俺が葉隠達と話していると、やがて次々にA組の生徒がこちらに集まってくる。
そんな中でも特徴的なのは……
「けっ! クソが!」
緑谷から俺がヴィラン連合の主力と思しき3人を倒したと聞いた爆豪が、不機嫌そうに俺に睨んできたことだろう。
実際には相澤の個性や捕縛布があったから、対処可能だったのだが。
もし相澤がいなければ……あるいは脳無に痛めつけられて心が折れていたら、シラタキが絶対的に自信を持つのだろう自分の個性を自由に使っていただろうし、黒霧が転移の個性を自由に使っていただろう。
脳無は……俺が来た時、相澤が脳無に押さえ込まれていたのを見る限りだと、個性を使わない素の身体能力でも相澤を押さえ込む事が可能だったので、相澤のいるいないは特に関係なかったかもしれないが。
いや、でも相澤がいれば厄介な再生能力を封じられたのか?
……まぁ、そうなると脇腹を貫いた俺の一撃で脳無が死んでいた可能性もあるのだから、その辺はすぐにどうこうといったようには言えないが。
「……お前が倒したと聞いたが、本当か?」
爆豪が不機嫌そうに離れて少しすると、今度は轟がやって来てそう聞いてくる。
「そうだな……と言いたいところだけど、相澤先生の個性があってのことなのは間違いないな」
「だが、お前の力が大きかったのも事実。……そうか、分かった」
そう言うと、俺が何かを言うよりも前に自分で納得したのか、離れていく。
「さすがは闇を統べる者」
「……一応聞くけど、それは褒めてるんだよな?」
常闇が近付いてきてそう言ってくるものの、厨二病を患っている常闇の言葉は、それが本当に俺を褒めているのかどうかちょっと分からない。
いやまぁ、常闇からは悪意の類を感じられないし、褒めているだろうとは思っていたが。
ただ、ヒーロー科の生徒に向かって闇を統べる者というのはどうなんだ?
聞きようによっては、それこそ今回の一件で姿を現したヴィラン連合よりも余程悪役っぽく……ヴィランっぽくないか?
特に俺の場合は大魔王がモチーフのヒーローコスチュームを着ているだけあって、闇を統べる者とかそういう表現はちょっと洒落にならなかったりする。
「そのつもりだが」
「そうか。なら、一応ありがとうと言っておくよ」
そうして話していると、今度や三奈がこちらにやって来るのが見えた。
もっとも、三奈は少し前にもうこっちに合流していたのだが。
ただ、まずは女同士ということで葉隠や耳郎、梅雨ちゃんといった面々と無事を喜んでいた。
ちなみに麗日とは一緒にいたらしく、普段通りだったらしい。
とにかく、そちらでの話が一段落してこっちにやって来たのだろう。
「アクセル、ありがとね!」
「……まさか、いきなり感謝されるとは思わなかったけど。一体何がだ?」
「だって、ヤオモモや透、響香を守ってくれたんでしょ。あのヴィランがいきなり転移させようとした時にアクセルが突っ込んでいった時はどうなるかと思ったけど、皆を守ってくれてありがとうね」
俺と一緒に転移した中には、上鳴とかもいたんだけど。
とはいえ、三奈が何を言いたいのかは分かる。
実際、俺達が転移した場所で待ち構えていたヴィラン達は、女達に向かって欲望の視線を剥き出しにしていたし。
葉隠も声で女と認識されていたし、耳郎も……うん。まぁ、その辺については気にしない方がいいだろう。
耳郎本人だって、特殊性癖だとかそんな風に言われるのは……
「っと」
少し離れた場所にいた耳郎の耳から伸びたイヤホンが何かを察知したかのようにこちらに伸びてきたのを見て、考えるのを止める。
……これも耳郎の個性の能力の1つなのか、それとも女の勘なのか。
「半ば咄嗟の行動だったけど、何とかなってよかったと思う。……そっちは13号先生がいるから大丈夫だと思ったけど、聞いた話だと転移の個性を持つ黒霧にやられたって?」
「うん。幸い、ヒーローコスチュームはかなり頑丈な奴だったし、分厚かったみたいだから13号先生の怪我はそこまで重傷じゃないみたいだけど」
そう言いつつも、三奈は悲しそうな表情を浮かべる。
三奈にしてみれば、軽傷とはいえ、それでも目の前で……しかも教師がヴィランにやられたというのは、色々と思うところがあるのだろう。
実際、相澤がやられたのを見ていた緑谷とかもかなりショックを受けていたみたいだしな。
無理もないか。
生徒達にとって、教師は教師であると同時にプロヒーローでもあるのだから。
こうして考えると、もしかしたら13号の方に残った方が良かったのか? とも思うが、生徒達に被害を出さないという意味で考えると、俺の取った行動が最善だったと思わないでもない。
何しろ、もしあの場に俺が残っていれば、最悪ヤオモモ達はヴィラン達に犯される可能性があったし、葉隠も1人だけ離れていたので、戦闘能力は低いのに単独でどこかに飛ばされていた可能性がある。
それと比べると、三奈の方には13号がいた。
……まぁ、決して戦闘が得意ではないということで、結局は負けてしまったのだが。
ただ、黒霧は13号を倒すと後は他の生徒に構わずにシラタキのいる方に戻ってきた。
「まぁ、結果として皆が無事……というか、死人が出なかっただけ上々の結果だと思うぞ」
「うん、そうだね。……一佳に知らせたら、心配されそうだね」
「あー……それは否定出来ない」
クラスが違うので直接会う機会は減っている。
まぁ、俺の場合はいつも一緒に通学してるのであまりそういう感じはしないし、三奈達も何だかんだと拳藤と会って話したりはしてるみたいだが。
しかし、姐御系の拳藤にしてみれば、雄英入学前からの友人である俺達がヴィランに襲われたと知れば、心配するだろう。
もし立場が逆で、後でB組が襲われたと言われても、俺達は間違いなく心配するだろうし。
「アクセル、後でちゃんと説明しておきなよ」
「ちょっと待て、それを俺に任せるのか? そういうのは、普通なら女同士で話した方が……」
「何を言ってるのよ。こういう時は男から話をするものでしょう」
……そうか?
はっきりと言い切る三奈の言葉に、そうか? と思わないでもなかったが、冷静に考えると微妙に違うような気がする。
とはいえ、女は女同士。
コミュ強の三奈がそう言うのなら、多分そうなんだろう。
「まぁ、分かった。明日の朝にでも……」
「今日! 今日に決まってるでしょ! こんな事があったんだから、自主練なんて出来る筈がないし」
三奈の言葉に、言われてみればそれもそうかと思う。
雄英にヴィランが……それも単独ではなく、ヴィラン連合とかいう組織がやって来たのを思えば、まさか今日自主練をするとは言えない。
いや、俺にしてみればぶっちゃけ体力的にはまだ余裕があるし、精神的にもかなり余裕があるから、やろうと思えば自主練も出来る。
けど、それは俺が今まで数多くの修羅場を経験してきたからこそだ。
そんな俺とは違い、A組の生徒達は少し前までは普通に中学生だった訳で……そう考えれば、今日の放課後に自主練をやると言われても、とてもではないが出来ないだろう。
……それ以前に、教師から止められそうだけど。
いや、ミッドナイト辺りなら青春だとか言ってやらせてくれそうな気がしないでもないけど。
「とはいえ……帰るのがいつになるのか、全く分からないから、拳藤に話すにしても、明日の朝か、LINを使ってになると思う」
「その通り!」
俺と三奈の会話に割り込んで来たのは、いつの間にか戻ってきていたオールマイト。
USJに散らばっていたヴィランを片付け、まだ合流していなかったA組の生徒を確保しに動いていた筈だが、どうやら戻ってきたらしい。
何故か横抱きにしてきた青山をそっと地面に下ろしながら、オールマイトがこちらに……俺に視線を向けてくる。
「少し話を聞いただけだが、アクセル少年のお陰でこちらの被害は驚く程に少ないし、ヴィラン連合と名乗る者達の中でも幹部達を確保出来た」
そう言うオールマイトの言葉に、周囲にいた他の生徒達も俺に視線を向けてくる。
ちなみに、三奈との話が終わったのか瀬呂がこっちに来ようとしていたのだが、そのタイミングでオールマイトが戻ってきたので、瀬呂は動くに動けなくなっていた。
……ドンマイ。
「やっぱりそうなりますか」
「うむ。アクセル少年程に、ヴィランがどのように動いていたのか、そしてあの3人の幹部について分かる者はいないだろうしね」
「あの3人については、寧ろ俺よりも相澤先生の方が詳しいと思いますけど」
俺がヴィラン連合の3人と積極的に関わったのは、最後の方だけだ。
それ以外となると、それこそ俺よりも接した時間の長い相澤の方が詳しいだろう。
とはいえ、俺が見つけた時は脳無に押さえ込まれていたので、相澤にそんな余裕は……相手の能力や性格を読み取る余裕はなかったような気がするが。
「そちらも勿論聞くつもりだ。ただ、彼はヴィラン連合の3人の個性を使わせないようにする必要がある」
「ああ、なるほど。……とはいえ、それよりも前に他のヴィラン達はどうするんです?」
「そっちは心配いらない。……ほら」
オールマイトが示す方を見ると、そこには雄英の教師……なのだろう者達が大勢いた。
それぞれがヒーローコスチュームを着ているので教師らしさはないし、何も知らない状況であの面々を見れば、プロヒーローであるとは認識するかもしれないが、教師であるとは認識出来ないだろう。
だが、ミッドナイトのように見覚えのある人物がいるし、何よりヤオモモと飯田が一緒にいるのを見れば、あれが教師であるのは間違いない。
間違いないのだが……騒動が終わった後に来られてもな。
そうも思うが、USJのある場所を考えれば、教師達も急いだ方だろう。
実際、オールマイトを先行させる事によって、戦力的には問題なくなっていたのも事実だし。
つまり、あの教師達は半ば後詰め的な存在なのか。
もしくは、後片付け的な。
オールマイトも、倒したヴィラン達の処理……具体的には捕らえて警察に引き渡すのは教師達に任せろって言ってるし。
そういう面倒な仕事をしなくてもいいのは、俺にとってラッキーだったな。
「なるほど、楽なのはいい事です。……それで、これからどうなるんですか?」
「取りあえず、怪我の治療が優先だろうね。アクセル少年を見る限りでは、その辺りの心配はいらないようだが」
オールマイトが俺を見ながらそんな風に言ってくる。
実際、俺は特に怪我らしい怪我をしていない。
とはいえ、薄氷のというにはすこし分厚かったが、他の世界のように……魔法とか魔力とか気とかがない世界のように俺はこの世界でも無敵という訳ではない。
まだ龍子の事務所で居候をしていた時に色々と実験した結果、個性によっては普通に俺にダメージを与えられるという事が判明している。
今までは、魔力か気による攻撃、あるいはそれの亜種……ダンバイン世界のオーラ力であったり、鬼滅世界の呼吸であったりでならダメージを受けるのは間違いない。
それと比べると、このヒロアカ世界においては個性がある。
もっとも、その個性も全てが完全に俺にダメージを与えられるのかといった事は、まだ分からないのだが。
「ヴィラン連合とか自称してたけど、その大半はその辺りにいる……ただのチンピラに等しい連中でしたしね」
もっとも、だからこそ危険なのだが。
これが例えば……世界の技術力的にこのヒロアカ世界とある程度近いペルソナ世界においてなら、チンピラはいるが、そのチンピラが振るう事が出来るのはあくまでも自分の手足を使った、あるいは個人で購入したり出来るような武器くらいでしかない。
だが、このヒロアカ世界におけるチンピラ……ヴィランの場合、普通に個性を持っている。
いやまぁ、実際には10人に1人は無個性なので、絶対に個性を持っているとは限らないのだが、それはつまり10人チンピラがいれば、9人は個性を持っているという事を意味している。
ましてや、その個性が芦戸の酸だったり、13号のブラックホールだったり、爆豪の爆発だったり……まぁ、爆豪は何故ヒーロー科にいるのか分からない、半ばチンピラだが、それはそれで置いておくとして。
とにかくチンピラであっても……いや、後先を考えないチンピラだからこそ、危険な個性を持っていれば危険なのは間違いなかった。
もっとも、個性が危険であってもそれを鍛えなければ、そこまでの脅威ではなかったりするのだが。
それを示すように、山岳地帯で待っていたヴィラン達は、数に任せて強気ではあったが、実際にそこまで危険ではなかった。
「なるほど。……もっとも、アクセル少年にとってはそのように思えたのかもしれないが、他の生徒達にとっては十分危険な相手だった。それを忘れてはいけないよ」
オールマイトの言葉に、反論する事なく頷きを返すのだった。