いきなりこっちに向かって突っ込んで来る爆豪。
爆発を使って空を飛ぶ……跳ぶのは、ある意味で虚空瞬動に似ている……似ている? いや、どうだろうな。
とにかく俺の目から見ても、悪くない移動方法だと思う。
以前も跳躍して空中で爆発を使って自由に動くといったような事はしていたが、それでもここまで自由自在に空中を動けてはいなかったと思うが。
虚空瞬動を見て思いついたのか、それとは関係なく独自に開発したのか。
その理由はともあれ、最後尾辺りにいた俺が虚空瞬動を使って移動しているのを見た爆豪が、その負けず嫌いや対抗心から俺に向かって攻撃をしてきたのは間違いない。
そんな爆豪に対処しようとしたところで……なるほど。さすが雄英だな。
視界の隅に映った光景から、俺は爆豪を一旦スルーしてそちらに向かう。
「てめえっ、おいコラ、ヒモ野郎! 逃げてるんじゃねえぇっ!」
背後からは爆豪の叫び声が聞こえてくるものの、どう対応するか少しだけ迷う。
あるいはここで爆豪の相手をしてもいいんだが、そうなると俺と爆豪はこの障害物競走で失格になってしまいかねないしな。
俺への強烈な対抗心を抱いている爆豪だったが、それと同時に緑谷に対する強い対抗心……いや、爆豪にしてみれば緑谷は格下である以上、対抗心といった表現は違うのか?
とにかく、緑谷の存在を気に食わないと思っているのは間違いない。
つまり、原作において緑谷のライバル的な存在だったのは間違いないだろう。
だからこそ、爆豪には緑谷に対する試練的な意味で、予選の障害物競走で失格になって貰うのは困る。
「俺に相手をして貰いたかったら、もう少し頑張るんだな。先に行ってるぞ」
「てめえええええええぇっ!」
爆豪の怒声が聞こえてくるが、それ以上は気にしないようにして、先程視界の隅に映った存在……そう、入試の実技試験で出て来た0Pのロボの群れに向かって突っ込んでいく。
だが、俺がロボのいる場所に追いつく寸前に、轟によってロボが凍らせられた。
勿論、全てのロボではなく、自分に向かってきたロボだけを狙ってだ。
集団の先頭を進む轟は、当然ながら巨大ロボに集中的に狙われるものの、それでも全ての巨大ロボが轟を狙う訳ではない。
虚空瞬動を使って轟を追っている俺に向かっても、決して少なくない数の巨大ロボが襲ってくる。
巨大ロボだけに、当然ながら地上を走っている生徒達よりも、虚空瞬動で空を跳んでいる俺の方が狙いやすいというのがあるのだろう。
虚空瞬動を使えば、巨大ロボの攻撃も容易に回避は出来るし、何ならもっと高い場所で虚空瞬動を使えば、巨大ロボには手も足も出ないだろう。
それこそ、俺に向かって攻撃を放っても命中させることが出来ないのだから。
ロケットパンチとかの、何らかの遠距離攻撃の手段でもあれば話は違ってくるが。
だが、入試の実技試験で見た時は、巨大なだけで遠距離攻撃の手段はなかった。
……まぁ、今こうして俺達の前に出た以上、何らかの手段で遠距離攻撃、もしくは対空攻撃の手段を持っていてもおかしくはないんだが、見た感じそういう風ではない。
つまり、巨大ロボの手足の届く範囲から出ていれば、もうこっちに問題はない訳だ。
とはいえ……先程の選手宣誓を思えば、そういう感じで巨大ロボをスルーすれば、俺の実力を知っているA組はともかく、B組や他の学科の生徒達には巨大ロボから逃げたと言われてしまうかもしれない。
まぁ、別にそういう相手にどう言われようとも俺としては構わなかったりするが……ただ、選手宣誓の後にそう思われるのは、少し面白くない。
そんな訳で……
「スマッシュ!」
こちらに向かって拳を振るってきた巨大ロボの一撃を回避し、拳を叩き込む。
巨大ロボは、その名称通りに巨大だ。
それに対し、10代半ばの今の俺の外見は、決して大きくはない。
これが20代の姿になれば、それなりの身長はあるんだが……ただ、それでも巨大ロボとの大きさの差を考えると、誤差の範囲内だろう。
そんな巨大ロボが、俺の振るう拳の一撃であっさりと破壊される。
撒き散らかされる巨大ロボの部品に、ちょっとは後続に対する障害物になるか? と考えながらも、他にも2機、3機と巨大ロボをスマッシュの掛け声と共に破壊していく。
何だかスタジアムの方から興奮したプレゼント・マイクの声が聞こえてくるが……実況でもしているのだろう。
プレゼント・マイクの性格を考えれば、そういう風にやってもおかしくはないし。
「もう追いついてきやがったか!」
巨大ロボを破壊しながらも進み続けていると、先頭を走る轟がそう叫びつつ俺に向かって氷……というか、氷柱と評するのが相応しいのを放ってくる。
おいおい、これはちょっと問題じゃないか?
妨害は何でもありなのは間違いないが、だからといってここまで攻撃性の強い妨害はどうなんだ?
もっとも、俺に攻撃が命中するとは思っていない……そういう意味での信用を抱いて攻撃してきたのかもしれないが。
勝手にそう思いながら、俺は氷柱の攻撃を次々に回避していく。
あるいは轟もある程度は俺に向けて手加減をしていたのかもしれないが。
とにかく氷柱の攻撃を回避しながら、俺は進み続ける。
「じゃあな、お先に」
「くっ!」
からかうように轟からそう離れていない場所を、虚空瞬動で追い越していく。
ここまで来たら、別に虚空瞬動を使う必要はないんだよな。
虚空瞬動を使ったのは、あくまでもゲートで詰まっていた者達を追い越す為なのだから。
そんな訳で、轟から大分前に到着したところで地面に下りる。
「待てやてめえええええええっ!」
ちょうどそのタイミングで、爆豪が俺を追ってきた。
先程のように手の爆発を使って空を跳ぶ爆豪の姿は、見る者を感心させるだろう。
あるいは爆豪の性格を知らなければ、その動きに感動すら覚えるかもしれない。
……それはつまり、爆豪の性格がそれだけドブで煮詰めたクソだという事なのだが。
ともあれ、空を跳びなら俺に向かって一直線に下りてくる爆豪。
しっかりと右拳が握られており、左手だけで空を跳ぶ爆豪が何を狙っているのかは明らかだった。
さて、どうするか。
さっきは見逃した――爆豪に言えば間違いなく激昂するだろうが――ものの、こうして直接攻撃をしてきたとなると、壁となると選手宣誓で宣言した身としては、逃げる訳にもいかない。
なので、俺に命中する寸前に爆豪の右拳にそっと触れ、力の流れを変え……
「おわぁっ!」
背後の、轟のいる方に向かって投げ飛ばす。
この手の合気道や柔術といった類の武術は、得意ではない。
得意ではないが、だからといって苦手という訳でもない。
エヴァと戦闘訓練をしていれば、この手の技術には自然と慣れるのだから。
「へぇ」
吹き飛んできた爆豪を受け止めた轟に、少しだけ感心する。
轟の性格を考えると、てっきり自分に向かって吹き飛んできた爆豪は、回避するか、あるいは氷を使って叩き落とすかするかと思ったんだが。
まぁ、そうなったらそうなったで、爆豪もまた何らかの対応をしたとは思うけど。
爆豪からの罵詈雑言を聞きつつ、折角トップになったので虚空瞬動も瞬動も使わず、普通に走る。
舐めプと言われればそれまでだが、それでも十分にどうにかなるだけの実力を持っているし、何より壁として生徒達の前に立ち塞がると宣言した以上、瞬動や虚空瞬動だけではないというのも見せる必要があるし。
そんな風に思いながら走っていたが……次に見えてきたのは、これは何と表現すればいいのか。
多数の落とし穴……というか崖的な? そんな感じの飛び地とでも言うべき場所が複数用意されており、それぞれがロープで繋がっている。
なるほど、このロープを渡って多数の崖を乗り越えていけと、そういう事らしい。
普通なら結構苦労するだろうが、虚空瞬動を使う俺には意味が……いや、結構な距離があるけど、これなら別に虚空瞬動を使わなくても、素の跳躍力で何とかなるな。
それでもし落ちそうになったら、その時は虚空瞬動を使えばいい。
虚空瞬動については、それこそA組の関係者くらいしか知らない。
何も知らない奴にしてみれば、俺がここで虚空瞬動を使わないのは何らかの制限があると思う可能性が高かった。
まぁ、実際には俺の虚空瞬動は魔力を使っているので、魔力を消耗しているのだが……うん。魔力については、SPブーストの効果によって時間経過で普通に回復するし、元々魔力……ステータスでならSPがもの凄く高いので、虚空瞬動で消耗した魔力程度なら、すぐに回復する。
これについては予想しろといった方が無理なので、仕方がないが。
ともあれ、虚空瞬動の使用について何らかの制限があると認識してくれば、それはそれで俺にとっては悪くない。
それに……雄英の体育祭という事で、今日は多くの観客がいるし、TVで放送もされている。
であれば、ヴィラン……それにヴィラン連合でも、俺の存在を認識している者もいるだろう。
そういう連中に誤解をさせる為にも、俺のこの行動は決して悪いものではない筈だった。
ともあれ、俺は走っている足を止めることなく、そのまま跳躍する。
ぶっちゃけ、一度その場で足を止めてから跳躍しても全く問題はなかったりするのだが……うん。
わざわざそうする必要がないので、こうして走ってきたまま跳ぶ形となる。
俺にとっては、既になれた浮遊感と共に、最初の飛び地に着地する。
そのまま数歩の助走と共に跳躍し、次の飛び地へ。
そんな具合で、次から次に跳んでいく。
ちなみに後ろを確認してみれば、爆豪は先程と同じように爆破の個性で空を跳んで移動しており、轟はロープを凍らせてその上を滑って移動していた。
……爆豪はともかく、轟なら氷の橋かなにかを使って移動すればいいと思うんだが。
そう出来ない何かがあるのか?
まぁ、轟は轟で色々とあるのだろうが……その辺りについては、今は特に考えなくてもいいか。
あるいは俺が虚空瞬動を使うのを止めたように、TVを見ている相手に自分の実力を誤解させようと思っているのかもしれないし。
そうなったらそうなったで面白いとは思うが、今はそれよりも早く進むのを優先するか。
「待てやごらぁっ!」
とんでもない形相で……もはや顔芸の一種と言ってもいいような顔で俺を追ってきている爆豪もいるし。
うん、これTVで放映してもいいのかどうかは微妙だよな。
俺のヒーローコスチュームがヴィラン系……もっと言えば大魔王系であるというのは多くの者が知っているが、爆豪の場合はその顔がそもそもヴィランっぽいしな。
そんな風に思いながらも、俺は跳躍して次々に飛び地を通りすぎていく。
トン、トトトトン、トン。
そんな感じで移動する俺を、爆豪は必死に追ってくる。
轟も必死になってロープを凍らせて追ってきていたが、1歩遅れた形だ。
「よし、ラスト!」
最後の飛び地を蹴って、崖の向こう側……きちんとした地面に着地すると、そのまま走り始める。
すると次に見えてきたのは……
「地雷原、か」
微かに聞こえてきたプレゼント・マイクの声から、次に用意されたのが地雷原であると知る。
地雷原……地雷原ね。
ぶっちゃけ、俺にとってこんなのは全く意味はない訳で。
追ってきた爆豪との距離も多少縮まった事だし、ここからは少し本気を出すか。
地雷原の様子を一瞥すると、瞬動を利用する。
軍人としての俺の知識からすると、地雷というのは色々な種類がある。
その多くが踏んだ瞬間に爆発するものの、それでも1秒にも満たない猶予時間はある訳で……つまり、その1秒にも満たない時間で地雷の上を通ってしまえば爆発しない。
そして俺の瞬動は、その条件を余裕で達成出来ていた。
その為……
ドガン、ドガンドガンドガンドガンドガンドガンドガンドガンドガンドガンドガンドガンドガンドガンドガンドガンドガンドガンドガンドガンドガンドガン、と。
俺が瞬動で走り抜けた痕跡を辿るように地雷が爆発していた。
……ぶっちゃけ、この地雷はあくまでも兵器であって、魔力や気は勿論、個性によるものでもないので、俺なら普通に地雷原を歩いても何の問題もなかったのだが。
よく考えたら、そうなったらそうなったで、観客席では盛り上がったかもしれないな。
そんな風に思っていると、背後では爆豪の怒声が聞こえ、轟が氷で地雷原を凍らせ、その上を滑っているのが確認出来た。
そして爆豪と轟のもっと後ろからは、同時に幾つもの地雷が爆発した轟音が聞こえてくる。
何だ? と一瞬だけそちらに視線を向けると、そこでは金属の板? 装甲? 盾? そんなのに乗っている緑谷が空中を跳んでいた。
それを見て、何となく何をしたのかを理解するも……うわぁ、と。
さすが主人公と思いつつ、こちらに迫ってくる緑谷から逃げるようにして走り……そのままスタジアムの中に入り、見事1位となるのだった。