「ふぅ」
「……大分疲れたみたいだな」
俺は電車に乗り込むなり、大きく息を吐いた拳藤にそう言う。
瀬呂、三奈、葉隠の3人は俺や拳藤とは路線そのものが違い、ヤオモモは縦に長い車が迎えに来て、それに乗って帰った。
ヤオモモは一緒に車に乗って帰らないかと聞いてきたのだが、マックの前という事もあってか、かなり目立っていたのも影響し、全員そんなヤオモモの提案を断った。
そうして駅で他の面々と別れ……今こうして、俺は同じ駅を使っている拳藤と一緒に帰っていた。
幸いなことに、もう夕方だというのにそこまで混雑はしていない。
これが東京とかなら夕方はもっと混んでるのだろうが。
とはいえ、それはあくまでも混雑をしていないというだけであって、座席が空いているという訳ではなかったのだが。
もう少し早ければ座席に座れたんだろうけど……女同士のお喋りというのは、終わりがないというのを改めて知ってしまった形だ。
もっとも、恋人が大勢いる身としては、そういうのにも慣れてはいるけど。
レモンとかコーネリアとかはそこまでお喋りを楽しんだりしないものの、円や美砂、ミナトはかなりお喋りを楽しむ。
寧ろそういう面子が揃っていたら、それこそ今もまだお喋りが続いていたかもしれない。
そういう意味では、三奈達でラッキーだったのだろう。
もっとも、拳藤は自分でも言っていたようにあまり恋バナとかには慣れていなかったらしい。
最初こそ面白そうに話していたものの、次第に疲れていったのは俺の目から見ても明らかだった。
まぁ、うん。姐御の個性を持つ拳藤にしてみれば、ああいう話題はあまり得意じゃないのかもしれないけど。
「その……自慢じゃないけど、ああいう話題は決して得意じゃないしな。寧ろ私としては、アクセルと瀬呂の方に混ざりたかったよ」
つり革に掴まりながら、そう拳藤が言ってくる。
とはいえ、俺と瀬呂も別にそこまで詳しく話していた訳じゃないけどな。
お互いの個性について色々と話したり、個性把握テストについて話したりとか、そんな感じで。
ああ、それと瀬呂が最近嵌まっている動画についても教えてくれたな。
何でも、アップされてもすぐに消されるから、それを見る事が出来た奴は運がいいとか。
後は、アングルとか映像の編集能力がとんでもなく高い……それこそプロレベルだとか、そんな風に言っていた。
スマホを使って動画を探してみたものの、瀬呂が言うようにアップされてもすぐに消されるらしく、残念ながら映像を見つける事は出来なかった。
「あの状況で拳藤だけが俺達のいる方に来たら、それはそれで問題だったと思うけどな」
「うー……まぁ、いいけど。取りあえず今日の夕食は軽くでいいか」
先程までファーストフード店にいたからだろう。
そう拳藤が言うのを聞く。
あれから俺も何度か追加注文をしたが、俺の腹にはまだまだ余裕がある。
……というか、食べた端から分解されて魔力として身体に吸収されているので、食べきれないといった事はない。
寧ろ幾らでも食べられる。
どこの世界だったか……ペルソナ世界だったか? 大盛りメニューで、既定のタイム以内に食い終われば無料であったり、寧ろ報奨金が出たりする店というのはそれなりに多かったが、そういう店に挑戦した俺は、全てを攻略した。
うん、まぁ、俺は混沌精霊なのだから、そのくらいは当然ではある。
もし店に混沌精霊お断りと書いてあれば、俺も挑戦はしなかったんだけどな。
自分でも無茶を言ってると思うのは分からないでもなかったが。
「軽くか。俺は普通に食べるけどな。一階にあるスーパーで弁当や惣菜を買っていこうと思ってるし」
「一階?」
俺が何を言ってるのか分からないといった様子の拳藤。
あれ? この件については言ってなかったか?
「俺の住んでるマンションの一階はスーパーになってるんだよ。少し高めの値段設定だけど、その分品質はいい」
勿論、安売りが目玉のスーパーが悪いという訳ではない。
だが、そういう店では品質がそこまで良くない商品とかも多く、目利きの技術が必要となる。
いわゆるプライベートブランドの類でも、品質の善し悪しが非常に分かれる。
中には安くて美味い食べ物とかもあるんだろうが、見る目がなければ安かろう悪かろうの商品を買ってもおかしくはない。
そういうのに比べると、俺のマンションの一階にあるスーパーは多少高額ではあるが、一定の品質が保証されているのは大きかった。
特に俺の場合、公安からの報酬とか生活費の支給もあるので、商品の値段が高いからといって、そこまで困る訳でもないしな。
何よりスーパーが1階にあるという事で、帰りに寄りやすいというのもある。
コンビニとかと同じような感じの便利さだな。
しかもスーパーの広さはコンビニよりも圧倒的に上で、商品の充実度も勝っていた。
「へぇ、マンションの1階にそういう店があるのか。羨ましいな」
「マンションにあるというのを抜きにしても、品揃えのいい店なのは間違いないし……ちょっと寄ってみるか?」
そう聞いてみるが、拳藤は少し考えてから首を横に振る。
「やめておくよ。アクセルの話を聞く限りだと、値段が高いんだろ? これからの雄英での生活を考えると、出来るだけ節約をする必要があるしな」
なるほど、俺の場合は公安の金を好きなだけ使えるから金銭的な問題はないけど、それは俺だからの話だ。
拳藤は公安に雇われている訳ではなく、普通の学生だ。
……競争率300倍の雄英のヒーロー科の生徒が普通の学生というのは少し無理があるような気がするが。
ただ、身分的には普通の学生であるのは間違いない。
だとすれば、ここでわざわざ何かを言うような必要もないだろう。
「分かった。拳藤がそう言うのなら無理には誘わない。それに……明日からは学校生活も忙しくなるだろうし」
「そうだね。私達は個性把握テストをやるんだろうし」
「頑張れよ。……まぁ、俺達の担任の相澤じゃないんだから、最下位なら除籍とか言ったりはしないと思うけど」
そもそも、最下位だから除籍というのは生徒達が個性把握テストを面白そうとか言ってはしゃいでいたのが理由なんだろうけど。
B組の担任がどういう人物なのかは分からないが、性格的に相澤よりもマシな可能性は十分にある。
ただ、ヒーローとして考えた場合、相澤はかなり有能なのも間違いないんだよな。
何しろ相手を見るだけで個性を消せるのだから。
……ドライアイとかで、有用な個性を万全に使いこなす事は出来ていないようだったが。
ともあれ、個性を使うヴィランを相手にする場合、間違いなく有用……寧ろ切り札的な存在なのは間違いない。
ホワイトスターと行き来出来るようになったら、相澤の遺伝子を分析するとかしてみたいな。
勿論、他にも気になる個性を持っている者は大勢いるが。
具体的には、ヤオモモの創造とか。
緑谷の自分の身体が出来るまで耐えられないという強力無比な増強系とか。
特に緑谷はこの世界の主人公……主人公……うーん、どうなんだろうな。
いや、勿論主人公っぽいとは思う。
状況証拠的にも、緑谷が主人公だと示してはいる。
だが、緑谷とちょっと話してみた感じでは……
それに俺が緑谷をこの世界の主人公であると思ったのは、受験の時の実技試験で0Pを倒したからというのが大きい。
つまり、俺と同じように0Pを倒す前に他にも1Pから3Pのロボを破壊していたのだろうと、そう思っていたのだ。
だというのに、今日聞いてみたところでは緑谷は0Pを壊したものの、他のロボットは壊せなかった。
それで0Pから助けた麗日が自分の点数を幾らか譲れないかといった事を教師達に頼んだらしい。
もっとも、そういう事をしなくても明言されていなかった救助Pで一気に上位に来たらしかったが。
とにかくそんな訳で、緑谷の実技試験での成績は悪い意味で俺の予想外だった。
それを聞いて、緑谷が主人公の可能性が少し減ったのは間違いない。
「……セル、おい、アクセルってば。聞こえてるか? そろそろ私達が下りる駅だよ」
緑谷について考えていると、拳藤のそんな声で我に返る。
「ん? ああ、悪い。ちょっと考え事をしてた」
「考え事? 一体何さ? 1人で考えるよりも、人に話した方がいい時ってのもあるよ」
「……そうだな」
丁度俺がそう答えたところで電車が停まり、俺と拳藤の下りる駅になる。
電車から出て、拳藤と話しながら進む。
「具体的に言えば、A組には緑谷って奴がいるんだけど。確か拳藤も実技試験の時にリカバリーガールから名前を聞いてるよな?」
「あー……ああ、分かる分かる。アクセル以外で0Pを倒したって奴だよな? かなり酷い怪我を負っていたらしいっていう」
「そう、それだ。その緑谷だが今も言ったように無事に雄英に合格して俺と同じクラスになったんだが、今日の個性把握テストで凄い事が発覚してな」
「凄い事? というか、それは私が聞いてもいい話なのか?」
「別に構わないと思うぞ。A組の生徒がいる前で話したしな」
「お前が何かを言ったのかよ」
「あくまでも予想とかそういう感じだ。……とにかく、緑谷が個性を使えるようになったのは、受験の少し前らしい。で、爆豪……その緑谷の幼馴染みがブチ切れてな」
「なんでブチ切れるんだ?」
「典型的ないじめっ子といじめられっ子だったのが、そのいじめられっ子がもの凄い個性の持ち主だったと判明したんだ。いじめっ子としては面白くないだろ」
実際にはそこまで簡単な間柄という訳ではなさそうだったが。
いじめられっ子と称した緑谷だったが、その緑谷は爆豪を慕っているというか、憧れているというか、そんな感じに見えたし。
「そこまで凄い個性なのか?」
「ああ、それこそ本気で使えば緑谷の身体が個性に耐えきれずに怪我をするくらいにはな。……だから、多分緑谷の身体が個性に耐えられるようになるまで成長して、そこで初めて個性が発現したと……そう予想して言ったんだが、それが実際に正しかったのかどうかと疑問に思ってな。拳藤はどう思う?」
「そう言われても、私は実際その緑谷ってのを見てないからな。けど……個性というのは例外なく4歳までに発現するものだろう。例外というのがあるのかどうか」
悩ましいといった様子で言う拳藤。
とはいえ、まだ個性という存在が把握されてから100年程だ。
つまり、まだまだ個性について分かっていない事とかはあってもおかしくはない。
そういう意味では、個性に身体が耐えられなかったから、身体が耐えられるようになるまで個性が発現しなかったというのも十分に考えられる。
……もっとも、身体が耐えられるとはいえ、0Pを倒した時は腕がグシャグシャだったし、今日のソフトボール投げでも腕は無事だったが指がかなり酷い状態になっていたのは間違いない。
そんな諸々について考えると、本当に身体が耐えられるまで個性が発現しなかっただけなのかといった疑問もあるにはあったが。
もしくは、身体がある程度出来上がる前に個性が発現していたら、今日見た程度の怪我ではすまず、個性を使った部位が爆散していた可能性も十分にあったが。
そういう意味では俺の仮説も決して間違っているとは思えない。
「うーん、俺も別にその辺りに詳しい訳じゃないしな。……寧ろ、個性の研究をしている学者とかにしてみれば、緑谷の個性はかなり興味深い内容になってそうだよな」
「あはは。解剖されたりしてね」
「……解剖、か」
「ちょっ、アクセル!? 冗談だってば、冗談。まさか本気でそんな事をする筈が……」
俺の態度に慌てたように拳藤がそう言うが……この世界はヴィランという名の悪人が多いしな。
中にはマッドサイエンティストとか、そっち系のヴィランがいてもおかしくはない。
そんなヴィランにしてみれば、緑谷の個性は興味深いだろう。
あるいは緑谷が主人公であるというのも、そういう連中を引き寄せる要素になったりするかもしれないけど。
「ヴィランにそういう連中がいないとも限らないだろ? それだけの強個性だと、更に興味深いと思えるだろうし」
寧ろそういうヴィランはうちの……シャドウミラーの技術班にいそうだが。
いや、さすがにそれはないか。
技術班には自分の研究に熱中する者が多いが、だからといって人権を無視するようなことをすれば、マリューやレモンといった上司に咎められるし、最悪シャドウミラーから追放されるといったようなことになってもおかしくはない。
技術班に所属する者達にしてみれば、魔法球のお陰で時間を気にせず、しかも時の指輪の受信機のお陰で不老になり、いつまででも研究を続けられる。
研究に必要な素材等についても、量産型Wやコバッタに言えばキブツで作って持ってきてくれる。
ましてや、シャドウミラーの特性上、色々な世界に行っては様々な未知の技術を集めてくれる。
食事の準備や片付けといった面倒な事も、量産型Wやコバッタがやってくれる。
そんな技術者として、研究者としての楽園と呼ぶべき状況を捨てるなどという事は、研究者として有り得なかった。