途中でリタイアした者達以外の全員がスタジアムに戻ってきたところで、順位が発表される。
1位俺、2位緑谷、3位轟、4位爆豪……といった具合に。
ただ、少し……いや、大分驚いたのは、5位に塩崎がいた事だった。
……あれ? スタジアムに戻ってきた姿を見たか?
そう思ったが、多分緑谷、轟、爆豪が纏まってきたので、その時に印象が薄かったのかもしれないな。
もっとも、俺は塩崎とそこまで仲が良い訳じゃない。
食堂で1度会っただけなので、そう考えれば無理に声を掛ける必要もなかったのだろうが。
ともあれ、上位に入った生徒は予想通り殆どがヒーロー科の生徒となっている。
勿論、全員がそうだとは限らない。
普通科の生徒の男が1人。……この男はA組に宣戦布告に来たと言った男だな。
あとは、サポート科の女か。
……峰田がじっとその女を見ている事から分かるように、ヤオモモ級の巨乳の持ち主だ。
多分だが、峰田はサポート科にもちょっかいを出していたんだろうな。
そんな風に思っていると、ミッドナイトの声が周囲に響く。
「予選通過は、上位42名。残念ながら落ちちゃった人も、まだ見せ場はあるから安心しなさい!」
そう言うミッドナイトの言葉に、他の生徒達……予選落ちの生徒達はそれぞれ微妙な表情を浮かべている。
ミッドナイトの言葉に喜んでいる者もいれば、ミッドナイトの言葉が面白くないといった者、あるいは自分達には関係ないのでそれが終わったと、安堵している者もいる。
「さーて、第2種目よ! 私はもう知ってるけど……一体、何かしらね?」
障害物競走が公表された時と同じく、モニタからはドゥルルルルルといった音が聞こえてくる。
うーん、イベントを盛り上げる為の演出も上手いな。
雄英の教師達も、この体育祭が全国放送なのをしっかりと理解しているのだろう。
「これよ!」
じゃん、という音と共にモニタに表示されたのは、騎馬戦。
騎馬戦……騎馬戦か。
体育祭らしいと言えばらしいのかもしれないな。
他の生徒達も、騎馬戦という個人競技ではないのをどうするのかと呟いたりしていたが、ミッドナイトはそれに答える……というよりも、最初から説明するつもりだったらしく、口を開く。
「参加者は2人から4人のチームを自由に組んで、騎馬を作って貰うわ。基本は普通の騎馬戦と同じルールだけど、1つ違うのが先程の障害物競走の結果に従って各自にポイントが振り分けられる事」
「入試のみてえなポイント稼ぎ方式か。分かりやすいな」
「つまり組み合わせによって騎馬のポイントが違ってくると」
「あんた達、私が喋ってるのにすぐ言うね!」
砂藤や常闇、上鳴達がそれぞれに感想を口にしていると、ミッドナイトからの突っ込みが入る。
……司会をしているミッドナイトにしてみれば、自分が言うよりも前に先回りされるように言われるのは面白くないんだろうな。
「とにかく、与えられるポイントは下から5Pずつ! 42位が5P、41位が10P……といった具合よ。そして……」
そこで言葉を止めたミッドナイトは、俺に視線を向けてくる。
え? 何でそこで言葉を溜めて、意味ありげに俺を見てくる?
そんな疑問を感じていると……
「1位に与えられるポイントは、1000万!」
万、万、万……と、ミッドナイトの言葉がスタジアムの中に響く。
最初、俺を含めた皆がミッドナイトの言葉の意味を理解出来なかったが、頭の中に今のミッドナイトの言葉が入ってくると、思わず頬が引き攣る。
そして他の面々の視線も、俺に向けられる。
特にB組の生徒達の視線が、強烈に俺に向けられていた。
う、うーん……これは……明らかに俺だけが集中攻撃されるタイプでは?
「上位の奴程狙われる、下剋上サバイバルよ!」
ミッドナイトの言葉が再度スタジアム内に響き渡り、そのままミッドナイトは言葉を続ける。
「上に行く者には更なる受難を、雄英に在籍する以上、何度でも聞かされるよ。これぞ校訓のPlus Ultra。予選1位通過のアクセル・アルマー君。持ちポイントの1000万!」
改めてミッドナイトがそう言うと、俺の周囲にいる多くの者達の視線が俺に向けられる。
特に爆豪の視線は、それこそ殺気混じりと評してもいいような――実際には微妙に違うが――視線を俺に向けていた。
……これで爆豪と組んだりしたら、それはそれで面白そうだけど、爆豪の性格を考えると、間違いなくそれは拒否してくるだろう。
いや、爆豪以外でも同じか。
俺と一緒にいれば、間違いなく狙われる。
それも1人や2人ではなく、多くの者達から。
さて、そうなると……この状況はどうするべきか。
誰と組むか……いや、この場合は組めるかといったような事を考えている間にも、ミッドナイトが騎馬戦のルールを説明していく。
「騎馬を組んだ生徒達の合計がその騎馬のポイントとなって、騎手はそのポイントの数値が書かれたハチマキを装着! 終了までハチマキを奪い合い、制限時間になった時に保持しているハチマキの合計ポイントを競うのよ」
そうしてミッドナイトが説明している間にも、生徒達は自分が誰と組むのが一番いいのかといったことを考えながら視線でやり取りをしていたりする。
……何気にそのような状況でも俺に視線を向けてくる奴がそれなりにいるのは少し驚きだったが。
ただ、それは俺と組もうといった事を考えているよりも、最大の標的である俺を狙って……獲物を狙う視線のような感じではあったが。
「他の選手から奪ったハチマキは、必ず首から上に巻く事。取りまくって多くを集めれば、それだけ管理が大変になるから注意してね。そして重要なのは、ハチマキを取られても、騎馬を崩されてもアウトにはならないって事!」
え? マジか?
ミッドナイトの言葉にそう突っ込みたくなる。
今の説明が正しければ……いや、教師であるミッドナイトが説明している以上、それが実は間違いでしたとか、そういう事はまずないんだろうが、とにかく説明からすると一度ハチマキを奪われてもずっと競技には参戦して、また他の騎馬からハチマキを奪うといった感じになる訳だ。
ミッドナイトの説明に、当然ながら他の者達も俺と同じように近くにいる者達と会話をしていた。
「個性発動ありの残虐ファイト! でも……あくまで騎馬戦! 悪質な騎馬崩し目的の攻撃等はレッドカード。一発退場となります」
鞭を手に、そう説明するミッドナイト。
これは、ちょっと俺にとっては不利……いや、別にそうでもないか?
俺の個性、混沌精霊は他の者達からはその名前とは裏腹に増強系の個性と認識されている。
そういう意味では、普通に身体能力だけでどうとでも対処しようと思えば出来る。
出来るのだが……増強系としての能力を使うとなると、騎手でないと実力は十分に発揮出来ないな。
中距離や遠距離で攻撃出来るタイプの個性なら、騎馬であっても個性を使ったりも出来るだろうけど。
「それじゃあ、これから15分! チームを決める交渉時間のスタートよ!」
その言葉と共に、予選を勝ち抜いた生徒達が一斉に動き始めるが……
「アクセル、私と組もう!」
「……は? 本気か?」
三奈が真っ先に俺の方にやって来て、そう言ってくる。
「やっぱりここはアクセルと協力した方がいいだろうしな」
「そうそう。アクセル君と一緒にいると安心出来るし」
続いて瀬呂と葉隠も俺の側にやって来る。
そして、少し遅れてヤオモモもやって来るのだが……
「あら、少し遅れてしまいましたわね、私は余ってしまいましたか」
ヤオモモがそう言い、俺達から離れて行く。
まぁ、騎馬は最小2人、最大でも4人だ。
三奈、瀬呂、葉隠が順番に来たとなれば、そこに俺が加わってしまうと、それで4人になってしまい、最大人数だ。
……ただ、ヤオモモのその判断は間違ってないが、遅かったからといってさっさと離れていくってのはどうかと思うんだが。
ぶっちゃけ、創造の個性を持つヤオモモはいればそれだけで十分戦力になる訳で。
まぁ、だからといって他の誰かをこっちで切り捨てるといった事は、ちょっとやりたくはないし。
あるいはヤオモモはその辺についても考えて、俺を悩ませないように自分から離れていったのかもしれないな。
それにしても……
「俺と一緒にいれば、間違いなく狙われるんだぞ? なのに、そんな俺と組みたいとか……本気か?」
「あのな、言っておくけど別に俺はアクセルを哀れんで組んだ訳じゃないからな。単純に、アクセルの強さを知ってるから、アクセルと組めばこの競技でトップになれると思っての事だ」
瀬呂の言葉に、なるほどと頷く。
実際、瀬呂は俺の強さを十分に知っている。
そうである以上、俺と組めばこの騎馬戦で優勝するのも夢ではないと判断したのだろう。
三奈と葉隠の2人も、どうやら瀬呂と同じ意見らしい。
俺と組めば間違いなく敵に狙われる。
だが、狙われたとしても、俺がいればそれを撃退するのは難しくない……それどころか、相手から余計にハチマキを奪えると、そう判断したらしい。
「分かった。なら、狙うのは当然ながら完全無欠の1位だ。他の騎馬のハチマキを全部奪うつもりでやるぞ」
「それでこそアクセルだよな」
「うんうん、目指すは優勝だよ!」
「うわぁ……何だか、アクセル君が言うと、本当に出来そう」
こうして、1000万ポイントを持つ俺にとっては一番苦労するだろうチーム分けは、予想以上にあっさりと終わった。
というか、ざっと見た限り俺達が最初のチームじゃないのか?
ミッドナイトが始めと言ってから、それこそ数分も経たないうちに騎馬は決まったしな。
「それで、騎馬と騎手だけど、俺が騎手って事でいいか?」
「俺は騎馬でも個性で問題ないからいいけど」
「私も酸を出すのは騎馬でも問題ないよ!」
俺の言葉に瀬呂と三奈がそれぞれ答えてくるが、葉隠をどうするかが問題だった。
瀬呂と三奈は自分で言ったように、離れていても攻撃は出来る。
だが、葉隠の個性は透明になるという奴で……考えようによっては強力だが、言ってみればそれだけでもある。
透明になったからといって、手が伸びる訳でも、あるいは自分が触れた物を透明に出来る訳でもない。
でなければ、ヒーローコスチュームで全裸になったりはしないだろうし。
「えっと……今回私はあまり役に立ちそうにないし、下で騎馬をやってるよ。……あ、でも体操服を脱いで本気モードになったら、誰にも見えなくなるから、実はアクセル君の騎馬は3人で構成されていると、他の人に誤解させることが出来るんじゃない?」
葉隠のその意見は、勝算だけを考えれば決して間違いではない。
間違いではないのだが……
「それはちょっと……いや、絶対に止めて欲しいんだけど」
俺が何かを言うよりも前に、瀬呂がそう言う。
無理もないか。
俺は騎手……つまり、瀬呂、三奈、葉隠の上にいるので問題はないが、瀬呂は騎手として三奈や葉隠と密着する。
そんな時、葉隠が全裸であったりしたら、瀬呂の瀬呂が大変な事になってしまう。
ましてや、この体育祭は全国放送……場合によっては日本以外の場所でも放映されたりするかもしれないのに、そこで瀬呂の瀬呂が目立つような事になったら、瀬呂にしてみれば最悪の未来しか待っていない。
だからこそ、葉隠には体操服を着たままでいて欲しいと願っているのだろう。
……とはいえ、体操服を着ていても三奈も葉隠も双方共にA組ではヤオモモに次ぐ女らしい体型だ。
それと密着するのだから、瀬呂は……・
「あ」
少し離れた場所で障子と何かを話していた峰田が、いつものように血涙を流してこっちを睨んでいる。
……ただし、睨まれているのは俺じゃなくて瀬呂だったが。
この面子なら、俺が騎手をやるのは容易に想像出来る。
つまり、峰田から見れば三奈と葉隠と密着するのは瀬呂という事になり、必然的に峰田から睨まれるのは瀬呂になる訳だ。
「瀬呂」
「うん? ……げ」
瀬呂を呼び、峰田に視線を向けると、それを追った瀬呂は血涙を流しながら睨み付けてくる峰田の存在をしっかりと見て、そんな声を上げる。
瀬呂もまた、自分が峰田に睨まれる理由については十分に理解しているのだろう。
「ええっと、アクセル。何か用事はないか?」
「突然そう言われてもな」
瀬呂は少しでも峰田から離れようと、そう言ってくる。
そんな瀬呂の言葉に、俺はそう返すも……
「あ、そう言えばあったな。ちょっとミッドナイト先生に聞きたい事があったんだ」
「分かった。じゃあ行こう!」
そう言い、瀬呂は俺を引っ張ってミッドナイトのいる場所に向かう。
なお、三奈と葉隠の2人も何となくといった様子で俺達と一緒に来た。
「あら、どうしたの? もう騎馬は決まったみたいだけど、他の騎馬が決まるまで、ちょっと待ってて欲しいんだけど」
「いや、ちょっと聞きたい事があって。……騎手が地面に下りるのは駄目らしいですけど、空中を移動するのは問題ないんですか?」
俺のその問いに、ミッドナイトは虚空瞬動について思い当たったのだろう。
笑みを浮かべ、問題ないと告げるのだった。