俺と一緒に黒霧に転移させられた場所にいたヴィラン達は全て倒した。
……まぁ、倒したと一口に言っても気絶しているか、あるいは意識はあっても動けないかであって、死んだ者は誰もいないが。
一応、本当に一応ステータスをチェックするが、撃墜数は変わらないままだ。
それはつまり、ヴィランを1人も殺していないことを意味していた。
正直なところ、俺としてはヴィランは死んでもいいと思うんだが。
ただ、ヒーロー科の生徒としては、殺すのは避ける必要がある。
「さて、取りあえずここはこれで一段落した訳だし、次にどうするかだな」
「やはり、ここは一度USJから出るのがいいのではないでしょうか?」
俺の言葉に真っ先にそう言ってくるのは、ヤオモモ。
実際、ヤオモモのその考えは決して悪い訳ではない。
悪い訳ではないが……ベストではなくベターといったところだ。
忘れてはいけないのは、校舎からUSJに来るまでそれなりの時間バスに乗った事だろう。
USJから出てすぐにスマホが使えるようになるのかどうかも分からない。
もしスマホが使えても、それで連絡をした後でプロヒーローの教師達がUSJに来るまでそれなりに時間が必要となる。
黒霧のような転移系の個性は非常にレア中のレアっぽいし。
そうなると、ここに来られるのはオールマイトだけか。
オールマイトの移動速度は数秒から数十秒? 数分? で、東京から沖縄まで行けたりするらしいし。
そんな平和の象徴たるオールマイトがいれば、それこそヴィラン達は一掃出来てもおかしくはない。
おかしくはないが……そこで気になるのが、授業が始まる前に相澤と13号が話していた内容。
そもそもオールマイトがいるのなら、遅刻をしたという事で急いでこのUSJに来てもおかしくはない。
それがないという事は、何かそう出来ない理由があると考えてもおかしくはない。
「俺が行く」
「ちょっ、アクセル君!? いきなり何を?!」
俺の言葉に、葉隠が焦ったように言う。
当然だろう。この場合の行くというのは、USJから出るのではなく、相澤のいる場所……そしてヴィラン連合とやらの中でも重要人物である死柄木のいる場所に行くと、そう言ってるのだろうと理解したのだから。
「葉隠、心配するなって。俺の強さは、さっきも見せただろう?」
「ですが、相手は雄英に侵入してくるヴィランですわ」
今度はヤオモモが……
「ちょっと、本気? 先生もまずはUSJから脱出するように言ってたでしょ」
耳郎が……
「アクセルなら何とかなりそうな気はするけど……でも、やっぱり危険じゃないか?」
上鳴が、それぞれ心配そうに言ってくる。
上鳴だけが、ある程度ではあっても俺の意見に賛成してくれるらしい。
「心配するのは分かるし嬉しいが、教師を呼びに言ってもすぐに来られる訳じゃないだろ? それに……相澤がいるのに、あそこまで堂々とした連中だ。普通に考えれば、何らかの奥の手があるのは間違いないと思う」
個性を消す個性という相澤は、このヒロアカ世界においては非常に強力な個性の持ち主だ。
その上で、捕縛布を使った体術もかなりの技量だ。
実際、噴水の前でも有象無象を相手に一方的に蹂躙していた。
だが……あの死柄木とかいう手の男は、間違いなく何かある。
何しろ、俺の念動力が危険を察知したくらいなのだから。
実際、そのような事でもなければ、雄英のど真ん中――USJはど真ん中という訳ではないが――に侵入するといった事をする筈もない。
それこそ、オールマイトを殺すとか言っていたのを思えば、オールマイトに匹敵する何かがあるのは間違いなかった
それを相澤がどうにか出来ればいい。
だがそれが無理な場合……最悪、相澤は死ぬ。
原作的に、それはどうなんだ? と思わないでもない。
だが、原作の中には間近で誰かが死んで、それによって主人公がトラウマを抱き、そのトラウマを克服していくといったような流れも分からないではない。
勿論、実際には相澤が死ぬようなことはなく、最終的には全員が無事になるといった可能性も否定は出来なかったが。
ただ、どのような流れになるにしても、俺としてはやはりここで相澤を助けないという選択肢はない。
この世界が一体どういう流れになるのかは分からないが、個性を消す個性という圧倒的に強力な……それこそ、ジョーカーと呼ぶべき個性が消える可能性があるのに、それを放っておく訳にはいかなかった。
「ですがっ! それでは、相澤先生や、オールマイトを相手にも出来る何かとアクセル君が戦う事になるのですわよ!?」
ヤオモモの叫びに、他の面々も頷く。
それを聞きつつも、俺は笑みを浮かべる。
「言っただろう? 俺は強い。それこそあの死柄木とかいう奴が何かを企んでいても、どうとでもなるくらいにはな」
これで、俺が龍子と優……リューキュウとマウントレディの2人と、3年のビッグ3の1人であるねじれの合計3人を相手にしても楽に勝てるだけの実力を持っていると話すことが出来れば、ここまで心配も掛けないと思うんだが。
「だから、安心して送り出してくれ。傷1つつかないまま勝ってくるって約束するから」
「……じゃあ、アクセル君。もし怪我をしていたら、私達の頼みを聞いて貰うからね」
予想外な事に、俺の言葉に真っ先に反応した……それも受け入れるという意味で反応したのは、葉隠だった。
そんな葉隠にヤオモモを始めとした他の面々が何かを言おうとするものの、それに先んじる形で俺は口を開く。
「分かった、それでいい。……お前達もそれでいいよな? はい、決まりだ」
「ちょっ、アクセル、ウチはまだ何も言って……」
「ともあれ、この場所での戦いは終わったんだ。教師を呼ぶってのも、そんなに悪い選択肢じゃないと思う。俺が相澤の援軍に向かっているから、お前達は一度外に出て教師達を呼んできてくれ」
そう言うも、本当にUSJから出ればスマホの類が使えるのかどうかは分からない。
このUSJの中でだけ妨害されているというのは、あくまでもこの状況からの予想でしかないのだから。
とはいえ、それはあくまでも不明の状態である以上、出来るかどうかをしっかりと確認する必要があるのも事実だった。
もしスマホが通じればラッキー。
通じなくても、USJを脱出出来ればヴィランに危害を加えられる心配がなくなるので、そういう意味でもラッキー。
……欠点としては、そのままUSJを脱出しても、他の者達を心配して戻ってくる可能性があるという事か。
まだ付き合いは短いものの、ヒーロー科に来るだけあって性格的にお人好しな者達が多い印象だし。
だからこそ、そうならないようにする為には、何か大きな騒動になるよりも前に手早く俺が相澤達を助け、死柄木や黒霧といったヴィラン連合とやらの主要メンバーを確保する必要があった。
……とはいえ、死柄木はともかく黒霧は確保するのは難しそうな気がするんだよな。
何しろ黒霧の個性は転移だ。
このヒロアカ世界に個性を封じる何らかのサポートアイテムの類でもない限り、黒霧の個性を使わせないといった事は難しい。
いやまぁ、相澤がいるからどうにかなるだろうし、それに日本にはタルタロスという個性犯罪者……それも危険な個性の持ち主の為の刑務所的な場所があるらしいから、それを思えばもしかして一般には公開されていないだけで、個性を発動させない為の何らかのサポートアイテムとかあるのかもしれないな。
それにしてもタルタロスか。
まさか中にはシャドウがいたり、刈り取る者がいたり、最悪ニュクスがいたりしないだろうな?
もしくは、マヨナカテレビに繋がってるとか。
……ないな。
偶然名前が一緒なだけだろう。
「とにかく、お前達はUSJから出て教師達に連絡をしてくれ。……ヤオモモなら、スクーターを作れるよな?」
個性把握テストの持久走で、ヤオモモはスクーターを創造の個性で作って操縦していた。
であれば、普通に走るよりもかなり速い。
もっとも俺達がいるのはUSJの中でも山岳地帯だ。
そうなると、ここでは足場が悪くてスクーターに乗るのは難しいと思うから、この山岳地区から出てからの話になるが。
「……ああ、それならこうすればいいのか」
「へ? わっ、ちょ……アクセルさん!?」
ふと思いつき、ヤオモモを掬い上げるようにして持つ。
横抱き……いわゆる、お姫様抱っこだ。
「ちょっ、おい、アクセル! こんな時に一体何をしてるんだよ! 羨ましい!」
「……へぇ?」
「あ、いや。何でもないです、はい」
羨ましいと口にした上鳴に対し、耳郎はこんな時に何を言ってるんだと、ジト目を向ける。
そんな耳郎のジト目の迫力に、上鳴は半ば反射的に謝っていた。
うん。まぁ……その気持ちは分からないでもないけどな。
腕の中にあるヤオモモの身体の柔らかさを感じつつ、口を開く。
「ヤオモモがスクーターを使うにしても、この山岳地帯だと使うのは難しい。けど、ここから移動すれば舗装された通路になる。そして俺は、知っての通り虚空瞬動という技術を使える」
「あ」
上鳴を睨んでいた耳郎は、俺の言いたい事を理解したらしく小さく声を上げてこっちを見てくる。
……元々目つきの鋭い耳郎だけに、上鳴を睨んでいた事もあってか、俺を見てくる視線にも不思議と睨んでいるように思えてしまう。
実際にはそんなことはないんだろうけど。
本人にそんな気はないのだろうが、こればかりは仕方のない事だ。
「難点なのは、ヤオモモが1人で行動する事だが……スクーターに乗っていれば、その辺のヴィランにはどうにも出来ないだろうし。こっちの戦力を減らすのも痛いしな」
耳郎、葉隠、上鳴。
中距離に向く耳郎に、透明なので遊軍として最適の葉隠に、近接戦闘が可能な上鳴。
こうして考えれば悪くない組み合わせだが、耳郎は中距離に向くが決め手に欠けて、葉隠は透明だが格闘技の心得がある訳でもなく、上鳴は個性を使いすぎるとウェイってしまう。
まだヒーロー科に入学したばかりなので仕方がないとはいえ、この中からヤオモモを引き抜くだけで戦力的に結構なダメージがあるのは間違いない。
もっとも、この場所にいたヴィランは全員倒した。
大半が気絶しており、気絶していないヴィランも膝を始めとして足の関節を折ったり砕いたりしてるので、動き回ったりは出来ないだろう。
そういう意味ではヤオモモを引き抜いても戦力的に問題はなかったりするのだが……その辺について言えば上鳴辺りは気を抜きそうなので黙っておく。
「とにかく、まずは俺がヤオモモを連れてこの山岳地帯から下りる。そうすれば、後はヤオモモはUSJの外に向かい、俺は相澤のいる方に向かう。……上鳴達も、ここから下りたらUSJの外に向かうんだ。いいな?」
俺達が黒霧に強制的に転移させられた時、13号やその周辺にいた生徒達は転移させられていなかったように思う。
だとすれば、もしかして……本当にもしかしてだが、俺達がここでこうしているうちに、あそこにいたメンバーがUSJから脱出して教師達に連絡を取っている可能性もある。
……ただ、それはあくまでも希望的予想、つまりそうであって欲しいというもので、絶対にそのようになっているのかというのは、分からない。
であれば、その希望的予想に頼るような事はせず、自分達で対処をすればいい。
そうなれば、後でこうしておけば……といったように後悔しないですむのだから。
「分かりましたわ」
俺の言葉にヤオモモが自信と決意の籠もった表情でそう言う。
そんなヤオモモの様子を見れば、もし何らかの理由でその辺をうろついているヴィランと遭遇しても、適切な判断をすることが出来るだろう。
「ですから、その……早く行きましょう。ちょっとこの体勢は恥ずかしいので」
自信と決意の表情から一変、少し……いや、かなり照れた様子でヤオモモがそう言う。
元々顔立ちが整っているヤオモモだけに、今のような照れた表情はこう……破壊力がある。
ここに峰田がいなくてよかったと、しみじみと思う。
もしここに峰田がいたら、いつものように血の涙を流していただろうし。
そういう意味では、峰田の相棒とも言うべき上鳴がいる訳だが……良くも悪くも、上鳴は峰田ほどに突き抜けてはいない。
先程の耳郎の睨みの影響か、まだ復活していなかった。
これが峰田なら、それこそ即座に耳郎の睨みからも復活して俺を嫉妬の視線で見て来てもおかしくはないのだが。
「分かった。じゃあ、行くぞ。……葉隠、耳郎、上鳴……また後で会おう」
後で一緒に食事でもしようとか、そんな風に言おうかとも思ったのだが、フラグになりそうだったので止めておく。
ここで妙なフラグを立てて、それを後で葉隠達が回収したりしたら、洒落にもならないし。
そんな風に思いながら、俺はヤオモモの身体を横抱きで抱きしめながら、瞬動を使って跳躍し、そのまま虚空瞬動を使って移動するのだった。