「すげええええっ! なあ、おい。アクセル。お前さっき空を飛んでたよな!? そんな個性があったのか!?」
最後の模擬戦……いや、戦闘訓練が終わると、そこの地下で映像モニタを通して戦闘の様子を見ていた生徒達が出てくる。
そんな中、真っ先に切島が俺を見てそう声を掛けてくる。
「いや、けど……アクセルの個性は増強系だろう? なのに、何で空を飛べるんだ?」
砂藤が続いてそう疑問を口にするが、それに対する答えは既にもう考えてある。
「一応、あれも俺の個性の一部……というか、個性を使った技術だな。個性を使わなくても、やろうと思えば出来ると思うぞ」
「え? それ本当?」
何故か食い気味に聞いてきた耳郎。
それも無理はないか。
耳郎の個性は耳のプラグから音波を発するというものだ。
距離的には近距離でも遠距離でもなく、中距離用の戦い方になる。
そんな耳郎だからこそ、虚空瞬動を使えれば大きな力になると思ったのだろう。
……もっとも、虚空瞬動の便利さは別に中距離に限った訳でもない。
近距離を得意とする者なら、虚空瞬動で一気に敵との間合いを詰められるし、遠距離攻撃を得意とする者なら、相手が自分に近付いてきたら虚空瞬動を使って一瞬で距離を取る事が出来る。
そういう意味では、やはり虚空瞬動はどの距離で戦っている者にしてもあれば便利な……それも非常に便利なスキルなんだよな。
「本当だ。ただ、技術である以上はそう簡単に覚えたりは出来ないけどな」
実際、虚空瞬動というのは魔力や気を使った技術だ。
もし本気で虚空瞬動を覚えたいのなら、それこそ魔力や気から習得する必要がある。
ただ……何気にこれが一番難易度が高いんだよな。
これで魔法球でもあれば、その中なら魔力の修行では効率化出来るんだが。
あ、でもそうだな。個性なら俺にもダメージを与えるという事なら、個性を使った瞬動や虚空瞬動というのもあり……か?
いやまぁ、これはちょっとした思いつきなので、本当にそういう事が出来るかどうかは全く分からないが。
ただ、もしかしたら……本当にもしかしたらという思いがあるのも事実。
「……後でちょっと詳しい話を聞かせてくれる?」
耳郎が真剣な表情でそう聞いてくる。
耳郎にしてみれば、今日の戦闘訓練において色々と思うところがあったのかもしれない。
「ああ、分かった……あー……他の面々も、知りたい奴がいたら、後で教えるから」
気が付けば、クラスの半数以上の面々が俺に視線を向けていた。
轟の氷による攻撃が強力なのは、それこそ俺ではなく最初の戦闘訓練の時にいきなりビルを凍らせて証明している。
だが、俺は虚空瞬動を使う事によって、その一撃を回避した。
それは先程の戦いを映像モニタで見ていた者達にとって、かなりの衝撃を与えたのだろう。
だが、このヒロアカ世界において個性というのは本当に人それぞれだ。
他人の個性を羨んでも意味はない。
そう思っていたところで、俺が虚空瞬動は個性ではなく技術だと言ったのだから、それに興味を持つなという方が無理だった。
「……アクセル少年、今の言葉は本当かね?」
何故かオールマイトまでもが、気にした様子で聞いてくる。
オールマイトの個性は増強系という風に噂されている――実際はどのような個性なのかは不明なのだが――ので、俺と同じく増強系なら自分も瞬動を使えるようになると思ったのか?
けど、オールマイトは瞬動という訳ではないが、半ばそれに近い速度を出せるのは間違いない。
なら、別にわざわざ瞬動を習得しなくてもいいと思うんだが。
そう思ったのだが、オールマイトの様子を見ると……何だか真剣な表情で俺を見ている。
それこそ、俺の全てを見抜こうとしているような、そんな感じで。
何だ、これ? オールマイトにとって、瞬動というのはそんなに大きな意味を持つのか?
あるいは……俺が思っているのと、別の考えでこうして聞いてきているとか?
「ええ、本当ですよ。誰でも確実に……とは言えませんけど」
実際、虚空瞬動の前段階である瞬動ですら、それなりに難易度は高かったりする。
それを本気でやるとなると、かなりの修行が必要となるだろう。
その辺の才能や慣れ、感覚といったものは人それぞれなので、もしかしたら中にはすぐに出来るようになる奴もいるかもしれないが。
「そうか。なら……おっと、いけない。私はそろそろ戻らなければ。授業はこれで終わりとなるから、教室に戻るように。怪我人はロボに運ばせるから」
そう言い、オールマイトはすぐに去っていく。
何だ? 今の一連の流れに妙な違和感があったような。
話の途中でいきなりそれを打ち切って帰るというのは、何だかオールマイトらしくないというか、なんというか。
「かっけー」
切島が呟く声が聞こえてくるものの、一体どこか格好いいのやら。
そんな風に思っていると、オールマイトが言ったように搬送用のロボが来て、爆豪と轟を保健室まで運んでいくのだった。
「じゃあ、気を付けて帰れよ」
そう言い、相澤が教室を出ていく。
SHRも終わったし、後は俺も帰るかと思ったのだが……
「なぁなぁ、アクセル。これからちょっといいか? 今日の戦闘訓練について色々と話をしようと思うんだけど、アクセルも参加しないか?」
上鳴がそう声を掛けてくる。
上鳴のその言葉に、何となくその狙いが分かってしまう。
いや、今日の戦闘訓練について話したいというのは、間違いない事実だろう。
実際、切島を始めとした数人が向こうで待ってるし。
その中には峰田もいて、期待の視線を俺に向けている。
この峰田の視線を考えれば、上鳴が何故俺に声を掛けてきたのかは容易に想像出来てしまう。
自分で言うのも何だが、俺はA組の女子と仲が良い。
正確には俺と仲が良いのは三奈と葉隠の2人なのだが、この2人はA組女子の中でも特にコミュ能力が高い。
実際、その流れでいつの間にかヤオモモもいつものメンバーの中に入っているし。
ヤオモモと初めて会ったのが昨日だという事を考えれば、三奈と葉隠のコミュ能力がどれだけ高いのかが分かりやすいだろう。
その流れで耳郎や梅雨ちゃん、麗日といった面々とも仲良くなっている。
もっとも、麗日は緑谷や飯田と一緒にいる事も多いが。
三奈と葉隠以外にB組の拳藤とも入学前から仲が良かったし、その拳藤の伝手により、今日の食堂で取蔭とも知り合っていた。
ただ、取蔭とはまだ本当に知り合ったばかりでLINの交換とかそういうのもしていなかったりするのだが。
もし上鳴辺りがその辺について聞いたら、何をやっているのかといったように突っ込まれてもおかしくはない。
ともあれ、上鳴の……そして峰田の狙いはそんな感じだろう。
さて、どうするか。
女目当ての2人はともかく、切島とかは普通に戦闘訓練についての話をしたかったりして、期待の視線を俺に向けているし。
切島の個性は身体の硬化だ。
もしそんな風に身体を硬くした切島が、瞬動で突っ込んで来たらどうなるか。
それは半ば大砲の砲弾に近い。
俺でもこうしてすぐに思いつくのだから、切島もその辺については当然のようにもう思いついているだろう。
「な? もしよければ頼む」
「あー……まぁ、別に特に何か用事がある訳でもないし、構わないぞ」
雄英は高校ではあるが、部活動の類はない。
いや、ヒーロー科以外はあったりするのか?
ともあれ、ヒーロー科は訓練で忙しいし、龍子の事務所に来ているねじれを見れば分かるように、インターンとかもあって、部活動どころではない。
……そもそも、部活動と一口に言ってもオリンピックがなくなったのを見れば分かるように、ヒロアカ世界でスポーツというのはルール的に色々と難しい。
まぁ、でも運動部は無理でも文化部の類なら出来ない事もないか。
ともあれそんな感じで部活動についてはヒーロー科は考えなくてもいい。
もしくは高校生の放課後となるとバイトというのもあるかもしれないが、ヒーロー科でバイトをするというのは難しいだろう。
バイトの代表でもあるコンビニのバイトとか。
もっとも俺の場合は公安からの依頼で月100万までは自由に使えるし、生活費諸々については公安持ちなので、金の心配をする必要はないのだが。
そんな感じで、俺にとって放課後は特に何かやるべき事はない。
敢えてやるべき事となると……そうだな。俺は壁となってヒーロー科の生徒達を成長させる為に公安に雇われている以上、訓練をする奴がいるのなら、そいつに付き合うとかか。
ただ、今日はまだ授業1日目……昨日が個性把握テストだった事を考えれば、2日目と言ってもいいのか?
とにかく、まだ授業が始まったばかりである以上、居残り訓練をするにはまだ早いだろう。
もう数日は、まずはこの雄英という高校に慣れる必要があった。
……何しろ担任の相澤の考えだけですぐにでも除籍にしようとするのが許されている学校だし。
本人は冗談だと言ってたけど……
「そうか! おーい、アクセルもOKだってよ!」
そうして何だかんだとクラスの半分近くが残り、戦闘訓練についての反省会が行われる。
ちなみに緑谷と爆豪、轟の3人は今もまだ保健室にいる。
緑谷が爆豪との訓練で、そして爆豪と轟は俺との戦闘訓練で保健室送りになった感じだ。
もっとも、雄英には貴重な回復系個性の持ち主であるリカバリーガールがいるので、怪我については特に心配はないだろうが。
ましてや、緑谷と爆豪はともかく、轟は顎の切っ先を揺らされて脳震盪を起こしただけなので、目が覚めれればすぐにでも教室に戻ってきてもおかしくはない。
「梅雨ちゃんの、ビルの外壁を移動出来るってのは驚いたよな」
「ケロ。私の個性は蛙だから。蛙が出来るような事は大抵出来るのよ」
上鳴の言葉に、梅雨ちゃんは特に驚いた様子もなくそう言う。
実際、ビルの外壁を移動出来るというのは、都市部で活動する上でかなり強力な能力だろう。
「他には、切島の個性も凄かったよな。普通の攻撃なら全部防げるんじゃないか?」
「そう言ってくれるのは嬉しいけどよ、なんつーかこう……地味じゃないか?」
「あははは、まだそんなのを気にしてるの?」
自分の硬化という個性が地味だと落ち込んだ様子を見せる切島に、三奈が面白そうに笑う。
そんな三奈の様子に切島は不満そうな表情を浮かべる。
「笑うなよな」
そうして他の者達の戦闘訓練についても話は進み……
「ヤオモモと峰田君のコンビが防御するのって、卑怯だって」
葉隠のその言葉に、話を聞いていた多くの者達が同意するように頷く。
俺もそれについては異論がないので、頷いておく。
多種多様な罠を作り出せるヤオモモと、付着するとくっつくモギモギを使う峰田。
これらが組み合わさると、対処するのは相当に苦労するだろう。
「この2人の罠に対処するなら、轟のように外から一気に凍らせるとかしないと……」
駄目だろうな。
そう言おうとしたところで、不意に扉が開く。
教室の中に入ってきたのは、噂をすれば何とやらの轟だった。
「轟、もういいのか?」
「ああ」
俺の言葉に短く返す轟。
ただ、その表情には複雑な色がある。
尾白と葉隠のコンビと戦った時の様子を見れば、轟は自分の実力にそれだけの自信があったのだろう。
だが、俺との戦いでは氷の盾をあっさりと破壊されるといったようなことになり、1発で気絶させられた。
推薦入学で合格するだけの実力の持ち主だけに、自分があんなにあっさり負けるとは思わなかったらしい。
「そうか。なら、轟も参加していかないか? 今日の戦闘訓練の反省会をやってるんだが」
「いや、俺は遠慮しておく」
そう言い、鞄を手にすると轟はすぐに去っていく。
「うわぁ……アクセル、よく轟にあんな風に普通に声を掛けられるな」
「クラスメイトなんだし、そのくらいは当然だろ?」
尾白が恐る恐るといった様子でそう言ってくる。
もっとも尾白の場合は轟によって足を凍らされたので、それによってトラウマ……と呼ぶ程に大袈裟なものではないかもしれないが、とにかくそんな風に思っていてもおかしくはない。
もっとも、それを抜きにしても轟は寡黙というか、とっつきにくいというか……とにかくそんな感じだから、しょうがないのかもしれないが。
「アクセルってやっぱりアクセルだよね」
「おい、三奈。それはどういう意味だ? とてもじゃないが、褒めてるようには……ん? どうやら2人目の到着だな」
三奈に不満を言おうとしたところで、轟が出ていってからまだそう経っていないのに扉が開く。
するとそこにいたのは、爆豪だった。
緑谷と爆豪はどちらも結構な怪我をしていたが……どうやら爆豪の方が復帰は早かったらしい。
「……ふんっ!」
教室に戻ってきた爆豪は、何も言わず……ただ、闘争心というか、半ば殺気すら感じられるように俺を睨み付けてから、鞄を手に教室から出ていく。
一瞬爆豪も誘おうかとは思ったのだが、あの様子ではとてもではないがこっちの話を聞くとは思えなかったので、黙って見送るのだった。