「昨日の戦闘訓練、お疲れ。Vと成績見せて貰った。……爆豪」
話が終わったところで、相澤の視線が爆豪に向けられる。
そんな相澤の視線に、爆豪も思うところがあったのか若干表情を変える。
まぁ、昨日の戦闘訓練の話を出したところで爆豪の名前を呼んだんだから、緑谷との一件なのは明らかだ。
……もしかしたら、轟と組んで俺と模擬戦をやった時の件について話すといった可能性もあったが……
「お前、あんなガキみてえな真似はすんな。能力あるんだから」
うん、やっぱりこの件は緑谷についてだろうな。
緑谷との戦闘では、下手をしたら緑谷が死んでいたかもしれなかったのだから。
爆豪であれば、その程度の事は分かっていた筈だ。
……それでも相澤の言葉に素直に分かってると言って頷いたのは、昨日緑谷が爆豪を追っていった時に何かあったのかもしれないな。
それが具体的に何なのかは、俺には分からないが。
とはいえ、それで爆豪の緑谷に対する態度が変わったのかと言えば、それは否なのだが。
で、爆豪に小言を口にした後は、緑谷にも小言が言われる。
とはいえ、緑谷の個性が目覚めたのが最近だとすれば、相澤の個性を使いこなせというのは、ちょっと難しいと思うけど。
もっとも、緑谷にとってもここで後れを取ると他の生徒に一気に置いていかれる事になる。
緑谷もそれが分かっているのか、相澤の小言に対し、素直に頷いていたが。
そうして一通りの連絡事項が終わると、そのまま1限目の授業に入る。
とはいえ、それは何らかの勉強をする訳ではなく……
「さて、このままHRを続けさせて貰う。急で悪いが、今日は君達には……」
そこまで口にした相澤だったが、そこで一拍止める。
そうする事によって、話を聞いている生徒達の意識を自分に集めようとしているのだろう。
実際、その効果はそれなりにあり……そうして注意が集まったところで、相澤は口を開く。
「学級委員長を決めて貰う」
『学校っぽいの来たぁっ!』
相澤の言葉に、何人もの……というか、殆どの生徒達が一斉に叫ぶ。
その言葉にどこか嬉しそうな色があるのは、俺の気のせいではないだろう。
……実際、何人もの生徒達が自分がやりたいと口にしているのだから。
「ウチもやりたいス」
「委員長! それ、俺がやりたいです! 俺、俺!」
「オイラのマニフェストは、女子全員膝上50cm!」
「ボクの為にあるやつだね」
「リーダー!? やるやる!」
俺の席の側の三奈や、青山も全力で立候補していた。
まぁ、三奈の性格を考えれば、学級委員長というリーダーをやりたいと思ってもおかしくはないだろう。
ただ……峰田の膝上50cmって……それもう、スカートの役目を果たしてないんじゃないか?
いやまぁ、実際にそういう事になれば男の中には喜ぶ奴がいるのは間違いないだろうけど。
ただ、当然ながら女達には即座に反対されるだろう。
というか、学級委員長ってそんなにやりたいものか?
俺にしてみれば、細々とした仕事を任される、面倒な役職といったイメージなんだが。
あるいは、ヒロアカ世界においては学級委員長というのは魅力的な役職といったような扱いなのかもしれないな。
俺にしてみれば、学級委員長をやるメリットとなると……そうだな、すぐに思いつくのは、内申点のアップか?
しかもここはその辺の学校ではなく、このヒロアカ世界の日本における最高峰のヒーロー科を持つ雄英だ。
そんな雄英のヒーロー科で学級委員長をしたとなれば、それは内申点的には大きいだろう。
そう考えると、もしかしたら俺も立候補した方がいいのか? と思ったのだが、すぐに却下する。
俺の仕事……壁として生徒達の前に立ち塞がるというものを考えると、学級委員長をやっている時間があるとは思えない。
それに、その仕事の為に今日の放課後から早速希望者を集めて自主練をするつもりなのだ。
学級委員長になっていたら、雑用とかそういうのでこっちの方に悪影響が出てしまう。
「静粛にしたまえ!」
学級委員長について考えていると、不意にそんな声が周囲に響く。
声のした方に視線を向けると、そこにいたのは飯田。
「多を牽引する責任重大な仕事だぞ。周囲からの信頼あってこそ務まる聖務。民主主義に則り、リーダーを皆で決めるというのなら……これは投票で決めるべき議案!」
そう断言する飯田。
いやまぁ、言ってる事は正しいと思う。
実際にこうして皆が立候補している状況を思えば、投票で決めるのが一番手っ取り早いし。
ただ……
「そびえ立ってるじゃねーか! 何で発案した!」
切島の突っ込みが入る。
……そう、切島が突っ込んだように、飯田の手はこれ以上ないくらいに挙手しており、自分こそが学級委員長になりたいと、やってみたいと、そう全身で主張していた。
うーん……これ程見事に口と態度が違っている奴ってのも珍しいな。
とはいえ、飯田の思い込んだら一直線といった性格を知っていれば、あるいはこれはそこまで驚くような事ではないのかもしれないが。
実際、挙手をしている飯田も自分の行動に特に何かを感じているようには見えなかったし。
「知り合ってから日も浅いのに、信頼もクソもないわ飯田ちゃん」
梅雨ちゃんが飯田に向かってそう言うが……梅雨ちゃん、意外と口が悪いな。
印象的にはもっとこう、お淑やか……違うな。家庭的といった印象があるんだが。
そんな梅雨ちゃんの言葉に続くように、切島が自分に投票すると言い、だからこそここで複数の票を貰った人が学級委員長に相応しいと答えていた。
正論って奴だな。
とはいえ……俺はそんな飯田に対し、言葉を掛ける。
「投票で決めるというのは俺も賛成だ。ただし、投票対象はあくまでも学級委員長をやりたいと思ってる者だけにして欲しい。具体的には、俺は放課後も色々と忙しくなると思うから、学級委員長をやるような余裕はないし」
「む、そうか。だが、ぼ……俺はアクセル君程の実力があるのなら、学級委員長として相応しいと思うのだが」
「いやいや、こういうのは実力以外にも、人望とか皆を纏める能力とか、そういうのが必要なんじゃないか?」
具体的には……高校という事で、部活がそれに当たるだろう。
その部活の中で一番腕の立つエースがキャプテンである必要は必ずしもない。
世の中には天才もいるので、中にはエースでキャプテン……それどころか、野球部の場合は4番でピッチャーでキャプテンなんてのもいてもおかしくはないけど。
ただ、そういう人材は少ないのも事実。
そう考えれば、やはり俺が学級委員長になるというのは遠慮したい。
……実際には、人望がどうとか、そこまで深い考えがある訳でもなく、単純に雑用が面倒だというのが最大の理由だったりするのだが。
ただ、こうして皆が学級委員長をやりたがっている中でそういうのを言ったりすれば、盛り上がった雰囲気が盛り下がるだろうし。
「ふむ、なるほど。アクセル君の言う事ももっともだな。どうでしょうか、先生?」
「時間以内に決めれば何でもいいよ」
飯田の言葉に相澤がそう言い、結局飯田の案が採用されてそれぞれに紙が配られる。
その上、飯田は黒板にクラスメイトの名前を席順に書いていく。
まだこのクラスになったばかりなので、全員の名前を覚えていない者がいると判断しての事だろう。
ちなみに俺の意見を取り入れてか、俺の名前のところには選考外と書かれている。
こういうのを見ると、飯田が学級委員長に相応しいのかもしれないが……そうなるとそうなったで、細かい事で色々と注意されそうなんだよな。
それが面倒だ。
そうなると誰か他の奴に投票するか。
ここはやっぱり、今のところ一番主人公の可能性が高い緑谷か?
それはそれでありかもしれないが……それこそ緑谷の個性の件を考えると、学級委員長をやるよりも生徒として個性を使いこなせるようにした方がいいと思う。
原作主人公だけに、学級委員長をやるというのもありかもしれないとは思ったが。
ただ、俺としてはやっぱり緑谷には個性の訓練を重視して欲しいので、止めておく。
そうなると次に選ぶべきは……峰田? いや、ないな。
膝上50cmとか、とんでもないマニフェストを出していた峰田だが、もし学級委員長になっても、当然ながらそんなのが通る筈もない。
……そう考えると、意外と峰田にしてみたら面白い事になりそうな気がしないでもないな。
とはいえ、峰田の性格を考えると、学級委員長でも出来ないと言われても、それを無視してどうにかしてマニフェストの膝上50cmを実現しようとしそうなんだよな。
そうなると、それはそれで面倒な事になるから止めておこう。
そうなると他には……まぁ、無難に考えてヤオモモか?
ヤオモモは成績優秀な優等生といった感じだし、実際に雄英に推薦入学で合格している。
そんな訳で、ここはヤオモモにしておこう。
紙にヤオモモ……じゃない。ここでヤオモモって書いたら、場合によっては無効になりかねない。
八百万と書いて、中が見えないように折り曲げて教壇まで持っていく。
俺はあっさりと決めたのだが、他の面々はすぐに決める事は出来ないらしい。
自分に投票する事も可能なので、自分が委員長になりたい者なら、普通に自分に投票するだろう。
そう考えれば、そこまで悩むような事はないと思うんだが。
あるいはそういう誘惑を振り切って学級委員長に相応しい人物に投票しようとしてるとか。
……正直なところ、そこまで投票する相手がどうとかまでは、考える必要はないと思うんだが。
これは俺が異世界からこのヒロアカ世界にやって来たからこそ、そういう風に思うのかもしれないけど。
あるいはこの世界の人間なら、こうした態度が普通なのかもしれないし。
もしくは、ここが雄英のヒーロー科だからこそなのもしれないな。
ともあれ、ある程度の時間が経てば多くの者が投票を終えていくが……
「上鳴?」
「え? うわ、本当だ。まだ悩んでる」
俺の言葉が聞こえたのか、三奈が俺の視線を追い、その先で投票用紙を前に悩んでいる上鳴を見て不思議そうに言う。
いや、上鳴の様子を見ると、悩むといった表現では足りない。
深く……深刻な悩みのように思える。
一体何だってそんな悩みを?
そんな風に疑問に思うが……そんな俺達の視線に気が付いたのか、上鳴は慌てて投票用紙に書き込むと、教壇まで持っていく。
どうやら上鳴が最後だったらしく、すぐに投票を提案した飯田が黒板に書いていくが……その結果は、驚きと納得が混ざったようなものだった。
まず納得なのは、トップがヤオモモと緑谷が3票ずつという事だ。
ヤオモモは学級委員長をやりたがっていたし、それを知って俺も投票したので、俺意外にも誰かもう1人投票したのだろう。
それが誰なのかは、俺にも分からないが。
緑谷の3票は……本人も驚いてるところを見ると、緑谷は恐らく他の誰かに投票し、そして3人が緑谷に投票したといったところか?
それとも、最初から駄目元で緑谷も自分に投票していた可能性はあるが。
ともあれ見るからに優等生のヤオモモと、原作主人公なのだろう緑谷がこうして学級委員長の投票でトップになるのは、まだ理解出来る。
これが、驚きと納得のうち納得の方。
それに対し、驚きなのは……
「くそおおおっ! 後2票……いや、後1票でもあれば、オイラが学級委員長になれたのにっ!」
心の底から悔しそうな様子で叫ぶ峰田。
そう、峰田が言ったように峰田に対する投票は2票。
1票は恐らく……いや、間違いなく峰田本人だろう。
そうなると、残りもう1票は誰だ? と疑問を抱いたところで、先程の上鳴の様子を思い出す。
黒板にある上鳴は0票で、それはつまり上鳴が自分に投票した訳ではない事は明らかだった。
そうなると、上鳴が誰に投票したのか……そう考えれば、誰が峰田に投票したのかは明らかだった。
「サイテー」
俺が気が付いた事は、当然ながら三奈もまた気が付いたのだろう。
上鳴に向けて軽蔑の視線を向ける。
特殊な趣味を持っている者ならご褒美かもしれないが、上鳴はそういう趣味はないらしく、そっと視線を逸らす。
まぁ、三奈の気持ちも分からないではない。
何しろ峰田のマニフェストは、膝上50cmというものだったのだから。
膝上50cmとか、スカートの意味をなさないのではないかと思ってしまう。
勿論、男としては嬉しい事なのは間違いないと思うが……ただ、それでも女子にしてみれば、冗談ではないと思っているだろう。
三奈以外の女達も、上鳴に呆れや軽蔑の視線を向けている者が多い。
上鳴……やってしまったな。
さっき悩んでいたのは、この件があったからなのだろう。
自分に投票するか、それとも欲望に従って峰田に投票するか。
その結果として峰田に投票し……そして今のような状況になってる訳だ。
自業自得だろう。
せっかくさっき、あまりに露骨なのは駄目だと教えたのに。
そんな風に思っていると、取りあえずヤオモモと緑谷のどちらが学級委員長をするのか、今日中に話し合って決めるという事になるのだった。