俺の反撃に顔を赤くした拳藤だったが、目的の駅……雄英の最寄り駅に到着した頃には、既に元に戻っていた。
拳藤も、別にそこまで照れていた訳ではないのだろう。
というか、ちょっと話した感じ……恋愛とそういうのにあまり免疫がないように思えるな。
拳藤は俺から見ても顔立ちが整っている。
可愛いではなく、美人。より正確には凜々しいといった感じだ。
顔立ちとか雰囲気的には、俺の恋人の中でも綾子に似てるタイプだな。
それでいながら、生真面目な性格をしており、恋愛とかには興味を示してこなかったといったところか。
勿論、恋愛というのは自分が興味ないからといって、それで完全にスルー出来る訳ではない。
拳藤のような美人となれば、本人が恋愛に興味がなくても、拳藤に告白してくる者もいただろう。
姐御気質で、面倒見がいいというのも、その辺は影響してると思う。
そういう意味では、俺の恋人のモニクがそれっぽいか?
モニクも小さい頃から生真面目な性格をしており、それによって美人であるにも関わらず、特に恋愛とかそういうのをする事もないままに生きてきた。
まぁ、それでも拳藤よりも時間があったので、告白されたりとかはあったんだろうが……うん。そのどれも断ってきたという鉄壁ぶりだ。
モニクと比べると、拳藤はまだその域には達していないな。
「アクセル、どうしたんだ? 行くぞ」
俺が足を止め、拳藤の顔をじっと見ていたのに気が付いたのだろう。
拳藤がそう声を掛けてくる。
「ああ、悪い。じゃあ、行くか。入学式前にまずはクラスを確認する必要があるし」
そうして拳藤と一緒に雄英に向かっているのだが……
「結構見られてるな」
「そうだな」
拳藤が少し気にしたようにそう言ってくる。
実際、俺達と同じ新入生なのだろう者達がそれなりにいるのだが、俺と拳藤を見ている者達がそれなりにいる。
……無理もないか。今日が入学式なのに、いきなり男と女が一緒になって登校してるのだから。
同じ中学出身なのかと、あるいは付き合ってるのかと思われてもおかしくはない。
「うわ」
「……拳藤? うわ」
拳藤の口からいきなり出た声にそちらに視線を向けると、そこには2頭身くらいか? そんな見るからに小さな、ブドウのような髪型をした男……子供? いや、雄英の制服を着ているし、多分新入生なのだろうが、とにかくその小さいのが血の涙を流しながら俺を見ていたのだ。
その目にあるのは。嫉妬。
それもちょっとやそっとの嫉妬ではなく、血の涙を流しているのではないかと思えるような、そんな嫉妬だ。
……というか、実際に薄らと血の涙を流しているような?
「……どうする?」
拳藤が戸惑った様子で俺にそう聞いてくる。
拳藤にしてみれば、まさかこのような状況になるような事はなかったのだろう。
俺にしてみれば、ここまで強烈な……血の涙を流すかのような嫉妬の視線を向けられるのは珍しかったが、それでも女連れという事で嫉妬の視線を向けられるのはそう珍しくもない。
まぁ、俺が連れているのが基本的に美人ばかりだからというのも、この場合は大きいのだろうが。
実際、あの血の涙を流しているブドウ頭程ではないにしろ、チラチラと嫉妬の視線を向けてくる者もいるし。
「どうするって言っても……入学初日に男と女が仲良く話しながら登校していれば、こういう視線を向けられてもおかしくはないのか? 恋人同士で通学しやがって的な」
「ちょっ、恋人!? 何で……」
俺の言葉に拳藤が顔を赤くして何かを言おうとするものの、その機先を制するように俺が口を開く。
「拳藤が何を言いたいのかは、分かっている。拳藤にしてみれば、別に俺と付き合ってる訳じゃないと、そう言いたいんだろう? それに男と女が一緒に登校してるからって、それが即付き合ってるって事にはならないって。恋人じゃなくて友人同士でも不思議じゃないって」
「そっ! ……そうだよ」
自分の言いたい事を俺に言われたからだろう。
拳藤が言葉に詰まり、それでもやがて同意するようにそう言ってくる。
「けど、それはあくまでも俺達の認識だろう? ああいう……嫉妬に狂った連中にしてみれば、男と女が一緒に歩いているだけで付き合ってるとか思ってもおかしくはないんだよ。それに、拳藤は見るからに美人だから余計にな」
「ばっ!」
「おっと」
我慢の限界が来たのか、拳藤が顔を赤く染めながら俺に向かって手を振るってくる。
……気のせいか、拳藤の個性で掌が若干大きくなってるような気がしないでもない。
「こら、かわすな!」
「そう言われても……それよりほら、今ので更に目立ったぞ」
俺の言葉に、拳藤が慌てて周囲の様子を見る。
そして俺の言葉通りこちらに視線が集まっているのに気が付くと、更に顔を赤くし……
「おはよう、2人とも。道の真ん中で何をしてるの?」
そう声を掛けられる。
声のした方に視線を向けると、そこには三奈と葉隠、瀬呂の3人の姿があった。
……もっとも、三奈と瀬呂はともかく、葉隠は相変わらず身体が透明で制服が空中に浮かんでいるようにしか見えなかったが。
「あ、ああ、おはよう。……いや、ほら。アクセルが私をからかってくるから、つい」
「あー……なるほど。LINでもそんな感じだったしね。……もしかして、恋バナ?」
そう言うと、三奈の頭から生えている角というか、触手? がちょっと動いたように見えた。
うーん、前から――正確には受験の打ち上げの時――から思っていたんだが、恋バナが好きなところといい、触手が動く事といい、ネギま世界にいる某人物を思い起こさせるな。
既に社会人になり、現在は売れっ子……まではいかないが、上の下、もしくは中の上といったくらいの位置にいる漫画家。
「違う。私がアクセルと一緒に来たのは……というか、それを言うのならお前達だって3人一緒に登校してるじゃないか」
「そうだな。入学初日からハーレムを築くとは……瀬呂、やるな」
「おいっ!?」
俺の言葉を聞いた瀬呂は、慌てた様子で叫ぶ。
……周囲にいる者達、特に足を止めて俺と瀬呂を睨み付け、血涙を流しているブドウ頭に気が付いたらしい。
「えっと……なぁ、アクセル。あの……何と表現していいのか分からない奴って一体?」
「俺に聞かれても困る。ただまぁ、俺や瀬呂に嫉妬してるのは間違いないだろ」
「アクセルはともかく、俺は本当にそういうのじゃないんだけどな。この2人と会ったのだって、駅から出た時に偶然だし」
「偶然……それは言い換えれば運命」
「おいっ、アクセル!」
俺の言葉に瀬呂がそう止めてくる。
無理もないか。
ブドウ頭が瀬呂をこれまで以上の眼力で睨み付けているし。
うん、これでブドウ頭の……俗に言うヘイトを瀬呂に変えるのに成功したな。
瀬呂にとっては難儀な事だが。
「ともあれ、いつまでもここでこうして話しているのも何だし、雄英に行こうよ。クラス分け、どうなってるか楽しみなような、不安なような感じだし」
葉隠のその言葉に、俺達は諍いを止めるのだった。
そうして、男2人女3人と……俺と拳藤の男女1人ずつだった時に比べれば、周囲から向けられる視線も大分柔らかくなったのを感じながら、雄英に向かう。
……ブドウ頭の男は、それでも俺と瀬呂を血の涙を流しながら睨み付けていたが。
そっちについては、気にしない事にする。
とはいえ、これで同じクラスになったら……いや、ここでフラグを立てるのもどうかと思うし、その辺については止めておくか。
「それにしても、まさか2人が一緒にいるとは思わなかった」
歩きながら三奈がからかうように言ってくる。
そう言う三奈もまた、3人で来ていたのだから、その辺について突っ込むのはどうかと思わないでもなかったが。
「三奈達もそうだったが、俺達も電車が一緒だったしな。というか、正確には駅も一緒か」
「え? そうなの?」
俺の言葉を聞いた葉隠が、拳藤に視線を向ける。
……透明なので、実際には制服が拳藤の方を見た事から、恐らくそうなんだろうと予想しているだけだが。
「ああ、本当だよ。しかもアクセルも私と同じくちょっと早めに家を出たらしくてね。それで電車も一緒だった訳だ」
「……運命?」
「だから、違うっての」
三奈の言葉に拳藤がそう突っ込む。
実際、こういうので運命を感じていたら、一体運命の人が何人いる事になるのやら。
……まぁ、俺の恋人の数を考えれば、俺の場合は運命が他にも多数あっても不思議ではなかったりするのだけど、その辺については突っ込まないようにしておこう。
「とはいえ、拳藤と同じ駅を使うのは、これから通学する上で話し相手が出来るって意味でラッキーだったな」
そう言うも、実際にはラッキーだとは言い切れない。
いや、拳藤と話をしながら通学というのは、いかにも学校生活っぽい、もっと言えば青春っぽいので、高校に通う上で悪くないとは思う。
思うのだが……それはつまり、毎日電車で雄英に通う必要があるという事でもある。
影のゲートを使えば、それこそ一瞬で雄英に到着するのだが、それが使えない。
一応、誤魔化そうと思えばそれなりに誤魔化せるとは思うのだが。
「そうだな。……もっとも、ヒーロー科での生活となると、悠長に遊んでいられるような余裕があるか分からないが。何しろ、雄英は日本でもトップクラスのヒーロー科だ。その授業はかなり厳しいと思っておいた方がいい」
「うわぁ……そう考えると、ちょっと自信ないな。身体を動かす方はともかく、勉強の方についていけるかな?」
三奈が自信なさそうにそう言う。
実際、三奈も合格通知……というか、立体映像の装置か? それでオールマイトに学科試験は結構ギリギリだったって言われたってLINにあったしな。
とはいえ……
「三奈も自分の学力に自信を持っていいと思うぞ。そもそもヒーロー科に合格したって事は、300倍の競争率を勝ち抜いたという事になる。その点だけを見ても、立派にエリートと言ってもいいんだから」
これはお世辞でも何でもない事実だ。
雄英のヒーロー科の受験を受けた者が多数いて、その倍率が今も言ったように300倍だ。
その競争率の中から合格を掴み取ったのだから、間違いなくエリートと呼ぶに相応しい存在だろう。
もっとも……首席を取った俺が言うのもなんだが、雄英はあくまでも次の世代のヒーローを育てる場所だ。
ぶっちゃけ……これは俺が勝手に思ってるだけだが、雄英の受験において、学科試験の点数というのはそう重要じゃないと思っている。
勿論、あまりに点数が低すぎれば話は別だが、ちょっと学科試験の点数が悪いけど、実技試験で活躍した者とその逆の2人がいれば、雄英は恐らく迷うことなく前者を取るだろう。
それは、ヒーロー科という特殊な……それでいて、このヒロアカ世界の根幹を成す人材を育てる最高峰の期間となれば、そうおかしな事ではない。
そして三奈は、恐らくそっちのタイプだったのだろう。
「え? そ、そうかな?」
「ああ、俺はそう思う」
「そうだよ、私もアクセル君の意見に賛成かな」
葉隠の言葉を聞いて、三奈はようやく安堵した様子を見せる。
何だかんだと、これからの高校生活が楽しみであると同時に心配でもあったのだろう。
「まぁ、もっとも……当然ながらヒーロー科だけの授業もあるけど、普通の授業もある。三奈が勉強を苦手なら、そっちをしっかりとやる必要があるのは間違いないだろうな」
「うげぇ……」
俺の言葉に、三奈が心底嫌そうな様子で言う。
実際、三奈は見るからに身体を動かすのは得意そうだが、本人の申告通り勉強は苦手そうだしな。
雄英のヒーロー科は入学するのは難しいものの、進級や卒業をするのもまた難しいらしい。
ねじれから聞いた話だが、実際にヒーロー科で2年以上も活動してきた、それもビッグ3の1人の話だ。
信憑性は高いだろう。
「ほら、三奈も元気を出しなって。私はこう見えてそれなりに勉強は得意だから、分からないところがあったら教えるから」
「うう……ありがとう、一佳」
気が付けば、いつの間にかお互いに名前で呼び合ってるな。
まぁ、女同士なんだし、お互いに相手と仲良くなるのは早い……いわゆる、コミュ強なんだし、それは別にそこまでおかしなことではないだろうけど。
そんな風に話ながら歩き続けると、ようやく雄英に到着する。
「……相変わらず、大きいね」
葉隠の感心と驚きか混ざった声が聞こえてきた。
何について言ってるのかは、考えるまでもないだろう。
雄英の正門だ。
正直なところ、何でここまで大きくする必要があるのかは分からないが。
異形系の個性の持ち主であっても、これだけの大きさは必要ないだろうし。
そんな正門に感心し、驚きながらも潜る。
すると正門から入ったすぐの場所にそれぞれのクラス名簿が張られていた。
雄英と言えばヒーロー科なのだが、それ以外にも普通科、サポート科、経営科といったように、幾つものコースがあり、それぞれに複数のクラスがある。
そういう意味では、2クラスしかないヒーロー科は少数精鋭といったところか。
そんな風に思いながらクラスの名簿を見ていくと……あった。
「どうやら、俺はA組だったみたいだな」
A組にアクセル・アルマーの名前を見つけるのだった。