午後、ヒーロー基礎学の授業だというのに、何故か教室にいるのはオールマイトではなく、相澤だった。
オールマイトに何かあったのか?
そう疑問に思ったが、相澤の様子を見ると特に何かがあったという訳ではないようだ。
もし本当に何かがあったのなら、それこそ相澤から説明があるだろう。
それがない以上、ちょっとした用事で出掛けているとか、そういう感じか。
雄英で教師をやってはいるが、オールマイトは日本のNo.1ヒーローなのは間違いない。
その関係で教師以外にも色々と仕事があったとしても、おかしくはなかった。
……寧ろ、No.1ヒーローが教師をやっているというのが、妙な話なんだよな。
多分だが、そうしなければならない理由があるんだろうけど。
具体的には、俺がこの世界の主人公である可能性が高いと思っている、緑谷との関係とか。
そんな風に考えている間にも相澤が今日の授業で何をやるのかを話していた。
どうやら前回は戦闘訓練だったのに対し、今日はレスキュー訓練らしい。
レスキュー訓練か。
ヒーローと言われて真っ先に思い浮かぶのは、ヴィランとの戦闘だ。
だが、それ以外にも災害とかがあった時にもヒーローは活躍する。
実際、龍子や優……リューキュウやマウントレディは巨大化する事によって土砂崩れとか地震で壊れた建物からとか、人を救出するのに向いているし。
もっとも、龍子はともかく優は目立つのが好きなので、ヴィラン退治の方を好むのだが。
後は……相澤とオールマイト、もう1人の3人で見るという事だが、一体誰なんだろうな。
そんな風に考えている間に話は終わり、早速訓練を行う場所まで移動する……前に、ヒーローコスチュームに着替える必要があった。
「それにしても……何度見てもそうだけど、アクセルのヒーローコスチュームは寧ろヴィランコスチュームって言った方が正しいような気がするな」
切島が俺のコスチュームを見て、そんな風に言ってくる。
他の者達も、そんな切島の意見に頷いていた。
実際、今のこの姿を見れば、ヴィランコスチュームと言われても納得してしまうけどな。
「そういうコンセプトで考えてたヒーローコスチュームだしな。ヴィランに対する抑止力として……ヴィランに対するヴィラン的な、そんな感じで」
「ダークヒーローって奴か? 漢だな」
……漢、か?
切島が何故か感心したようにそう言ってくるが、漢かと言われると、正直どうなんだろうな。
俺としては、別にそういう事は考えていないんだが。
そもそも今の説明だって、半ば言い訳みたいな感じだし。
色々な世界での戦いを経験して来た身としては、どうしても自分がヒーローだと、正義の味方だと示すのには少し抵抗がある。
なら、切島の言うようなダークヒーロー的な方がまだマシだろうと、今のこうした大魔王スタイルとでも呼ぶべきヒーローコスチュームにした訳だ。
とはいえ、だからといってわざわざ切島の意見を否定して空気を悪くする事もないだろうと考え、特にその辺に突っ込むようなことはしないまま、ヒーローコスチュームに着替えると集合場所に向かう。
「バスの席順でスムーズにいくよう、出席番号順に2列で並ぼう!」
バスの前に到着すると、先に来ていた飯田が張り切っていた。
「……いいのか?」
そんな飯田の様子を眺めつつ、少し離れた場所で待機していたヤオモモに声を掛ける。
「ええ、こういうのは飯田さんの方が向いているでしょうから」
ヤオモモは飯田の様子を特に気にせず、そう言ってくる。
なるほど、このくらいは飯田に任せるのが学級委員長としての器量の見せどころって感じか? ……この程度のことで、そこまで思うのはどうかと思わないでもなかったが。
ともあれ、ヤオモモがそれで問題ないと判断したのなら、それでいいけど。
「それにしても……結局まだヒーローコスチュームは変わってないんだな」
昨日、お好み焼き屋で三奈と葉隠がヒーローコスチュームを直すというか、作る? 改良する? とにかく弄る為にサポート科に行くって話をしていたが、ヤオモモのヒーローコスチュームは以前と同じままだ。
……こう言えば間違いなく怒るだろうから言わないが、雄英のヒーロー科ではなくて風俗街とかにいる方が似合っているだろう、そんなコスチュームのまま。
「昼休みは学食で、サポート科に行く余裕がありませんでしたから。今日の放課後にでも芦戸さんや葉隠さん達と行きたいと思っています」
「そうか。なら、ヤオモモがどういうヒーローコスチュームになるのかは、楽しみにしてるよ」
いや、これは冗談でも何でもなく、本当に楽しみだ。
今でさえヤオモモのヒーローコスチュームは魅了系とかそういう感じの奴なのに、これがどう変化するのか。
ヤオモモは純粋培養というか、羞恥心の類があまり育っていない為か、こういう露出が派手な服装であっても普通に着るんだよな。
それこそ裸を見られてもそこまで恥ずかしがらず、一般常識的に駄目な事だからと叱られるとか……そういう風になるくらいな気がする。
「ええ、楽しみにしていて下さい。ちなみに、アクセルさんはヒーローコスチュームはそのままなのですか?」
「そのつもりだ。特に何かこれといって不便なところがある訳でもないし」
そもそも、ヒーローコスチュームを着るのはまだこれが2回目なのだから。
……まぁ、1回目が戦闘訓練だったので、幾ら自分が理想としたヒーローコスチュームを注文したとしても、実際に使ってみておかしいと思うような場所があったり、もしくはもっといいアイディアが浮かんだりとか、そういうのはあるかもしれないけど。
「もう少しこう……ヒーローっぽいコスチュームにした方がいいのでは?」
「俺の役割というか、目的を考えるとこういうダークヒーローっぽい方がいいんだよ」
俺の言葉に、微妙に納得出来ない様子を見せるヤオモモだったが、そのヤオモモが改めて何かを言うよりも前に、全員が揃ってバスに乗り込む事になったのだが……
「あー、こういうタイプだったか」
「くそうっ!」
バスの中を見て呟く俺に、飯田が無念そうに叫ぶ。
バスは一般的な……飯田が考えていたような縦の左右に2列ずつあるようなタイプの座席ではなく、横向きに、対面に座るタイプの座席だった。
もっとも、前方には縦になっている場所もあるが。
そんな訳で、俺達は適当に座席に座り、バスが出発する。
「私、思った事は何でも言っちゃうの。……緑谷ちゃん」
「え? あ、は、はい!? 蛙吹さん」
「梅雨ちゃんと呼んで」
梅雨ちゃん呼びは、デフォなのか。
少し離れた場所に座っている、梅雨ちゃんと緑谷の会話が聞こえてくる。
「貴方の個性、オールマイトに似ている」
「っ!?」
梅雨ちゃんの言葉に、緑谷の呼吸が一瞬止まる。
……おい、隠すの下手か?
今の緑谷の様子を見れば、自分とオールマイトの間に何かがあると示しているも同然だった。
なるほど、こうなるとやっぱりこの世界の原作の主人公は緑谷で決まりか。
前々から……それこそ受験の実技試験で俺以外に0Pを倒した唯一の存在という事で緑谷がこの世界の原作主人公の可能性は高いとは思っていた。
思っていたのだが、それでも何だかこう……そう、華とでも呼ぶべきものが緑谷にはない。
地味な様子を見ると、とてもではないが主人公には思えなかった。
もっとも、そういう地味な性格をしている者が主人公という事もそれなりにあるので、怪しいとは思いつつも、決定的な確信がなかったのは事実。
しかし、こうして目の前でオールマイトとの関係について突かれて露骨に動揺するのを見れば……うん。
もう、これは決まりだと思っていいだろう。
そんな風に俺が考えている間も、緑谷は自分の動揺を押し殺そうして……それが逆に緑谷の言葉遣いが片言に近いものになって怪しいように思えた。
だというのに、何故かそんな緑谷の様子を怪しんでいる者は、俺以外にはいない。
えっと……あれぇ? 幾ら何でもそれはちょっとおかしくないか?
こうして見るからに怪しい緑谷を見て、何で皆普通なんだ?
ん? あれ? 爆豪が周囲に気が付かれないようにしながら緑谷を見ているな。
もしかしたら、爆豪は緑谷の秘密を何か知っていたりするのか?
「待てよ、梅雨ちゃん。オールマイトは緑谷みてえに怪我はしねえぞ。それに、緑谷の個性は身体が耐えられるようになってようやく使えるようになったんだろ? そうなると、オールマイトの個性とは、似て非なるって奴だ。……寧ろ、俺としてはアクセルの方がオールマイトの個性に似てると思うけど」
おっと、俺に話題が向けられたな。
……いや、でもこれは仕方がないのか?
緑谷の個性は強力な増強系だ。
だが、緑谷の場合はその増強系の個性を使うと、身体がそれに耐えられずに負傷する。
身体が耐えられるようになったので個性が発動した割には、怪我をするのはどうなんだろうな。
この場合の耐えられるというのは、怪我をする程度なのかもしれないな。
もしくは、単純に緑谷がまだ個性を使いこなせていないだけかもしれないが。
「けど、増強型のシンプルな個性はいいな。派手で出来る事が多いし。俺の硬化は対人だと強えけど、いかんせん地味なんだよな」
「ぼ、僕は凄く格好いいと思うよ。プロでも十分通用する個性だよ」
緑谷が話題を移そうとするようにそう言う。
とはいえ、実際に緑谷が言うように切島の個性はかなりの強個性なのは間違いない。
切島本人は緑谷……というか、増強系を羨ましく思っているようだったが、切島は自分の硬化という個性について低く見積もっている感じだよな。
これは、隣の芝はよく見えるって奴なのかもしれないな。
「うーん、プロかぁ。プロもやっぱり人気商売みたいなところがあるしな。そうなると、やっぱり俺の硬化は地味で人気がちょっと」
ああ、これについては分からないでもない。
切島の硬化は強個性と言ってもいいのだが、派手さという点ではどうしても劣る。
そういう意味では、龍子や優の個性はかなり有利なんだよな。
ドラゴンに変身する個性に、巨大化する個性。
どちらも純粋に派手な個性で、しかもその個性を使う龍子と優は顔立ちが整っている美人。
これで人気が出ない訳がない。
実際、龍子は次のヒーロービルボードチャートでトップ10に入るのは確実だと言われているし、優もトップ10には無理でも上位に入るのはほぼ確実と言われている。
……そう考えると、もしかしたら優の街中での行動をメインにするというのは、あながち間違ってはいないんだよな。
代わりに巨大化の影響で周囲に被害を与えて、それで金銭的なダメージは多いらしいが。
ただし、その金銭的なダメージも俺の後見人という立場になっているので、公安から相応の報酬が支払われている。
しかも少し聞いた話によると、公安からの報酬は税務署とかに申告しなくてもいいらしい。
まぁ、異世界から来た俺の後見人になっている報酬だとか、馬鹿正直に申告は出来ないよな。
もっとも、それならそれで名目は別のものにするとかいった手段があるんだが……この辺は、公安が龍子や優に対する配慮といったところだろう。
正直なところ、それは分からないでもない。
何しろ異世界から来た俺という存在について知っている者は少ない。
その中で俺と友好的な関係を築いている龍子と優は、公安としても是非とも自分達とも友好的な関係としたいと思うのは当然だろう。
公安は実質的に日本のヒーローの頂点だ。
いや、頂点という意味ではNo.1ヒーローのオールマイトだが、そのオールマイトに対しても命令……もしくは要請が出来たりする、ヒーローを纏めている組織。
そんな組織だけに、本来なら龍子や優に報酬を支払ったりせずとも、要請という名の命令をすればいい。
……だが、人というのは感情の生き物だ。
ルールでそのように出来るからといって、命令だけをする上。
報酬を支払い、龍子や優に気を遣ってると態度で示す上。
同じ仕事をするにも、どちらの方が現場に立つ者としてやりやすいか、あるいは士気が上がるかは、考えるまでもないだろう。
「派手で強いっつったら、やっぱりアクセルだよな。後は、轟や爆豪もだけど……アクセルの強さを見ると……なぁ?」
「ああっ?!」
そんな切島の声が聞こえたのか、前方に座っている爆豪が不機嫌そうに俺を睨んでくる。
いや、何でそこで睨むのが俺なんだよ?
普通なら、実際に口にした切島とかじゃないのか?
「爆豪ちゃんはキレてばっかだから、人気でなさそう」
「んだと、コラ! 出すわ!」
「ほら」
梅雨ちゃんの言葉に、爆豪が叫び……それに対して梅雨ちゃんが指摘する。
それを見れば、確かにと納得するしかないのは間違いなかった。