『塩崎茨、場外! 勝者、アクセル・アルマー!』
プレゼント・マイクの声がスタジアムに響き、観客達がそれぞれ歓声を上げる。
……中には、塩崎という美人を殴ったという事でブーイングをしてくる奴もいたようだが、それは少数だ。
そもそも、ヴィランの中にも当然ながら男女問わず顔立ちが整っている奴もいる。
そんな奴を相手にして、顔立ちが整っているから、あるいは女だからという事で攻撃を躊躇し、その結果としてそのヴィランを取り逃がし、被害が大きくなったらどうするのか。
そう思えば、相手が男女関係なく、美形でもそうでもなくても普通に攻撃出来るというのは、決して悪い事ではないと思う。
「お疲れ様、アクセル君。相手……かなり強かったみたいだね」
応援席に戻ると、近付いて来た葉隠がそう言ってくる。
「そうだな。さすが雄英のヒーロー科といったところか。……ところで、三奈は?」
「あのね、三奈ちゃんはアクセル君の次の試合なんだから、もう控え室に行ったよ。アクセル君じゃないんだから、ここから飛び降りるなんて事、出来ないんだから」
「俺の次の試合だったか。……ただ、三奈の運動神経を考えると、意外とここから飛び降りても大丈夫そうな気がするけど」
「あのね、アクセル君のように絶対に大丈夫って訳じゃなくて、半々くらいの確率だったらどうするの? どうしてもそうしないと行けないならともかく、今は別にそうしなくてもいいんでしょ」
葉隠の言葉に、俺も反論は出来ない。
実際、ここから飛び降りるのが危険なのは、間違いないのだから。
なら普通に1階からスタジアムに入った方がいい。
『さて、次の試合だ。第2試合の時とは違って、片付けが楽でいいな』
プレゼント・マイクの言葉を聞きながら、轟に視線を向ける。
だが、離れた場所に座っている轟は、プレゼント・マイクの言葉を聞いても特に何も感じてはいないらしい。
まぁ、轟の性格を考えれば、それは特におかしな事ではないと思うけど。
そんな風に思っていると、やがて三奈と青山が舞台に姿を現す。
『ビームという強力な個性を持つ青山優雅VSその酸は全てを溶かす、アシッドクィーン芦戸三奈!』
先程よりも煽る言葉が弱いのは、塩崎の抗議があったからか。
とはいえ、アシッドクィーンってのもどうかと思うけど。
「三奈ちゃん、勝てると思う?」
「どうだろうな。青山のビームも、単発として考えれば強力な個性だ。三奈の個性の方が汎用性は高いが……どうやって青山に無駄撃ちをさせるかだよな」
青山のビームが強力なのは間違いないが、大きな欠点として使いすぎれば腹が痛くなるというのがある。
つまり、ビームを回避し続ければそれだけで自動的に勝ちとなる。
そして青山は、どれだけ自分の個性を使わずに三奈を倒すかだ。
……ただ、青山は個性に頼る傾向があって、身体を使った近接戦闘とかやりたがらないんだよな。
体育祭が始まるまでの自主訓練には青山もそれなりに参加していたが、近接戦闘の訓練はしていなかったしな。
それに対して三奈は元々運動神経が高い事もあって、それなりに近接戦闘の訓練を積んでいる。
つまり青山が勝利するにはビームを使いすぎないようにしながら、それでいて確実に三奈にビームを当てる必要がある訳だ。
「客観的に見ると、三奈の方が有利なのは間違いないな」
「そう。三奈ちゃん、頑張ってくれるといいんだけど」
「三奈の心配をするのは分かるけど、葉隠も上鳴との試合があるだろ? そっちの方はいいのか?」
「あ、あはは。……その、頑張るしかないけど、厳しいかなぁ……」
困った様子の葉隠。
実際、葉隠の透明という個性を本当に有効に使うには、全裸になる必要がある。
だが、全国放送をしている今、全裸になるというのはかなり厳しいのも事実。
実際には全裸になっても個性が透明なので見えないのだが、それでも女子高生が全裸で全国放送に映っているというのは、どこからどう聞いても聞き覚えが悪いだろう。
また、もし全裸になったとしても、上鳴の個性は広範囲攻撃に向いている。
それこそ全裸になったからこそ、葉隠の場合は雷をまともに受けてしまう。
「葉隠が瞬動とかを使えれば、逆転のチャンスもあるんだけどな」
上鳴が個性を使うよりも前に瞬動で一気に間合いを詰めて、倒す。
それが出来れば、上鳴が相手だろうと勝利は出来る。
……これは上鳴に限らず、大抵の相手に通じる事ではあったが。
ただ、唯一にして最大の問題が、葉隠は瞬動を使えないという事だろう。
葉隠本人はそれなりに瞬動や虚空瞬動にも興味があるらしく、自主訓練でもそれなりに試したりはしていたのだが……生憎と、この短時間で習得する事は出来なかった。
そもそも、魔力や気を使える訳でもない以上、それはしょうがないとは思うけど。
「練習したけど、無理だったしね。……アクセル君みたいに、瞬動を使わなくても速く動ければ、何とかなるかもしれないけど」
「その辺は、鍛え方によるだろうな。そして残念ながら、葉隠が……あ」
俺が葉隠と話をしている間に、既に試合は始まっていた。
ただ、そこでは青山が放つビームを滑るように……いや、ようにじゃなくて実際にスケートリンクか何かであるかのように滑りながら回避しつつ、間合いを詰めようとする三奈の姿がある。
青山はビームを使いすぎると腹が痛くなるのに、それでも連続してビームを放っている。
三奈も、恐らくはその辺りについて狙っているのだろう。
近付こうとするものの、青山がちょっとビームを放とうとすると即座に青山から離れる。
クラスでもトップクラスの運動神経の持ち主である三奈であっても、間近から放たれるビームを回避するのは難しいのだろう。
あるいはビームである以上、酸の盾を使って屈折……屈折……
「うん? どうしたの、アクセル君」
「いや、青山と戦うのなら、三奈よりも葉隠の方が相性は良かったと思って」
「え? 私が? 何で?」
「葉隠の透明という個性は、光を屈折させてるんだろ? だから自分だけが透明で着ている服とかはそのままだし、何か料理を食べた時も体内に入った料理は外から見えない」
「ちょっ、いきなり何を言うの、アクセル君。えっちぃ事は禁止だよ!」
「は?」
一体今の言葉のどこにえっちぃ……つまり、エロい要素があった?
そう思ったが葉隠の手袋の動きを見れば間違いなく照れているし、梅雨ちゃんや麗日、耳郎といった面々もどこか責めるような視線を俺に向けていた。
次の試合という事でここにはいないヤオモモも、もしいたら多分同じような視線を向けていたのかもしれないな。
そんな風に思いながらも、舞台で酸を使って滑るように移動しながら、青山との間合いを計っている三奈に視線を戻して口を開く。
「とにかく、葉隠の透明という個性は、正確には光学迷彩による透明な訳だ。であれば、葉隠がその気になれば光を自由に操れるという事でもある。そして青山のビームもまた光である以上……」
「あ……私なら、青山君のビームを無効化出来る?」
どうやらようやく葉隠は俺が何を言いたいのか理解したらしい。
「正解。そこからもっと想像を広げれば、別に光というのは青山のビームだけじゃなく……」
そこまで言ってから、俺は上を……空を……より正確にはそこにある太陽を指さす。
「葉隠が個性を自由に使えるようになったら、太陽の光を自分に集めて敵に照射する……ソーラ・システムとでも言うべき攻撃が可能になるかもしれないな」
元ネタは、勿論UC世界で1年戦争の時に連邦軍がソロモンに使った奴や、星の屑で強硬派が……いや、今はティターンズか。そのティターンズが使ったソーラ・システムだ。
もっとも、ソロモンに使ったソーラ・システムが焼いたのは結局表面だけだったし、星の屑のコロニー落としでは威力不足でコロニーを破壊出来なかったが。
後者の場合、俺がいたからこそ空間倉庫にコロニーを収納するといった裏技が使えたが、もし俺がいなかったら……原作では、一体どうなっていたんだろうな。
もしかしたら、地球にコロニーが落下していた可能性もあるのか。
「ソーラ・システム……ちょっと名前が可愛くないんだけど」
葉隠が不満そうな声でそう言ってくる。
どうやらソーラ・システムというのは、葉隠の好みに合わなかったらしい。
「別に名前はそのまま使えって訳じゃないし、葉隠が何か適当に付けたらいいと思うぞ。……実際にそういう事が出来るようになったらの話だけどな」
「うん、頑張ってみる」
どうやら名前以外は俺のアイディアは気に入ったらしい葉隠。
「あっ!」
そんな中、不意に誰が上げたのか分からないが、そんな声が聞こえてくる。
その声を聞いた瞬間、俺は反射的に舞台に視線を向ける。
するとそこでは、三奈が自分の周囲を滑りながら移動しているのを我慢出来なくなったのか、青山がビームを放ち……だが、三奈は持ち前の運動神経でその一撃を回避しながら青山の懐に飛び込むと、カポエラ……いや、ブレイクダンスっぽい感じか? とにかく半ば逆立ちしながらに蹴りを放ち、それを受けた青山は吹き飛ぶと、場外に出るのだった。
『うおおおっ、凄い、凄いぜ芦戸三奈! 青山優雅のビームを個性を使って滑るように回避しつつ、その動きで反対になりながら蹴りを放ったぞ!』
『わああああああああああっ!』
プレゼント・マイクの言葉に、観客達の多くが歓声を上げる。
実際、今の動きはかなり洗練されたものだった。
クラスの中でもトップクラスである三奈の運動神経が、最大限に発揮された形だろう。
「うわ、三奈ちゃん凄い!」
葉隠も今の決定的な瞬間に歓声を上げる。
……三奈の凄さに声を上げる者は多いが、青山を心配する声が少ないのは……うん。まぁ、青山は一種独特な性格をしていて、クラスでも微妙に浮いてるしな。
いやまぁ、それを言うのなら俺だってA組に完全に馴染んだといった訳ではないのだが。
ただ、それでも瀬呂や三奈、葉隠、ヤオモモとはかなり仲が良いし、それ以外にも上鳴や峰田には羨ましがられつつも、それなりに付き合いがある。
他の面々に対しても、それは同じだが……青山は、何て言えばいいんだろうか。
独特というか、特殊というか……とにかくそんな感じがある。
だからといって、クラスでのけ者にされているとか、そういう事ではないのだが。
普通にクラスメイトと話したりしてるのを見るし、少し前からは俺に近づいてくる事も多くなったし。
ともあれ、誰とでも仲良くなれるタイプの三奈と比べると、やっぱり青山はそこまで目立たないんだよな。
そんな風に思っていると、気絶した青山がタンカで運ばれ、次の試合が始まる。
『さて、次の試合も言うまでもなくA組だ。闇を身に纏う常闇踏陰と、完全無欠のお嬢様、八百万百。この2人がどういう試合を見せるのか楽しみだぜ!』
そんなプレゼント・マイクの煽りに、スタジアムに入場してくる常闇とヤオモモ。
……闇を身に纏うとか表現された常闇が、どこか嬉しそうな様子に見えるのは俺の気のせいではないだろう。
常闇は、いわゆる厨二病の重症患者だ。
いや、重症まではいかないのか?
とにかく厨二病なのは間違いなく、だからこそプレゼント・マイクの言葉が刺さったのだろう。
「次はどっちが勝つと思う、アクセル」
何故か葉隠と入れ替わるように耳郎が俺の隣に来て、そう聞いてきた。
もしかしたら葉隠も試合の為に控え室にでも行ったのかと思ったが、葉隠の試合はまだ先だ。
少し離れた場所で、何かを考えている……のか?
透明なので、その辺は分からない。
ただ何となく、そんな風に思えるのは間違いない。
「ねぇ、アクセル?」
「ん? ああ。悪い。どっちが有利かとなると……難しいところだな」
常闇の個性である影を使った使い魔的な存在……ダークシャドウだったか? とにかくその個性は、かなりの強個性だ。
それこそ純粋に個性だけで見た場合、A組の中でもトップクラスなのは間違いない。
そして個性の強さでは、創造という個性を持つヤオモモもまた負けていない。
ただ……個人的にはヤオモモの創造という個性はオールマイティであるが故に、やれる事が多すぎる。
これが日常での行動ならヤオモモもそこまで苦労したりしないだろうが、戦闘となると1秒を争う事態だ。
そんな中で、ヤオモモが適切に判断出来るかというのがこの戦闘の肝になるだろう。
そう説明すると、耳郎が納得したように頷く。
「そうなんだ。確かにヤオモモの個性は凄いけど、常闇のダークシャドウも凄いしね」
耳郎や常闇も自主訓練にはそれなりに参加しているし、ヒーロー基礎学の授業で常闇のダークシャドウを見る機会も多かった。
だからこそ、耳郎もダークシャドウというのが強力な個性だと理解していたのだろう。
「ああ、ヤオモモが常闇対策に効果的な何かを創造で作れれば……とは思うが、どうだろうな」
そんな会話を交わす俺達の視線の先で、常闇とヤオモモの試合が開始されるのだった。