転生とらぶる2   作:青竹(移住)

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4417話

「あ、アクセル。大丈夫だった!?」

 

 エンデヴァーとの一件を終えて応援席に戻ると、三奈が真っ先に俺に気が付き、近づきながらそう聞いてくる。

 

「ああ、問題ない。特に何があった訳でもなかったしな。少し話をしただけだ」

 

 轟の扱いについて不愉快な思いはしたが、それ以上に利益もあった。

 具体的には、日本で最強の炎系個性を持つエンデヴァーの炎が、俺には通用しない。

 それはつまり、日本に他にもいるだろう炎系の個性は俺に一切通用しない事を意味していた。

 ……もっとも、エンデヴァーが出した炎は別に全力で出した炎って訳ではなかったし、他の炎系の個性を持つ者の中には炎系は炎系でも、エンデヴァーとは違うタイプの炎系の個性の持ち主もいるだろうから、そういう意味で絶対に安全といった訳ではないのだが。

 油断は出来ない。

 出来ないが、それでも炎系の個性を持つ相手にそこまで過剰に警戒しなくてもよくなったのは、俺にとっては利益だった。

 

「それで、試合の方は……」

 

 三奈を落ち着かせてから舞台に視線を向けると、そこでは爆豪と上鳴の試合が始まるところだった。

 

「あれ? 随分と早いな」

 

 俺と三奈の試合の後は、常闇と飯田の試合が、その次には切島と爆豪の試合があった筈だ。

 だが、爆豪と上鳴の試合が今から始まりそうだという事は、既にその試合は終わっており……

 

「爆豪は2試合連続で?」

「あー、うん。私も他の人から聞いた話だけど」

 

 そう言い、三奈から説明を受ける。

 まず、常闇と飯田の試合は飯田が何故か棄権をして、常闇の不戦勝となったらしい。

 切島と爆豪の試合は、切島も硬化の個性を使って粘ったものの、結局爆豪に力負けをして爆豪の勝利。

 ……そこで本来なら俺と轟の試合がというところなのだが、何故か爆豪が続けての上鳴との試合を要求。

 俺がエンデヴァーと話していて応援席にいないし、控え室にもいなかったこともあって、爆豪の要望が取り入れられ……それでこうしてこれから爆豪と上鳴の試合が始まる寸前なのが今の状況だったらしい。

 

「なるほどな。まぁ、爆豪がそれでいいのなら、俺は構わないけど」

 

 俺と轟の試合の前に自分がもう1試合やるというのが、一体どういう意味があるのか分からない。

 分からないが、それでも爆豪はこうしてやる気になっている以上、俺としてはそれに反対するつもりはなかった。

 俺がいないのが理由だったりするしな。

 

「……アクセル、ちょっといいか?」

 

 試合を見ようとした俺に、そう声を掛けてきた人物がいた。

 轟だ。

 恐らくエンデヴァーが俺を待っていて話をしていると、三奈が応援席に戻ってきてから話したのだろう。

 

「ああ、いいぞ」

 

 爆豪と上鳴の試合についても気になるところがあったが、この状況で轟の言葉を無視する訳にはいかないだろう。

 

「ここで話すのか?」

「いや、あまり人に聞かれたくねえ」

 

 だろうな。

 轟にしてみれば、自分の父親の事だ。

 ましてや、エンデヴァーが轟を最高傑作と口にしたのを思えば、家庭環境は決して良くないのは明らかだ。

 それを人前で話したいと思わないのは、当然の事だった。

 そんな訳で、俺は轟と共に応援席から離れて通路に移動する。

 爆豪と上鳴の試合に皆が注目しているのだろう。

 通路に来る者は誰もいない。

 

「で、話って?」

「……親父が余計な事を言わなかったか?」

「余計かどうかはともかく、次の試合では轟が勝つと断言していたな。俺は見てないけど、1回戦では炎を使ったんだって?」

 

 そんな俺の言葉に、轟は微妙な表情を浮かべる。

 うん? 何だか以前と……朝、俺に宣戦布告をした時と比べると、微妙に印象が変わったな。

 

「それも俺の力だと、そう言われたよ」

 

 別にそれについては、俺は特に何も言うつもりはない。

 実際に緑谷が言うように、炎を操るのも轟の力であるというのは、間違いない事実だ。

 轟は、何故か炎の個性を使うのを躊躇っていたようだったが。

 ……エンデヴァーの言動を思えば、家族間の関係は決して上手く言ってる訳でもないのだろう。

 

「つまり、俺との試合でも炎を使うと思っていいのか?」

「……それで迷っている。いや、勿論アクセルを相手に氷だけで勝てるとは思えない。だが……だからといって、炎を使えるのか。使ってもいいのかどうか」

 

 まさに苦悩といった様子で、轟が言う。

 轟にしてみれば、それだけ炎を使ってもいいのかどうか迷っているのだろう。

 普段、殆ど表情を変えることがない轟が、こうして悩んでいるのだ。

 それだけ悩んでいるといったところだろう。

 となると、ここで俺がやるべきは……

 

「実は、さっき応援席に戻ってくる途中でエンデヴァーに呼び止められた」

「何? あいつ……緑谷だけじゃなくて、アクセルにまで……」

 

 苦々しげな様子で呟く轟。

 俺より先に行った三奈がその辺についても話しているのかと思ったんだが、どうやらそういう訳でもないらしい。

 

「エンデヴァーは炎を使うようになった轟の自慢がしたかったんだろうな」

 

 実際には最高傑作だとか何とか、そういう風に言っていたんだが……その辺りについては、誤魔化しておく。

 轟にとっても、自分が人ではなく物として扱われているようなのは決して好ましくはないだろうし。

 

「……そうか」

「で、少し話したついでに、エンデヴァーは日本においてもトップクラスの炎の個性の使い手だろう?」

 

 そう言うと、轟の仏頂面は明確になる。

 父親のエンデヴァーがそういう存在だというのを理解はしているが、認めたくはないといったところか?

 

「ついでにエンデヴァーの炎がどういうものかをちょっと見せて貰ったんだが……うん。まぁ、期待しすぎたのが悪かったのかもしれないな」

「何?」

 

 俺の言葉が轟にとってはそれだけ予想外だったのだろう。

 まさかそんな事を言われるとは思っていなかった様子で、そう言ってくる。

 

「そうだな。端的に言えば……エンデヴァーの炎は、俺にしてみればそこまで気にするようなものじゃなかったってことだ。だから、轟が炎を使っても、俺に致命的な怪我をさせるような事はないから、俺に怪我をさせるんじゃないかとか、そういうのを考えて炎を使わないというのは、意味がないぞ」

 

 轟にしてみれば、使いなれない炎だ。

 勿論、全く使ってこなかった訳ではない。

 ヒーロー基礎学の時の模擬戦で、尾白と葉隠の足が氷で固められた時、炎でその氷を溶かしてやっていたし。

 ただ、戦闘において炎を使っているのは見た事がない。

 緑谷との試合では炎を使ったらしいが。

 それだって、さっき轟が口にした炎も轟の力だというのによってのものだろうし。

 そんな訳で轟にしてみれば俺に炎を使うのをおっかなびっくりといったように思ってもおかしくはない。

 なので、俺にはエンデヴァーの炎も意味はなかったと、そう告げたんだが……

 

「……そうか」

 

 あれ?

 俺の予想なら、もっとこう……何らかの反応があるとばかり思っていたんだが。

 だというのに今の轟は俺が予想していたのとはちょっと……いや、大分違う反応だった。

 俺の予想が外れた形だ。

 それに対して、改めて何かを言おうとしたところで……

 

「アクセル君、轟君も。試合、もう終わりそうだよ! 準備しないと!」

 

 葉隠がやって来て、そう言う。

 え? もう?

 そう思って舞台の見える場所まで行くと……

 

「うわぁ……」

 

 何というか、上鳴は爆豪にボコボコにされていた。

 上鳴の個性は爆豪との相性が悪い訳ではない。

 相手が人である以上、雷が命中すれば、爆豪にもしっかりとその辺は効果がある筈だった。

 だが、現在舞台で行われているのは……爆豪の一方的な蹂躙と呼ぶべき光景だった。

 この辺、爆豪も轟と並ぶクラスNo.2の1人といったところか。

 

「ね? だから2人共試合の準備をした方がいいよ。アクセル君は応援席から飛び降りるとかそういう事も出来るけど、轟君はそういうのは出来ないでしょ?」

「……そうだな。助かった」

 

 葉隠の言葉に轟はそう返すと、控え室に向かう。

 いや、応援席から飛び降りるというのは、そこまで大袈裟な事じゃないと思うんだけどな。

 2階……いや、2.5階といったくらいの高さだし。

 プロヒーローを目指している者なら、普通に飛び降りるといった事が出来てもおかしくはない。

 着地に失敗すれば怪我をするので、そういう意味では飛び降りるのをやらないといった選択もありではあるが。

 とはいえ、それは必要のないリスクなので、わざわざそのような事をしなくても、普通に控え室からスタジアムに入場するというのはおかしな話ではない。

 ……俺の場合は、絶対に問題ないという確信があるので、問題はないが。

 そんな風に考え、轟が控え室に向かったのと前後するように……

 

『おおっとぉ、上鳴最後の反撃か! 周囲に激しく電気を撒き散らかす!』

『だが、爆豪はそれを見破っていたようだな。距離を取ったから、それによってあっさりと回避されてしまった』

 

 プレゼント・マイクと相澤の会話が耳に入る。

 そう、その言葉通り爆豪にボコボコにされていた上鳴だったが、最後の意地を見せて大きな雷を周囲に放つも……それを見破ったのか、爆豪は既に掌の爆発を推進力として後ろに跳躍し、上鳴から距離を取っていた。

 その一撃が上鳴にとっては力を振り絞った一撃だったらしく……ウェイった瞬間を見逃さず、爆豪は再度距離を詰め、拳と蹴りによる連打をし、それが終わった時上鳴は舞台に倒れ込むのだった。

 倒れた上鳴に近付いたミッドナイトが、上鳴が気絶しているのを見ると勝負ありと判断し、爆豪の勝利を宣言する。

 

「まぁ……上鳴にしては頑張った方じゃないか?」

 

 応援席に座りながらそう言うと、俺を呼びに来た葉隠がこちらを見る。

 いや、気配で恐らくこちらを見たといったように思っただけで、もしかしたら実際には違うのかもしれないが。

 

「そうなの?」

「ああ。上鳴は電気系の個性という事もあって強いのは間違いないし、本人の戦闘センスも悪くはない。……唯一、個性を使いすぎるとウェイるのが問題だが」

「ぷっ!」

 

 ウェイると言ったところで、少し離れた場所にいた耳郎が噴き出す。

 どうやら俺と葉隠の話が聞こえたらしい。

 ウェイるというのは、どうやら耳郎にとって我慢出来ないくらい面白いらしかった。

 ……USJでの一件が、余程強烈な思い出として耳郎に刻み込まれてしまったのだろう。

 

「……で、そのウェイる寸前までいって、それでも爆豪に勝てなかった。その為に上鳴は一か八かでといった様子で個性を使ったんだが、それが外れてしまったらしい。この場合は、上鳴が迂闊だったというよりは、爆豪のセンスを褒めるべきだろうけどな」

 

 実際、上鳴はその軽い性格とウェイる一件、そして何より峰田の相棒という立場もあって、A組のヒエラルキーの中では限りなく下だ。

 しかし、ヒーロー科の生徒、未来のプロヒーローとして考えると、かなりの才能の持ち主なのは間違いなかった。

 もっとも、雄英のヒーロー科に合格している時点で、その辺りは既に半ば保証されているようなものだったが。

 

『さて、これでベスト4は出揃った。いよいよこれから準決勝だ! まずは準決勝第1試合、瀬呂との試合では巨大な氷を瞬時に作り上げ、圧勝。緑谷との試合では氷以外に炎をも使って勝利した……轟焦凍!』

 

 プレゼント・マイクのアナウンスと共に、轟がスタジアムに姿を現す。

 そんな轟に向けて観客が歓声を浴びせるが、轟本人は自分に向けられた歓声についても特に気にした様子がなく、舞台に上がる。

 

『そして、轟焦凍と戦うのは、予選の障害物競走から圧倒的な実力を見せつけ、そして最終種目のトーナメントでも1回戦、2回戦共に圧勝で勝ち上がってきた、アクセル・アルマー! どうやら、1回戦の時と同じく応援席からの登場のようだぞ!』

 

 プレゼント・マイクのその言葉に、俺は座っていた席から立ち上がる。

 

「じゃあ、行ってくるな」

 

 隣に座っていた葉隠にそう言い、応援席の通路に出ると数歩の助走をした後で、そのまま舞台に向かって跳ぶ。

 

「きゃああああああっ!」

 

 そんな俺の姿を見て、歓声……ではなく、悲鳴が上がる。

 この程度の高さでも、場合によっては死んでもおかしくはないしな。

 とはいえ、俺はその辺については何の問題もないので、そのままトン、トン、トンと虚空瞬動を使って空中を移動し、着地した時は舞台の上だった。

 

「待たせたか?」

 

 軽くではあるが目を見開いて俺を見ている轟にそう尋ねると、轟は俺の言葉で我に返った様子で首を横に振る。

 

「いや、別に待ってはいない。……ただ、まさかここまでやるとは思わなかったから驚いただけだ」

「轟にも喜んで貰えたようで何よりだよ」

 

 実際には喜ぶのではなく驚いていたといった方が正しいのだろう。

 それは俺にも分かるが、それでも喜んで貰えたと、そう言っておく。

 

「……そうか」

 

 俺の言葉に数秒沈黙した後で、それだけを言う轟。

 何と言えばいいのか分からなかったらしい。

 

「じゃあ、準備はいいわね? ……試合開始!」

 

 俺と轟の会話が終わったと判断したミッドナイトが、試合開始を宣言するのだった。

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