バスの中での話は、まだ続いていた。
人気を出すと叫ぶ爆豪に、キレやすいと指摘する梅雨ちゃん。
……まぁ、実際に爆豪の態度とかはヒーローじゃなくてヴィランに見えないでもない。
寧ろ爆豪の性格を考えれば、ヴィラン向きなのは間違いないだろう。
本人にその気があるのかどうかは、また別の話として。
「この付き合いの浅さで、既にクソを下水で煮込んだような性格って認識されてるのはすげえよ」
「てめえのボキャブラリーはなんだコラ! 殺すぞ!」
爆豪と梅雨ちゃんのやり取りを見ていた上鳴の突っ込みに、爆豪が再度キレる。
「かっちゃんが弄られてる!? 信じられない……これが雄英……」
そして緑谷は緑谷で、爆豪と上鳴の様子にそんな呟きを漏らしていた。
「まぁ、爆豪はその態度を直した方がいいとは思うぞ」
「お前が言うんじゃねえっ! どこからどう見てもヴィランっぽいコスチューム着やがって、このヒモ野郎が!」
俺を睨み付け、爆豪が叫ぶ。
俺に対する対抗心というか……こういうのもヘイトと呼ぶのか?
とにかく爆豪の場合、それが強いんだよな。
もっとも、その気持ちも分からないではない。
爆豪が狙っていたのだろう首席は俺に奪われ、個性把握テストでも負け、ヒーロー基礎学でやった戦闘訓練でも、轟と一緒に俺に挑んでも俺に傷一つ付けることが出来ずに負けたのだ。
爆豪にしてみれば、俺の存在は目の上のたんこぶだろう。
だが……そこまでやられてもこうして対抗心を剥き出しにするというのは、壁の役目を任された俺にとっては悪くない。
けど、そうだな。ならもう少し爆豪を煽っておくか。
「俺がヒモ野郎なら、爆豪は負け犬野郎か? 爆負け……いや、負け豪とか?」
「ぶっ殺す!」
俺の煽りに、爆豪が我慢出来なくなったらしく、こちらに向かおうとするが……次の瞬間相澤の捕縛布が爆豪の身体を搦め捕る。
「その辺にしておけ、爆豪。お前は毎回俺の手を煩わせるな。……それとアクセルは爆豪を煽るな。今はお前がクラスNo.1かもしれないが、お前達はまだ入学したばかりなんだ。今の時点でクラスのNo.1だからといって、天狗になっていればすぐに他の連中に追い抜かれるぞ。焦れよ」
その相澤の言葉に、バスの中が鎮まる。
「低俗な行動をする人もいらっしゃいます事」
「でも、私こういうの好きだ」
こちらも前方の縦に2列になってるタイプの座席に座っているヤオモモと麗日の会話が聞こえ、それでバスの中にあった緊張した雰囲気が消える。
もしかしたら、ヤオモモは委員長として緊張させないように今のように言ったのかもしれないな。
「そろそろ着くから、準備しておけよ」
そうして雰囲気が和らいだところで、再び相澤の言葉がバスの中に響くのだった。
目の前に広がるのは、とてもではないが訓練用の場所とは思えない光景だった。
「すっげー! USJかよ!?」
そう叫ぶ切島。
というか、このヒロアカ世界にも普通にUSJってあるんだな。
個性の一件でかなり混乱した時代が続いたのだと思えば、このヒロアカ世界のUSJって一体いつ出来たんだ?
あるいは個性の混乱が終わった後に出来たのか?
そうなると、他の世界にあるUSJと違って個性関係の技術とかがふんだんに使われているUSJなのかもしれないな。
そんな風に考えながらこれから訓練が行われる場所を見ていると……
「はい、注目して下さい」
そう言いながら俺達の前に姿を現したのは……えっと、これは何だ?
宇宙服っぽいのを着ている人物の姿がそこにはあった。
それも宇宙服は宇宙服でも、UC世界を始めとしたガンダム系の世界で使われているようなパイロットスーツではなく、人類が宇宙に進出し始めた時に着ていたような、そんなゴツいというか、動きにくそうな宇宙服だ。
側にいる相澤が何も言わないんだから、多分あの宇宙服も教師なんだよな。
オールマイトと相澤以外にもう1人教師がいるって言っていたし。
だとすれば、この宇宙服がその教師なのだろう。
「嘘の災害や事故ルーム……USJです」
USJだった!?
マスクを被っているのでその顔は分からないが、宇宙服の教師の言葉は自慢げなので、そのマスクの下は恐らくドヤ顔なのだろうという事は容易に想像出来た。
というか、自分でUSJって言うのかよ。
言葉に出して突っ込む者はいなかったが、恐らくA組の生徒全員の気持ちが1つになったような気がする。
それこそ爆豪や轟といった、孤高を保つ者達までもが一緒になっていたと思う。
「スペースヒーロー13号。災害救助でめざましい活躍をしている、紳士的なヒーロー」
あ、USJの突っ込みをしていなかったっぽい奴がいたな。
緑谷のその言葉で、宇宙服の教師が13号という名前のプロヒーローである事を知る。
知るのだが……
13号ってヒーロー名は一体どこから来たんだ?
そう思わずにはいられない。
目の前の教師が13号なら、1号から12号までいるのか?
また、14号以降もいるのか?
そんな風に疑問に感じてしまうのは、俺が異世界から来た存在だからだろうか。
このヒロアカ世界の出身者なら、もしかしたら13号という名前に違和感がないのかもしれないな。
ちなみに緑谷の隣にいた麗日は、13号のファンだったらしくキャーキャーと歓声を上げている。
意外とミーハーなんだな。
「13号、オールマイトは? ここで待ち合わせている筈だが」
「先輩、それが……通勤時に制限ギリギリまで活動してしまったみたいで、今は仮眠室で休んでいます。授業が終わるまでには合流が出来るということですが」
「不合理の極みだな、おい」
13号と相澤が小声で言葉を交わしている。
他の面々には聞こえていないが、混沌精霊の俺の耳にはしっかりと聞こえていた。
あるいは障子も五感は鋭そうなので、この2人の話が聞こえているかもしれないが。
ともあれ、本来ならヒーロー基礎学の担当はオールマイトなのに、そのオールマイトがいなくて相澤と13号だけがいるというのも、ちょっと疑問だな。
それにしても、オールマイトの制限って何だ? 何かそういうのがあるのか?
いやまぁ、オールマイトも既に50歳? 60歳? そのくらいの年齢なんだし、それでも第一線で活躍し、No.1ヒーローとして活動している以上、何らかの制限とかはあってもおかしくないか。
ともあれ、オールマイトがいなくても授業をするのには問題ないと相澤から判断され、授業が始められる……
「始める前に、お小言を1つ、2つ……3つ」
どんどん増えていくな。
他の面々を見れば、俺と同じように思っている者も多いらしい。
もっともこうして小言を言うのは必要だと思っているからこそなのだろうが。
ともあれ、13号は自分の個性について説明し、人助けに使っているものの、その個性……ブラックホールは使い方によっては簡単に人を殺せるといったような話をする。
にしても……ブラックホールか。
ブラックホールというのは、俺達……より正確にはシャドウミラーにとって縁の深い技術というか、天体現象というか、そんな感じのものだ。
何しろシャドウミラーで使われている人型機動兵器の大半には、ブラックホールエンジンが使われているのだから。
寧ろ標準装備と言ってもいいかもしれないな。
それだけに、個性でブラックホールが使えるのなら、13号は非常に興味深い。
もっとも、個性の名称は似ているからそういう名称をつけるとか普通にあるし、それを思えば13号のブラックホールという個性も、ブラックホールに似ているけど、実際にはブラックホールそのものではなく、ブラックホールっぽい何かなのかもしれないな。
ともあれ、ブラックホールとして興味深いのは事実だ。
自慢ではないが、シャドウミラーはブラックホールエンジンを通してブラックホール関係の技術はかなり進んでいる。
それこそ場合によっては人工的にビッグバンでも起こせるのではないかと、心配するくらいには。
ともあれそのような理由から、もし技術班が13号の事を知れば国や公安を通して協力を要請するくらいの事は普通にしそうだ。
ちなみに、それでも実は大分穏便な方法だったりする。
それは13号が雄英の教師という立場を持っているからこそだが。
これでもし13号がプロヒーローではなく、ヴィランであったら問答無用で確保して実験に協力させてもおかしくはないし。
勿論、ブラックホールという個性を使うヴィランだと考えれば、最悪の場合を考える必要もある。
だが、技術班もその辺りは理解しているので、個性を使わせないようにする何らかの方法を編み出すくらいの事は普通にしそうだった。
そんな風に思っている間にも13号の演説というか、小言というか、そういうのは続いており、それを聞いていたA組の面々の多くは感銘を受けたかのような表情を浮かべている。
「以上! ご静聴、ありがとうございました」
ペコリ、と。
話が終わったところで13号が一礼する。
その身体を動かすスムーズさは、とてもではないがゴツい宇宙服を着ているようには思えない。
もっとも、プロヒーローとして活動する13号が着ている服、つまりヒーローコスチュームだ。
そうである以上、見た目がゴツいからといって、動きを阻害する事はないのだろう。
勿論、薄いヒーローコスチュームと比べると、どうしても動きは鈍くなったりするのだろうが。
「すてきー!」
「ブラボー! ブラボー!」
「最高でした!」
生徒達からのそんな歓声に、13号も恐らく悪くない気分になったらしいのが、雰囲気で分かった。
……葉隠もそうだが、顔が見えないとどういう風に感じているのかとか、ちょっと分かりにくいよな。
そんな風に思っていると、ふと何かを感じた。
これは念動力……じゃない。念動力は、まだ何も俺に教えてはいない。
そもそも念動力で感じるのは、基本的に俺に対する危険……それも命的な意味での危険の時が多い。
今感じたのは、それとはまた違う……そう、言ってみれば、これまで膨大な戦場を駆け抜けてきた事からの勘。
「それじゃあ、まずは……」
そこまで言い掛けた相澤が、俺から遅れる事、数秒。
何らかの違和感に気が付く。
それは、少し離れた場所にある噴水。
その噴水の側の空間に、黒い渦とでも呼ぶべき何かが広がり……次の瞬間には、そこから何者かが姿を現す。
顔に手を付けた……妙な格好の男。
その男を始めとして、次々と姿を現すのは明らかにヴィランと思しき相手だった。
「一塊になって動くな!」
「え?」
咄嗟に叫ぶ相澤。
飯田がそれに一体何を言われているのか分からないといったような声を上げ……その時、既に俺は瞬動を使って顔面に手を付けている男の前にいた。
「は?」
ヴィランと思しき者達の先頭に立って姿を現した手の男。
その男は一瞬にして目の前に現れた俺にそんな声を発し……
ズン、と。
その胴体に俺の拳がめり込む。
当然ながら、かなり……手加減に手加減を重ねた、そんな一撃だ。
何しろプロヒーローというのは基本的に相手を鎮圧するのは問題なくても、殺すのは禁止らしいしな。
ましてや、相澤の性格を思えば突発的な事態に対応出来るように、ヴィランの振りをしたプロヒーローを用意していても驚かない。
合理的虚偽とやらを使う相澤の事なので、何を言っても素直に信じる訳にはいかないしな。
なので、もしそのような場合の事も考えて、今の一撃は骨を折ったり、内臓を傷つけたりしないような、そんな一撃を放つ。
「ぐごっ……」
手の男はいきなりの衝撃に何が起きたのか分からないまま、苦悶の声を上げる。
「てめえっ!」
そんな手の男の様子を見た他のヴィランが、こちらに向かって個性で生み出されたのだろう鋭い……それこそ刃のようなといった表現が相応しい爪を、半ば反射的に振り下ろす。
それを見た瞬間、俺はこの連中がヴィランの振りをした者達……合理的虚偽によって咄嗟の俺達の反応を見ようとか、そういうのを考えた者達ではなく、本物のヴィランであることを認識する。
何故なら、その刃の如き爪は間違いなく本物で、その男は俺の顔面を斬り裂くつもりで今の一撃を放ってきたのが明らかだったからだ。
勿論、あくまでもそういう風に見えるだけで、実は斬れないただの爪……といった可能性もないではなかったが、見た感じでは間違いなくそういうのではない。
つまり、この連中はヴィランであり……
「だからどうしたって事だけどな」
爪の一撃を回避しつつ、先程の手の男に放ったのと同じくらいに手加減をした一撃を胴体に向かって放つ。
「げぼっ!」
するとその男は、一瞬にして白目を剥いて気絶する。
この一撃で丁度いいくらいか?
そう思ったが、手の男は蹲ってはいるものの、まだ意識は普通にある。
あの顔面の手といい、身体中についている手といい……もしかして、あの手がこの男の個性なのかもしれないな。
そんな風に思いつつ、俺は近くにいる別のヴィランに殴り掛かるのだった。