「8kmって、マジか……どんだけ力があるんだよ」
相澤が見せた機械に表示された数値、切島が信じられないといった様子で俺を見ていた。
他の面々も、同じように信じられないといった様子で俺を見ている。
正確には7985mなのだが……まぁ、四捨五入して8kmって事なのだろう。
「何だこれ、すげえ面白そう!」
「8kmって、一体どんだけ強力な個性なんだよ」
「スマッシュって掛け声を使ってたし、オールマイトのファンなのかも」
「いや、でもオールマイトの個性は確か今もまだ謎のままだったろ? まぁ、その個性の一部に超パワーがあるってのは間違いないらしいけど」
「個性が思い切り使えるんだ。さすがヒーロー科!」
そうして俺の出した記録に興奮してそれぞれ声を上げる生徒達。
はしゃぎながら俺に声を掛けてくる面々に対応していたのだが、それを見ていた相澤の顔が不満そうに……いや、これは不愉快そうにか? とにかくそんな表情を浮かべている。
今の言葉の何が相澤に引っ掛かったのかは分からないが、何かが不味いのは間違いないだろう。
「面白そう……か」
そんな俺達の様子を見ていた相澤が、ポツリと呟いた。
あ、これ不味いな。
相澤の言葉を聞いて、俺はそう考える。
だが、今こうしてはしゃいでいる生徒達は、そんな相澤の様子に気が付いていない。
「ヒーローになるまでの3年、そんな気持ちのままでいるつもりなのか?」
そこまで相澤が口にしたことにより、ようやく何か不味いと考えた生徒達もいたのだろう。
だが、そんな生徒達を見ても、相澤は気にした様子もなく言葉を続ける。
「よし、トータル成績最下位の者は見込みなしと判断し、除籍処分としよう」
『はああああああああああああああああああああ!?』
相澤のその言葉に、数人の生徒以外の者達が揃って声を上げる。
まぁ、その気持ちは分からないでもない。
今日入学したばかりなのに、いきなり除籍……つまり、退学させられるのだから。
ん? 除籍と退学って同じ意味なのか?
とにかく、学校を辞めさせるのは間違いないので、そういう意味では生徒達がふざけるなという意味で叫ぶのは当然だった。
もっとも、除籍になるのは最下位の者だけで、そういう意味では成績が優秀な者にしてみれば、相澤の言葉は驚くものの、そこまで気にするようなものではないのだろうが。
ただ、それでも相澤の口から出た言葉に納得出来るかと言われれば、否だった。
俺の場合は、もしかしたら最初なので雄英に入学したという意味で浮ついている生徒達を引き締める為に言ったのか? とも思ったが、相澤の様子を見ると上辺だけの言葉ではなく、本気で言ってるように思えた。
「生徒をどうするのか、決めるのも俺達教師の自由。ようこそ、これが雄英ヒーロー科だ」
こちらを見下ろすように言う相澤。
にしても……雄英の教師だからそういう事はないと思うが、生徒達をどう扱おうとも教師の自由という言葉は、聞く者が聞けば生徒達にいかがわしい行為を強制し、それを聞かなければ除籍といったようにも思えるんだが。
……うん。まぁ、峰田にはそれを知られないようにした方がいいな。
この短い時間でも、峰田がどういう性格なのか……性欲過多といった存在なのは理解している。
もしその峰田が相澤の言葉を聞いて、雄英の教師を目指すようになったら……うん。雄英の生徒達が悲惨すぎる。
もっとも、雄英側も当然その辺りについては理解しているので、相澤も今のように言ったものの、俺が考えているような事をするつもりはないだろう。
そんな風に思っている間にも、生徒達が相澤に除籍の件について抗議していたものの、それが聞き入れられる様子はない。
「自然災害、大事故、身勝手なヴィラン達。いつどこから来るか分からない厄災。日本はそんな理不尽に襲われている。……もっとも、それでもオールマイトという平和の象徴がいるから、他の国と比べても犯罪発生率はかなり低いんだがな」
そこまで言うと、相澤は抗議している生徒達を見回す。
生徒達も、相澤の言葉には思うところがあったのか、先程までの抗議の声はなくなっていた。
そんな生徒達を見て、相澤は少しだけ満足そうな様子を見せる。
もっとも、その視線が一瞬俺に向けられた時は、俺が相澤の言葉に何も感じていないのを見て、一瞬だけ眉を顰めたが。
とはいえ……この辺の違いというか、認識の違いは仕方がない。
このヒロアカ世界では個性を持ったヒーローが治安を守っているものの、それはつまりやっている事は警備兵……いや、警備員か? とにかくそんな感じなのだ。
ヒーローという名称でそれらしい扱いをしてはいても、異世界からやって来た俺にしてみれば、ヒーローというのはそういう存在だ。
それもあって、俺はヒーローという存在をそこまで特別視はしていない。
相澤は俺を見て、全てではないにしろ、ヒーローを特別視していないというのは見て取ったのだろう。
とはいえ、俺は個性事故の影響によって公安に保護され、今は龍子……リューキュウに預けられている身だ。
どんな個性事故と説明したのかは分からないが、それもあって俺がヒーローに対して冷めた目で見ているといった事に何も言わないのかもしれない。
まぁ、俺自身がヒーローに憧れたりとかそういうのはないが、公安からの依頼もあるので、壁となる事で他の生徒達を鍛えるという役目を放棄するつもりはない。
そういう意味では、俺と相澤はある意味で仲間という事になるのだろう。
……相澤がそれを認めるかどうかは分からないが。
「放課後マックで談笑したかったらお生憎。これから3年間、雄英は全力で君達に苦難を与え続ける。Plus Ultra……更に向こうへ、さ。全力で乗り越えてこい」
そう言う……一種の演説? が終わると、早速個性を使った個性把握テストが始まる。
まず最初にやるのは50m走。
「あ、アクセル。よろしくね。まさかここで一緒になるとは思わなかったけど」
隣のレーンにいるのは、三奈。その隣には青山優雅だったか? 何だかナルシストっぽい感じの奴の姿もある。
このクラスは21人なので、1組だけ3人組で走るらしい。
……ただ、完全に出席番号順という訳ではないのか、既に飯田と蛙吹梅雨とかいうカエルっぽい印象の女の生徒が走り終わっている。
ちなみに飯田の個性は足の裏にエンジンがあり、それで速く移動出来るらしい。
この50m走というのは、飯田にとっては得意種目だろうな。
もっとも、本人は走り終わった後で納得した様子を見せていなかったので、実力を完全に発揮出来た訳ではなかったらしいが。
「全く、君達は工夫が足りないね。個性を使っていいというのは……」
そう言い、青山は何故か後ろを見る。
三奈は普通にスタート台? に足を乗せて……クラウチングスタートだったか? その構えでいる。
俺は……さて、どうするか。
まぁ、今のところは増強系という風に思われているので、影のゲートを使ったりはする必要もないだろう。
それに……走るのなら、丁度いい技術もあるし。
そんな訳で、俺は他の2人と違って普通に立って走る構えを取る。
スタートの合図がされると同時に、瞬動を使用。次の瞬間、俺の姿はゴールの位置にあった。
「0.2秒……か」
相澤の俺を見る目が何か意味ありげだ。
それをスルーして後ろを見ると、そこでは青山が腹からビームを出してそれを推進力として飛んでおり、三奈は普通に走っている。
……青山は途中でビームの発射を止めて、地面に転ぶようにして着地すると、そこからは走っていたが。
「ふぅ……相変わらず速いね、アクセル。正直なところいつ抜かれたのかも分からなかった」
普通に走った結果、結局青山よりも早くゴールした三奈がそう言ってくる。
「まぁ、受験の実技試験の時の件もあるしな。このくらいなら何とかなるよ」
「えー、だって聞いた話によると、アクセルがあの時に見せたのは0Pを破壊した力なんでしょ? 速度とはちょっと違うと思うけど」
「いや、それなりに速度も見せていたと思うんだが」
瀬呂はともかく拳藤なら妙な改竄とかはしないで普通に話したと思うんだが。
もっとも、その件についてはお互いに思い込みとかそういうのがあったりするので、しかたがないのかもしれないが。
……あ、また爆豪が睨んでる。
負けん気が強いというか、対抗心が強いというか。
「凄いですわね、アクセルさん。あれだけ速く動けるというのは、驚きですわ!」
ヤオモモが、俺に向かって興奮したように言ってくる。
いやまぁ、喜んで貰えるのは嬉しいんだが……この状況で話してくる程にヤオモモと仲が良かったか?
まぁ、ヤオモモはどこかクーデリアに通じるような印象があるので、話していて気が休まるのは事実だが。
「まさか、俺が速度で負けるとは思わなかった。素晴らしい速度だった」
飯田からも褒められる。
まぁ、飯田の個性は速度特化といった感じだし、それで負けたのを素直に認められるのは凄いと思う。それに……
「飯田も、走り終わった時の様子を見る限りだと、個性で全力を出せなかったんだろう?」
「む、知られていたか。……そうだ。俺の個性はエンジンなのだが、50mでは3速までしか出せない。まだまだ未熟だな」
そうして話している間に、爆豪と緑谷が50m走を行う。
行うのだが……
「あれ?」
爆豪が両手から爆発を起こし、それを推進力として走ったのは、分かる。
やはり爆豪という名前から予想したように、爆発というのが爆豪の個性なのだろう。
速度特化の飯田よりは少し遅いが、それでも爆発で相応の記録を出したのは分かる。
だが……そんな爆豪に対して、緑谷は何だ?
俺はてっきり緑谷がこの世界の主人公だと思っていた。……いや、まだそう思ってはいるが、その割には記録は平凡だ。
以前、どの世界で見たのかはちょっと忘れたが……多分、ペルソナ世界かネギま世界だったと思うけど、高校生の50m走の平均タイムは7秒31とかだった筈だ。
そして先程聞こえてきた緑谷のタイムは7秒02.
そういう意味では平均の記録を上回っているのだが……0Pを倒した実力を持つ緑谷の走る速度として考えれば、論外だ。
それとも緑谷の個性は破壊力に特化していて、速度そのものはどうという事もないとか?
そんな疑問を感じている間に全員が50m走を終え、次の競技……握力測定に移る。
「あ、壊れた」
少し、もう少し……といった具合に考えながら握力計を握っていたところ、どうやら限界を超えてしまったらしく、壊れてしまった。
「……壊れたか。∞だな」
ざわり、と。
相澤が俺にそう言うと、それを聞いていた生徒達がざわめき、最早いつもの如く爆豪が俺を睨んでくる。
というか、俺は金属の塊を指で千切れる程度は余裕で出来るのだから、この結果はそう不思議なものではない。
ちなみに握力のテストで目立っていたのは、異形系で手を何本も作って540kgを出した障子と、個性を使って機械を作り、それで俺と同じく握力計を破壊したヤオモモ。
……障子の個性も変わってるけど、ヤオモモの個性は……
「ヤオモモ、お前の個性って……」
「私の個性は創造ですわ」
「それはまた……文字通りの意味と思ってもいいのか?」
「はい。もっとも生き物を作る事は出来ませんし、分子構造まで理解している必要がありますけど」
「それはまた……」
数秒前と同じ言葉を、ただし違う意味で呟く。
話を聞く限り、ヤオモモの創造という個性はかなり強力な個性だ。
それこそゲートが設置されてホワイトスターと自由に行き来が出来るようになった時、技術班がヤオモモの個性を知れば、是非とも欲するだろう事は間違いない。
現在のシャドウミラーには、キブツが存在する。
元素変換をして岩塊やゴミ……それどころか、BETAの死体といった諸々を突っ込めば、大抵の物が作れる。
だが……大抵の物と表現したように、何でもかんでも、全てを作れる訳ではない。
その世界特有の物質……具体的には、マブラヴ世界のG元素であったり、ナデシコ世界のCCといった物を作る事は出来なかった。
だが、分子構造さえ理解していれば創造という個性で生物以外を作り出せるというのなら……ヤオモモは、シャドウミラーにとって非常に大きな意味を持つ事になる。
多少打算的ではあるが、俺個人としてもヤオモモは話していてクーデリアを連想させるし、そういう意味で仲良くなっておきたいな。
……もっとも、ヤオモモはヒーローになるのに憧れている。
それを思えば、ホワイトスターと自由に行き来出来るようになっても、シャドウミラーに所属するといった事はないような気がする。
「どうしましたの? そんなに見られると、照れてしまいますわ」
考えながらじっとヤオモモを見ていたからだろう。
ヤオモモは頬を赤くしながら、照れ臭そうに言う。
……障子にタコってエロいとか言っていた峰田に睨まれながらも、俺はヤオモモに謝るのだった。