「これは……いえ、まぁ……アクセル君の部屋だと考えれば、仕方がないですね」
目良がそう言い、各種書類にサインをしていく。
家賃が月20万のマンションというのは、公安の目良にとっても驚くような値段だったらしい。
とはいえ、それ以上は何を言うでもなくサインをする。
この書類をマンションの管理会社に提出すれば、あのマンションは俺の部屋となる。
家賃以外に電気代、水道代……その他諸々、スマホの通信料とかそういうのも、纏めて公安が支払う事になっていた。
「じゃあ、問題ないな?」
「ええ、私もこういう高級マンションに住んでみたいとは思いますが」
「公安なのに、違うのか?」
「公安だからといって、そこまで高給取りという訳ではないですよ。……いえ、給料は高いですから、高給取りというのは間違ってませんか。ただし、その給料が高いのは残業が多かったりするからですけどね」
そう言う目良の目の隈は、今日も濃い。
ある意味これが目良の特徴と言えるのかもしれないが……まぁ、ここで俺がどうこう言ったりしても意味はないので黙っておくが。
「そうか。なら、俺の方も予定通りしっかりと仕事はさせて貰うよ。俺に支払う報酬が高すぎたとか、そういう風に言われないようにな」
「アクセル君の実力なら、問題ないでしょう」
俺の実力を……その全てという訳ではなく、あくまでもその一端でしかないものの、それを知っている目良の言葉。
俺が龍子と優、それにねじれの3人を相手に模擬戦をして圧勝した光景を見ているしな。
それを思えば、生徒達の壁として立ち塞がり続けるという仕事は余裕だと思えたのだろう。
「ちなみにですが、アクセル君が雄英の受験において気になった人は誰かいますか?」
「そう言われてもな」
目良の言葉に俺がすぐに思い浮かべたのは、最後の方で協力した拳藤、葉隠、瀬呂の3人だ。
ちなみにこの3人にプラスして学科試験で隣だった三奈も含めて、それなりにメッセージアプリのLINでやり取りをしていたりする。
とはいえ、あくまでもやり取りをしているのはLINでだけで、直接会ったりとかはしていない。
全員が全員、住んでる場所がかなり離れてるんだよな。
なので、次に会う時は恐らく入学式になる。
……もしくは、何らかの偶然で俺と同じマンションに……は家賃を考えるとちょっと難しいから、同じ地区にアパートやマンションを借りたりすれば、会う機会はあるかもしれないが。
そう思い……ふと俺と同じく0Pを破壊したデクの事を思い出す。
「雄英の実技試験の内容については知ってるか?」
「はい、勿論。公安の方に提出されてますから」
提出されてるのか。
でも、ヒーローを纏める公的機関が公安なので、そう考えれば雄英の実技試験について提出されていてもおかしくはないのか?
ふと、俺の実技試験がどのくらいの成績だったのかが聞きたくなったものの、止めておく。
試験結果が郵送で雄英から送られてきた時、喜びが減るような感じがした為だ。
「なら分かると思うが、実技試験の内容には0Pという巨大ロボがいた。俺はそれを破壊したが、俺以外にもその0Pを破壊した奴がいるらしい。1人だけだが、だからこそその受験生は将来有望かもしれない」
「ほう、それはそれは……あの0Pをですか」
あのとか言うって事は、さっき言ったように雄英から提出された書類でしっかりとどういう存在なのかというのを知っているのだろう。
「それで、名前は分かりますか?」
「デク」
「……は?」
即答した俺の答えに、目良は不思議そうな視線を向けてくる。
「いや、入試の日にそいつの知り合いらしい相手……かっちゃんとやらから、デクと呼ばれていたんでな。それで覚えていた。名前は……緑谷だったか?」
リカバリーガールから聞いた名前を思い出し、そう言う。
そんな俺の言葉に、目良は頷いて覚えておきますと言うのだった。
マンションの契約も正式に終わってから数日……
「アクセル、雄英から荷物が届いてるわよ」
龍子のその言葉に、俺はPCの前から龍子のいる場所まで移動する。
するとソファに座ってTVを見ていた優と、何らかの書類を書いていたねじれも龍子の机の前に集まってくる。
事務所にいる他の面々も気にしてはいるようだったが、まず今は自分の仕事という事でそちらに集中していた。
「雄英からって事は、受験結果か?」
「それにしては、紙というか荷物? 封筒には何か硬い物が入ってるけど。はいこれ」
そう言い、龍子が俺に封筒を渡してくる。
硬い物が入っているという言葉通り、封筒は紙が入っているような薄さではなく、荷物が入っていた。
普通ならこういう荷物は封筒じゃなくて箱とかに入れてくるようなものじゃないのか?
疑問に思いつつも、封筒を開けると……
「あ、私これ知ってる。これはね、立体映像の装置なんだよ。私が受験した時も送られてきたんだ」
幸いなことに、これが何なのかはねじれが知っていた。
「どうやって使うんだ?」
「簡単だよ。ここに置いて……このスイッチを入れればいいだけ!」
そう言うと、言葉通りスイッチを入れ……
『私が投影された!』
「は?」
立体映像として空中に浮かび上がったのは、俺でも知っているNo.1ヒーロー、オールマイトだった。
いや、来年から教師になるというのは公安から聞いて知っていたが……まさか、こういった形で見る事になるとは思わなかった。
「あらまぁ」
「うわ、本当にオールマイトだ」
「わ、わ、オールマイトだよ。凄いね」
龍子、優、ねじれがそれぞれに感想を口にする。
ちなみにこの中で唯一の雄英の生徒であるねじれだが、学校ではオールマイトが教師になるという話を聞いた事はないらしい。
……雄英としても、No.1ヒーローが教師になると騒動になると分かっているので、秘密裏に進めてるんだろうな。
そして、今更……本当に今更の話だが、こうして改めてオールマイトが雄英の教師になるという事で、この世界の原作主人公が雄英にいる……それも来年からオールマイトが教師という事で、俺と同年代の可能性が高くなった。
『HAHAHAHA! 何で私が投影されたのかって? 実は今年度から雄英で教師として働く事になってね!!』
意気揚々と、驚いたかな? とこっちに笑いかけてくるオールマイト。
いや、知ってた……と突っ込みたくなったが、別にこれはリアルタイムの通信という訳ではなく、録画された映像だ。
……まぁ、オールマイトも、まさか俺が公安から教師になる件を聞いてるとは思ってなかったんだろうな。
『それで……え? 巻きで? いや、けど……あ、はい』
続けて何かを言おうとしたオールマイトだったが、画面――空中に浮かぶ立体映像にこういう表現が正しいのかどうかは分からないが――の外から巻きでと言われたらしい。
まぁ、無理もないか。
ねじれの話によると、1クラス20人くらい。
つまり40人くらいに対して、オールマイトがそれぞれ映像を録画して送る必要があるのだから。
もしかしたら教師達が手分けして映像を録画してるのかもしれないが。
ともあれ、何か色々と言いたそうだったがオールマイトは残念そうにしながらも、再び気を取り直したように口を開く。
『それじゃあ、早速だけど結果について話そう! まずは筆記試験だが……合計493点。惜しい! ケアレスミスがなければ満点だった!』
あー……やっぱりケアレスミスがあったか。
一応テスト用紙は見直したりしたんだが……残念。
『とはいえ、これは歴代の雄英受験生の中でもトップクラスの点数だ。落ち込む事はないぞ!』
俺が何を思っているのか、向こうで分かっているかのような言葉。
「493点って……嘘でしょ……何でそんな点数を取れるのよ。アクセルの癖に」
優が何か言ってるが、俺はそんな優に対してふふんと挑発するような笑みを浮かべる。
それを見た優は、ぐぎぎと悔しがっていた。
『次に実技試験だ! こっちも凄いぞ! ……いや、本当に凄いな君。何とヴィランポイント、125P。これだけで歴代最高の点数だ!』
よし、どうやら125Pというのは予想通りかなり良い点数だったらしい。
後は……0Pがどう判断されたかだが……
『だが、しかし! 私達教師が見ていたのはヴィランポイントのみにはあらず!』
ほら、やっぱり。
やっぱり、あの0Pが何らかの隠し条件とかそういうのだった訳だ。
『それは……救助ポイント!』
「あれ?」
あの0Pについて何らかの情報があるのかと思ったら、予想外な事にオールマイトが口にしたのは、救助ポイント。
それが何なのかは、別に考えなくても名前からすぐに予想出来た。
『私達教師が見ていたのは、ヴィランを倒すというのとは違う、ヒーローとしてのもう1つの基礎能力! それは他人を助ける為に自らの身を犠牲にする心意気! アクセル少年、君はその救助ポイントにおいてもしっかりと獲得している。救助ポイント、24P! つまり合計149P! 歴代雄英の受験生でも文句なく1位だ! 当然、今年の首席は君となる!』
救助ポイントか。……言われてみればヒーローとして活動する上で納得出来るものではあるし、実技試験中に微かにはあるがそんな事を考えたのも事実だ。
ヒーローとして活動する上で、ヴィランを倒すのは当然だが、それだけではヒーローとして半人前。
それに災害救助とか、そういうのではヴィランを倒す能力というのは意味がない。
……いや、応用すれば災害救助とかにも使えるような気がしないでもないが……ともあれ、雄英としてはヴィランを倒す戦闘特化の生徒だけでは困るという事なのだろう。
『さぁ、来いよアクセル少年! ここが君のヒーローアカデミアだ!!』
最後にそう言い、映像は消える。
ヒーローアカデミア……なるほど。ヒーロー科というのはそういう風にも思える訳か。
そしてオールマイトが教師……よし、決めた。
この世界の名称は、これからヒーローアカデミア世界……いや、これだと無意味に長いな。
省略して……ヒロアカ……そう、ヒロアカ世界というのがこの場合は相応しいな。
「おめでとう、アクセル。狙ってはいるとは言ってたけど……まさか本当に首席を取るとは思わなかったわ」
オールマイトの映像が消え、数秒の沈黙の後で龍子がそう言ってくる。
「ありがとう。狙っていたからには、最初から首席を取るつもりだったよ」
「ぐぎぎ……悔しいけど、ここは素直におめでとうと言っておくわ」
「まさか優が素直に祝福してくれてるとは思わなかったな」
「きいいいっ! これで勝ったと思わないでよね!」
そう叫び、優はソファのある場所に戻っていく。
「おめでとう、アクセル。凄いね。首席だって。嬉しい? 嬉しい?」
俺以上に喜んでみせるのは、ねじれ。
性格が幼いだけに、俺が雄英に合格したのを素直に喜んでくれるらしい。
「そうだな。競争率300倍の雄英に合格したんだから嬉しいよ。4月からはねじれは俺の先輩だな」
「先輩? 私、先輩?」
「ああ。よろしくな、ねじれ先輩」
「リューキュウ、どうしよう。私先輩だって。先輩、先輩!」
先輩呼びが嬉しかったのか、ねじれは個性を使って事務所の中を飛び回る。
何だか俺が予想していたよりももの凄い嬉しがりようだな。
今のねじれは2年。
つまり、今の状態でも後輩がいる訳だ。
ましてや、ねじれは次期ビッグ3に選ばれるだけの実力があり、龍子の……リューキュウという腕利きのヒーローの事務所でインターンをしているという実績もあり、本人も美人と呼ぶに相応しい顔立ちをしている。
性格が少し幼児的だが、その辺も人によっては天真爛漫と評するだろう。
つまり、そんなねじれだけに後輩に慕われていてもおかしくはない。
ここで新たに俺が後輩になったからといって、そこまで喜ぶような必要があるのか?
「そうね、よかったわね、ねじれ。でも先輩になったからには、もう少し落ち着いた方がいいでしょうね」
「……はーい」
「ああ、後は書類の方もしっかりとね。先輩が書類仕事が得意なら、後輩は尊敬の視線を向けてくるものよ」
龍子の言葉を聞くと、ねじれは即座に自分の机に戻る。
「上手いな」
「でしょう? ふふっ」
俺の言葉に、龍子は笑みを浮かべる。
ねじれをインターンで受け入れているだけあって、こういうのは得意なのだろう。
「それで……こうして改めて合格も決まったし、マンション用の家具とか家電も買う必要があるわね。それとも業者に頼む?」
俺が住むマンションは高級マンションだけあって、色々とサービスも豊富だ。
その中のサービスに、生活に必要な物を一通り揃えてくれるというのがある。
勿論、自分で買いたい物を買った後で専門家に見て貰って足りないのを揃えて貰うというのも出来るが。
「家具とか家電は自分で揃えたいな。どうせ料金は公安持ちだし」
そう言う俺に対し、龍子は呆れの視線を向けるのだった。