人質に取られても俺は行動を止めないとは言ったが、だからといってむざむざと人質に取られるのを待ったりする筈もない。
こちらを包囲している中でも右側にいる相手に向かって数歩進み……すると当然のように、俺が前にいるヴィランは距離を取る。
俺を包囲している以上。当然のように他の者達もそれに合わせて移動し……
その動きを見た瞬間、地を蹴る。
ただし、向かうのは数秒前に進んだ相手のいる方向ではなく、上鳴達のいる方向に向かってだ。
いきなりの俺の行動に、ヴィラン達は一瞬動揺する。
そして、今の俺にとってはその一瞬があれば十分だった。
真っ直ぐに俺が向かう先にいたヴィランは、俺の突然の行動に驚き、半ば反射的に動きを止め……それでも我に返った時、既にそのヴィランの意識はプツリと切れていた。
1人のヴィラン……それこそ俺を囲んでいたヴィランの中で最も大きなヴィランが気絶した事によって、包囲網に穴が空く。
それもちょっとやそっとの穴ではなく、かなり大きな穴だ。
当然のように周囲にいたヴィランは俺の空けた穴を修復しようとするが、次の瞬間には俺はもうその穴を通りすぎ……ついでとばかりに近くにいたヴィランの膝の骨を折ったり、顎を殴って脳震盪を起こしたりして、その場から脱出することに成功する。
「うげっ! くそぉっ! 悪ぃ、抜かれた!」
近くにいたヴィランの1人が俺が包囲網を抜けたのを見て、必死に叫ぶ。
向こうにしてみれば、まさに必死の行動ではあったのだろう。
だが、そうして叫んだことによって目立ち……
「あぐんっ!」
包囲網の外から飛んできたゴム弾と思しき銃弾が命中し、その場に倒れ込む。
ゴム弾と一口に言っても、それは非殺傷ではあるが、威力が弱いという訳ではない。
それこそゴム弾の種類にもよるが、強力なゴム弾ともなればボクシング選手……それもヘビー級のチャンピオンに本気で殴られたくらいの威力はあるという。
このゴム弾が……恐らくはヤオモモが創造の個性で作ったのだろうゴム弾の威力がどれだけの威力なのかは、俺には分からない。
だが、仮にも荒事に慣れている筈のヴィランを一撃で気絶させるだけの威力を持っていたことを考えれば、その威力については容易に想像出来るだろう。
「ゴアッ!」
「グジュ!」
「ぶわっしゅっ!」
次々と悲鳴を上げながら、俺を包囲していたヴィラン達が吹き飛ばされていく。
最初のヴィランのように気絶しない者もいたが、それでも痛みから動けなくなっているのは間違いない。
動けないのなら、今すぐの戦力としては気にしなくてもいいのがこちらにとっても幸運だった。
そんなヤオモモの援護もあり、包囲網を完全に突破した俺が見たのは……
「へぇ」
その光景に、思わず感心したような声を上げる。
そのような声を発した理由は、上鳴が必死になって戦っていたからだ。
俺が前に出る前に、上鳴が前衛だと……そう言ったのは間違いないが、それでも結構な数のヴィランを相手に、有利にとはいえないがかなり善戦しているのは間違いなかった。
離れた場所ではヤオモモが創造によって作ったライフル銃を使い、そんな上鳴を援護している。
当然ながらそうして後方から援護されると、ヴィランとしては厄介だ。
そもそもそれ以前に、ヴィラン達の目的は俺に対する人質としてヤオモモ達を確保する事なので、上鳴の相手を他のヴィランに任せてヤオモモを確保しようと動くヴィランもいるが、そのような相手には耳郎の耳のイヤホンから放たれる音の衝撃によって気絶したり、蹲ったりしている。
それでも耐えるような相手もいたが、不意に股間を押さえ、泡を吹いて地面に倒れ込む。
エグい。
そんなコンビーネションをしている面々の様子を見た俺の感想がそれだった。
いや、正確には最後の1人……どうやら既に全裸になって相手に見えない状態で近付き、股間を思い切り攻撃している葉隠についてだが。
……まぁ、葉隠の様子を見る限り、特に何らかの格闘技を習っていたという様子はない。
また、その透明の個性は自分の身体は透明にするが、制服とかがそのままなのを見れば分かるように、自分以外は透明に出来ない。
つまり、武器を持つといった事も出来ないのだ。
そんな葉隠にとって最強の攻撃方法となれば、それはやはり腕の3倍の力があるという蹴りだろう。
だが、当然ながら格闘技をやってる訳でもない葉隠の蹴りは、喧嘩慣れしたヴィラン……いや、それだけではなく、個性によっては肌を岩にしたりといったように防御力を増したりするヴィランもいる。
そう考えると、葉隠にしてみれば狙うのは相手の急所が最適となり……それによって、ヴィランは金的を狙われることになった。
葉隠も、幾ら相手がヴィランとはいえ、命を奪うことまではしない。
だが……本当の意味で命を奪うような事はなくても、男としての命は奪うらしい。
無理もないか。
ヴィラン達はヤオモモを含めた女達に対して、獣欲を剥き出しにしていた。
葉隠も女として、そんな相手に思うところがあるのは不思議なことではなかった。
ともあれ、そんな感じで俺以外の面々もしかりと連携をし、協力しあってヴィランを相手に戦えている。
その事に安堵しつつ、声を掛ける。
「その調子だ。まずは敵の数を減らすぞ!」
「アクセルさん!」
俺の声を聞いて、真っ先に反応したのはヤオモモだった。
これは単純に遠距離からライフルを使って攻撃していたので周囲を見る余裕がそれなり以上にあった為だろう。
「ヤオモモはそのまま撃ち続けろ!」
「はい!」
そう指示を出すと、ヤオモモが再びゴム弾を撃ち続ける。
気のせいか、ヤオモモのライフルを撃つ速度が上がったような気がするが……まぁ、今のところその辺については特に気にしなくてもいいだろう。
寧ろヤオモモの撃つ速度が上がったら、ラッキー程度に思っておけばいい。
そんな風に考えつつ、上鳴の方に向かう。
上鳴はその名前通り雷を使う個性を持つものの、自由自在に雷を使えるという訳ではない。
また、雷を使いすぎるとウェイってしまうという欠点もある。
強力な個性なのは間違いないが、爆豪の爆発や轟の氷のように突出して強力かと言われれば、それは微妙なところなんだよな。
強個性ではあるが、そこそこの強個性。
それが上鳴の個性に対して俺が抱いている感想だ。
もっとも、個性が成長して雷を自由に扱えるようになったり、あるいはサポートアイテムを使ってその辺の欠点を克服すれば、一足飛びに爆豪や轟に並ぶだけの強個性になるとは思うけど。
それに……雷を自由に使えるのなら、別にその雷を使って敵に攻撃するだけではなく、それこそ神経とかに雷を流すことによって超絶的な反応をしたりとか出来ると思うんだが。
もっとも、これは俺が思いついただけ……というか、ネギま世界における魔法界に棲息する雷精がそのような手段を使うと、フェイトだったか、狛治だったか、とにかく聞いた覚えがある事からの思いつきだ。
もし本当にやるにしても、しっかりと安全に配慮した上で修行をする必要があるのは間違いなかったが。
取りあえず、その辺りについては今度自主練をする時に話せばいいだろう。
今この状況で……こっちがかなり有利な状況とはいえ、ここでそんな事を試して、上鳴が戦闘不能になられるのは困るし。
それにしても、もし本当にどうしようもなくなったのなら、今までは隠していた混沌精霊としての力……いや、個性を使おうかと思っていたんだが、見た感じでは全員が一杯一杯ではあるものの、それでもそれなりにやれている。
こうした経験こそが、将来的に重要な糧となる。
……そういう意味では、俺があまり助けすぎるとそれによって成長の機会を奪うようなものなんだよな。
勿論、自分でもそれが分かっているので、自主訓練とかそういうのをやっているのだが。
ともあれ、この世界の主人公の緑谷には今回の件でもしっかりと経験を積んで貰うとしよう。
そう思いながら、ヴィランの膝の骨を中心に砕いていく。
俺が上鳴達と合流した事によって、戦局は一気に逆転し、そして安定する。
それを見たヴィランの何人かは、もうこの状況で勝ち目がないと判断したのだろう。
ジリジリと後ろに下がり……そして仲間の1人が俺の蹴りによって膝を砕かれ、地面に倒れた瞬間、一気に逃げ出そうとし……
「どこへ行こうというのかね?」
何となく自分のヒーローコスチュームに似合った魔王……いや、大魔王っぽい口調でそう言う。
瞬動を使い、一気に敵の背後……逃げ出そうとした者達の前に姿を現した俺を見て、逃げ出そうとしたヴィラン達は一瞬自分達が何を見ているのか分からないといった表情を浮かべる。
この連中にしてみれば、まさか瞬動という技術があるとは思っていなかったのだろう。
「て、てめえ……一体何で……」
脇腹から……というか、肋骨から皮膚を突き破ってパイプ的な何かが伸びているヴィランが、唖然とした様子で言う。
俺のコスチューム的に考えて……
「お前達にはこの言葉を贈ろう。……大魔王からは逃げられない、と」
「何が大魔王だぁっ!」
俺と話していたヴィランではなく、両肩から植物の蔦が生えている、皮膚が緑のヴィランが叫びながら蔦を俺に向かって振るってくる。
なるほど、こうして鞭のように蔦を使う訳か。
ただ……鞭捌き? 蔦捌き? とにかく自分の個性を十分に使いこなしているとは思えない。そんな一撃は回避するのも難しくはない。
鞭だけに不規則な動きだし、速度も速い。
が……言ってみれば、それだけだ。
あっさりと回避しながらヴィランの懐に潜り込み、拳を振るう。
ボグ、と。
肉を打つ音と、その音に隠れつつも俺の手にはヴィランの肋骨を折る感触が伝わってきた。
「ぐ……げ……」
声も出せず、呻きながら地面に倒れ込むヴィラン。
これが雄英でなければ……そして本当の戦場であれば、このまま首の骨を踏み折るなり、あるいは頭を踏み潰すなりするんだが。
ここが雄英である以上、そのような事が出来る筈もない。
にしても……つくづく惜しいよな。
もし既にホワイトスターと繋がっていれば、このヴィランに限らずUSJを襲ってきたヴィランは全て捕らえるなりなんなりして、個性の研究が出来るのに。
善良な一般市民を連れ去るとかそういう事は出来ないが、ヴィランならある程度乱暴に扱ってもいいだろうし。
……勿論、それはあくまでもこっちの考えで、ヒロアカ世界の者達にしてみれば……それこそ、ヒーローであろうとも、ヴィランにも人権があるので実験材料にするのは認められないとか、そういう風に言ってくるだろうが。
だからこそ、もしホワイトスターと繋がったのなら、ヒーローが関与しないようにしながらヴィランを集める必要があった。
とはいえ、これが普通の世界ならともかく、多種多様な個性という能力を持っている者も多い。
中には俺が全く理解出来ない個性を持っており、それによってこちらの行動を把握されるといった可能性も否定は出来なかった。
まぁ、その辺についてはやるにしても、とにかくゲートを設置してホワイトスターと行き来出来るようになってからの話だが。
そんな風に思いながら、周囲の様子を確認する。
既に立っているヴィランはどこにもいないのを確認すると、ヤオモモ、耳郎、上鳴……そして気配からして、全裸の葉隠もこちらに近付いてくる。
「アクセル……強いのは分かってたけど、最後の言葉はどうかと思うぞ」
上鳴が呆れた様子でそう言ってくる。
どうやら『大魔王からは逃げられない』といったような言葉を気にしているらしい。
「そうか? ヴィランを畏縮させるには……ああ、なるほど」
「え? アクセル? どうしたの?」
言葉の中で不意に言葉を切ったのが気になったのだろう。
耳郎が不思議そうに聞いている。
それに指を口の前に持ってきて、静かにするように態度で示す。
そんな俺の様子に不思議そうな様子を見せつつ、それでも他の者達は黙り込む。
こっち……うん、ここだな。
「やっぱり、こういう時はこう言うんだよな。……スマッシュ!」
その言葉と共に足で地面を踏みつける。
オールマイトの攻撃方法のやり方としてはパンチで叫ぶ言葉なのだろうが、今のこの状況を思えば、別に踏みつけをやってもいいのかもしれない。
とはいえ、別に俺はそこまでオールマイトのファンって訳でもないしな。
あくまでもオールマイトがこのヒロアカ世界で重要な人物であり、主人公なのだろう緑谷とも何らかの関係があるのだろうから、その辺りにあやかって……という表現はおかしいか? とにかくそんな感じでの一撃。
「アクセル? 一体何を?」
耳郎が不思議そうに尋ねてくるものの……割れた地面の下に気絶しているヴィランを見ると、俺が何の為に今のようにしたのかを理解したらしい。
「取りあえず、これで正真正銘ヴィランを全員倒すことに成功したな」
そう、言うのだった。