A組最初のヒーロー基礎学の授業のラストは、俺と爆豪&轟との戦闘訓練になった。
シチュエーションは今までと同じ。
……ただし、ビルの一部を破壊した爆豪と、ビル丸々1棟を凍らせた轟、そして増強系という扱いになっている俺が戦うという事で、違うビルで対人戦闘を行う事になったが。
あるいは、俺は他の生徒達が映像で戦っているのを見ただけだったが、爆豪と轟は実際に自分達が戦ってビルの構造を知っていたというのもある。
あ、いや。爆豪と緑谷の戦いで被害が出たから、2試合目でもう既にビルを変えたんだったな。
ビルの作りが全て一緒なのかどうかは、生憎と俺には分からない。
分からないが、それでも訓練で似たような場所を使ったかどうかというのは、大きな違いだろう。
もっとも、俺は今まで色々な訓練をしてきたので、そういう意味では俺の方が明らかに有利だったりするのだが。
ともあれ、俺は現在ビルの前でオールマイトからの開始の合図を待っているところだった。
そうした暇な時間を使い、周囲の様子を確認する。
とはいえ、こうして見たところで、そもそもここはあくまでも訓練用に作られた演習場だ。
そこまで役に立つような何かがある訳でもないだろうけど。
ただ、ちょっとした暇潰しという意味では周囲の様子を見るというのは、そんなに悪くないだろう。
シャドウミラーでもこういう市街地の演習場を用意する時、参考になったりするし。
そんな風に思っていると、不意に耳元で声が聞こえる。
『アクセル少年、そろそろ時間だ。準備はいいかな?』
「こっちはいつでも大丈夫ですよ」
『そうか。では……スタート!』
オールマイトの合図を聞くと同時に、ビルの中に入る。
今のところ、俺は増強系と見られている。
その為、影のゲートを使っていきなり核爆弾のある場所に移動したり、もしくは爆豪や轟のいる場所に移動して……といった事は出来ない。
もっとも、爆豪や轟ならどこにいるのか気配を探れば分かるが、核爆弾がどこにあるのかは、俺が先程まで待っている間に爆豪や轟が設置したので、それを探す必要があったが。
スライムを使えば容易に見つける事も出来るだろうが……そちらについては、秘密にしておきたいしな。
それに……轟はともかく、爆豪は俺がビルの中に入れば即座に襲撃してきてもおかしくはない。
轟も俺に結構な対抗心を抱いてはいるものの、爆豪の俺に対する敵愾心は異常と言ってもいい程だ。
それだけ爆豪にしてみれば、俺は目の上のたんこぶのような存在なのだろう。
そんな風に思いながらビルの中に入る……前に、気配を感じる。
おい、これ……マジか?
いや、爆豪の性格を考えれば、特におかしな事はない。
寧ろ納得出来る流れですらある。
とはいえ……まぁ、うん。
しかもこの気配の通りなら……
「やっぱりか」
「へっ」
俺の言葉に鼻で笑う爆豪。
そう、爆豪はビルの中に入ってすぐの場所で、俺を待ち受けていたのだ。
そして気配を察知してみた事からも分かったように、やはりここに轟の姿はない。
「轟はどうしたんだ? やっぱり核爆弾を守っているのか?」
轟とはまだ殆ど会話をした事がないから、どういう性格なのかは分からない。
今の状況で分かっているのは……氷の個性を使うといった事と、昨日の個性把握テストで3位だった事か。
そういう意味では、優秀な人物なのだろう。
ああ、後は俺との対戦を志願した事からも分かるように、爆豪程ではないにしろ負けず嫌いって感じだな。
「けっ、目の前の俺じゃなくて、あの半分野郎の心配かよ! お前は、今ここで俺にぶっ殺されるんだから、そんなに悠長な心配なんてしなくていいんだよぉっ!」
そう吐き捨てるや否や、こっちに向かってダッシュしつつ、両手に爆発を生み、それをも推進力として速度を上げる。
「……そんなに真っ正面から向かってきて、本当に俺をどうにか出来ると思うのか?」
呆れつつ、爆豪に向かって手を伸ばす。
「分かってるんだよぉっ!」
すると爆豪が跳躍し……なるほど、これは緑谷との対戦で見せた……いや、違うな。俺の真上を通るんじゃなくて、三角跳びに近い動きだ。
緑谷に見せた動きそのままでは、見破られてしまう。
そう判断し、こうしてバリエーションを変えてきたのだろうが……
「甘い」
爆豪が飛んだ……跳んだか? とにかく移動したのを見た瞬間には前に出て、爆豪の足を掴む。
「っ!?」
爆豪にとってもその行動は予想外だったらしいが、それでも爆豪は俺に手を伸ばしてくる。
自分の足を捕まえた俺の手を爆破によるダメージで放させようとしたのだろう。
だが、その動きは遅い。
いや、普通の学生として考えれば、決して遅いという訳ではないのだろう。
ヒーロー科の1年としても十分に及第点だろうが……俺を相手にするには、間違いなく遅かった。
それもちょっとやそっとではなく、限りなく遅い。
爆豪の手が俺の手に触れるよりも前に、爆豪の足を大きく振るう。
俺の混沌精霊という個性は増強系という風に見られているので、これは別におかしな事ではない。
とはいえ、爆豪をそのまま床に叩き付けるとなるとダメージが大きいので、叩き付ける瞬間に少しだけ手前に引くようにして、叩き付ける勢いを弱めようしたのだが……
BOMB!
爆豪から……いや、正確には爆豪の下からそんな音が聞こえてくる。
何だ? と思ったのは一瞬。
なるほど、床にぶつけられる瞬間、床に向かって個性を発動したのか。
咄嗟の判断としては悪くない。
悪くないが……
「がぁっ……」
幾ら爆発を使って威力を弱めようと、それはあくまでも床に叩き付けられる衝撃を弱めることでしかない。
ある程度手加減をした上で、それにプラスして個性の爆発を使って一撃の威力を殺しても、それでも爆豪が受けたダメージは大きかった。
俺としては、手加減をした状態で叩き付けて気絶させるつもりだったから、まだ意識がある時点で大したものだとは思うが。
「くそ……がぁっ!」
「へぇ」
気絶しておらず意識はあるが、それでも今の一撃は爆豪にこれ以上の戦闘はさせない程度のダメージは与えたと思っていた。
だが、爆豪は掴まれているのとは逆の足で俺の手を……爆豪の足を掴んでいる手に蹴りを放つ。
勿論、腰も何も入っていない、床に横たわった状態から足だけの力で放った蹴りではあったが、タイミングと体重移動によって強力とまではいかないが、そこそこの威力は発揮するくらいの一撃だった。
その事に驚きつつ、俺は爆豪の足を掴んだ手に力を入れ、爆豪の身体を持ち上げる。
そうして無理矢理爆豪の身体の中にある力の流れを乱し、それによって蹴りの狙いは自動的に逸れ、爆豪の足を掴んでいる俺の手ではなく、空中を蹴る事になる。
「耐えろよ?」
その言葉と共に、先程よりも少し……本当に少しだけ力を入れ、再度爆豪の身体を持ち上げ、床に叩き付ける。
「ぐあ……くしょ……」
へぇ、まだ気絶していないか。
ただ、それでも2度も連続で……しかもかなり加減しているとはいえ、俺の力で床に叩き付けられたのだから、既に反撃能力は残っていない。
なら、後はヒーロー役として、爆豪の腕に渡された確保用のローブを巻けば爆豪は確保したという事になって脱落となる。
そう思い、爆豪の足から手を放すと、もう片方の手で持っていた確保用のテープを使おうと思ったのだが……
「……ったれがぁっ!」
近付いた瞬間、爆豪は寝転がったままこちらに手を向け、爆発を放つ。
しかし、その瞬間俺は既にそこにはいなかった。
瞬動を使った訳ではなく、普通に移動してその場から退避したのだ。
瞬動を使うまでもなかったからというのが正直なところだが、それでもまさかこの状況でまだ攻撃をしてくるとは思わなかった。
普通なら最初に叩き付けた時に気絶してるだろう威力だったし、それが2度……しかも2度目は爆発を使う余裕もなく、モロにダメージを受けた筈。
なのに、こうして反撃をするってのは……いわゆる、精神が肉体を凌駕したって奴か? ただ、そうなると厄介なのは、気絶させるのが難しいという事だろう。
ここで気絶させようとしても、精神が肉体を凌駕している状況では、そもそもが無理だ。
勿論絶対に無理といった訳ではない。
精神が肉体を凌駕した状態というのは、当然ながら身体には大きな負担が掛かる。
時間を稼げば、そのうち限界を迎えて気絶するだろう。
だが……これは訓練で制限時間がある以上、爆豪の時間切れを狙う訳にもいかない。
なら、仕方がないが、少し強引だが……そう思った瞬間、氷が地面を這うように周囲を凍らせながらこちらに近付いてくるのに気が付く。
咄嗟にその場から退避し、爆豪と距離を取る。
氷もどこまでも俺を追ってくる訳ではなく、爆豪から距離を取るとそれ以上追ってくる事はなかった。
どうやら、爆豪を守ろうとしたらしい。
「核爆弾はどうしたんだ?」
俺は2階から凍らせた階段の手摺りを滑るようにして姿を現した轟にそう尋ねる。
俺の問いに、轟は爆豪の前に立ち……それこそ俺から爆豪を庇うような立ち位置になると、口を開く。
「ヒーローはお前だけだ。なら、別にわざわざ核爆弾を守っている必要はないだろう」
なるほど、言われてみればそうだ。
他の生徒達の対戦では、色々と違いはあるが基本的に1人は核爆弾の側で守っていた。
それは、例えば梅雨ちゃんのようにビルの外で壁を登ってくといったような手段を取ったり、もしくはビルの中で何らかの方法を使って相手を撒いて核爆弾に行ったりといった事をした場合に備えてだ。
だが、今回ヒーローは俺1人で、相手は2人。
そのうち爆豪が既に俺と戦っているのは、何度も爆発が起きた事からも明らかだった。
なら、轟にしてみれば、わざわざ核爆弾を守る必要はなく、爆豪と一緒に俺を倒して確保してしまえばいいと、そう思ったのだろう。
もっとも、戦闘が行われている場所にやって来てみれば、爆豪は確保用のテープを使われる寸前で、そこで急いで介入したといったところか。
「判断力はあるな。……ただ、問題なのは俺を倒せるかどうかだけだが」
「言ってろ」
その言葉と共に地面を氷で覆っていく。
これをどうするかだが……個性を使った氷となると、多分俺にダメージを与えられるだろうなとは思う。
ただ、だからといって最強の存在として……壁として立ち塞がるべき俺が、ここでただやられるのを待つというのは、有り得ない事だろう。
なので、俺はまだ氷で覆われていない床を蹴り、一気に轟との間合いを詰める。
「悪手だろ、そりゃ」
その言葉と共に轟の前方に氷が生み出されるが……
「悪手は、どっちだ!」
生み出された氷を、拳で一撃。
轟にしてみれば、まさか盾として出した氷がこうもあっさり破壊されるとは思っていなかったらしく、その表情に驚きが浮かぶ。
しかし、次の瞬間にはそこに安堵の色が浮かんでいた。
何故なら、盾となった氷を俺が壊したのは間違いないが、同時に氷を破壊した事によって俺がそれ以上前に進めなくなったと、そう思ったのだろう。
実際、それは間違いない。……ただ、それはあくまでも俺が普通ならの話であって、そして俺は普通ではない。
既に瞬動については見せているのだから……これも見せてもいいだろう。
床に付きそうな足だったが、その足が床を……轟の作った氷を踏む直前、止まる。
そのまま空中を蹴り、再び轟との間合いを詰める。
「ばっ!?」
虚空瞬動は、轟にとっても全く理解不能の動きだったらしい。
まぁ、空中を蹴るといったようなことは、普通ならそれを理解出来ないのだろう。
……いや、個性の中には空と飛ぶとかそういう個性があってもおかしくはないのか?
中には虚空瞬動に似たような……空中を蹴るといった個性があってもおかしくはない。
そんな風に思いつつも、一瞬にして轟との間合いを詰め……
「マジかっ!?」
BOM! と、轟に攻撃する寸前に倒れたまま爆豪が俺に手を向け、個性を発動したのだ。
まさか、あの状態から再び俺に攻撃をするというのは、完全に予想外だった。
さすがに精神が肉体を凌駕しているだけはある。
あるいは、極度の負けず嫌いが発揮された形かもしれないが。
ただ、その爆発も虚空瞬動を使って空中を蹴り、回避する。
爆豪の攻撃を回避した事によって一度轟から距離を取ったものの、再度虚空瞬動を使って轟に向かう。
「くっ!」
そんな俺の様子を見て、轟は必死になって再度氷の盾を作るが……その氷の壁は先程と比べても明らかに薄く、俺の一撃を防げるものではなく、あっさりと氷の盾を破壊し、それでも勢いが収まることはなく、轟に向かって蹴りを放つ。
顎の先端を擦るような蹴りによって轟は脳震盪を起こし、それによって気絶する。
轟の立っている場所には氷がなく、足が滑るような事はない。
爆豪の方を見ると、さすがに限界だったのか、先程の一撃で気絶したらしく……こうして、戦闘訓練は俺の勝利で終わるのだった。