは出前だったり……もしくは、空間倉庫の中に収納されている料理を食べるか。

 そんな訳で、厨房はそこまで広くなくてもいい。

 勿論、狭い洗い場にガスかIHかはともかく、コンロが1つしかないとか、そういうのは困るが。

 あくまでもマンションとして普通ならそれで問題はない。

 

「他には? 例えば日当たりについてとか、マンションの高さとか」

「日当たりは……どうだろうな。取りあえず西日じゃなくてそれなりに日当たりが良ければ構わない。高さは……悩みどころだな」

 

 高さについては、眺めという点では高い方がいいだろう。

 だが、高いと1階まで下りる時にエレベーターが来るのを待つ時間が面倒だったり、下りている時に何度も途中でエレバーターが止まるのも面倒だ。

 それくらいなら2階とか3階くらいの階段で気軽に行き来出来るような高さの方がいい。

 ただ、やっぱり眺めという意味では高い方がいいんだよな。

 いっそマンションの中では影のゲートを使うか?

 そうも思ったが、俺が部屋を借りようと思っているようなレベルのマンションの場合、受付に人がいたりするのは普通なんだよな。

 そうなると迂闊に影のゲートが使いにくくなるし。

 その辺が微妙に困りどころだ。

 

「外と行き来しやすいように、低い階層が希望だな」

「なるほど。……後は他に何か希望は?」

「そう言われても……」

 

 希望、希望……うーん、希望か。

 というか、何で龍子が不動産屋みたいな事を聞いてるんだろうな。

 そんな風に思っていると、ふと思いつく事があった。

 

「そう言えば、午前中に見たマンションの1つに、1階がスーパーになってる場所があったよな?」

 

 この場合のスーパーというのは、安売りの商品をセールで売るようなスーパーではなく、高級店の類だ。

 それこそ、鮮魚コーナーには冷凍ではない生のクロマグロの刺身とか寿司とか、そういうのが売ってるような。

 そのマンションに住んでいる者達なら普通に使えるが、マンションの外の住人にはちょっと敷居が高いといったような。

 ……ぶっちゃけ俺の舌は庶民舌なので、高級料理とかだけを食べているとすぐに飽きる。

 ただ、それでも何かあった時にそういうスーパーが近くにあれば、わざわざマンションの外に出掛けたりする必要もないので、便利そうではある。

 それに、俺の生活費は公安持ちだから、スーパーで何かを買う時にそこまで気にする必要はないしな。

 

「なるほど。便利そうな立地ではあるわね。……そうなると、午後から見に行くのはこれとか、こっちはどう?」

 

 そう言い、龍子はテーブルの上に何枚かの紙を置く。

 それは不動産屋で貰ってきた、自由に見学してもいいと言われたマンションの情報が書かれている紙だった。

 普通、こういうのを見て回る時はそれこそ不動産屋の従業員が一緒に来たりするんだが。

 その辺もこの世界特有……いや、龍子のネームバリューがあってこそか?

 うん、つくづく今日は優じゃなくて龍子と一緒に来てよかったな。

 そんな風に思いながら、ウーロン茶を飲みつつ紙を見る。

 なるほど。俺が希望した内容に沿ったマンションの情報が書かれているな。

 勿論、俺の希望全てという訳ではなく、希望が1つ2つ足りないとかそういう感じだが……まぁ、幾ら何でも全ての希望を完全に叶えるというのは難しいしな。

 

「となると……これか」

 

 龍子が見せた数枚の紙の中から俺が選んだのは、3LDKのマンション。

 特徴として風呂がかなり広めに作ってあるらしい。

 また、1階には午前中に見た程に高級スーパーではないが、品揃えには自慢のある、落ち着いた雰囲気のスーパーがあるらしい。

 清掃会社との件も、個人的に契約して部屋の中を掃除して貰うのは問題ない。

 日当たりも良好。

 ただ、2階か3階を希望していたのに、空いている部屋は12階らしい。

 ただし、そのフォローという訳でもないのだろうが、階層ごとに1個ずつエレベーターがあるとか。

 これは便利だな。

 下に向かう途中で止まって他の階の住人が乗り込むのを待つとか、そういうのをしなくてもいいのは助かる。

 ただ、当然ながら階層ごとに1つのエレベーターとなると、エレベーターの数もかなり多くなる。

 その分が家賃に反映される訳だが……1ヶ月20万。

 うーん、これは高いのか安いのか。

 相場が分からないので、俺には何とも言えない。

 言えないが……それでもこれだけの条件を思えば、これを逃す手はなかった。

 

「午後からこのマンションに行ってみて、問題ないようならこのマンションにしたいと思う。それでいいか?」

「アクセルがそれでいいのなら、私は構わないわよ? 何度も言うようだけど、住むのはアクセルなんだから」

 

 龍子の言葉にそれもそうかと頷くと……ハンバーガー屋での食事を終え、店を出る。

 ちなみに、この店のハンバーガーは普通に美味かったので、お土産用としてそれなりに用意して貰った。

 結構な量になったが、龍子の車に乗り込んですぐに空間倉庫に収納した事もあってか、特に邪魔にはならなかった。

 ハンバーガーが入った袋もしっかりと折られており、ハンバーガーの匂いが車の中に広がらなかったので、龍子からも特に文句を言われたりはしなかったし。

 

「さて、じゃあ行くわよ。ここから少し離れた場所にあるマンションだから、少し急ぐわね」

「いや、別にそこまで急ぐ必要があるとは思えないんだが。……まぁ、龍子がそうしたいのなら、別に構わないけど」

「そうね。何となく今日はドライブをしたい日なのよ」

 

 そう言い、笑みを浮かべる龍子。

 普段はクールビューティな龍子だったが、こうして笑みを浮かべると……いや、そういう龍子だからなのか、とにかく普段とは違って柔らかな印象を受ける。

 別に本人が意識してそういう風にしてる訳ではないんだろうが。

 もし龍子の……いや、リューキュウのファンがこのような笑みを見れば狂喜乱舞してもおかしくはない。

 ……それはつまり、そんな龍子の笑みを俺が見たと知れば、嫉妬されること間違いなしだったりするのだが。

 

「ドライブって言っても、街中だろう?」

 

 ドライブと言われて思い浮かべるのは、それこそ山や海岸、あるいは草原……とにかく周囲に殆ど車が走っていないような道路を車で走るといったものだ。

 街中で、ちょっと進めば信号が赤になったり、あるいは渋滞になったりするのは……うん。とてもではないがドライブとは呼べないだろう。

 もっとも、龍子に視線を向けると上機嫌な様子であったが。

 車の中に響く音楽と冬とは思えないような青空。

 午後のゆったりとした時間を、こうして車の中で楽しめるのは、どうやら龍子にとって非常に嬉しい事のようだった。

 とはいえ、ドライブも目的地に到着すれば当然のように終わり……俺は龍子と共にマンションの管理人と共に部屋を見る。

 幸いというか、ある意味で当然なのか、マンションの管理人……目が複数ある中年の女はリューキュウのファンだったらしく、俺達は親切な対応をされ……結果として、俺はこの部屋を借りる事にするのだった。

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