教室に残って反省会を続けていると、やはり最後は俺の戦闘訓練の話になる。
「このクラスでも間違いなく強者の爆豪と轟を相手に1人で戦って、しかも怪我らしい怪我もしないで圧倒する……アクセル、お前の個性ってちょっと卑怯じゃね?」
「けどよ、上鳴。アクセルの個性は増強系だろ? オールマイト先生の個性も似たような感じだって聞けば……」
「ちょっ、ちょっと待ってくれ切島。増強系が全員あんな風に出来ると思われるのは困る!」
そう叫んだのは、砂藤。
まぁ、砂藤の個性も増強系らしいし、俺やオールマイトと同じような事をこれから自分に期待されるかもしれないと思えば、そういう風に言うのは理解出来ないでもなかったが。
「だが、オールマイトの個性はまだはっきりと判明はしていなかった筈」
常闇のその言葉に、何人かが頷く。
とはいえ、映像とかを見る限りでは恐らく増強系……それも極めて強力な増強系といった意見が一般的だ。
……何十年もNo.1ヒーローの座にいて、それでも個性が不明って凄いよな。
No.2ヒーローのエンデヴァーは炎だと見れば分かるのに。
「あー、それそれ、うちもそれを聞きたかったんだ。ヒーロー基礎学の時にも聞いたけど、あのアクセルが空中を蹴った奴……」
「虚空瞬動な」
「その虚空瞬動って奴、個性じゃなくて技術なんだよな? じゃあ、うちらも使えるようになるって事?」
耳郎のその言葉に、教室に残っていた者の多くが俺に視線を向けてくる。
その中でも特に強い視線を向けているのが、最初に俺に聞いてきた耳郎、それに切島に飯田といったところか。
飯田が虚空瞬動に興味を持つのは、そうおかしな事ではない。
飯田の個性はエンジンで、速度系の個性だ。
それだけに、虚空瞬動を使えれば……いや、瞬動であっても十分戦力になるのは間違いないのだから。
勿論、特に強い視線を向けているのがその面々ってだけで……あれ? 麗日も結構本気の視線を向けているな。
あー……うん。麗日の個性は触れた相手を無重力にするというもの。
つまり、相手に触れることさえ出来れば、その時点で半ば勝利は確定している。
そんな麗日が虚空瞬動を使って自由に空中を動き回るといった事をした場合、戦っている相手にとっては最悪だろう。
何しろ、虚空瞬動で自分の横を通った時に手を伸ばし、それで触れさえすれば、その時点で勝利は決まるのだから。
そういう意味では、雄英のヒーロー科に入学出来るだけの潜在的な力を持ってるのは間違いないよな。
「まず言っておく。俺がオールマイト先生に言ったように、戦闘訓練の時に見せた虚空瞬動は俺と同じ個性を持っていなくても、修行次第で使えるようにはなる。……まぁ、使えるようになるのと、使いこなせるというのは大きく違うけど、その辺はいいよな」
例えば、瞬動や虚空瞬動を訓練によって使えるようになったとしても、実際にそれを使いこなせるかどうかは、また別の話なのだ。
もしかしたら……本当にもしかしたらの話だが、長い修行の結果瞬動や虚空瞬動を身に付けても、実は使いこなせずに宝の持ち腐れになる可能性も十分にあった。
「で、実際に技術である以上は修行が必要な訳だが……この修行が、かなり厳しい。というか、時間が掛かる」
「具体的にはどのくらいの時間が掛かるの?」
少しだけ心配そうな様子で耳郎が尋ねてくる。
話を聞いている他の面々もそれは同じだ。
それに答えようとしたところで……ふいにスマホがメッセージの着信を知らせてくる。
メッセージアプリのLINに、拳藤からのメッセージは入っていた。
「悪い、拳藤……友達からメッセージが入ったから、ちょっと待ってくれ」
そう言い、俺はスマホの操作をする。
拳藤という名前に、三奈、葉隠、ヤオモモ、瀬呂といった面々を含め、昼休みに学食で一緒になった面々も納得した様子を見せる。
ただし、拳藤という名前を初めて聞く面々は首を傾げていたが。
ともあれ、そちらについてはスルーして送られてきたメッセージを読む。
あー……なるほど。どうやら俺と一緒に帰ろうと思って待っていたらしい。
A組の昨日が昨日だけに、今日の午後から行ったヒーロー基礎学がどういうのなのか気になったんだろうな。
No.1ヒーローのオールマイトが担当の教科というのもあるだろうし。
そんな訳で、俺から色々と話を聞きたかったらしい。
拳藤にしてみれば、同じ駅を使っているという事もあったし、何だかんだと入学前からの知り合いだからというのもあって、こうして一緒に帰ろうと誘ってきたのだろう。
ともあれ、今は反省会をやっているから……あ、けどそうだな。どうせなら拳藤もここに呼ぶか?
「ここに拳藤を呼んでもいいか?」
「いいよ」
「って、おい。何で速攻で芦戸が返事をしてるんだよ」
俺の言葉に三奈が許可を出すと、上鳴がそう突っ込む。
あー……けど、そうだな。上鳴と峰田を説得するいい言葉がある。
「ちなみに拳藤というのはB組の生徒で、美人だぞ」
「何をしてるんだ、アクセル君。早く呼びたまえよ」
「そうだそうだ、あまり待たせたら悪いだろ!」
一瞬で態度を変える上鳴と、それに乗じる峰田。
というか、上鳴は何だか微妙に性格が変わってないか?
ともあれこうして上鳴達が賛成し、他の男の面々も別に反対という訳ではなかったので、A組の教室に来るようにメッセージを送る。
「って訳で、ここに来るように呼んだから拳藤が来るまで少し待って……ん?」
言葉の途中で扉が開く。
え? もしかしてもう拳藤が来たのか?
そう思ったが、そこにいたのは緑谷だった。
何故かそおっと……音を立てないようにしながら扉を開き、恐る恐るといった様子で覗いてくる。
「おお! ……おー……」
俺の視線を追って扉が開いたことに気が付いた上鳴は、嬉しそうな様子で声を上げようとするものの、そこにいたのが拳藤ではなく緑谷だと知ると、すぐに残念そうな様子になる。
いや、そこまで露骨にしなくても……と思わないでもなかったが、上鳴の性格を考えれば当然か。
そんな上鳴とは違い、三奈、切島、砂藤の3人は瞬時にして緑谷に近付くと口々に声を掛けている。
ただ、緑谷は何故か保健室に行ったにも関わらず、右手を吊っている。
何でも体力的な問題という事らしい。
数少ない治療系の個性を持つリカバリーガールだったが、何の問題もなくあらゆる傷を回復するといった訳ではないのだろう。
そして麗日に爆豪がどこにいるのかを聞くと、すぐに鞄を手に教室を出ていく。
「ちぇー。折角アクセルが言っていた拳藤って子だと思ったのに」
上鳴が不満そうに言う。
そうして緑谷が行くと……少し時間が経ち、再度扉が開く。
「えっと、ここでいいんだよな? ああ、いたいた」
「うぇいっ!」
「……上鳴?」
扉が開いて拳藤が姿を現すと、それを見た上鳴が不意に叫ぶ。
いや、叫ぶのは分からないでもなかったが、その叫び声は一体何なんだ?
そう疑問に思っても、その辺に突っ込むのはどうかと思うので止めておく。
「一佳、こっちこっち」
そんな拳藤に対し、三奈が手招きをする。
拳藤も三奈とは親しいので、素直にそちらに向かう。
「それで、三奈。私は一体何で呼ばれたんだ? アクセルが呼んでるから来たけど」
「え? 聞かないできたの?」
「ああ。三奈達もいるって話だったけどな。……とはいえ、A組の連中がこんなにいるとは思ってなかったけど」
「あはは。実は、今日ヒーロー基礎学で対人の戦闘訓練をしたんだけど、その反省会だよ」
葉隠のその言葉に、拳藤は驚きの表情を浮かべて口を開く。
「え? ヒーロー基礎学って、いきなり対人訓練とかやるのか? 私達もかな?」
「ヒーロー基礎学の担当はオールマイトなんだから、そうじゃない?」
「対人の戦闘訓練かぁ……私も覚悟しておいた方がいいかもしれないわね」
そう言う拳藤だったが、手が大きくなるという拳藤の個性は対人戦だとかなり有利だと思う。
ただ、ビルの通路によっては手が大きくなりすぎると、手がつっかえるという可能性もある。
もっとも、もしB組がヒーロー基礎学で対人の戦闘訓練をやるとしても、俺達と同じようにビルの中でやるかと言われると……どうだろうな。
あー、でもオールマイトが言っていたように、賢しいヴィランは屋内に潜むってのがあったから、それを考えるとやっぱりビルではなくても屋内での訓練になるのか?
そんな風に思っている間に、三奈を始めとした面々が拳藤の紹介をしていた。
……上鳴と峰田に紹介する時は、かなり警戒した様子をみせていたのは、A組の恥にならないようにといったところだろう。
うん、まぁ……上鳴といい、峰田といい、爆豪といい……A組には問題児が揃ってるな。
緑谷も態度こそ真面目だが、その個性はまだ使えるようになったばかりというのもあってか、使う度にダメージを受けている有様だし。
問題児……いや、ここは敢えて個性的と言った方がいいのか?
「アクセル、拳藤も来たんだし……あの虚空瞬動? とかいうのについて教えてよ」
耳郎が急かすように言ってくる。
最初に虚空瞬動に興味を示しただけに、少しでも早く俺から聞きたいのだろう。
ましてや、個性ではなく技術……訓練を積めば誰でも使えるようになるというのだから、尚更に。
「虚空瞬動? 何だ、それ?」
「素晴らしい名称だ」
不思議そうに呟く拳藤の言葉に対し、常闇は小さく……ボソリとそう呟く。
うん、これまでの言動から分かってはいたが、やっぱり常闇ってそういう感じなんだろうな。
とはいえ、虚空瞬動という名称は別に俺がつけた訳ではないし、当然ながらこの技術も俺が開発した訳ではない。
寧ろネギま世界では一般的な技術ですらある。
勿論、それは魔法を知っている者達で、しかも一定の実力がある者達にとっての一般的ではあるが。
そもそもネギま世界では普通に空を飛べる者も多く、空中での戦闘というのは珍しいものではない。
可能なら、それこそ箒とかを使わず普通に空を飛んだり出来るのが最善だ。
虚空瞬動は、ある意味でそれが出来ないものが何とかする為の技術でもある。
とはいえ、それはあくまでもネギま世界の話で、このヒロアカ世界においては全く未知の技術。
というか、この世界だと魔力とか気とかそういうのは未解明らしいしな。
個性という、特殊能力が普通に発現する世界なんだから、そうなっても無理はないと思うが。
「簡単に言えば、空中を蹴る技術だな」
「……技術? 個性じゃなくてか?」
「そうだ。技術だから当然、訓練すれば大抵の者なら使えるようになる」
そう言うと、拳藤が驚き……すぐにその視線が真剣なものに変わる。
「それは一体どうすれば使えるようになるんだ?」
「その辺について話そうとしていたところで拳藤からメッセージがあって、それでこうして呼んでみた訳だ」
「……そうか。ありがとう」
「気にするな。この件については俺にとっても他人事じゃない?」
「は? 何でアクセルにとって他人事じゃないんだ?」
あ、しまった。
拳藤と話していて、ちょっと口を滑らせたな。
いや、けど……まぁ、いい機会ではあるのか?
「俺が自分で言うのもなんだが、A組では俺は突出した存在だしな」
「……そうなのか?」
何も知らない者が聞けば、自分の力を無意味に高く評価しているようだ……といったように思ってもおかしくはない、そんな言葉だ。
だが、拳藤は受験の時の実技試験で俺の実力をその目で見ているし、何より受験を首席で合格したといった実績が俺にはある。
なので拳藤も俺の言葉を聞いても即座に笑ったりせず、近くにいた三奈に尋ねたのだろう。
「そうだね。まだこのクラスになったばかりだから何とも言えないけど、それでも多分このクラスでトップクラスの実力を持つ2人を1人で相手をして、怪我1つしないで勝ったのは本当だよ」
「ねー。モニタを見ていて、嘘でしょって思ったし」
三奈の言葉に葉隠が同意する。
ヤオモモや他の面々もそんな三奈の言葉に頷いていた。
「うわぁ……アクセルは強いと思ってたけど、私が予想した以上に強かったんだね」
拳藤が、しみじみといった様子で呟く。
実際に俺が強いのは知っていたものの、こうして改めて人から聞くと……といった感じか。
「ああ、俺は自分の強さには自信がある。……そんな訳で、現在A組だと俺だけが突出した存在な訳だ」
こうして言っていて、自分でも鼻持ちならない言い方だという自覚はある。
実際、俺の言葉を聞いて不満そうな様子を見せている者もいるのだから。
だが……しかし、それでも俺の言葉が事実であるというのは、今日の対人戦闘訓練を見れば反論出来なかったのだろう。
壁となるには、こういう感じでいいんだよな?
「だからこそ、皆には少しでも強くなって貰いたいと思っている。……ちなみにだが、申請すれば放課後に訓練場を借りる事が出来るらしい。どうだ?」
そう尋ねる俺の言葉に、教室にいる多くの者が真剣な表情になるのだった。