転生とらぶる2   作:青竹(移住)

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4397話

「え? 龍子と優も明日は雄英に来るのか?」

 

 雄英体育祭前日の夜、龍子と優は俺の部屋にやって来ていた。

 もっとも、これは明日の体育祭に向けた激励会とかそういうのではなく、延び延びになっていた優に対する殺気を発する訓練をやる為だ。

 最初の1回が余程トラウマになったのか、優は何だかんだと理由をつけてその訓練を先延ばしにしてきた。

 まぁ、この2週間は俺も緑谷や峰田の、あるいは他にも自主訓練に参加している者達の対応で忙しくて、優が来ないのならそれはそれでいいかと思っていたのだが……うん。

 龍子にその件について知られたところ、こうして半ば無理矢理連れて来られた訳だ。

 ちなみに今の時間は午後7時くらい。

 帰ってくるのが遅くなったのは、今日が体育祭前の最後の自主訓練という事で、それなりに時間を使ったからだ。

 本来なら明日が体育祭なのだから、今日は軽く流すだけにして終わる予定だったんだが……うん、緑谷の生真面目さだったり、他の学科に集中的に狙われるのが確定している峰田だったりが、何気にやる気だった。

 それに引きずられるように、他の面々もやる気を見せ……結局いつもと同じくらいに訓練密度になった訳だ。

 そうして帰っている時に龍子から連絡があって……まぁ、今のこの状況な訳だ。

 もっとも、龍子や優もただ来るんじゃなくて、結構有名な中華料理屋のテイクアウトメニューをそれなりに買ってきてくれたので、殺気の訓練が終わったら、中華料理を楽しむ予定になっている。

 ……とはいえ、中華料理か。

 いや、俺は別に中華料理が嫌いという訳ではない。

 寧ろ好きだ。

 ただ、俺にとって中華料理となると、やっぱり真っ先に思い当たるのは四葉の料理なんだよな。

 四葉の作る中華料理は勿論絶品で、だからこそ四葉の中華料理に慣れている身としては、どうしても普通の中華料理は『美味いけど……うーん……』といった感じになる。

 普段から100点に限りなく近い点数の中華料理を食べているので、70点や80点の中華料理を食べてもいまいちに感じてしまうのだ。

 ある意味、美味すぎる中華料理を食べた悪影響だな。

 

「ええ、アクセルが出るんだし。選手宣誓もアクセルなんでしょう?」

「そうなるな」

 

 龍子の言葉に頷く。

 入試が首席だったのもあってか、1年の選手宣誓は俺になったんだよな。

 ちなみに雄英の体育祭は、1年、2年、3年それぞれが別の場所で行う。

 圧倒的な敷地の広さを持つ雄英だから出来る事だよな。

 もっとも、そのお陰で観客も散らばるらしいが。

 ……ただ、そうして観客が散らばっても、それぞれの観客席は満席になるらしい。

 もっとも満席と一口で言っても、立ち見とかスカウト候補を見に来るプロヒーローとかで3年が一番観客が多いらしいが。

 そして2番目が2年……じゃなくて、俺達1年だったりする。

 2年は去年の1年の時に見た面子だし、3年になってから見ればいいという者もいるのに対し、俺達1年は今年が初めてなので観客も多くなる傾向にあるらしい。

 これはその辺りについて詳しい緑谷から聞いた情報だが。

 また、USJの一件についての情報も結局箝口令? 何それ美味しいの? 的な感じで情報が広がっているので、その件でA組に好奇心を抱いた者が多く来るだろうという事でもあった。

 

「なら、後見人としては見ないと駄目でしょ」

「ねじれの方はいいのか?」

「勿論、そっちも見にいくわよ? ただ、3年の選手宣誓はねじれじゃないようだから」

 

 ねじれじゃないとなると、もしかして他のビッグ3の残り2人のどちらかなのかもしれないな。

 ねじれは俺との訓練のお陰で、ビッグ3の1人を相手に模擬戦でも勝てるようになったらしいが……それでもその相手には勝てなかったのか、それとももう1人が出てきたのか。

 ともあれ、龍子の話を聞く限りでは駄目だったらしい。

 もしねじれが選手宣誓をしていたら、1年と3年で龍子の……リューキュウの事務所の関係者が選手宣誓をやるという事になっていたんだが。

 あるいは、これで2年にも龍子の知り合いがいたら……上手くいけば、3学年コンプリートだったのにな。

 

「そうか。まぁ……けど、そうだな。明日の体育祭では色々と面白い事になるとは思うぞ」

 

 俺が選手宣誓をやるのなら、丁度いい。

 俺の立場を、A組だけではなくB組にも……そして他の学科にもしっかりと知らせる事が出来る絶好の機会なのだから。

 

「……何かするつもり?」

「そうだな、何かはするつもりだ」

「あまり、私の胃が痛くなるような事はしないで欲しいんだけど」

「俺がやろうとしているのは別に悪い事じゃないから、そこまで心配する必要はないと思うぞ」

「なら、何をやるのか前もって聞かせて欲しいんだけど?」

「その辺は、いわゆるサプライズだな」

「本当にサプライズをされすぎて、私の胃が痛くならないように祈ってるわ」

 

 このまま話を進めるのはちょっと不味いか。

 なら、話題を返る……いや、元に戻すか。

 

「とにかく、明日の件は置いておくとして、今やるべきなのは優の訓練だな。そこで気配……いや、存在感を消して、ジリジリと逃げようとしている優、聞こえているか?」

「ぴぃっ!」

 

 俺の言葉に、優はそんな悲鳴を上げる。

 先程から優が静かだったのは、何とかしてこの場から逃げようとしていたのだろう。

 

「さて、それじゃあ訓練を始める前に……トイレに行っておいた方がよくないか?」

 

 そう言うと、優が涙目で睨んでくる。

 この前の一件について、余程思うところがあったのだろう。

 ……いや、当然か。

 実力もそうだが、ビジュアルで売っていこうとしている優が、俺の殺気を浴びて気絶……だけならまだしも、漏らしたのだ。

 しかもそれを拳藤に見られ、そして後始末までされてしまった。

 それでも拳藤で良かったとは思うけど。

 これが俺に後始末をされたりしようものなら……うん。優の女としてのプライドはボロボロになっていただろう。

 そんな訳で、先にトイレに行っておいた方がいいと言ったのだが、それが優にとっては気に入らなかったらしい。

 

「アクセル、貴方……デリカシーって知ってる?」

「食べた事はないな」

「……食べるものなんだ」

 

 話を誤魔化すが、龍子は呆れたようにそう言ってくる。

 ともあれ、殺気についての訓練を行うという事で、優はトイレに向かう。

 今のやり取りの後でも、優にはトイレに行かないという選択肢はないらしい。

 そして龍子もそれに続き……床の上で、俺と龍子、優が向き合う。

 

「一応言っておくけど、これはあくまでも試しているだけだぞ? 俺が殺気を叩き付ける事によって、それに慣れて殺気を感じられるようになる……かもしれないと、そう思っての実験だ。優は1度実験を受けているけど、龍子がわざわざ自分でやらないといけない訳じゃないぞ?」

「そうかもしれないけど、殺気を感じられるようになるというのは悪くないでしょう。それに……優だけがそういう能力を得るというのは、私も思うところがあるしね」

 

 なるほど、龍子は優の先輩といった立場にいる。

 ただ、立場として……そして実力という点でも、龍子は優よりも上だ。

 だが、その優がもし龍子にもない能力を……具体的には殺気を感じる能力を手に入れたら、どうするか。

 龍子としては、後輩に追い抜かれるのは避けたいという思いもあるし、何よりも自分が強くなる……かもしれない機会をわざわざ見逃そうとは思わなかったのだろう。

 

「……分かった。龍子が本気なら、俺からは何もすることはない。ただ、優は経験をしたから分かると思うけど、殺気を感じるというのはかなり厳しいぞ?」

「ちょっと、それは私に言うべきじゃない?」

 

 俺の言葉に不満そうな様子で優が言う。

 優にしてみれば、龍子にだけそういう忠告をするのが面白くないのだろう。

 

「あー……だってまぁ、優だしな」

「アクセル、私の事を一体どう思って……痛っ! ちょっ、またこれ!?」

 

 俺に向かって不満を言おうとした優だったが、そんな優の言葉を邪魔するかのようにロボット掃除機が優に体当たりをしていた。

 実際にはそこまで痛くはないのだろう。

 あくまでも不意を突かれたから痛いと口にしただけなのだろうが、それでもこうしてロボット掃除機にぶつかられた優にしてみれば不満だったらしい。

 ……何でこのロボット掃除機は、こうも優を敵視するんだろうな。

 やっぱり以前床を散らかしたり、濡らしたりしたのが原因なのか?

 ロボット掃除機の中でも最新鋭でグレードも一番高い奴を買ってきたのだから、AIがもの凄い高性能で一種の自我を持っていても不思議ではない。

 ヒロアカ世界だと、それこそAIに自我を持たせる個性とかあっても不思議じゃないしな。

 何しろブラックホールまでもが個性として存在しているのだから、その辺りの状況を考えるとどんな個性があっても不思議ではない。

 ……まぁ、13号のブラックホールの個性も、本当の意味でブラックホールという訳ではなく、実際にはブラックホールに近い現象を起こせる個性だったりするのかもしれないが。

 

「優がゴミを散らかすから、ロボット掃除機のAIに覚えられているのかもしれないな」

「ちょっと、嘘でしょ。そんな事……」

「……優、貴方……」

 

 俺の言葉に優は反論をしようとするも、結局は何も言えない。

 そして龍子から、呆れた様子で視線を向けられる。

 

「そ……その、ほら。えっと、訓練だったわよね、訓練。今日はお腹も空いてるし、出来るだけ早くご飯を食べたいから、さっさと終わらせましょう。それに、折角美味しいって評判のお店の料理なんだから、冷める前に食べたいでしょ?」

 

 慌てた様子でそう言う優。

 明らかに話を誤魔化そうとしているのだが……まぁ、言ってる内容は間違いないしな。

 龍子も、そんな優の考えを理解したのか、それとも下らない事で時間を掛けたくないと思ったのか、とにかく今はこれ以上ロボット掃除機の件で……もしくは、俺の部屋の床を優が散らかしたといった事については、突っ込むのを止めたらしい。

 ……もっとも、龍子の性格を考えると今は黙っていても、それはあくまでも今だけの話。

 今日の訓練が終わって俺の部屋から帰る時とかに、しっかりとその辺について叱られるかもしれないが。

 まぁ、その辺については俺がどうこう考える事ではない。

 優が自分でそういう判断をした……判断をした訳ではないのだろうが、とにかく自分で選んだ道なのは間違いない。

 

「そうだな。まぁ、俺も夕食は早く食べたいし……とはいえ、色々と準備もあるだろうから、それが出来たら教えてくれ。俺は部屋にいるから」

 

 トイレに行ったり、あるいは……マニアックだがオムツを履いたりするのなら、俺はいない方がいいだろう。

 俺にはデリカシーがないとよく言われるが、そのくらいの配慮は出来る。

 そんな訳で、龍子と優をその場に残し、寝室に入る。

 ……何となく、優が俺を見る目に捨てないでと、置いていかないでと、そんな感情が込められているように思えたが、これについてはきっと俺の気のせいだろうと思っておく事にする。

 俺がここに残ると、説教に巻き込まれそうだったし。

 そんな訳で、俺は寝室に入るとスマホで動画でも見る。

 大食い動画だが、カツ丼を30分で10杯食べるチャレンジをやっており、それを見事に食い切る。

 何らかの個性を使っているのかもしれないが、その辺りについては俺がどうこう言ったりは出来ないだろう。

 動画を見ている者が納得してるのなら、それで問題ないのだから。

 ……ただ、微妙に単調な動画だったので2倍速で見ていたのだが……

 

『個性を使わない大食いで俺に勝てると思う奴、連絡待ってるぜ!』

 

 最後の最後にそんな風に視聴者に挑戦のメッセージを送ってくる。

 

「へぇ」

 

 少しだけ興味深い内容だった。

 なら、俺が挑戦してみても面白いかもしれないな。

 もっとも、もしここで俺が本当に挑戦したとしても、相手がそれを受け入れるかどうかはまた別の話だろうが。

 そして俺がもしこの相手と大食い勝負をやれば……うん、まず負けるという事はないだろう。

 ……とはいえ、俺の立場を考えると必要以上に目立つのは避けた方がいい訳で。

 だとすれば、どこかの店で大食いメニューに挑戦するのならまだしも、こういう動画に出るのは止めた方がいいか。

 そんな風に思っていると、寝室の扉がノックされる。

 

『アクセル、私達は準備出来たから、来てくれる?』

「分かった、すぐに行く」

 

 龍子の言葉に頷くと、部屋を出る。

 するとそこには、強い意志を感じさせる視線を俺に向けてくる龍子と、あまり気が進まないといった様子ながらも逃げる事は出来ないと判断し、素直に俺が来るのを待っている。

 

「さて、じゃあ……準備も整ったみたいだし、始めるか。今回は前回と違って一気に強力な殺気を放つんじゃなくて、少しずつ強めていくから安心してくれ」

 

 そう言い、殺気をジワリと放つ。

 ……結局、この日は粗相の類もなく、それでいて殺気を感じる件についても特に進展はないまま、終わるのだった。

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