ヴィラン級の声を出した三奈だったが、拳藤の言葉ですぐ我に返る。
「え? あ、ごめん。ただ、私と切島は同じ中学だったってだけで、少し話した事があるくらいだよ」
三奈が説明するというか、まるで言い訳をするようにそう言う。
恋バナ大好きな三奈としては、ここでそういう風に言うのはどうなんだと思わないでもない。
それに……別に少しだけそういう風に思われたからといって、あそこまで怒る必要もないだろうに。
「あー……うん。悪い。別にそういうつもりじゃなかったんだが。ただ、緑谷と爆豪が同じ中学出身で同じクラスになったのがちょっと気になってな。それで三奈と切島も同じ中学だったってのを思い出して、話を聞いてみたいと思っただけだ」
そう言うと、三奈も少し落ち着いた様子を見せる。
「ううん、気にしないで。けど……そうかもしれないわね。雄英の競争率とかそういうのを考えると、同じクラスに同じ中学の生徒が2人ずつ2組いるというのは不思議だよね。一佳の方はどうなの?」
「え? うーん、今日は入学式だけで、B組の皆と話した訳じゃないから正確には分からないけど、B組の女子には同じ中学の生徒がいるって話は聞いてないよ。まぁ、別にわざわざ言うような事じゃないから、黙っているだけなのかもしれないけど」
そう言われると、俺もなるほどと納得する。
実際、三奈と切島が同じ中学だったというのは、別に殊更に聞いた訳ではない。
普通に話している中で自然とそういう話になって分かった事でしかない。
だとすれば、B組に同じ中学出身の生徒達がいても、それを話していないという可能性は十分にあった。
他に考えられる可能性があるとすれば、同じ中学出身だがA組とB組に別れているといった感じか。
そう思うも、やっぱりA組こそがこの世界の原作の舞台であるというのは、既に俺の中に確信として存在している。
だとすれば、多分B組に同じ中学出身の生徒はいないだろうし、A組とB組に別れて同じ中学の出身もいないだろうと思える。
「そう言えば、B組って事で思い出したけど……マックに来る途中で、拳藤が『こっちにも問題児がいる』って言い方をしてたよな? それだと、B組にも問題児がいるのか?」
三奈の様子から、切島との件についてはこれ以上触れない方がいいだろうと考え、拳藤にそう尋ねる。
拳藤は姐御魂で俺のそんな考えを察知したのか、特に戸惑う事もなく頷く。
……こういうのを見ていると、もしかしたら拳藤の個性は姐御じゃないかと思ってしまうよな。
手を巨大化する個性だってのは知ってるんだが。
ただ、人によっては複数の個性を持つような奴もいるらしいし。
なら拳藤も手を大きくする個性以外に、姐御という個性を持っていてもおかしくはない。
「実は……うん? 何だよ、アクセル。何か妙な感じでこっちを見てるけど、何かあるのか?」
俺の視線に何かを感じたらしく、拳藤がそう聞いてくる。
そんな拳藤の言葉に、首を横に振る。
もしここで実は拳藤には姐御という個性もあるのではないかと言えば、それこそ巨大化した手で殴られかねない。
「……まぁ、いいけど。ちょっと説明しにくいんだが、何というか……そう。精神がアレな奴が1人いる」
「精神がアレ?」
その表現の仕方はどうなんだ?
そう思わないでもなかったが、拳藤がそう表現したくなる程の奴なのだろう。
だとすれば、拳藤が言う通り精神がアレであってもおかしくはない。
とはいえ、人格者と言ってもいい拳藤に1日でこういう表現をされるというのは……ある意味峰田級、爆豪級の問題児なのかもしれない。
精神がアレという人物について少し聞きたかったが、拳藤の疲れた様子を見るとそのようなことはしない方がいいだろうと思う。
「それで、個性把握テストってのは一体どういう奴だったんだ?」
拳藤が周囲の雰囲気を察したのか、話題を変える。
話題を変えつつ、本人もその辺りについては聞いておきたかったといった感じなんだろうけど。
「個性を自由に使ってもいい体力測定だな」
「相澤先生の、最下位は除籍って言葉には驚いたよね。冗談でよかったけど」
俺の言葉に葉隠がそう言う。
表情は見えないが、その言葉に心の底からの安堵があるのは、緑谷や峰田と最下位争いをしていた葉隠だからこそだろう。
透明になるという個性は考えようによっては非常に強力だ。
だが、それは強力であっても、個性把握テストに使えるような個性では……ん? あれ、ちょっと待て。
緑谷は曲がりなりにもソフトボール投げでヒーロー科の生徒らしい結果を出した。
それは間違いないが、葉隠はそんな緑谷よりも総合成績で上だったのか?
峰田も緑谷には勝っているが、峰田の場合は反復横跳びで個性を使ってクラスでトップの成績を出している。
……それでいながら最下位の緑谷よりも1つ順位が上なだけというのは、正直どうなんだ? と思わないでもないが。
とにかく葉隠は個性が個性把握テストには使えないので、つまり素の身体能力で個性を使って1競技とはいえ、トップクラスの記録を出した緑谷と峰田を抜いたという訳であり……
「すごいな、葉隠」
「……え? あ、ちょっ、アクセル君、いきなり何を言うの!?」
まさか俺からそんな言葉を掛けられるとは思わなかったのか、葉隠は両手のグローブを激しくパタパタと上下に動かす。
「いや、こうして話していて思ったんだが、葉隠の個性は透明になるというもので、個性把握テストの時に使えるような奴はなかっただろう? なのに、緑谷と峰田という個性を使っていた2人にも勝っているんだぞ? これは凄いという他ないだろ」
このヒロアカ世界は個性という特殊能力が存在する。
それによって、男女差の身体能力差が完全になくなったのかと言われれば……それは否だ。
勿論、蛙吹のような異形系の女は高い身体能力を持っているし、単純に増強系の個性を持つ女なら男よりも高い身体能力を持つだろう。
だが、それはあくまでもそういう個性を持っている者であればの話で、増強系以外の個性を持つ者、あるいは10人に1人はいるという無個性の者は、当然ながらこのヒロアカ世界以外の世界と同じく、基本的には男よりも身体能力が劣る。
小学生くらいの時なら、男女差はまだ少ない。
いや、寧ろ女の方が成長が早いので、男よりも女の方が高い身体能力を持っている事も珍しくはなかった。
だが、それが中学生になれば女が男に身体能力で勝つのはほぼ不可能になり、そして高校になれば……言うまでもないだろう。
ましてや、俺達が通っているのは雄英のヒーロー科。
競争率300倍の受験を合格した者達である以上、当然ながら身体能力は高い。
そんな中で、葉隠は身体能力が増すような個性でもないのに、峰田と緑谷に勝利したのだと考えれば、これは普通に凄い。
……いやまぁ、それを言うのなら三奈の10位というのはかなり凄い順位なのは間違いないのだが。
葉隠が透明になる個性なのに対して、三奈の個性は酸だ。
これもまた、個性把握テストに使うのは難しい。
あるいは透明になるのと違って、個性を鍛えれば酸なら個性把握テストにも使えるようになるのかもしれないが……今日の個性把握テストの時点では、三奈は個性を使わず素の身体能力で個性把握テストに挑戦していた。
そんな説明を、隠す部分――異世界とかそういう俺の秘密――は隠して話すと、葉隠の手袋の動きが激しくなり、三奈はそのピンク色の頬を薄らと赤くする。
どうやら照れているらしい。
「アルマー君、褒めすぎだよ」
「そ、そうそう。アクセルってば、明らかに褒めすぎだってば」
そんな2人の様子を見ていた拳藤は、不意にヤオモモの方に視線を向ける。
「この2人については分かったけど、ヤオモモはどうなのさ?」
「え? 私ですの? 私は……アクセルさんには勝てませんでした」
「それはつまり、2位って事だろ? アクセルの話を聞く限り、ヤオモモの個性は増強系だったりするのか?」
「いえ、私の個性は創造ですわ」
「そうだな。ヤオモモの場合はもう……強個性極まれりといった感じだから、葉隠や三奈と一緒にするのはちょっと問題があるかな」
ソフトボール投げでは大砲を作り、握力測定では機械を作る時に締め付ける奴を作り、持久走ではスクーターまでをも作り出した。
ぶっちゃけ、分子構造まで理解しないと作れないという創造は、馬鹿が使うと強個性どころか、弱個性になってもおかしくはない。
頭の良いヤオモモだからこそ、創造は極めて強力な個性となっているのだ。
何しろ無機物なら分子構造を理解していれば何でも作れるのだから、万能に近い。
「……そのヤオモモに勝ったアクセルがそういう事を言っても、説得力ないよな」
瀬呂が呆れたようにそう言ってくる。
ヤオモモはそんな瀬呂の言葉に頷くと、プリプリといった擬音が相応しい様子で勢いよく口を開く。
「そうですわ。私も推薦で入学をした身として、今日の個性把握テストには精一杯挑ませて貰いました。私と同じ轟さんにも勝つ事が出来ましたが、アクセルさんには到底勝つ事が出来なかったのですから」
そう言うヤオモモの様子に、拳藤は面白そうな視線を向ける。
拳藤から見て、今のやり取りはそれだけ面白かったのだろう。
……どこがそこまで面白かったのか、俺にはちょっと分からないが。
「けど、こうなると……やっぱり、私もA組になりたかったよな。受験の時から知り合いだったアクセル達が全員A組で、私だけがB組だったってのは何か作為を感じるけど」
拳藤にしてみれば、入学前から知り合いだった俺達と自分だけ違うクラスになったのが残念だったのだろう。
とはいえ、俺達全員がA組になるという方が、作為的なものではあるのだろうが。
「まぁ、その辺は教師達が考える事だから仕方がないだろ。一体どういう風にクラス分けを決めたのかは分からないけど」
「それはそうだけど」
完全には納得した様子ではない拳藤だったが、それでもこの状況でこれ以上何かを言っても意味はないと判断したのだろう。
不満そうにしながら、ポテトを口に運ぶ。
「まぁ、ほら。一佳も落ち着きなって。多分、B組は明日私達と同じ個性把握テストをやるんだから、それを知る事が出来てよかったって思っておいたらいいんじゃない? それより……ねぇ、皆。男子もいるけど、こうして放課後にマックで集まっているのなら、やるべき事は1つよね。恋バナ、しよう!」
目をキラキラさせ、そう言う三奈。
さっき切島との関係について聞かれた時は即座に否定していた割には、こう……まぁ、それとこれとは別って事なのかもしれないが。
「恋バナ……ですの? バナナか何かでしょうか?」
「ヤオモモ……」
ヤオモモのボケ……というか天然なのだろうが、そう言ってくるのを聞いた三奈が、力が抜けたように言う。
葉隠は……透明な分だけいつもは動きが大きいのに、今は動きを止めており、それが衝撃の大きさを物語っていた。
ヤオモモにしてみれば、特にボケるつもりもなかったのだろうが。
うん、こうして見るとやっぱりヤオモモは箱入りのお嬢様といった感じなんだろうな。
本人に自覚があるのかどうかは別として。
「えっと、それで……恋バナか。残念だけど、私はそういう経験はないな。三奈はあるのか?」
「え? うーん……私は……その、中学の時に何度か告白された事はあるけど……」
困った様子の三奈。
この感じだと、告白されても付き合うといった事はなかったのだろう。
これはちょっと不思議だよな。
今こうして恋バナをしようと言い出したように、三奈は恋愛関係にも強い興味を持つ。
実際、個性把握テストの時に三奈と同じ中学だった切島から話を聞いた限りだと、三奈は中学時代はかなり人気があったらしいし。
それに……こう言うのも何だが、三奈は身体付きもこの年齢にしてはかなり大人っぽい。
もっとも、大人っぽいのではなく既に大人な身体付きのヤオモモと一緒にいたりするので、その辺はあまり目立たなかったりするが。
葉隠もまた、透明だから分かりにくいものの、ボディタッチがそれなりに多いので、結構女らしい身体付きをしているのは分かる。
拳藤も制服の上からでも分かるくらいには女らしい身体付きだ。
「じゃあ、恋バナをするにしても、三奈の話になるんじゃないの?」
「私がしたいのは、そういうのじゃないの! こう、恋バナをしてワクワク、ドキドキしたいんだってば!」
つまり、現実世界の恋バナではなく、恋バナというのを想像……空想して話したいとか、そういう事なのか?
それは恋バナとしてどうなんだ? と思わないでもなかったが、そういうのを好みだと言われれば、俺としてはそうですかとしか言えない。
「分かった、分かった。じゃあ恋バナをするか。……葉隠とヤオモモもそれでいいよな?」
「うん、いいよ。私も恋バナ好きだし!」
「私はあまりそういうのに詳しくないですけど、それでもいいのでしたら」
そうして女達が恋バナをするのを、俺と瀬呂は気にしないようにして今日の個性把握テストについての話を続けるのだった。