HRでの学級委員長を決めるのも終わり……実際にはヤオモモと緑谷が一緒の投票数だったので、放課後までに話し合って決めるように言われていたのだが、とにかくHRも終わり、その後の授業も特に何があるでもなく終わり、昼休み。
「まぁ、ではアクセルさんが私に投票して下さいましたの!?」
カツ丼と醤油ラーメン、野菜スープにサンドイッチといった食事をしている中で、ふと俺がヤオモモに投票したといった話をすると、それを聞いたヤオモモは嬉しそうに言う。
ちなみに今日の昼食の面子は、俺、瀬呂、三奈、葉隠、ヤオモモの5人だ。
いつもなら……という程にまだ時間は経っていないのだが、ともかく普段ならここに耳郎や梅雨ちゃんが混ざったりするのだが、今日はいない。
何か用事があるとかで。
「ああ。飯田にも言ったが、俺は最初から学級委員長になるつもりはなかったからな。そうなると、誰か別の相手に投票する必要がある訳だ」
誰にも投票しないで無効票にするといった方法もあった訳だが、それはそれでどうかと思ったんだよな。
「それで私に?」
「俺が知ってる中で、ヤオモモが一番学級委員長に相応しいと思ったからな」
「あ、それは分かる。……まぁ、俺は自分に投票したけど」
どうやら瀬呂もまた学級委員長をやってみたいと思っていたらしい。
瀬呂が学級委員長……まぁ、やってやれない事はないのか?
意外性の瀬呂と自分の事を評するように、意外な働きが出来てもおかしくはないと思うし。
取りあえず、峰田に学級委員長をやらせるよりは、瀬呂の方がいいだろう。
……膝上50cmのマニフェストと比べられても、瀬呂が嬉しいかどうかは別の問題だったが。
「まぁ……私に投票してくれるなんて、嬉しいですわ」
プリプリとするヤオモモ。
普通なら、こうしたプリプリといった擬音が似合うのは怒っている時だとかだったりするのだが、ヤオモモの場合は嬉しさからこうしてプリプリとしている。
「うわ、凄く可愛い」
プリプリしている様子のヤオモモを見た三奈は、思わずといった様子で呟く。
「うんっ、ヤオモモ可愛いーっ!」
葉隠もそんなヤオモモを見てそう言葉に出す。
実際、今のヤオモモは可愛いといった表現が相応しかったので、そういう意味では三奈の言葉にも、葉隠の言葉にも異論はない。
……それを実際に言葉に出すかどうかは、また別の話だが。
「喜んで貰えて何よりだよ。……言っておくが、別に忖度とか、知り合いだからといってヤオモモに投票したわけじゃないからな。その辺は勘違いするなよ」
とはいえ、数日とはいえヤオモモと知り合ってから色々と話す機会もあり、それでヤオモモの性格とかそういうのを理解したからこそ、学級委員長に向いているだろうと思ったのは間違いなかったが。
「アクセルさんのご期待に添えるよう、頑張ります」
「けど、頑張るのはいいけどよ。緑谷と同数なんだろ? それはどうするんだ?」
瀬呂のその言葉に、ヤオモモは少し考える。
実際、瀬呂が言うようにヤオモモと緑谷は同数の3票だったので、放課後までお互いに話し合って決める必要があるのだ。
「相澤先生の事だから、そういうのも決められないのなら除籍とか言いそうだよね」
葉隠の言葉に、その場にいた全員が頷く。
合理的虚偽と言っていたが、多分……個性把握テストの時、場合によっては緑谷は除籍になっていただろう。
……ある意味、そういうピンチになりながらも持ち堪えている辺りも、緑谷が主人公らしいと言えば、らしいんだよな。
あ、もしかして……これって俺が介入したから今のような状況になっていたりするのか?
もし俺が介入していなければ、当然ながらヤオモモに投票する事もなかった訳で、そうなるとヤオモモが2票、緑谷が3票という事で緑谷が学級委員長になっていた可能性がある。
あるのだが……緑谷が主人公だとすれば、その個性を少しでも早く使いこなせるようにする為に、やっぱり緑谷ではなくヤオモモに学級委員長になって欲しい。
もっとも、ヤオモモが学級委員長になれば次点の緑谷は自動的に副委員長になる訳だが。
それはそれで……ちょっと困るな。
学級委員長よりはマシだが、それでも副委員長となれば雑用で放課後の時間が潰れたりとか、普通にしそうだし。
「除籍ですか。……本気で言わないとは思いたいところなのですが」
個性把握テストの時は、除籍というのは嘘だと言っていたヤオモモだったが、数日ではあっても相澤と接する機会があり、その考えは微妙に変わったらしい。
「ともあれ、どうやって決めるかだな。結局のところ、その辺を決めてしまえば除籍だなんだという話はないんだし。ヤオモモは緑谷と何か話したのか?」
「はい。お昼を食べた後で話そうという事になっています。……緑谷さんも学食で食べるという話でしたので、もしかしたら見つけられるかもしれないと思ったのですが……」
「この学食は大きいしな」
全校生徒、そして教師も含めて食事が出来るようになっている学食だ。
その広さは当然ながらかなりのものとなる。
雄英の学生の多くが、昼休みになればそんな学食に集まってくる。
何しろ学食の食事はその辺のレストランよりも美味く、それでいて量も多く安い。
そんな厨房を毎日のように捌いているランチラッシュは、普通に凄いと思う。
勿論、厨房にいるのはランチラッシュ1人ではなく助手もそれなりにいるが、助手と言われているように、その仕事は助手だ。
調理そのものは、基本的にランチラッシュが1人で全てやっている。
雄英教師の中で、一番忙しい教師だと言っても間違いではないと思う。
そんな広大なというのは少し大袈裟かもしれないが、とにかく広い学食で緑谷を見つけるというのは難しい。
やってやれない事はないだろうが。
それに緑谷もまた、飯田や麗日といったいつものメンバーと一緒に昼食を楽しんでいるだろうし。
「ええ、少し大きい食堂ですわね」
「えっと……少し?」
ヤオモモの言葉を聞いた三奈が、戸惑った様子で尋ねる。
まぁ、その気持ちも分からないではない。
これだけの広さを少しと言うのだから。
ヤオモモの家は一体どれだけ大きいのかと、そう思ったのだろう。
ヤオモモの喋り方であったり、毎日の送り迎えは高級車だったりというのを考えれば、結構な資産家なのは間違いない。
「はい?」
三奈が何で驚いたのか分からない様子で聞き返すヤオモモ。
これには葉隠や瀬呂も驚いた様子を見せていた。
……うん。まぁ、その気持ちは分からないでもないけど。
「えっと……その、アクセルもそうだけど、ヤオモモもそんなに食べても大丈夫なの?」
話題を変えようと思ったのか、三奈がそう言う。
実際、かなりの大食いである俺と同じか、あるいはそれ以上にヤオモモの前には複数の料理が置いてある。
ただし、育ちの良さというのはここにも表れており、大量の料理を食べてはいるが、その食べ方は決して汚くはない。
仕草そのものはかなり洗練されている。
だからこそ、そんな感じで次々と料理を食べていくのは、見慣れないと少し……いや、大分驚くのだが。
「ええ。以前も言ったかもしれませんが。私の個性はカロリーを消費して……あら、どうしましたの?」
「ぐぎぎ……な、何でもない……あまりの衝撃で忘れていた記憶を思い出しただけだから」
ヤオモモが話の途中で不思議そうに三奈に視線を向けるが、その三奈は何というか、こう……とんでもない表情を浮かべていた。
それこそ瀬呂がそっと視線を逸らすくらいには凄い表情を。
……本人には、そんなつもりはないのかもしれないが。
とはいえ、女にしてみればヤオモモの幾ら食べても個性を使えば太らないというのは、心の底から羨ましい体質だろう。
その個性とかが影響してるのかどうかは分からないが、昨日のヒーロー基礎学でやった戦闘訓練で見たヤオモモの身体付きは、既に大人と遜色ないものだったし。
しかも、まだ成長の余地があるという……うん、峰田や上鳴がガン見していたのは、俺にとっても強く印象に残っている。
「そうですの?」
ヤオモモは三奈が一体何について我慢しているのか分からないらしく、不思議そうに……取りあえず納得したといった様子でそう答える。
ちなみに葉隠の方はと視線を向けるが、透明なので今のヤオモモと三奈の話を聞いて、何を思っているのかは分からない。
これで周囲に分かる程の何らかの雰囲気……それこそ三奈が発しているような雰囲気とか、そういうのを発していれば、葉隠がどう考えているのかは分かるんだが。
色々と思うところがあっても、三奈程には強い思いを抱いていないらしい。
この辺は、多分……本当に多分だが、葉隠の透明という個性が影響していると思う。
以前LINでちょっと話題に出たんだが、葉隠の透明というのは葉隠本人が見ようと思っても自分の身体は透明らしい。
物語のパターン的には、他からは透明に見えても自分で自分の姿は見えるとか、そういうことはあってもおかしくはないんだが。
ともあれ、そんな訳で葉隠はその透明の個性故に、自分の外見を見ることが出来ない。
とはいえ制服を着たりはしてるので、体重の増加とかそういうのに全く無関心って訳でもないのかもしれないが。
「うん、何でもないから気にしないで、それで、ヤオモモは……」
そうして三奈が何かを言いそうになった時……
ウウウウウー、といったサイレン? っぽいのが学食の中に響く。
いや、この様子だと恐らく響いたのは学食だけではなく、雄英全体にだろう。
一体何だ?
そう疑問に思ったところで、不意に学食にいた多くの生徒達……見た感じだと、2年3年の上級生達が動き出す。
『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんは速やかに校外に避難して下さい』
警報の後に聞こえてくるそんな放送。
というか、セキュリティ3って何だよ?
「え? ちょ……すいません、何があったんですか!? セキュリティ3って一体?」
いきなりの状態に、瀬呂が近くを通り掛かった生徒に尋ねる。
よく見れば、俺達以外にも戸惑っている1年は結構多く、近くを通り掛かった生徒に尋ねている光景がそれなりに見て取れる。
「校舎内に何者かが侵入してきたんだよ! こんなの初めてだ。お前達も早く避難しろ!」
その言葉に驚きながらも、席を立つ。
……幸いだったのは、既に俺の食事はほぼ食べ終わっていた事だろう。
ヤオモモは綺麗に食事をしていたのだが、それもあってまだ全部食べ終わってはいなかったが、それでも7割から8割は食べ終わっていた。
にしても、雄英に侵入者?
一体誰が?
普通に考えればヴィランの仕業だろうが、オールマイトを含めてプロヒーローが大量にいる雄英にそんな事をするとは……うん? ちょっと待った。
あれ? これ、もしかして今朝の俺の行動が影響していたりはしないよな?
マスゴミ連中に向けて放った殺気によって、何人もが突然気絶した。
結局それは誰の仕業ってのは分からず、恐らくヴィランによるものだろと認識されていた筈だ。
それによって、本物のヴィランがこれならいけるかも? と思って雄英に侵入してきたといった可能性はない……よな? うん、その可能性はないと思っておこう。
その件はともかく、このまま俺達がこうしているのもなんなので、この場から避難をする事にする。
だが……当然の話だが、雄英の学生の大半が入れる学食にいた生徒達が一斉に学食から出ようとすればどうなるか。
それは考えるまでもないだろう。
ぎゅうぎゅう詰めになり、人の波によって押し流されていきそうになり……
俺は咄嗟に近くにいたヤオモモと三奈を両手で抱き寄せる。
ヤオモモの大人顔負けの双丘と、ヤオモモには負けるが平均以上の大きさを持つ三奈の双丘が俺の身体に押し付けられ、ひしゃげるが……この状況では、とてもではないがその感触を楽しむ余裕はない。
葉隠は……と、少し離れた場所にいたのでこっちに引き寄せることが出来なかった葉隠の姿を探す。
ただでさえ透明という個性なので、こういう状態では葉隠はかなり危険だ。
そう思ったのだが、幸い瀬呂が自分の個性のテープを使って葉隠を引き寄せていた。
ナイス、瀬呂。
「その、アクセルさん。あまり強く抱きしめられると……今が大変な状況なのは分かってるんですけど」
「アクセル……ちょっとその……照れる……」
ヤオモモと三奈が揃ってそんな風に言ってくる。
純粋培養されて男にそこまで免疫のないヤオモモならともかく、男とも普通に接して仲良くしている三奈がこういう状況で照れるというのは、少し……いや、かなり予想外だった。
「言いたい事は分かるが、今のこの状況で手を離せる筈がないだろ……あ」
「きゃっ……」
俺の腕の中にいても、あまりの人の波に流されそうになったヤオモモを強く抱きしめたのだが、その手がちょっとアレな場所に当たってしまったらしく、ヤオモモの口から可愛いらしい悲鳴が上がり、それを見た三奈は俺にジト目を向けてくる。
「皆さん……大丈夫!」
そんな中、不意に飯田の声が学食に響くのだった。