噴水のある方に向かって跳びだした相澤。
そこから行われたのは、まさに無双だった。
個性を使ってヴィラン達……何らかの遠距離攻撃を行う個性を持つヴィラン達の個性を使えなくし、相澤の使う捕縛布を使ってヴィランの身体を搦め捕り、それを振るって半ば武器のように扱う。
以前緑谷が言っていたが、相澤は……イレイザーヘッドは、TVや雑誌といったものには出ない、アングラヒーローと呼ばれる類のヒーローだった。
だからこそ、ヴィランの中にはそんな相澤の事を知らない者が動揺した様子で叫んではいたが、中にはその辺りの事情を知っている者もいるので、相澤がイレイザーヘッドだと、叫んでいる者もいたが。
まぁ、相澤の個性はヴィランにとっては致命的だ。
その辺りを知っていれば、情報をしっかりと入手している者がいないとも限らない。
……ちなみに、相澤の個性で消せるのは異形系以外の個性らしいが。
そしてヴィランの中には異形系もおり、そのヴィランは自分が相澤を倒そうと行動に移すも……
次の瞬間には異形系のヴィランの顔面を殴り、捕縛布を使って投げ飛ばす。
なるほど、さすが雄英で教師をやるだけの事はあるな。
「すごい! 多対一こそ先生の得意分野だったんだ!」
「緑谷さん、今は喜ぶよりも、避難しますわよ!」
はしゃぐ緑谷に対し、ヤオモモが叫ぶ。
とはいえ、ああして相澤がヴィランを圧倒している以上、そこまで急ぐ必要もないとは思うけどな。
「させませんよ」
だが、ヤオモモの言葉に緑谷が何かを言うよりも前に、黒い霧のヴィランが俺達の前に姿を現す。
「初めまして。我々はヴィラン連合。僭越ながら……今回、ヒーローの巣窟である雄英高校にこうして入らせて頂いたのは……平和の象徴たる、オールマイトに息絶えて貰おうと思っての事でして」
は? と。
その黒い霧のヴィラン……その言葉を信じるのなら、ヴィラン連合とかいう組織に所属する人物の言葉に、話を聞いていた者達が一瞬何を言ってるのか理解出来ないと言った様子を見せる。
無理もない。
ここにいるのは、俺と13号以外は全員が高1だ。
13号の年齢はヒーローコスチュームが宇宙服のような感じなので分からないが、相澤に先輩と声を掛けているのを聞いたので、恐らくは相澤よりも年下だろう。
そうなると、13号にとってもオールマイトはNo.1ヒーローなのは間違いなかった。
つまり、不動のNo.1と言われるオールマイトを殺すと、そう黒い霧のヴィランは言ったのだ。
一体何を言っている? といったように思っても、それはおかしくないと思う。
「本来なら、ここにオールマイトがいる筈なのですが、何か変更でもあったのでしょうか? まぁ、それでも私の役目は……」
そう言った瞬間、爆豪と切島が動いた。
止めるか?
一瞬そう思ったが、既に攻撃のモーションに入っている以上、フォローに回った方がいい。
そう判断すると同時に、俺も行動に移る。
爆豪と切島を追うように移動し……爆豪と切島の一撃は黒い霧のヴィランに命中したかと思った瞬間、その黒い霧は一旦は周囲に散らばったものの、再び集まり出す。
なるほど、物理攻撃が効かないのか、それとも攻撃無効化のところがあるのか。
……ただ、ぶっちゃけ、俺にとって関係ない。
「直撃」
精神コマンドの直撃を使い、一気に黒い霧のヴィランとの間合いを詰める。
それを見た黒い霧のヴィランは、俺に向けて掌を向けてくる。
何をしようとしているのかは分からないが、わざわざ相手の思惑に乗ってやる必要もないだろうと考え、地面を蹴る方向に少し変化を加える。
すると俺の身体は黒い霧のヴィランが向けている手の方向から逸れ……そして足でまた地面を蹴って、黒い霧のヴィランに向き直る。
「くっ!」
黒い霧のヴィランにしてみれば、そんな俺の行動は予想外だったのだろう。
慌てた様子で再度こちらに掌を向けようとしてくるが……遅い。
既に俺の姿は黒い霧のヴィランを間合いに捉える位置にあった。
俺が拳を握ったのを見た黒い霧のヴィランは、少しだけ安堵した様子を見せる。
爆豪と切島の攻撃を無効化したように、俺の攻撃も無効化しようとしたのだろうが……
ボグッ、と。
人の身体を殴ったとは思えない、そんな音と共に黒い霧のヴィランが吹き飛ぶ。
「げ……が……」
地面に倒れるようなことはなく無事に着地をした様子だったが、それでも息が出来ないらしく苦しんでいる。
ただ、顔らしい顔は黒い霧の中に目っぽいのや口っぽいのがあるだけだったが、その目は俺を信じられないといった様子で見ていた。
黒い霧のヴィランにしてみれば、爆豪や切島に攻撃された時と同じく俺の攻撃を無効化しようとしのだろう。
だが……それを、精神コマンドの直撃が阻止した。
向こうにしてみれば、一体何が起きたのか分からなかったらしい。
無理もないか。
相澤に個性を使われた訳でもないのに、自分の無敵状態を解除……というか、無視してダメージを与えてくるとは思いもしなかったのだろうし。
「残念だったな。見た感じだと、お前はあの手の男と同じくらい……場合によっては、それ以上に厄介そうに見える。そうである以上、ここで仕留めさせて貰う」
そう言いつつも、どうするべきかと少し悩む。
これが殺すというのであれば、それこそ手段は幾らでもある。
白炎を使って燃やしつくすとか、スライムを使って完全に吸収するとか。
もしくは、いっそニーズヘッグを出して攻撃をするといった手段もあるし、他にも召喚魔法でグリや刈り取る者、狛治を召喚するといった手段もある。
……だが、ヒーローという存在は相手を鎮圧して取り押さえるようなことはしても、殺すというのは論外だ。
手足の骨を折る程度ならまだしも。
しかしそうなると、この黒い霧のヴィランの攻撃無効化というのが非常に厄介だった。
もう一度精神コマンドの直撃を使って殴るか?
それを繰り返して肉体にダメージを蓄積し、あるいは心を折るといった手段もある。
ただ、それはそれで一体どういう事だと他の者達に思われても仕方がないし。
実際に爆豪からは鋭い視線が俺に向けられているのが分かる。
爆豪にしてみれば、自分の攻撃は黒い霧のヴィランに通用しなかったのに、俺の攻撃は普通に通じた。
それが疑問だし、何よりも面白くなかったのだろう。
とはいえ、この精神コマンドは魔法でも何でもなく、俺の転生特典だしな。
もしどういう手段で相手に攻撃したのかといったことを知っても、爆豪に使う事はまず出来ないだろう。
とにかく今はこの黒い霧のヴィランをどうにかする方が先決だ。
殺すのは不可で気絶……鬼眼でも使うか?
俺のスキルの1つ、鬼眼。
それは相手にランダムの状態異常を付与するといったものだ。
マブラヴ世界でBETAと戦った時、鬼眼によって大量のBETAを行動不能にした実績のあるスキルなのだが……問題が幾つかある。
その中でも最大の問題は、やはり相手に与える状態以上がランダム……それこそ本当の意味でランダムで、使用する俺ですら実際に使うまではどんな状態異常になるか分からないというところだろう。
衰弱や睡眠、麻痺といったような状態異常ならまだしも、即死とかそういう状態異常になったら、それこそ洒落にならない。
ヒーロー科の生徒という事で、相手を殺さずに捕らえる必要があるのに、即死させるというのはちょっと。
そうなると、やっぱり狛治辺りを召喚して付きっきりで警戒して貰うか?
「黒霧ぃっ、何をしているんだ、きちんと役割を果たせ!」
「死柄木!」
立ったままではあったが、ろくに呼吸も出来ず――そもそもあの身体で呼吸が必要なのかは疑問だが――にいた黒い霧のヴィランに、手の男が叫ぶ。
なるほど、手の男が死柄木で、黒い霧のヴィランが黒霧か。
……死柄木の方はともかく、黒霧は幾ら何でもそのまますぎないか?
そんな疑問を抱くも、黒霧はそんな俺の様子を気にした様子もなく行動に移る。
数秒前までの、俺の一撃によるダメージで身動き出来なかった状態から一転し、即座にその身体を黒い霧として広げる。
「君達は……特に貴方は厄介な存在です。故に……散らして、嬲り、殺す」
その言葉と共に、黒い霧が俺を……いや。俺達を包み込むように動く。
ちっ、まさかあの状況から、死柄木の一言でこうもあっさり復活するとは思わなかった。
どうする?
悩むのは一瞬。
いつもなら、即座に黒霧を倒すという行動に出るだろう。
だが、俺の一撃で呼吸もろくに出来なくなっていたにも関わらず、黒霧は死柄木の言葉を聞いただけで復活した。
それも見る限り、ただ復活したのではなく、無敵状態に近いような、そんな感じだ。
そう考えると、俺の一撃であっても手加減した程度の一撃では耐えられる可能性が高い。
かといって手加減の度合いを弱めると、下手をすると殺しかねなかった。
そんな訳で、俺は黒霧ではなく……黒霧の身体によって覆われている者達の方に、向かう。
黒霧の個性が俺の予想したように転移系の個性なら、散らして嬲り殺すという言葉から予想出来る事は1つ。
「ちっ!」
即座の判断によって、俺は後ろに戻る。
だが、既に黒霧の身体によって転移が始まっていた。
転移と一口に言っても、色々な種類がある。
例えば個性ではないが俺が使う影のゲートは影を通じて繋がっている場所を出口にする。
それはつまり、影の繋がってない場所には転移出来ないことを意味していた。
具体的には、宇宙に存在する衛星とかそんな感じで。
しかし、見た感じ黒霧の転移方法は俺の影のゲートとは違う。
霧の部分の自分の身体を媒介とし、転移したい場所と自由に繋げられる……といった感じか。
しかも黒霧の言葉を考えれば、一度に多数の場所に同時に転移させられるのだろう。
この点、俺の影のゲートと比べても明らかに勝っているところだろう。
……だからといって、影のゲートが黒霧の下位互換といった訳ではないのだが。
例えば黒霧の転移は噴水の側に転移してきた時の事を考えると、空間を繋げて、そこから出れば普通に相手に見つかる。
だが、影のゲートの場合は影を経由しているだけに、影から出ない限り相手に見つかるといった事はない。
このヒロアカ世界に存在する個性を考えると、三次元レーダーとかそういう個性の持ち主なら気が付きそうだが。
転移させられる面々のところに向かう一瞬でそんな風に考えつつ、即座に動く。
現在真っ先に行動するべきなのは、戦闘力のない者達を確保する事だろう。
爆豪や轟といった、十分に戦闘力を持っている者達であれば、その辺のヴィランに負けるといった事はまずない。
相澤と戦っているヴィラン達を見る限りだと、数は多いが質というのは決して高くない。
死柄木と黒霧という、ヴィラン連合とやらの組織の中でも中枢人物だろう2人は別格だったが、言ってみればそれ以外のヴィランは数だけの雑魚でしかない。
なら、爆豪や轟なら容易に倒せる筈だった。
だからこそ、戦闘力のない……補助能力に長けていても、敵を倒す実力のない同級生を、俺が確保する。
そう考えた俺の視界にまず入ってきたのは、1人だけでどこかに転移させられようとしている、周囲には誰もいない葉隠だった。
今はヒーローコスチュームを着ているので葉隠の存在もしっかりと理解は出来るものの、それだけに1人だけでとなると対処のしようがない。
即座に判断すると、瞬動を使って葉隠を抱き留め……
「え? ちょっ、アクセル君!?」
一体何があったのか分からない様子で、葉隠が戸惑った様子で言う。
葉隠にしてみれば、突然の事で混乱をしているのだろうが……だからといって、こちらもそれを気にしているような余裕はない。
ただ、今の俺にとって幸運だったのは、葉隠を抱きしめている事……ではなく、葉隠を覆うように黒霧が転移に使うのだろう黒い霧がそこら中に存在することだ。
「直撃」
精神コマンドの直撃を使いながら、自分の向かう対象を探し……あそこだ。
そんな中で俺が見つけたのは、ヤオモモ、耳郎、上鳴の3人組。
個性のバランスとしては、雷系の個性を持つ上鳴と、中距離での戦いが得意で索敵も出来る耳郎と、創造を使って多種多様な物を作り出せるヤオモモ。
客観的に見れば間違いなく問題はない。
だが……上鳴は個性を使いすぎるとウェイるし、耳郎は個性はあっても荒事には慣れていない。
ヤオモモが冷静に判断出来ればどうにかなるかもしれないが……幾ら有能だとはいえ、ついこの前まで中学生だったヤオモモにそこまで期待するのは間違いだろう。
そんな訳で、精神コマンドの直撃を使って黒い霧を蹴り、ヤオモモ達のいる方に向かう。
視界の片隅に、緑谷、梅雨ちゃん、峰田といった面々も見えたが……主人公である緑谷がいる以上、何とかして欲しいと思いながら、俺は葉隠を抱きしめたままヤオモモ達と共に黒霧によって転移させられるのだった。