俺達がグランドβの前で話していると、少し……というか、かなり遅れて緑谷が姿を現す。
緑谷のヒーローコスチュームは……何だ? 何かこう、ヒーローコスチュームというよりは、普通の服といった印象を受ける。
いや、勿論外見はとてもではないが普通の服といったようには見えないが。
いかにもヒーローコスチュームっぽい感じなのは間違いなく、それでいて普通の服?
勿論、ヒーローコスチュームで普通の服のように見せ掛けるといった事も出来ないわけではないだ……外見が普通の服とは違うんだから、それで生地を普通の服のようにするというのは、ちょっと理解が出来ない。
とはいえ、俺もこのヒロアカ世界に来てからまだ半年くらいだ。
一応ネットでこの世界の常識とかそういうのを調べたりもしたが、技術関係についてはまだ分からない事も多い。
そして雄英は日本最高のヒーロー科である以上、普通の布に見せ掛けた生地があってもおかしくはないか。
「アクセル、どうしたんだ?」
そう俺に声を掛けてきたのは、瀬呂。
瀬呂のヒーローコスチュームは……まぁ、いかにもヒーローコスチュームといったような様子のもので、緑谷のように特におかしなところはない。
「いや、緑谷のヒーローコスチュームを見て、ちょっと不思議に思ってな」
麗日と話をしている緑谷を見つつ、そう言う。
ちなみに麗日は緑谷の前で自分のヒーローコスチュームを恥ずかしがっていた。
俺と話していた時もそうだったが、その時よりも更に恥ずかしがってる気がする。
これは……多分、そういう事なんだろうな。
個性把握テストの時の件もあって少し怪しんだものの、それでも今のところ緑谷がこの世界の主人公であるという俺の予想は変わっていない。
そして緑谷がこの世界で主人公だとすれば、当然ながらそこにはヒロインがいてしかるべきだろう。
その最有力候補こそが、麗日な訳だ。
雄英の受験の時に知り合い、そして実技試験の時に0Pから助けるといった事までしているのだから、ヒロイン要素は非常に大きい。
そんな風に思っていると、峰田が……何と言うか、口と鼻以外は全て包まれ、そこにマフラーっぽいのを巻くといったヒーローコスチュームのまま、親指を俺に向けてくる。
何だ? 今までの経験からして、峰田がこういう態度の時はろくでもない事なのは間違いないんだが。
「ヒーロー科最高だよな」
「……あー……うん。まぁ、そうだな」
峰田が何を言いたいのかは、俺にも理解は出来る。
ヤオモモ、三奈、麗日といったように、ヒーローコスチュームが……そう、エロいのは、峰田にとってそこまで嬉しい事だったのだろう。
寧ろ不思議なのは、峰田がそれを俺に言ってきた事だ。
俺と瀬呂は、三奈や葉隠と最初から仲が良かったという事で決して好ましく思われていなかった……いや、それどころか血涙を流しながら睨まれたりしていた筈だった。
だというのに、何故いきなり態度が変わったのか。
もっとも、それは俺にとっても決して悪い事ではない。
俺は峰田に恨まれていたものの、俺自身は決して峰田の事は嫌いという訳ではないのだから。
いやまぁ、ウザいと思うような事がない訳でもなかったが。
ともあれ峰田の気持ちも分かるので、小さく頷いておく。
……三奈が俺にジト目を向けていたような気がしたが、それについては取りあえず置いておくとして。
そんな風にやり取りをしていると、オールマイトが姿を現す。
さっき教室でも誰かが言っていたが、やっぱりオールマイトは画風が違うな。
そして……これもさっき教室で思ったのだが、やはり以前に動画で見た時のような圧倒的な存在感がないように思える。
うーん、これは……一体何でだ? 俺の気のせいか?
でも考えてみれば、オールマイトは既に50代? 60代? そのくらいの年齢の筈だ。
寧ろその年齢で今のような筋骨隆々な身体を維持してるのが、そもそも異常なのかもしれないが。
「始めようか、有精卵共! 戦闘訓練の時間だ!」
そうしてオールマイトは生徒達を一瞥し……何故か緑谷を見て噴き出す。
何でだ?
まぁ、緑谷のヒーローコスチュームの頭頂部はオールマイトの髪型と似ているから、それに思うところがあったのかもしれないが。
そして、その視線が俺に向けられ……今度は微妙な表情を浮かべる。
黒いマントに肩パッド、そして目の周辺だけを隠すマスク。いや、仮面か? とにかくそんな感じで見掛けは魔王……大魔王っぽい感じなのだから、雄英の教師としては色々と思うところがあるのだろう。
とはいえ、既に何人かにも言ったが、俺の要望は雄英に許可されてこのヒーローコスチュームが作られたのだ。
当然ながらオールマイトも教師である以上それは知っていた訳で……そういう意味では、俺の姿を見ても受け入れるしかないのだろう。
「先生、ここは入試の実技試験で使った演習場ですが、また市街地演習を行うのでしょうか?」
そう尋ねる飯田。
……パワードスーツ的なヒーローコスチュームなのもあってか、どうやらそれが飯田だとは思っていなかった者もいるらしく、飯田の声を聞いて驚いている者もいる。
まぁ、顔が完全に隠されているんだから、そう考えればそれは仕方がないよな。
ともあれ、飯田の疑問は他の生徒達も感じていたものなのは間違いない。
だからこそ、そんな飯田の質問を聞いた他の生徒達もオールマイトに興味深そうな視線を向ける。
生徒達の視線を向けられたオールマイトだったが、さすがNo.1ヒーローと呼ぶべき存在だった。
特に気負った様子もなく首を横に振る。
「いいや、違う。今日の戦闘訓練はその市街地演習よりも2歩先に進む。屋内での対人戦闘訓練さ! ヴィラン退治は主に屋外で見られるが、統計では屋内の方が凶悪ヴィラン出現率は高い。監禁、軟禁、裏商売。それ以外にも口に出すのも憚られるような……ね」
そのオールマイトの言葉に、人の負の側面を色々と見てきた身としては、だろうなとしか言えない。
屋外と屋内のどちらがこのヒロアカ世界において危険なのかと言われれば……これはやはり、オールマイトの言うように屋内だろう。
「この、ヒーロー飽和社会……ゴホン、とにかく君達にはこれから2対2の屋内戦を行って貰う!」
オールマイトの言葉に、梅雨ちゃんが不思議そうな様子で口を開く。
「基礎訓練もなしに?」
「その基礎を知る為の実戦、そして実践さ! ただし、今度はぶっ壊せばOKのロボじゃないのがミソだ!」
「勝敗のシステムはどうなります?」
「ぶっ殺してもいいんスか?」
「相澤先生みたいに除籍とか、そういうのってありますか?」
「2体2という事ですが、一体どのように分かれるのでしょうか?」
「このマントヤバくない?」
オールマイトの言葉に、一斉に皆が話し掛ける。
というか、青山……マントってのは俺とお揃いなんだな。
聖徳太子とか言ってるオールマイトの言葉を聞き流しながら、俺は青山のヒーローコスチュームを見る。
うん、まぁ、見た目的には悪くないように思える。
とはいえ、機能的には俺のマントの方が上だろうが。
何しろ、ヒーローコスチュームの予算の大半がマントに注ぎ込まれているって話だし。
実際、このマントがあれば大抵の危険は問題なかったりする。
とはいえ、マントが強力だからといって、それに頼り切りなのは問題だったが。
ただ、後で青山とちょっとマントについて話して見ても面白いかもしれないな。
そんな風に思っていると、オールマイトの説明が始まっていた。
ようは、アジトに核爆弾を持っているヴィランが、それを処理しに来るヒーローを迎え撃つといったものらしい。
ヒーロー側の勝利条件は制限時間内にヴィランを捕らえるか、核爆弾の確保。
ヴィラン側の勝利条件はその逆で、制限時間まで核爆弾を守るか、ヒーローを捕らえる。
そしてコンビや対戦相手の決定は……クジらしい。
「オールマイト先生、2人1組という事ですが、うちのクラスは21人なのですけど、どうするのですか!?」
「飯田少年の意見は理解出来る。その件についてだが……アクセル少年。受験における首席は君だったね?」
「ああ」
「む、アクセル君。言葉遣いはしっかりしないと駄目だぞ!」
飯田が俺の言葉遣いに注意してくる。
そうだな。公安からの依頼で学生として俺はこの場にいるんだから、言葉遣いに問題があると、公安の方に迷惑が……うーん、どうだろうな。
ただ、仕事としてここにいる以上、飯田の言うように言葉遣いはしっかりとしておく必要があるか。
「そうだな。次からは気を付けるよ」
俺の言葉に満足そうに飯田が頷く。
いやまぁ、ヒーローコスチュームで完全に顔が隠れているので、本当に満足してるのかどうかは分からないが。
ただ、雰囲気的に満足してるのだろうというのは容易に理解出来たのは間違いない。
「オールマイト先生、それで受験の首席だったけど、どうするんですか?」
そう聞くが、俺と飯田のやり取りについてはオールマイトは全く気にした様子もなく、口を開く。
「そんな訳で、アクセル少年に一番最後に1人でヴィラン役かヒーロー役を選んでやって貰う。対戦相手は……そうだな、希望者の中から私が選ぼう」
そうオールマイトが口にした瞬間、話を聞いていた生徒の一部が……具体的には、爆豪とか爆豪とか爆豪とか爆豪が、やる気を漲らせる。
爆豪が俺に対抗心を抱いてるのは、昨日からもう分かっていたしな。
多分だが、爆豪は新入生の首席には自分がなるつもりだったのだろう。
それを俺に取られたので、俺に強い対抗心を抱いている、と。
とはいえ、それが悪い事かと言われると決してそうではなかったりする。
何しろ公安に雇われた俺の仕事は、壁として雄英の生徒達の前に立ちはだかり、その強さを少しでも上げるという事なのだから。
つまり、爆豪のように俺に挑んでくる相手は多ければ多い程にいい。
寧ろ、他の連中にも爆豪を見習って欲しいと思うくらいには、爆豪を気に入っている。
……爆豪にしてみれば、俺に気に入られるのは別にそこまで嬉しくないだろうが。
とはいえ、それでも爆豪が俺に挑んでくる限り、俺は壁として立ちはだかるだけだ。
ちなみに他は……あれは轟だったか?
個性把握テストの時に氷を使っていたのを見た覚えがある。
かなり強力な個性の持ち主なのは間違いない。
だからこそ、爆豪程ではないにしろ俺に挑もうとしているのだろう。
勿論、他にも俺に挑もうとしてる奴はいる。
……その中に峰田がいるのは、正直どうなんだ? と思わないでもなかったが。
いやまぁ、峰田だからどうこうといった訳ではないんだが、それでもこう……峰田の場合、俺に挑むのは嫉妬心とかそういうのから来てそうなんだよな。
さっきは少し……本当に少しだけ分かり合えたような気がしないではなかったんだが。
とにかく俺という存在に挑んでくるのは悪くない。
こう言ってはなんだが、A組ではまだ俺の実力がしっかりと認識されたりとかはされていない。
そもそも学校が始まってまだ2日目なんだから、その辺りについては当然かもしれないけど。
一応昨日の個性把握テストでは1位を取ってそれなりの実力があるというのは知られていると思うが、葉隠の例を見れば分かるように、個性把握テストでは個性の相性的な感じで記録も大きく違ってくる。
自分の個性がその競技に発揮出来るのなら、記録はかなり高い。
だが、個性が使えないとなると自分の身体能力だけで挑戦する必要があった。
そんな個性把握テストとは違い、この戦いというのはヒーローとしての実力を発揮する上で非常に重要だ。
……特に何も基礎訓練のような事をしないで、いきなり対人戦というのはどうかと思うが。
オールマイトはNo.1ヒーローなんだし、多分何か考えがあっての事だろう。
カンペを見てルールとかそういうのを説明してる辺り、少し不安はないでもなかったが。
「どうだい、アクセル少年。それで問題はないかな?」
「ああ……いえ、はい、それで問題はないです。ただ、出来れば多少はこちらの希望も汲んでくれるとありがたいですけど」
「ほう、どのような希望かね?」
「強い奴をお願いします。Plus Ultraでしょう?」
「はっはっは! いい心がけだ、アクセル少年!」
どうやら俺の言葉はオールマイトのお気に召したらしく、嬉しそうに笑う。
そして笑いが収まると、オールマイトの視線は生徒達に向けられる。
「そんな訳で、首席のアクセル少年の希望だ! 希望者の中から、私がアクセル少年の希望に沿う形で挑戦者を選ぶとしよう。もしアクセル少年と戦いたいのなら、これから行われる戦いでしっかりと実力を見せる事だ!」
オールマイトの言葉に、生徒達がやる気を見せて頷く。
もっともやる気なのは、当然ながら爆豪だったが。