リューキュウとマウントレディとの昼食を終え、その後のゆっくりしたやり取りを終えた俺と拳藤は、そろそろ昼休みが終わるという事でクラスと合流するべく廊下を歩いていた。
「えっと……まぁ、その……リューキュウとマウントレディも、今日は体育祭って事で少し羽目を外しすぎただけなんだろうし……な?」
「……何でアクセルは照れてないんだよ」
俺の言葉に足を止めた拳藤が、不満そうに俺を見てくる。
リューキュウとマウントレディが、拳藤をからかっていたのは分かる。
また、そのからかう相手が俺じゃなくて拳藤に向けられたのは、俺はからかい甲斐がないからだと思ったのだろう。
からかいの矛先が拳藤に向けられたのは、俺をからかおうとしても、照れたり慌てたりしないから、面白くないと思ったのだろう。
うん、そういう意味ではからかいの標的が拳藤に向かったのは悪いと思う。
ただ……俺の場合、何しろ恋人が20人以上いる身だ。
今はゲートが設置されていないので気軽に会いに行ったりとかは出来ないが、それでも誰かとの仲をからかわれたくらいで拳藤のように見て分かる程に慌てるといったことはまずない。
姐御系の拳藤が、ああやって見て分かる程に慌てているのは、リューキュウやマウントレディにとっては面白かったのだろう。
リューキュウも面倒見がよく、どちらかと言えば姐御系と言ってもいいし、マウントレディの場合は……うん。お漏らしの件があるから、拳藤をからかいたくなるのは分からないでもなかった。
「照れてはいるけど、俺はその辺、顔に出にくいからな」
この言葉は少しだけ大袈裟だったが、決して嘘という訳ではない。
拳藤のように、見て分かる程に照れはしなかったが、拳藤との関係について言われた時、全く何も感じなかったのかと言えば、それは否なのだから。
「ふ、ふーん。……アクセルも照れたのか」
幸いにも、拳藤は俺の言葉に納得したらしい。
……とはいえ、この様子を見ると決してそれだけって訳ではないのか?
そんな風に思っていると……
「あ、いたいた。拳藤、遅かったね。アクセルとの昼食は楽しかった?」
「取蔭さん、そのようにからかうのはどうかと思います。愛とは大いなるものなのですから」
取蔭と塩崎が姿を現し、そう言ってくる。
「ちょっ、お前達まで一体何を……」
「え? あれ? ……えっと……ごめん、もしかしてマジだった?」
「ばっ、違うってば! ほら、行くよ!」
そう言い、拳藤は俺を……そして取蔭と塩崎を置いて、1人でずんずんと進んでいく。
「えっと、その……アクセル。もしかして私、何かミスった? あの様子だと、もしかして図星だったとか?」
「愛ですね」
置いていかれた取蔭が俺にそう聞き、何故か塩崎がそんな風に言う。
「いや、愛って……まぁ、その、マウントレディに色々とからかわれたんだよ」
実際にはリューキュウもいたのだが、マウントレディ1人で結構な騒ぎになるのは目に見えているから、リューキュウについては言及しない事にする。
「え? そうなの? あー……うん。拳藤はそういうのにあまり耐性ないらしいしな」
「大いなる愛ではないのですか?」
「……塩崎、何でも愛に結びつけるのはどうかと思うんだが。それを言うのなら、塩崎だって誰かに愛を……特別な意味での愛を向けられていたり、向けていたりするんだろうし」
塩崎はこの世界の法則……とまで言っていいのかどうかは微妙だが、とにかく名前が茨という通り、髪の毛が茨となっている。
だが、その顔立ちは間違いなく整っており、清楚系美少女と呼んでも誰も否定しないだろう。
いや、否定しないどころか、寧ろ多くの者が納得すらする筈だ。
それだけに、塩崎も中学校では多くの男にモテていただろうし、告白もされていただろう。
「……私は、今は信仰に殉じるだけですので、そのような事に気を回すつもりはありません」
あっさりとそう言ってくる塩崎。
まぁ、塩崎の性格を思えば、そういう風に言ってもおかしくはないのだが。
いわゆる、修道女的な感じか。
「あー……うん。塩崎ならそうかもしれないな。ともあれ、拳藤はマウントレディに色々とからかわれて、その手の話題に過敏になってるだけだ。今はともかく、もう少ししたら落ち着くと思う」
「へぇ、でも本当にそれだけなのか?」
「ん? 何がだ?」
俺の言葉に疑問を抱いた様子でそう言ってくる取蔭。
今の俺の説明に、何か怪しいところでもあったか?
そう思ったのだが、俺が視線を向けると取蔭は首を横に振る。
「いや、何でもないよ。ちょっと考えすぎただけかも。じゃあ、私達は行くから。皆を待たせすぎるのもどうかと思うし」
「では、失礼します」
取蔭と塩崎はそう言って拳藤の後を追い掛ける。
結果として、その場には俺だけが残され……そして、俺もA組と合流すべく歩き出すのだった。
「アクセルゥッ! お前、マウントレディと一体どういう関係なんだよ!」
「おわぁっ!」
べしっと。
叫びながら突っ込んで来た峰田を、反射的に叩き落とす。
だが、地面に叩き付けられたと思った峰田は、地面にぶつかった瞬間に跳ね返ってくる。
「ははは、オイラを……って、わああああああ!」
跳ね返った峰田が何かを言おうとしたが、その瞬間何かが……いや、俺の目にはしっかりと見えたが、梅雨ちゃんの舌が飛んできてその身体に巻き付き、引っ張っていった。
「えっと……?」
戸惑いの声を出す。
いやまぁ、峰田がいつもの如く峰田するのは予想出来ていた。
何しろ、マウントレディが直接俺を名指しで迎えにきたのだから。
その時は峰田もいたのだから、俺が戻ってくればマウントレディとどういう関係なのかといったことを聞いてくるのは容易に予想は出来ていた。
出来てはいたが、俺が叩き付けた瞬間にモギモギを使って跳ね返ってくるというのは予想外だったし、次の瞬間に梅雨ちゃんの舌が伸びて峰田していた峰田を連れ出すのは予想外だった。
「あー……うん。峰田も色々と我慢の限界だったみたいだし……その、な?」
そんな峰田のフォローをするように、峰田の相方というか、親友の上鳴がやってきて、そう言う。
「まぁ、峰田だしな」
「……悪いな」
「この場合、謝るのは上鳴じゃなくて峰田じゃないか?」
「まぁ、その……ほら。それよりも、皆が待ってるし向こうに行った方がいいと思うぞ?」
「ん? まぁ、上鳴がそう言うのならそうするか」
何だか妙に上鳴が俺をこの場から離れさせようとしているのが気になるが……とはいえ、ここにいるとまた峰田が突っ込んできかねない。
なら、今は素直に上鳴の言葉に従っておいた方がいいだろう。
そんな訳で、俺は上鳴が皆がいると言っていた方に向かうのだが……
「ねぇねぇ、アクセル君。マウントレディとどんな関係なの? マウントレディはそのルックスもそうだし、何より巨大化といった強力な個性を持っていて、最近凄く注目されているプロヒーローなんだ。それに、リューキュウとチームアップをして……」
ブツブツブツブツと、緑谷が何かを呟き続ける。
……うん。まさか緑谷が真っ先に話を聞きに来るとは思っていなかった。
とはいえ、峰田と上鳴はさっきの場所にいたし、他にも梅雨ちゃんや……というか、三奈、葉隠、耳郎、麗日といった女が全員いないな。
「三奈達は?」
ブツブツ呟いている緑谷はスルーし、近くにいた砂藤に尋ねる。
だが、その砂藤は俺の言葉にその印象的なタラコ唇を開く。
「何だか峰田や上鳴が用事があるって言ってたな」
「……ああ、ここに来る途中で会ったな。梅雨ちゃんもいたみたいだったけど……それより、そろそろ我に返れ」
パコン、と軽く緑谷の頭を叩く。
「え? あ、ごめんアクセル君。まさかマウントレディと知り合いだったとは思わなくて、少し興奮したみたい」
「……まぁ、うん。そういうのも緑谷らしいしな」
実際、緑谷はオールマイトのディープなファンであるだけではなく、ヒーロー全体のファンとして深い知識を持っている。
日本のヒーローだけでもプロヒーローで数百、数千、あるいは万単位でいるのに、そんなプロヒーローについて全て覚えてるのはでないかと思える程に詳しい。
……まぁ、さすがにプロヒーロー全員について覚えているといった事はないと思うけど。
ただ、こういう……いわゆるオタクは、常人には理解出来ない記憶力を発揮したりするしな。
特に緑谷はこの世界の原作の主人公とほぼ確定している。
であれば、主人公的な能力によってプロヒーロー全員についての詳細について知っていても……いや、やっぱりおかしいだろ。
主人公として地味で落ちこぼれというのは分からないでもない。
圧倒的な増強系の個性を持つという意味で主人公なのも、納得は出来る。
だが……そこにプロヒーローオタクという要素が来るのは、正直どうなんだ?
いやまぁ、あるいはそれが後々何らかの役に立つとか、そういう意味でもフラグというか、伏線といった可能性もないではないが。
ともあれ。マウントレディでこうなるのなら、リューキュウについては話さない方がいいだろう。
マウントレディはプロヒーローとして相応に人気があるし、ヒーロービルボードチャートでも上位に入るのは間違いないと言われている。
そんなマウントレディよりも格上の存在で、次のヒーロービルボードチャートにおいてトップ10に入るのは間違いないと言われているのが、リューキュウなのだ。
リューキュウは実力もそうだが、その美貌であったり、何よりドラゴンに変身出来るという点からも、多くの者達に人気がある。
そうなれば、当然ながら緑谷もリューキュウについてもの凄い興味を持っていてもおかしくはなかった。
「緑谷はそういう感じでいいけど、まだ午後の部は始まらないのか?」
午後は最初に体育祭の最終種目についての話をして、その後にレクリエーションをやって、それが終わってから実際に最終種目が行われる事になっていた筈だが、その午後の部はまだ始まっていない。
いや、時間的にまだ昼休みは終わっていないので、午後の部がまだ始まらないのは別にそうおかしな事ではないのだが。
「まだ昼の休憩は終わってないから、もう少し待つ必要があるだろうね」
青山が俺に向かってそう言ってくる。
そう言えば、最近青山は妙に声を掛けてくるんだよな。
もっとも、青山はA組でも少し浮いているような感じだし、それを思えば青山のこの行動はそんなにおかしな事ではないだろうけど。
「青山も最終種目には進んだよな?」
「勿論だよ。僕の煌めきで皆をKOしてみせるさ」
煌めきでKOって……いやまぁ、青山の個性はビームを放つという強力なものではあるが。
とはいえ、そのビームを使いすぎると腹痛になるらしいが。
そういう意味では、結構使いにくい個性ではあるのだろう。
「あー……うん。最終競技がどういう競技なのかは分からないけど、もし当たったらよろしくな。俺も手加減はしないから」
「あ……あはは。そうだね。僕も負けないように頑張るよ」
笑みを浮かべながらそう言うと、青山は俺から離れていく。
一体なんだったんだろうな。
もしかして、今のは俺に対する宣戦布告だったのか?
……宣戦布告といえば、普通科の心操も騎馬戦の時にちょっと不思議だったよな。
何だかよく分からない感じでショックを受けた様子を見せていたけど……一体何だったのやら。
「なぁ、アクセル。ちょっといいか?」
「うん? どうした?」
次に声を掛けてきたのは、瀬呂。
どことなく緊張した様子を見せているのは、もう少ししたら最終種目が始まるからか?
いや、瀬呂とはそれなりに親しいが、俺が知ってる限りだと瀬呂が大勢の観客の前でそこまで緊張するとは思えない。
だとすれば、何かがあるのだろう。
それが何なのかは分からないが。
「最終種目、何だと思う?」
「それを俺に聞いてもな」
そもそも俺はこの雄英の体育祭そのものが、初めて体験する。
とはいえ、オリンピックの代わりになっているといったように言われている以上、何も知らないとか、そんな風にはまさか言えないしな。
となると……
「そういうのは、それこそ俺よりも緑谷に聞いた方が分かりやすいんじゃないか? 緑谷、どうだ?」
「え? ここで僕? えっと……種目そのものは分からないけど、例年通りだと基本的に1対1の種目になるよ」
緑谷が言う以上、恐らくそれは間違いではないのだろう。
……1対1の種目か。
俺にとっては意外にやりやすいかもしれないな。
騎馬戦のように集団で行動するのも苦手という訳ではないが、やっぱり一番得意なのは個人戦なんだよな。
それに選手宣誓で言ったように、俺は他の生徒の壁として存在している。
そうである以上、個人戦としての強さをしっかりと見せつけるというのは、俺にとって決して悪い事ではない訳で。
「そうか。なら、思う存分戦うとしよう。……優勝を目指してな」
緑谷を挑発するようにそう言うと、緑谷の目にも決して負けないという対抗心の色が宿るのだった。