転生とらぶる2   作:青竹(移住)

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4359話

「えっと……え? 今、アクセルは何て言ったの? ちょっと聞き間違いをしたみたいなんだけど」

「漏らした、と。そう言ったんだよ。で、まさか俺がお前を着替えさせる訳にはいかないし、龍子やねじれを呼ぶには事務所から離れすぎているから、この拳藤を呼んだ」

「えっと、あの……その……初めまして、拳藤一佳です。アクセルに呼ばれて、マウントレディの着替えをさせて貰いました」

「……誰よ、その子」

 

 そう聞く言葉遣いが若干不機嫌そうなのは、やはり自分の意識がない間に着替えをさせられたというのが影響してるのだろう。

 拳藤にしてみれば、俺に頼まれたからしたことなのだろうが。

 ただ、それでもやはり色々と思うところがあるのは、女として仕方がない。

 

「雄英の受験が終わった後で言わなかったか? 実技試験で協力した相手とLINの交換をしたって」

「ああ、そう言えば……ふーん」

「一応言っておくけど、優の漏らした場所はロボット掃除機が掃除してくれたから、気にしなくてもいいぞ」

「だっ、誰が気にしたってのよ!?」

 

 顔を赤くし、叫ぶ優。

 うん、これは俺がちょっとデリカシーなかったな。

 とはいえ、自分の漏らした後始末を誰がやったのかというのは気になるだろうと思ったんだが。

 

「うー……本当に最悪。ちょっとアクセルの様子を見に来ただけなのに」

「優が普段からしっかりと訓練をしていれば、実験対象にしようとは思わなかったんだけどな」

 

 そんな俺の言葉に、不満そうな様子を見せる優。

 まぁ、漏らしてしまった優にしてみれば、俺の言葉に完全に納得しろという方が無理なのだろうが。

 

「で?」

「……で? って、何よ?」

「だから、殺気……はともかく、気配の類は感じられるようになったのかと思ってな」

「え? そんなに急に言われても……ちょっと待って。うーん……分からないわね」

 

 俺に一言断ってから、気配を感じられるようにと目を瞑ったりしてみる優だったが、やがて首を横に振る。

 どうやらその様子を見れば、嘘でも何でもなく本気で言ってるらしい。

 もっとも、殺気を発するというのは思いつきをやってみた感じだし。

 あるいはこれであっさりと殺気や気配を感じられるようになったら、寧ろその方が驚いていたかもしれない。

 

「1回だけですぐにでも覚えられるとは思っていないしな。これから何度もやってみる必要があるし」

「げ!」

 

 俺の言葉を聞いた優が、即座にそんな声を出す。

 いやまぁ、漏らしてしまった優にしてみれば、また同じような事をやるのかと、それを不安に、そして不満に思ってもおかしくはない。

 とはいえ、実際1回で習得出来なかった以上は他にも何度か試してみる必要があるのは間違いない。

 それを繰り返すことによって優が殺気や気配を感じられるようになれば、峰田や上鳴を含め、希望者に試せるし。

 ……取りあえず今の状況ではっきりとしているのは、試す前にトイレに行くようにするって感じだな。

 トイレの件は、優が身体を張って貴重な体験を見せてくれたし。

 峰田がここにいれば、恐らくもの凄く喜んだんだろうな。

 

「何度も試さないと。多分1回やっただけだと、少しだけ経験値が溜まった的な感じだと思うし。それを思えば、何度も経験する事によって経験値を溜めてレベルアップ……いや、殺気や気配を感じる技術を習得すると考えれば分かりやすいんじゃないか?」

「それは……そうかもしれないけど。でも、それをやるのは私なんでしょう?」

「最初の1回目をやったのは優なんだから、やっぱりこれは優に試して貰う必要があるだろう?」

「……1回くらいなら誤差だと思うけど」

 

 どこぞの新聞会社のような事を言うな。

 

「その1回が重要なんだと思うぞ。拳藤はどう思う?」

「うぇっ!? ここで私に聞くのか!?」

 

 どうやら拳藤はまさか自分に聞かれるとは思っていなかったらしく、驚きの声を上げる。

 俺としては、別にそうおかしなことではないと思うんだが。

 

「そんなに驚く事か? 拳藤だって、殺気や気配を感じられる技術は覚えたいだろう?」

「それは……まぁ、否定しないけど」

「ちょっと、そこは同じ女の私の味方をするところでしょ!?」

 

 優にしてみれば、拳藤がまさか俺の味方をするとは思わなかったらしく、不満そうに叫ぶ。

 だが、そんな優に対して拳藤は申し訳なさそうに頭を下げる。

 

「すいません、マウントレディ。ただ、雄英のヒーロー科として殺気や気配を感じる技術を覚えられるかもしれないとなると……その、出来れば私としてはそちらを優先したいと思いますので」

「……それで私がまた気絶してもいいと?」

「まぁ、ほら。今度はトイレに行ってから試せば……うおっ!」

 

 落ち着かせるつもりの言葉の途中で、優はソファの近くにあった、まだ開いていないスナック菓子を投げつけてくる。

 袋状の奴じゃなくてカップ状の容器なので、当たればそれなりに痛い。……俺に当たる筈もなく、あっさりとキャッチしたんだが。

 タラコバター味か。

 ジャガイモをスティック状に切って揚げた……いや、それだとフライドポテトだから実際にはもっと色々と加工してるんだろうが、とにかくそんな感じのスナック菓子。

 蓋を開けて1本口に運ぶと……うん、悪くないな。

 時折こういうスナック菓子って奇をてらった奴が売ってたりするんだが、大抵そういうのって外れなんだよな。

 俺はそっち系はあまり好まないから、そういうのはあまり買わない。

 絶対に買わないって訳じゃないが。

 

「アクセル……あんたねぇ……」

「怒るのは分からないでもないが、優も納得して引き受けただろ?」

「そうだけど、だからってこういう目に遭うなんて思ってもいなかったわよ!」

 

 だろうな。

 いやまぁ、もしかしたら気絶くらいはするかもしれないと思ってはいたが、漏らすというのは俺にとっても予想外だったし。

 

「でも、一度恥を掻いたんだ。なら、その恥を無意味なものにするよりは、糧とした方がいいんじゃないか? それに、もし優が殺気や気配を感じられるようになったら、その点では龍子の上を行く事になるぞ」

「リューキュウ先輩の? それは……」

 

 その言葉はそれなりに効果があったのだろう。

 優は龍子を尊敬しているが、同時にいつか追い越したい相手とも思っている。

 そんな優が、龍子よりもヒーローとして一部でも勝れるようになるというのは、本人にしてみれば大きな意味を持っているのだろう。

 

「どうする?」

「……やるわ」

 

 たっぷりと数分考え、優はそう俺に言ってくる。

 どうやら覚悟を決めたらしい。

 

「アクセル……」

 

 そして何故か拳藤は、俺に呆れの視線を向けていた。

 何だ? そんな視線を向けられるような覚えはないんだが。

 ともあれ、拳藤の視線は取りあえずスルーし、これからの事について考える。

 優が俺の実験に付き合うと決めたのはいい。

 だが、問題なのはその実験……いや、訓練をいつやるかって事なんだよな。

 基本的に優は現在龍子の事務所に出入りしている。

 チームアップだったか。

 ようは、違う事務所のプロヒーロー同士が手を組んで一緒に行動する事をそういう風に言うらしい。

 以前は正式にチームアップをしていなかったらしいが、俺が雄英に入学したのを機に正式にチームアップしたんだとか。

 優は他にもチームアップをしようと思っていた相手がいたらしいが……この辺については、俺の存在も関係してそっちは諦めたらしい。

 なので、優もそう頻繁に俺のマンションに来る訳にもいかない。

 かといって、雄英からかなり離れた場所にある龍子の事務所まで俺が通うのも問題だし。

 

「うーん、優が引き受けてくれたのはいいけど、優がこっちに来る時間がないな」

「え? あるわよ?」

 

 どうするべきかと悩んでいると、優があっさりとそう言う。

 

「は? どういう事だ?」

「あのねぇ、私とリューキュウ先輩はアクセルの後見人なのよ? なら、何かあったら様子を見に来るのは当然でしょ。それに……後見人の関係で近くに仮ではあるけど、事務所……というか、支部みたいな場所を作れないかという話が出てるのよ」

 

 後見人の関係……それはつまり、公安からの依頼か何かって事か?

 優はその辺の言葉を濁したが、それは拳藤がいるから公安の名前を出せなかったからだろう。

 けど……いや、話は分からないでもないか?

 優が言ったように、優と龍子は俺の後見人という立場になっている。

 表向きは個性事故の関係、実際には異世界から来た相手という事で。

 そう考えれば、公安としても俺の近くに……雄英の近くに人を置いておきたいと思うのは分からないでもない。

 もし俺が何らかのトラブルに巻き込まれた時、優や龍子がすぐに駆けつけられるようにしておきたいと……あるいは、公安の人間も何人かその支部とやらに起きたいのかもしれないな。

 

「つまり、優はこれからその支部にいる事が多くなるのか?」

「そうなるわね。もっとも、私の方もそれはそれで色々と仕事があるから、いつでもそこにいるって訳じゃないけど、それでも週に何日かはいると思うわ。で、リューキュウ先輩も週に1日くらいはいると思うわ」

 

 俺にしてみればありがたい話だが、それはそれで色々と問題が起きそうな気がしないでもない。

 特に峰田や上鳴辺りに俺が優や龍子と親しいと知られれば……間違いなく面倒な事になる。

 とはいえ、そう簡単にそういうのが知られる筈もないか。

 

「分かった。じゃあ、実験というか訓練は優が支部にいる時にするか」

「……あのね、実験って言ったわよね、今?」

 

 ジト目をこちらに向けてくる優。

 一瞬視線を逸らして口笛でも吹こうかと思ったんだが、そうなると今度はスナック菓子ではなく拳が飛んできそうなので、止めておく。

 

「実験の一種であるのは間違いないしな。拳藤を始めとして、雄英の生徒達に試す前に、安全かどうかを優に試そうとしている意味では、間違いなく実験だろう?」

「だからって、堂々と実験と言うのはどうなんだ?」

「そう! そこのあんた……えっと、拳藤だったわよね。いい事を言うわ。もっとアクセルに言ってやりなさい」

「え?」

 

 拳藤は単純に自分の感想を口にしただけだったのだろうが、まさかそこでこんな風に言われるとは思っていなかったらしい。

 ……優にしてみれば、自分の味方をしてくれる相手だという事で、友好的な存在と認識したのかもしれないが。

 

「あのな、一応言っておくけど……拳藤がどう言おうと、これが実験なのは変わらないぞ。そして優にはしっかりと最後まで実験に付き合って貰う」

「……分かってるわよ」

 

 拳藤が何かを言うよりも前に、機先を制するようにそう言う。

 優も俺のその言葉に、不承不承といった様子で納得する。

 

「えっと……これは私が何かを言ったりする必要はないと思ってもいいのか?」

「そうだな。拳藤には色々と思うところもあるだろうが、優を……マウントレディというプロヒーローが1段上の強さを手に入れる為の試練だと思ってくれ」

 

 ちょっと大袈裟なようにも思わないではなかったが、実際に優が殺気や気配を感じられるようになれば、それはプロヒーローとして行動する上で大きな助けになるだろう。

 優本人はあまり好まないが、マウントレディとしての力は災害救助とかにもかなり使える。

 そんな中で気配を察知出来るようになったら、その時はかなりの戦力となるだろう。

 例えば、土砂崩れが起きた時、生き埋めになっている相手がどこにいるのかを即座に察知したりといったように。

 また、ヴィランと戦う時に殺気を感じられるというのも大きい。

 

「というか、何でこの手の技術がそこまで一般的じゃないか、疑問だよな」

「ちょっ、アクセル!?」

 

 俺の言葉に、何故か慌てた様子を見せる優。

 うん? 今の俺の言葉のどこに慌てるようなところがあったんだ?

 

「どうした?」

「どうしたじゃなくて……はぁ。まぁ、いいわよ。多分だけど、そうね。やっぱり個性があったからじゃない?」

 

 何かを諦めた様子で、優がそう言う。

 個性……個性か。やっぱりそうだよな。

 考えられる可能性としては、それくらいしかないのも事実だし。

 そう考えると、個性ってのも善し悪しだな。

 あー……でも、個性は10人中9人は無条件で習得出来る訳で、長く厳しい訓練が必要な殺気や気配を察知する技術に比べれば、お手軽なのも間違いない。

 とはいえ、個性は千差万別。

 雄英に合格するような強力な個性もあれば、外れ個性と言われるような個性もある。

 動画投稿サイトで見た……目が光る個性というのがあったが、あれも一種の外れ個性だろう。

 もっとも、光を放つという個性を伸ばせば、最終的には目からビームやレーザーを出せるようになるかもしれないが。

 そうなると一気に強個性と呼ばれるようになったりするんだよな。

 

「ともあれ、これから暫く……具体的にどのくらいの間かは分からないが、優には俺の殺気を感じて貰う事になるから、そのつもりでな」

 

 そう言う俺の言葉に、優は情けない表情を浮かべながらも渋々と頷くのだった。

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