「嘘……だろ……まだ30分ちょっとしか経ってないのに……」
モダン焼きを焼く店主の驚きの声が聞こえてくる。
無理もない。1時間で20枚モダン焼きの全部乗せを食べきれば、料金は無料になって賞金1万円も貰えるチャレンジメニューだ。
当然ながら、店側でもそう簡単に達成されないようにと設定したのだろう。
実際、最初に勢いよくモダン焼きを食べていた俺を見ていた他の客達……特に雄英の生徒だろう者達は、いつまでもその勢いが続くのかといったようなことを言ってるのが俺の耳に聞こえていた。
だが……俺の食べる勢いは一切弱まることはなく、出来上がったモダン焼きは次々と食べられていく。
最初は俺の様子を見て出来たてのモダン焼きを食べさせようとしていた店主だったが、俺の食べる速度が一切落ちるようなことがない為、途中からは何枚も同時に作っていた。
もっとも、鉄板は熱くて調理向きの部分と、保温用となっている場所があるので、出来上がったモダン焼きが冷めるといったことはなかったが。
ともあれそんな訳で、30分程が経過している中で俺は20枚目……最後の1枚を食べていた。
ちなみに幾ら美味いとはいえ、やはり20枚も食べていると味に飽きがくる。
あるいはそれも店側の狙いなのかもしれないが……一応、味変用に幾つかの調味料があったので、それを使って食べてきた。
お好み焼き用のソースと一口に言っても、辛口、普通、甘口の3つがあり、他にもポン酢とかがあってあっさりと食べ進める事が出来た。
そうして最後の1口を口に運び……
「チャレンジメニュー、達成です!」
店員がそう宣言する。
どことなくその口調に悔しそうな色があるのは、まさか俺が本当に全てを食べるとは思っていなかったのだろう。
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!
店員の宣言を聞いた店の客達が、俺に向かって拍手をしてくる。
その中でも、俺と一緒にこの店に来た面々が一生懸命に拍手をしていた。
……特に峰田と上鳴の拍手が大きい。
俺がこのチャレンジメニューに成功すれば奢りだと言ったから、奢りになってそれだけ嬉しかったのだろう。
よく見れば峰田と上鳴はオム焼きそばを追加してるし。
まぁ、今日はあくまでも自主訓練初日なので、サービスをする日だから、このくらいは別にいいんだけどな。
そんな風に思っていると、店主がやって来て写真を撮ってもいいかを聞いてくる。
どうやら、このチャレンジメニューを制覇した者は写真を撮って店に飾るのだろう。
言われて店の中を見回してみると、何枚か写真が貼ってあるのが見える。
どうやらこのチャレンジメニュー、成功したのは俺が初めてという訳ではなかったらしい。
俺は色々な意味で特殊なので例外としても、1時間で20枚もモダン焼きを……それも全部乗せを食べきる奴がいるというのは驚きだった。
ともあれ、写真を撮ると賞金を貰う。
……残念だったのが、この店のチャレンジメニューは1度クリアすると2回目は挑戦不可らしい。
まぁ、その気持ちは分からないでもなかったが。
1度成功したのなら、2度目も成功する可能性が高い。
1度目なら食べきれるかどうかドキドキして食べるペースが乱れたり、水を大量に飲んで腹一杯になったりしてもおかしくはないが、1度成功している以上、次からは余裕をもって食べ進めることが出来るだろうし。
そういう意味で、1人1度という店長の言葉には同意するしかない。
……まぁ、この手のチャレンジメニューはそれなりにあったりするので、この店では無理でも他の同じようなチャレンジメニューのある店を探してみるのも一興か。
別にお好み焼きじゃなくて、ラーメンとか炒飯とか、ラーメンとか、ハンバーガーとか。
そういうのにチャレンジメニューは多いようなイメージがあるな。
「おめでとうございます、アクセルさん」
席に戻ると、ヤオモモがそう祝福の言葉を口にする。
そんなヤオモモに続き、他の面々も同じように祝福の言葉を口にしてきた。
「ありがとな。取りあえず……どうやら全員食べ終わってるみたいだし、店を出るか。客もかなり多くなってきたみたいだし、食べ終わったのに席を占領していると店に悪いし」
ただでさえ、店は俺にモダン焼き20枚を無料で食べられ、その上で賞金として1万円を支払ったのだ。
その上で席を占領するというのは、さすがに悪い。
そんな訳で、俺は全員を促して店から出る。
会計は約束通り俺の賞金から出す。
会計をした店員は微妙な表情を浮かべたのは……うん。まぁ、分からないではない。
何しろ自分達の店から出した賞金が、そのまま食事代として戻ってきたのだから。
『ごちそうさん、アクセル』
店から出ると、奢った面々にそう言われる。
「気にするな。今日は初めての自主訓練だったからな。……ただ、明日からはまた自主訓練が忙しくなると思うから、そのつもりでいてくれ。……特に峰田」
「ちょっ、アクセル、前から思ってたけど、もしかしてオイラに恨みでもあるのか!?」
「寧ろ、ないと思っているのか?」
叫ぶ峰田に対し、冷静にそう返す。
俺が三奈やヤオモモ、葉隠、拳藤といった面々と話していると、血の涙を流して睨んでくるのだ。
後はまだ親しくないが、取蔭もいるが。
そんな峰田を、俺が恨みを持っていないと思う方が無理だろう。
「ぐっ……」
峰田も俺を睨んでいるという自覚があったのか、俺の言葉に反論出来ない。
「まぁ、恨みはともかく……俺から見れば、峰田の個性はかなりの強個性だ。だというのに、それを自由に使いこなせていないのが歯痒いしな」
「……オイラの個性が強個性?」
まさか、そのような事を言われるとは思っていなかったのか、峰田は驚く様子を見せる。
そんな様子を見つつも、俺は今までそれなりにそういう風に言っていたと思っていたけどな。
峰田にしてみれば、そんな俺の言葉を信用していなかったのだろう。
とはいえ、峰田の個性が強個性だというのはお世辞でも何でもなく、俺の本音だ。
「じゃ……じゃあ、爆豪の個性よりも……?」
「それは方向性が違うな」
爆豪の爆発という個性は極めて強力な個性ではあるが、攻撃力に長けた個性だ。
それに対して、峰田のモギモギは相手を捕らえるという方向性の個性だ。
言ってみれば、主役的な個性を持つのが爆豪で、補助やサポート的な個性を持つのが峰田といった感じか。
「むぅ……」
俺の説明に、峰田は不満そうな様子を見せる。
とはいえ、峰田も自分の個性が攻撃向きではないというのは知っている為か、そこまで露骨に嫌そうな様子を見せたりはしない。
「ちょっと、アクセル君。私も自主訓練に参加してんだから、色々とアドバイスしてよね」
俺と峰田の会話を聞いていた葉隠が、そう口を挟んでくる。
「分かってる。葉隠の個性も、色々と興味深いしな」
「え? そうなの? 透明になるだけだよ?」
葉隠も、まさかそんな風に言われるとは思わなかったらしく、驚きの声を上げる。
透明……透明か。
実際のところ、透明というだけでもかなりのアドバンテージがあるのは間違いない。
相手に見えないのだから。
葉隠は体術を鍛え、格闘技を習えば、それだけで十分にプロヒーローになれる。
それ以外にも、葉隠の透明という個性は光を曲げて自分を見えなくする、一種の光学迷彩だ。
つまり、今のまま個性を伸ばせば将来的には太陽光をレーザーとして攻撃手段に出来る可能性もあった。
もっとも、それはあくまでも今のところの予想だが。
理論上出来るだろうと思えても、実は出来ないというのも珍しくはないし。
その分かりやすい例が、龍子……リューキュウだろう。
龍子の個性はドラゴンに変身出来るというもので、それによって空を飛ぶことも出来る。
だが、ドラゴンと言われて空を飛ぶ以外に思い浮かぶ、ブレスを使う事は出来ない。
龍子も学生の頃から色々と試していたし、プロヒーローになってからも試してはいるが、未だにブレスを使う事が出来ないでいる。
そんな風に、理論上……理論上? ともあれドラゴンならブレスを使えてもおかしくないのに、それが出来ないという例もある訳だ。
だからこそ、葉隠の一件についても俺が思うように太陽光を集束してレーザーとして放つといった事が出来るとは思っているが、実際に試してみないと出来るかどうか分からないのも事実。
「ねぇ、アクセル。私はどう?」
「三奈は……それこそ、酸を使えるのなら、色々と攻撃手段はあると思うが」
わざわざ俺に聞かなくても、それこそ三奈なら色々な手段がある筈だった。
酸を自由に使えるというのは、例えば酸による壁を作ったり……いや、それとも酸による盾とか鎧とかそういうのも出来るか?
ぱっと思いつくだけでそんな感じだし、もっとしっかりと考えれば他にも色々と攻撃手段はあるだろう。
応用力という意味では、酸はかなり高いと思う。
「えへへ。私の個性をしっかりと理解してるんだね」
「まぁ、何だかんだと付き合いは長いしな。……長いか?」
自分で言いながらも、自分でそこに突っ込む。
実際、俺と三奈の付き合いは雄英の受験からだ。
しかもその日に打ち上げをしてLINでやり取りはしていたものの、直接再会したのは入学式の日だった。……入学式には参加しないで個性把握テストをしていたが。
そして入学式からまだそんなに時間が経っていないのを思えば……うん。何だかんだと、俺と三奈が初めて会ってからそんなに時間は経っていないんだよな。
「まぁ、長くはないけど、深い……深くもないけど、同じヒーロー科って事で、私はアクセルと知り合えて良かったと思ってるよ」
満面の笑みを浮かべてそう言う三奈。
そう言われると、俺としても嬉しい……あ、また峰田が俺を睨んでる。
そこまで睨むのなら、もっと欲望を隠すくらいはすればいいのにな。
そうすれば、峰田もそれなりにモテると思うんだが。
……ただ、峰田のモテるというのは男女間のモテるのではなく、愛玩動物や愛玩人形的な意味でのモテるになるだろうけど。
勿論、世の中には色々な趣味の人がいるので、中には峰田がストライクゾーンど真ん中という人もいない訳ではないと思う。
まぁ、峰田にはそういう相手と遭遇出来る事を祈るしかないな。
「三奈にそう言って貰えて嬉しいよ」
「……ほ、ほら。とにかく、これからもよろしくってことで」
照れたのを誤魔化すように三奈が言う。
そうした三奈の態度に笑みを浮かべ……
「そうだな。そろそろ帰った方がいい時間だろうし」
なんだかんだで、既に午後7時くらいだ。
俺のチャレンジメニューで30分ちょっと掛かったし、それを考えればそうおかしな事ではないんだろうけど。
それに大半の生徒は実家ではなく、マンションやアパートで暮らしているので、門限とかそういうのはそこまで気にしなくてもいいと思うが……それでも、雄英の生徒が遅くまで出歩いていて補導されるとかになったら、ちょっと洒落にならないしな。
そう言うと、何人かが微妙な表情を浮かべる。
……もしかして、以前補導された経験でもあったりするのかもしれないな。
特に峰田辺りとか怪しい。
ナンパする為に夜の街に出るといったようなことは普通にやりかねない。
もっとも、峰田の場合はその外見から夜の街にいるような女がナンパに引っ掛かるとは考えにくい。
寧ろ酔っ払っている者が多いので、峰田にしてみればかなり厳しい言葉を投げ掛けられてもおかしくはなかった。
「言っておくけど、家に帰らないでこのまま夜の街で遊ぶとかしているのを雄英の教師に見つかった場合、間違いなく相澤に連絡がいく。……そうなると、相澤がどういう風に言ってくるのかは想像出来るよな?」
そう言うと、峰田や上鳴の顔が一瞬にして青くなる。
多分、この2人は俺が心配したようにナンパでもしようと考えていたんだろうな。
しかし、夜の街で遊んでいるのが相澤に知られれば……それこそ除籍とされても文句は言えない。
教師の自由裁量が大きいと、こういう時に微妙に困るよな。
「も、も、も、勿論、オイラはそんな事をしようとは思っていないからな」
どもりながら言う辺り、峰田が何を考えていたのかは容易に想像出来てしまうな。
峰田にしろ上鳴にしろ、モギモギや電気という強個性の持ち主なんだから、馬鹿な事はしないで欲しい。
……いや、これは俺が言うのがそもそも間違ってる感じか?
実際、俺が今までやってきた諸々を考えれば、それは寧ろヒーローじゃなくてヴィランだと言われても反論出来ないしな。
そもそもの話、俺達の国であるシャドウミラーというのは、世界征服を企んだ組織が発展して出来た国だ。
いや、世界征服じゃなくて絶えず争いのある世界を作ろうとした組織か。
……どこからどう見てもヴィランだよな。
世界征服の場合は、征服してしまえばある程度は落ち着くものの、俺達の場合は常に争いのある世界だし。
うん、取りあえずこの件については考えないようにしよう。
そう思いながら、俺達は駅でそれぞれ別れるのだった。