昼休みが終わり、レクリエーションが始まったのだが……
「どんなサービスだ?」
俺は視線の先にいる面々……A組の女達がチアガールの格好をしているのを見て、そう言う。
ちなみにこの体育祭の為にわざわざアメリカから本場のチアガールを呼んだらしく、離れた場所ではチアガールが激しい応援……というか、ダンス? とにかくそういうのをやっていた。
わざわざ学校の体育祭で海外から本場のチアガールを呼ぶというのは、どうなんだ?
そう思わないでもなかったが、雄英の体育祭はオリンピックの代わりといったことになっていると思えば、海外からチアガールを呼ぶというのもそうおかしな話でもないのか。
ただ……身内の贔屓目というのもあるかもしれないが、海外からやって来たチアガールとA組女子のチアガールを見比べると、素材という意味では決して負けていない。
勿論、負けていないのはあくまでも素材……つまり見た目だけの話で、向こうも海外から呼ばれるチアガールだけあって、チアガールとしての動きは間違いなく上だろう。
「ちょっと、アクセル。そんなにジロジロ見ないでよね。……照れるじゃん」
三奈が少し恥ずかしそうに言う。
ヒーローコスチュームでは胸元が大きく開いたのを着ており、露出度という意味では、三奈のヒーローコスチュームよりもチアガールの衣装の方が少ない……あー、うん。どうだろうな。
いや、胸元という意味では間違いなく三奈のヒーローコスチュームの方が上だろうが、三奈のヒーローコスチュームは下半身は足とかもしっかりと隠れているのに対して、今のチアガールの衣装は足が大きく露出している。
足好きな性癖を持つ者にしてみれば、こっちの方がいいと言う者もいるだろう。
プレゼントマイクの驚いたような声が聞こえてくると同時に、ヤオモモが落ち込んだ様子を見せる。
……いや、けど……A組の面々が本場のチアガールに素材では負けていないと言ったが、ヤオモモは……素直に凄いな。
アメリカからやって来たチアガール達は、さすが海外と言うべきか、その身体付きは誰もが大人っぽい、言ってみればむしゃぶりつきたくなるような感じのボディラインをしている。
三奈はそんな相手に身体付きでも負けていないが、ヤオモモの場合はその身体付きという点でも間違いなく勝っている。
他の面々も、普段見る事のない――まだ一緒のクラスになってからそんなには経っていないのだが――チアガールの姿だけに、チラチラと目を向けている者が多い。
緑谷までもがチアガールとなったA組の女子に……いや、麗日だけか? とにかくそちらに視線を向けている。
勿論、チアガールになったA組女子に視線を向けているのは、A組の男だけではなく、B組の男や他の科の男達も視線を向けていた。
……心なしか、アメリカから来たチアガール達の動きが一際激しくなったような気がする。
もしかしたら、素人のA組チアガールが男の目を引き付けているのが面白くなかったのかもしれないな。
それで観客の目を自分達に向けるべく、今までより激しい動きのダンスになったのかもしれない。
「……峰田さん、上鳴さんっ!」
チアガールの衣装のまま、ヤオモモが峰田と上鳴の名前を呼ぶ。
なるほど、どうやら今回の一件はあの2人の仕業だったらしい。
とはいえ……葉隠なんかはチアガールの格好をするのを喜んでいて、嬉しそうに踊っている。
葉隠の性格を考えると、そういう風にしたくなるのは分からないでもない。
その辺を思えば、峰田と上鳴のやった事も決して悪くはないと……
『ぎゃああああああ!』
あ、耳郎のイヤホンが峰田と上鳴の身体に突き刺さって……いや、接触しただけか?
ともあれ、耳郎のお仕置きによって峰田と上鳴が悲鳴を上げている。
まぁ、分からないではない。
耳郎はクール系というか、自分が女らしくないと思っているタイプだ。
ヤオモモの言葉を聞く限りでは、どうやら峰田と上鳴が相澤からの指示だと言ってチアガールの衣装をヤオモモに用意させて着せたようだが……そういう理由でもなければ、耳郎が自分からチアーガルの衣装を着るといった事はないだろう。
それだけに、峰田と上鳴によって騙されてチアガールの衣装を着たとなれば、我慢出来る筈もなかった。
ましてや、この光景は日本中に放映されているのだから、余計に。
多分、耳郎にしてみれば今回の一件は完全に黒歴史だろう。
「耳郎のチアガールも、そう悪くはないと思うけどな」
「……アクセル?」
俺の呟きが聞こえたのか、耳郎は峰田と上鳴をお仕置きしていたイヤホンをこちらに向けてくる。
その頬が薄らと赤く染まっているのは、チアガールの服装の問題か、それとも俺の言葉を聞いたからか。……前者だろうな。
「イヤホンは引っ込めてくれると助かるんだがな。……実際、俺以外の者でもそう思っている奴は多そうだぞ? 特に耳郎は恥ずかしがっている姿が……っと!」
俺の言葉の何に反応したのか、素早く飛んでくるイヤホンを回避する。
実際、耳郎の場合は体型が……うん、まぁ、それはともかくとして、その照れた様子が魅力的に映るのは間違いないのだから。
例えば美人とそういう雰囲気になった時も、開けっぴろげに脱ぎ散らかすのと、恥ずかしがりながら服を脱いでいく、どちらがぐっとくるかというようなものだ。
だから、もし耳郎が自分のチアガール姿に興味を持たれたくないのなら、今のように恥ずかしがったりせず、寧ろ堂々とするべきなのだ。
耳郎の性格を考えると、それはそれで無理なような気もするが。
「うるさい! どうせアクセルも私をからかってるんでしょう!?」
その言葉と共に、2本のイヤホンが縦横無尽に動いて俺に向かってくる。
あのイヤホンに触れると、音が身体に叩き込まれる。
いやまぁ、それが混沌精霊の俺に通じるかどうかは、また別の話だが。
とはいえ、基本的には……あ、そうか。
今この場になって、ようやく騎馬戦の時の心操の驚きの顔を理解する。
多分、あの時心操は俺に何らかの個性を使ったのだ。
心操人使……感じからすると、多分心を操って人を使う……洗脳とかそんな感じか?
騎馬戦の時に俺を洗脳しようとした結果、効果がなかった。
何故だ?
いや、俺としては個性が効かないのは悪くないどころか助かる事ではあるのだが。
「このっ! このっ!」
「あー、ほらほら。耳郎もその辺にしなさいって。アクセルの事だから、別に耳郎をからかうつもりでさっきみたいに言ったんじゃないのは間違いないんだから。多分、本気で言ってるんだと思うよ?」
耳郎のイヤホンを回避し続けていると、見かねたのか三奈が耳郎を止める。
そんな中、葉隠は何故か嬉しそうに踊りながら俺の応援をしていた。
……いや、応援をしてくれるのは嬉しいんだけどな。
けど、どうせなら耳郎との戦いじゃなくて、最終種目の時に応援して欲しいと思うのは贅沢だろうか。
「……ふん」
三奈の言葉に納得したのか、耳郎もイヤホンで俺を襲うのを止める。
『おおっと? もう痴話喧嘩は終わりなのか? 見ていて楽しかったから、もう少し続けてもいいんだぜ?』
『煽るな、馬鹿』
俺と耳郎のやり取りにプレゼント・マイクがからかうように、そして煽るようにそう言い、それに対して相澤が突っ込んでいた。
うん、この場合は相澤の言葉の方が正しいだろう。
実際、耳郎は今のプレゼント・マイクの言葉……多分痴話喧嘩といったところで頬を赤くしていたのだから。
それでも暴れなかったのは、三奈に押さえられていた為か。
『まぁ、痴話喧嘩の件はそれでいいとして、これからレクリエーションだ。それが終われば、騎馬戦を勝ち抜いた5チームを構成していた者達による、トーナメント形式……1対1のガチバトルだ!』
プレゼントマイクの声がスタジアムに響く。
緑谷から、最終種目は毎回1対1だって話だったけど、どうやらそれは当たっていたようだな。
ただ、ガチバトルとなると……うん、多分だけどこれはUSJの一件が絡んでいるんだろうと思うのは、俺の考えすぎだろうか。
ヴィランとの戦いに備え、少しでも実戦経験を積ませようという。
もっとも、その実戦経験――ガチバトルとはいえ、結局のところ模擬戦だが――を積むことが出来るのは、最終種目に残った者達だけだが。
そんな訳で、ミッドナイトが箱を持ち、俺達の前に出て来る。
「さて、じゃあ組み合わせ決めのくじ引きをやるわよ。組が決まったら、レクリエーションを挟んで開始になります。レクリエーションに関しては、最終種目に参加する人は自分でどうするか決めてもいいわ。参加しないで体力の温存をするもよし、参加して息抜きするもよし」
なるほど、個性を使うにも人によっては体力だったり精神力だったり、あるいはそれ以外の何かだったりといった具合に使ったりしてもおかしくはない。
だからこそ、レクリエーションには参加せずに障害物競走と騎馬戦の消耗を癒やすというのもありか。
あるいはその辺が問題なければ、レクリエーションに参加してプロヒーローにアピールするといったことも出来る訳だ。
俺は……どうするかな。
レクリエーションという事を考えれば、別に無理をして参加する必要もないか?
ただ、参加したらそれはそれで面白そうな気もするんだよな。
「それじゃあ、1位のアクセルチームから順番に……」
ミッドナイトのその言葉に、俺、瀬呂、三奈、葉隠が前に出ようとしたところで、不意に尾白が手を挙げる。
「あの、すみません! 俺……辞退します」
「尾白君!? 何で!? 折角プロに見て貰える場なのに!」
尾白の側にいた緑谷が、納得出来ないといった様子で叫ぶ。
まぁ、緑谷の気持ちも分からないではない。
ここで最終種目に参加すれば、多くのプロヒーローに注目される。
それは、将来プロヒーローを目指すヒーロー科の生徒にしてみれば大きな意味を持つだろう。
だが、尾白はそんな中でトーナメントに参加するのを止めると言ったのだから、それで驚くなという方が無理だろう。
「騎馬戦の記憶……終盤ギリギリまでほぼボンヤリとしてるんだ。多分奴の個性で……」
緑谷と話している尾白が視線を向けるのは、心操。
そんなやり取りを聞いていると、恐らく心操の個性は俺が予想したように洗脳とか、あるいは催眠とか、そんな感じなのだろう。
「チャンスの場ってのは分かっている。それをフイにするなんて愚かな事だってのも。でもさ……皆が力を出し合って争ってきた座なんだ。こんな……こんな訳の分からないままそこに並ぶなんて、俺には出来ない」
そう言い切る尾白に、三奈と葉隠がそんな事をする必要もないと言うが、尾白はそれにプライドの問題だと返す。
……それ以外にも、チアの服装のままな事に突っ込むという一幕もあったが。
そんな尾白の言葉に、心操の騎馬だったB組の男も辞退すると言う。
それはいいけど、そうなるとB組から最終種目に参加する奴が誰もいなくなるんだが?
校長が本来4チームのところを5チームにしたというのは、その辺りが理由だった筈だ。
いやまぁ、それは俺の予想であって、実際にどうなのかは分からないけど。
『何だか妙な事になっているが……』
『ここは主審のミッドナイトがどう判断するかだな』
プレゼント・マイクと相澤の言葉に、その場にいた全員の視線がミッドナイトに向けられる。
……峰田や上鳴の場合は、これ幸いとミッドナイトの胸とかに視線を凝視しているような気がするが、それについては取りあえずスルーで。
「そういう青臭い話はさぁ……好み!」
その言葉と共に、ミッドナイトは鞭を振るう。
手にしているのは、以前見た馬上鞭ではなく、普通の鞭だ。
……いや、普通の鞭ってどういうのだ?
ともあれ、馬上鞭ではない鞭なのは事実だった。
「庄田、尾白の棄権を認めます!」
うわ、好みで決めたぞ、今のミッドナイト。
周囲を見ると、何となく俺と同じ事を考えているような連中がいる。
そんな風に思っていると、青山が尾白に自分は棄権しないでトーナメントに参加すると宣言していた。
「そうなると、繰り上がりは6位の拳藤チームだけど……」
「え? あ、うーん」
ミッドナイトの言葉に、拳藤は少し考え……そして何故か俺の方を見ると、何かを決心したかのように口を開く。
「そういう話で来るんなら、ほぼ動けなかった私達よりも、あれだよな? な?」
あれという言葉にニュアンスが、普通と違うのは……うん。物間だったか? B組のアレな奴と、今のあれというのは意味合いが全く違うということなのだろう。
「最後まで頑張って上位をキープしていた、鉄哲チームじゃね? 馴れ合いとかじゃなくて、普通に」
「お……おめえらあああああ!」
鉄哲と呼ばれたのだろう男……騎馬戦で俺に向かって来た奴だな。
その男は、拳藤の言葉に感動したように声を上げるのだった。