俺のスキルにある鬼眼。
これは俺が見た相手にランダムで状態異常を与えるといったスキルだ。
……別にスキルを発動するのにわざわざその名称を口にする必要はないのだが。
ただ、そうした方が成功確率が増えるような気がしたので、今回はそんな感じでスキルを発動した。
この鬼眼というのは、本当に運次第のスキルだ。
相手を毒にしたり麻痺したり、眠らせたり……最悪の時は即死させたり。
他にも多種多様な状態異常を発揮する。
その上でこの鬼眼の凶悪なところは、例えば目と目を合わせるといった必要はない。
それこそ俺が見れば、ただそれだけで発動するスキルとなる。
そういう意味では使いやすいスキルなんだが……うん。効果がランダムだというのが、やはりこの場合は厳しい。
とはいえ、同時にこの鬼眼は相手を見ればそれだけでいいので、混沌精霊という事になっている俺の個性について、妙な勘ぐりをされないという意味では最善だったりする。
自分の身を盾にしてでも生徒を守ろうとした相澤なので、それなりに信用する事にはした。
……信頼まではまだいっていないが。
とにかくそんな訳で、相澤には完全ではないにしろ、ある程度俺の能力について教えてもいいとは思ったが、ヴィラン連合の面々については話が別だ。
緑谷がいる事から、これが原作の事件であるのはほぼ間違いないと思う。
その上でヒーロー科の生徒という立場から、相手を殺したりも出来ない。
だからこそ、死柄木と黒霧には俺の能力を極力見せたくはなかった。
そういう意味で、鬼眼は最適だった訳だが……問題なのは、一体どういう効果が発揮されたのかという事だが……
ずずず、と。
俺を殴ろうとしていた腕が止まり、そのまま地面に崩れ落ちる。
「は?」
その間の抜けた声は、俺……ではなく、相澤の捕縛布によって身動き出来ない状態になっている死柄木からだ。
死柄木にしてみれば、脳無は対オールマイト用の秘密兵器だったのに、何故かこうもあっさりと俺にやられてしまったので、完全に意表を突かれてしまったのだろう。
俺はそんな死柄木の様子を無視して、脳無の状態を確認する。
急に倒れた以上、何らかの状態異常を付与出来たのは間違いない。
だが、問題なのはその状態異常が具体的になんなのか俺には分からないという事だろう。
……こういう時、以前は俺にあった他者のステータスを見られる能力があったらなと思う。
もしその能力がまだあれば、相手が現在どのような状況なのか即座に分かるのだから。
そんな風に思いつつ、脳無の様子を確認する。
脳みそについている目が瞑っているのを見ると……睡眠か? もしくは気絶か。
取りあえず毒とか麻痺とかそういうのじゃないのは、この様子を見れば明らかだろう。
「おい、脳無! 何をしているんだよ! さっさと起き上がってそのチート野郎をぶっ殺せ!」
「うるさいぞ、死柄木……いや、お前はシラタキで十分だ」
「は?」
死柄木は……いや、シラタキはまさか自分がそんな風に言われるとは思っていなかったのか、間の抜けた声を上げる。
顔についている手や捕縛布で表情を見る事は出来ないものの、どうやら完全に意表を突く事は出来たらしい。
「死柄木弔! 彼は危険です。今はまず撤退を!」
今まで黙って様子を見ていた、あるいは脳無が俺を無力化――殺すのを含む――するのを待っていたのだろう黒霧だったが、頼りの脳無が俺に無力化された事によって、焦って叫ぶ。
いや、黒霧は叫ぶだけではなく、既にその身体を再び黒い霧にしており、シラタキを包もうとしていた。
13号と一緒に行動していた俺達を、それぞれ別の場所に一斉に強制転移させた方法か。
俺にしてみれば、それはそれで厄介な攻撃。
……影のゲートを使える俺だからこそ、黒霧の転移能力が俺よりも上だというのが分かる。
何しろ、相手を強制的に……それも結構な人数を転移させられるのだから。
とはいえ……
「させると思うか? 直撃」
精神コマンドの直撃を使い、瞬動を使って身体を黒い霧としている黒霧との間合いを詰める。
黒霧はこの状態でも周囲の……というか、脳無を無力化した俺の存在については把握していたらしく、俺が近付いた黒い霧が少しだけ薄くなる。
このまま時間が経てば、恐らく完全に黒い霧となって俺から逃げるのだろう。
「スマッシュ!」
その言葉と共に、黒い霧に向かって拳を振るい……次の瞬間、その手にはしっかりとした手応えがあった。
「ぐふっ!」
今の一撃は黒霧にとってしっかりと効いたのだろう。
呻き声を上げながら黒霧の身体が元に戻ってその場に蹲る。
鬼眼を使って気絶した脳無の事を思えば、黒霧にも鬼眼を使った方がいいのか?
そうも思ったが、それはそれで一体どんな効果がでるのか分からない以上、止めておいた方がいいだろう。
脳無の場合は気絶か睡眠といった効果になったものの、また同じ効果が出るとは限らない。
……いや、寧ろ効果がランダムである以上、脳無の時と同じ効果が出るというのはまず有り得ない筈だった。
「直撃」
再度精神コマンドの直撃を使い、蹲った黒霧の身体を……黒い霧に包まれていて正確には分からないが、そのような部分があるだろう場所を蹴り飛ばす。
精神コマンドの直撃の効果によって、黒霧は攻撃を無効化することが出来ずに吹き飛ぶ。
それを追い、また一撃、一撃、一撃。
精神コマンドの直撃を何度も使い、その度に黒霧を殴っては吹き飛ばしていく。
そうして気が付けば、黒霧は既にダメージが限界に達していたのか、動くことは出来なくなっていた。
虫の息……というのは少し大袈裟かもしれないが、まともに動く事はまず不可能な状態になったのは間違いない。
「黒霧ぃっ!」
倒れ、動かなくなった黒霧を見て、シラタキが叫ぶ。
ただし、黒霧は既にダメージの限界を越えた為か、シラタキの声に反応する様子はない。
これで2人。
後残るのはシラタキだけだ。
そう思いながらシラタキに近付いていくのだが……
ゴガン、という音が響き、扉がこちらに向かって飛んでくる。
幸い、その扉が俺や相澤、あるいは緑谷に当たるような事はなかったが。
「もう大丈夫。私が来た」
そう言いながら姿を現したのは……オールマイト。
本来ならこの授業で相澤と13号と共に教える筈だったオールマイトだったが、ようやく来たらしい。
もっとも、13号と相澤の話を聞く限りでは、限界がどうとか言っていたから……それを思えば、もしかしたら無理をしてきたのかもしれない。
ただ……私が来た、か。
そう言うオールマイトには一種の風格があり、なるほど平和の象徴と呼ばれるだけの事はあると納得出来る。
「くそっ、ここでオールマイトも来るのかよ。黒霧、いい加減……うおっ!」
「いい加減にするのはお前だ」
相澤がそう言いつつ、捕縛布を動かす。
そのコントロールはかなりの精妙さで、捕縛布に拘束されたシラタキの姿は、次の瞬間地面に倒れている黒霧の側まで移動され……そして相澤に見られる。
なるほど、念動力に反応するシラタキの個性と、転移という黒霧の個性。
そのどちらも危険であれば、2人の個性を同時に使えなくすればいい訳か。
相澤の個性は、俺の鬼眼と同じく相手を見ればそれだけで効果が発動する。
標的と目を合わせたりといった事は必要ない。
俺がマブラヴ世界で大量のBETAに鬼眼を使った時のように、纏めて見ればその集団が個性を使えなくなるという点でも同じで、実際にここで最初に大量の雑魚ヴィランが出て来た時、相澤はそういう風に個性を使っていたしな。
「遅れてすまない、相澤君。飯田少年から話を聞いて、すぐに来た。……アクセル少年、八百万少女も無事だから安心したまえ」
そう言ったオールマイトだったが、そこまで言うと少し困った様子で口を開く。
「それにしても……私が来る必要はなかったみたいだな。もっと早く来ればよかったのだが」
「いえ、主犯はこの連中ですが、黒霧というヴィランの手によって生徒達がこのUSJの様々な場所に転移させられたようです。恐らく……」
「任せてくれ」
そう言うや否や、オールマイトの姿が消える。
……速いな。
俺の移動速度並の速度だな。
瞬動には及ばないが……ただ、瞬動というのは基本的に短い距離を移動する為の技術だ。
勿論、何度も連続で瞬動を使う事によって相応の長距離を移動したりも出来るのだが。
ともあれ、オールマイトの姿が一瞬にして消えたのは間違いない。
「アクセル、俺はこの2人の個性を消し続ける必要がある。飯田が連絡をしたという事は、そう遠くないうちに他の教師達も来るだろう。それまでの間、お前の戦力に頼らなければならない」
「気にしないでくれ……じゃなくて、気にしなくていいですよ。その程度の事、俺にとってはそう難しいものじゃないですし」
先程までは場合が場合という事で言葉遣いが普段のものに戻ってしまっていたが、今は状況が一段落したので、言葉遣いも生徒のものに戻す必要があった。
「……頼んだ」
今はシラタキと黒霧の個性を消し続けることに集中したいのだろう。
相澤は言葉遣いの件について何かを言う様子はなかった。
どうやら、セーフ。
相澤の言葉に頷き、まずは緑谷達のいる場所に向かう。
何かあった時、緑谷の個性はそれなりに頼りになるし、峰田や梅雨ちゃんも同様に頼りになる。
「大丈夫だったか?」
「うん、その……どうやら向こうはこっちの個性を把握していなかったらしくて、あす……梅雨ちゃんと峰田君がいたから、海の場所に転移させられたけど何とかなったよ」
緑谷に言葉に、なるほどと頷く。
峰田のモギモギと梅雨ちゃんの蛙は、水中では非常に頼りになる。
蛙は水中での行動が得意だし、モギモギは回避するのが難しい。
その辺りを上手く使って、緑谷は待ち伏せしていたヴィラン達に対処したのだろう。
「そうか。俺の時もそうだったけど、シラタキ達はカリキュラムは入手しても、生徒の個性については把握していなかったみたいだな」
「うん、僕も……シラタキ? えっと……」
緑谷が俺の言葉に同意しようとしたものの、すぐに言葉につまる。
俺の口から出たシラタキという単語に反応したのだろう。
いや、緑谷だけではない。
峰田や梅雨ちゃんも、先程までの緊張した様子から一転し、意表を突かれた表情でこちらに視線が向けていた。
「ああ、シラタキだ。捕縛布で掴まっている方は死柄木弔って名前らしいんだけど、死柄木よりもシラタキの方が分かりやすいし、言いやすいだろう?」
「それはそうだけど……でも、シラタキってのは……」
微妙な表情を浮かべる緑谷。
予想外のシラタキ効果だったが、緑谷達の中にある緊張が少しは解けたらしい。
……優のソースネタもここで使いたいところだけど、いきなりこんな場所でその件について言っても理解出来ないだろうしな。
「とにかく、いつまでも水に浸かってるのもどうかと思うし、上がったらどうだ?」
「えっと、うん。そうだね。……じゃあ、そうするよ」
緑谷が俺の言葉に頷き、上がってくる。
梅雨ちゃんと峰田もそれに続き……
「おーい、アクセル君!」
不意に聞こえてきた声に視線を向けると、そこには手袋とブーツだけがあった。
それが誰なのかは、考えるまでもないだろう。
痴女……もとい、全裸の葉隠だ。
そして近くには上鳴と耳郎の姿もある。
あいつら……山岳地帯を脱出したら、USJから出ろって言っておいたのに。
呆れていると、3人がこっちに向かってやってくる。
「アクセル、援軍に来たつもりだったんだけど……来てみたら、もう終わっていたんだな」
上鳴が俺に向かってそう言ってくる。
俺がまだ戦っていたら、協力するつもりだったのだろうが……
「もう終わったのはいいけど、お前達にはUSJから出るように言ったと思うんだがな」
「あー……悪い。けど、葉隠が……」
困った様子で、上鳴が葉隠に視線を向ける。
その視線を受けた葉隠は、両手の手袋を上下に揺らしながら口を開く。
「そうだよ! アクセル君が強いからって、いざって事もあるんだから! そういう時、助ける戦力が必要でしょ!?」
葉隠の気持ちは分かるし、言ってる事も分かる。
分かるんだが……だからといって、それを素直に認められるかと言えば、それは否だ。
そもそも俺がピンチになってる状態で、葉隠達が何とか出来るか……いや、透明の葉隠なら、ワンチャンあるか?
もっとも、それで助けても葉隠は特に鍛えている訳でもない、普通の女だ。
1度だけなら相手の不意を突けるかもしれないが、それに失敗したら……あるいは成功しても、2度目はない。
透明であろうとも、そこにいるのは間違いない訳で。
そうなると、ピンポイントで攻撃を命中させるのは難しいかもしれないが、範囲攻撃を行えば対処は可能だ。
……何気に命の危機だったというのを、理解しているのかどうか。
そんな葉隠に、何と言えばいいのか分からず、大きく息を吐くのだった。